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ファッションデザイナーが挑戦した、王道モデルの新解釈。
「Riprap」デザイナー 西野 裕人

ファッションデザイナーが挑戦した、王道モデルの新解釈。「Riprap」デザイナー 西野 裕人

スーツはもちろん、アメカジなどカジュアルスタイルにも合う。
スタイリングの幅の広さを楽しめる一足だと思います。

スタイリスト・本間良二氏のもとで経験を積み、2015年に自身のブランド「Riprap」を立ち上げた西野裕人さん。修行時代には、洋服の着用シーンを提案するスタイリストアシスタントだけではなく、生地や縫製、ボタンなどの附属を選択する生産の仕事や、製品企画を経験されたそう。だからこそ、西野さんの手がけるプロダクトは、徹底したものづくりへの安心感と、コーディネートを楽しみたくなるファッション性を兼ね備えています。そんな「Riprap」が、2020年にジョセフ チーニーとのコラボモデルを初制作。また、お客様からの好評を受け、2021AWシーズンでも王道モデル「CAIRNGORM II R(ケンゴン Ⅱ R)」にブランドらしいエッセンスを加えた特別な一足を展開しています。別注のこだわりや思いを、西野さんの革靴遍歴と合わせてお聞きしました。

ジョセフ チーニー 「Riprap」デザイナー 西野 裕人 オリジナルのデザインを根多に、ブランドの解釈を見つける

オリジナルのデザインを根多に、ブランドの解釈を見つける。

— 「Riprap」のモノづくりについて教えてください。

古典落語と通ずる部分があるのですが、メンズ服デザインとは「オリジナルというお題を、どう自分たちのものにしていくか」ということだと考えています。リップラップでは先ず「ハンドクラフテッドスーツ」という、ジャケット2型、シャツ1型、スラックス3型からなるドレスラインを定番展開。毛芯を使用したテーラードジャケットやマーベルト付きのスラックスなど、基礎となるアイテムを作ってから、生地や仕様、構造などの要素をシーズンのカジュアルアイテムに落とし込むやり方をしています。例えばスラックスだったら洗濯機でも洗えるようにマーベルトの腰裏生地をコットンに変換して製作したり、ベースボールキャップの芯地にはジャケットの毛芯を使用したり、ドレスシャツの工房でパジャマを縫ってもらったり……ドレスとカジュアルで仕様や資材を転用しています。デザインアイデアに関しては、例えば救命胴衣のライフジャケットの膨らみをダウンベストとして製作し、防寒着として提案しました。元々ある根多(デザイン)を“お題”として捉えています。そこに敬意を持ちながら、モノや時代とのミスマッチをつくったり、どうすればブランドらしく解釈できるのかということを考えながら洋服を作っています。

ジョセフ チーニー 「Riprap」デザイナー 西野 裕人 ァッションの愉しさを伝えることに、全力でありたい

ファッションの愉しさを伝えることに、全力でありたい。

— シーズンごとのコレクションテーマはどのように決めているのですか?

プロダクトはデザインや素材の観点で考えればいくらでも作ることはできますが、テーマはそうはいきません。なので、最初から決めずに、ある程度洋服のサンプルができあがった段階で、「そう言えばこのアイテムを作るとき、あんな本や映画を観たなぁ」だったり、外に出かけて受けた印象や思った事を、頭の中でいったん編集して、咀嚼して言葉にします。それを展示会のDMにステートメント(声明)という形で載せています。ぼくは会話が好きなので、展示会でもポップアップイベントでも、商品説明から与太話までひたすら話しています。洋服はビジュアルだけではなく、メッセージも含めて、ファッションの愉しさをシェアすることに意味があると思っています。アナログなやり方なのかもしれませんが、だからこそ情熱を持った地方の個店さんからも支持されているのではないかと感じています。

ジョセフ チーニー 「Riprap」デザイナー 西野 裕人 足のコンプレックスから、靴紐専業ブランド「SHOE SHIFT」をスタート

足のコンプレックスから、靴紐専業ブランドをスタート。

— 「Riprap」と同時に、靴紐専業ブランド「SHOE SHIFT」を立ち上げられたのはなぜですか?

昔から足の形がコンプレックスで、モデルによってはインソールを入れないと履ける靴が限られてしまうほど、足幅が狭く甲が低いんです。そういったこともあり、靴に附属されている靴紐だと長さが合わないので、高校生の頃からスニーカーを買う時に、合わせて靴紐も買う習慣が染み付いていました。だからこそ、「誰でもフィットするシューレースブランド」という構想を昔から温めていました。それに加えて、リップラップを立ち上げる際に、洋服のコンセプトとは違った間口の広い専業ブランドとして立ち上げることにしました。シューシフトでは、長さを8サイズ、紐幅を2サイズ展開しているので、人間であれば合わない人はいないと思います(笑)。スニーカーでも革靴でも、靴紐の通し方ってたくさんあるので、お好みの通し方に合わせて、長さを替えて楽しむこともできます。

ジョセフ チーニー 「Riprap」デザイナー 西野 裕人 生産国に捉われず、琴線に触れた革靴を楽しむ

生産国に捉われず、琴線に触れた革靴を楽しむ。

— 革靴編歴を教えてください。

25歳くらいまで、革靴は〈クラークス〉くらいしか履いたことがありませんでした。昔からアメリカ古着が好きだったので、その次に手を出したのは〈ウォークオーバー〉のダーティーバックス。いずれもスニーカーと同じようなノリで履けるし、スエードなのでケアもそこまで気にならない。むしろ、履き潰してボロボロになった状態もかっこいいので、今でも捨てられなくて何足も所有しています。以前、文献で読んだのですが、「ホワイトバックスを汚して履くカルチャーから生まれたのがダーティーバックス」らしく、そういった背景に惹かれました。その後、師匠に勧められ〈ジェイエムウェストン〉のローファーやゴルフを買ったり、定番のプレーントゥが欲しくなったので〈オールデン〉を購入しました。そして、2020年に別注させていただいた〈ジョセフ チーニー〉のダービーシューズ「HARTWELL(MOD)」、この秋冬の「CAIRNGORM II R」に繋がり、今は英国靴へ関心が向いています。色々な靴を履いてみて思うのは、国ごとにそれぞれ良さがあるということです。アメリカ靴は足馴染みが良くて履きやすいし、フランス靴は古着と合わせても独特な色気がでます。一方で、英国靴は、質実剛健な作りが徐々に足に馴染んでいく過程を愉しめるのが魅力だと思いました。

ジョセフ チーニー 「Riprap」デザイナー 西野 裕人 念願の初別注は、思い入れの深いダービーシューズ

念願の初別注は、思い入れの深いダービーシューズ。

— 2020年のジョセフ チーニーとの初コラボにいたる経緯や、シューメーカーとしての印象を教えてください。

ジョセフ チーニーのコレクションを初めて見たのは、2013年頃。輸入総代理店の渡辺産業の展示会へ行った時のことです。当時、僕は生産の仕事をしていたこともあり、モノの品質に敏感でした。だからこそ、ジョセフ チーニーのプロダクトを見た時に、めちゃくちゃハイクオリティに対して価格がリーズナブルなところに驚きました。それ以来、毎回展示会に呼んでいただき、独立してからも「いつか別注を実現したい」という思いが募っていきました。そしてブランドの成長と共に念願が叶い、2020年にリップラップとしても初となるレザーシューズを製作していただきました。別注にあたり、サンプルとなる新旧モデルや、革のスワッチなどもたくさん見せていただいて、自分の思い入れの深いシューズであるダーティーバックスをモチーフにしたいと思い、このデザインを選びました。自分の好きなものだからこそウチの洋服との相性も良く、お客様からも反響がありました。ぼく自身も、サンプルを1年半ほど頻繁に履いていて、汚れてきた姿も様になっているので気に入っています。

ジョセフ チーニー 「Riprap」デザイナー 西野 裕人 2021年AWシーズン別注された「CAIRNGORM II R」

完成されたモデルだからこそ、コラボレーションの意義にこだわった。

— この2021年AWシーズンとして別注された「CAIRNGORM II R」のこだわりを教えてください。

ジョセフ チーニーのような歴史のあるシューメーカーが作る靴は古典だと思います。しっかりした作りで、何十年も前から受け継がれている形で。そこに対して、どうやってぼくたちがいじれば面白くなるかを考えました。とくに、「CAIRNGORM II R」のような伝統的なモデルですと、デザインが完成されているのでそこまでタッチすべきところがないんです。なので、デザインはそのままに、インラインにはなかったマホガニーカラーで別注させていただきました。また、通常トゥに施されているバーニッシュ加工をあえて省いてもらいました。職人さんからは、「なぜ仕上げの加工をしないのか?」という意見があったようですが、アッパーに色差がない方がぽってりとした印象に映るので、さまざまなスタイルに合わせやすいと思いました。あと、シューレースはシューシフトでこの靴の為に製作しました。“石目”という編み方で、加工をしてないドライな質感のコットン100%の紐を採用しています。今回のモデルは、前回のダービーシューズとは違い、ウチのお客様にとって真新しい印象に感じられるはずです。この「CAIRNGORM II R」は、ツイードのスーツだったり、仕立てのいいウーステッドのスラックスと合わせるようなカントリースタイルが真ん中にあるとすれば、外角にあるスタイルとして、例えばトラックの運転手がワークパンツとこの堅牢な靴を合わせていたらとてもクールだと思います。今回の別注アイテムを介して、「自分のイメージを持って服を愉しむことがファッションの本質じゃない?」。そんな提案ができたらと思います。ぼくたちにとってチャレンジの一足なので、今からお客様の反応が楽しみです。

ジョセフ チーニー 「Riprap」デザイナー 西野 裕人
「Riprap」デザイナー
西野 裕人

1984年生まれ、石川県出身。スタイリスト本間良二氏に師事。スタイリストアシスタント、〈BROWN by 2-tacs(ブラウンバイツータックス)〉の生産、企画、販売員などを務め、2015年に独立。2016S/Sシーズンより、自身のブランド〈Riprap(リップラップ)〉をスタート。コンセプトは、「ファッションとは個人を形容する手段と肯定し、リップラップは被服による発言化、発声化を提唱する」。また同時に、靴紐専業ブランド〈SHOE SHIFT(シューシフト)〉を始動する。

http://r-i-p-r-a-p.com/

text K-suke Matsuda(RECKLESS)

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私なりの英国靴への想い 前編|ファッションジャーナリスト 矢部 克已

私なりの英国靴への想い 前編|ファッションジャーナリスト 矢部 克已

いまや日本は世界有数の“ドレス靴大国”である。英国を中心に世界各国の“名靴”を集めたセレクトショップをはじめ、靴ブランドのオンリーショップも軒並みそろう。わざわざ現地に行かなくても、十分に素敵な靴に出合える。
振り返れば、その胎動は1980年代半ばといえるだろう。まずアメリカの「オールデン」が脚光を浴び、英国の「チャーチ」や「グレンソン」が日本の地盤を固めていった。その頃、イタリアブランドの靴といえば、「グッチ」のホースビットモカシンや、「サルヴァトーレ フェラガモ」のスリッポンぐらいしか知られていなかったのではないか。レースアップの革靴は、伝統的で保守的な英国のスタイルが主流だった。

ジョセフ チーニー クォーターブローグ フェンチャーチ

’90年代に入って間もなく、ファッションの世界では、“フレンチトラッド”が上陸する。“BCBG”という、パリ上流階級のトラッドを基本にしたスタイルである。靴のブランドでいえば、「ジェイエムウエストン」のシグニチャーローファーを合わせるのが約束だった。
一方で、“フレンチトラッド”ブームの以前から「ジョルジオ アルマーニ」を筆頭とする、イタリアのインポートブランドが日本を席巻していた。マーケットの規模は、“フレンチトラッド”よりもイタリアンブランドのほうが圧倒的に大きかった。靴ブランドでは、ツヤっぽい「チェーザレ パチョッティ」「ピノ ジャルディーニ」「ロレンツォ バンフィ」あたりが注目されていた。私はどちらかといえば、「ジョルジオ アルマーニ」のスタイルに染まったほうなので、ヴァンプの小さいパンプスのような華奢な靴も履いていたころ。いまでは懐かしい思い出である。

“クラシコイタリア”が台頭し、イタリアのクラシックに直面する

Pitti Uomo 92
Pitti Uomo 92の会場風景

バブル崩壊後、日本のメンズファッションに多大な影響を与えたのが、なんといっても“クラシコイタリア”だ。真っ先に“クラシコイタリア”を取り上げたメンズファッション誌は、『メンズEX』。’95年だった。やがてじわじわと、スーツやジャケット、シャツやニットといったイタリアのクラシックなアイテムが広まりはじめる。
そもそも“クラシコイタリア”とは何か。当サイトを閲覧する読者には、当時を知りえない方も多いと思うので、簡単に説明を。
本来“クラシコイタリア”とは、イタリアの各地方に根付く、手技を使ったファッションアイテムを手がけるメーカーを集めた協会の名前である。たとえば、しなやかなスーツを仕立てるナポリの「キートン」、繊細な縫製で極上の着用感を生み出すシャツの「フライ」、レインコートなどのアウターに職人的な手法を持ち込んだ「ヘルノ」といったメーカーなど、’86年の発足時に16ブランドが集まった。設立された理由は3つある。
まず、ハイクオリティの製品づくりを行い、男たちに上質な製品を身に着けてもらうこと。第2に、ものづくりに必要不可欠な技術の継承。つまり、巧みな手仕事の伝授だ。第3は、受け継がれてきたイタリアのクラシックエレガンスを後世にも残すこと。世界最大級のメンズファッションの展示会、ピッティ・ウォモのメイン会場の、それも最上階の一番奥に、加盟ブランドを集めた“クラシコイタリア”のブースを設けた。

ファッションエディター・ジャーナリスト 矢部 克巳さん

私がはじめて“クラシコイタリア”のブースを取材したのは、‘90年代後半。いまも忘れられない第一印象が、加盟ブランドの各スタッフの装い。流れるようなシルエットが際立つ上質なスーツを着たミラネーゼや、色鮮やかなジャケット&パンツのタイドアップスタイルできめたナポレターノのエレガントな着こなし。本来、愛想のいいイタリア人なのに、近寄りがたいスノッブな雰囲気が漂い、まったく隙がない。「これが実物の“クラシコイタリア”か」と、ため息が出たものだ。スーツに合わせていた多くの靴は、「チャーチ」や「エドワード グリーン」のレースアップ。あるいは「ジョンロブ」。イタリアの靴では、ほとんどが「ストール マンテラッシ」だった。靴の色は、黒ではなくブラウン。つまり、随所にハンドワークを活かした味のあるイタリアのスーツに合わせていた靴は、英国もので、ブラウンが鉄則だった。
 これを見たとき、私は強烈なショックを受けた。以来、クラシックなスーツに英国靴を合わせるのが、私の“スタイルの形”となった。サルトリアでオーダーした手縫いのスーツの味わいと、英国の堅牢な靴が実によく似合うのである。

伝統のドレスシューズからカントリーテイストの靴へ

ジョセフ チーニー エイボン C

クラシックなスタイルに変化をもたらしたのは、カジュアル化の波だった。2010年代に差し掛かる頃には、スーツやジャケットは、これまでの優雅なクラシックスタイルから、タイトなラインに変化した。伝統的な生地だけではなく、ストレッチ素材も使い、より軽快な仕立てで、カジュアルな表情になっていった。レースアップの靴も、内羽根から外羽根へ、プレーンのキャップトウからセミブローグやフルブローグなどの、カントリーなデザインが目につきはじめた。素材は、シュリンクレザーやスエードといった革が目立ってきたのだ。
 このスタイルの変化をとらえ、クラシックなスーツスタイルに独特なカジュアルの要素を見事にコーディネートしたのが、シモーネ・リーギさんである。リーギさんとは、当時フィレンツェで“フラージ”というセレクトショップのオーナー。それ以前は、“タイユアタイ”の創業者、フランコ・ミヌッチさんの右腕として働いていた、飛び抜けたセンスの持ち主。その着こなしは、いつもファッションブロガーたちに狙われていたほどだ。

ジョセフ チーニー エイボン Cを着用するリーギさん

2010年代の半ば、私がショップに立ち寄ると、ゆったりとしたシルエットの“フラージ”のスーツに、フルブローグの靴を合わせていたリーギさん。なんとも味わい深いスタイルに目を留めた。少し太めのパンツと重厚感のあるストームウェルトを施したフルブローグの靴が、絶妙なバランスを保ち、着こなしの妙味をまざまざと見せつけたのである。しかも、元々ブラウンの靴に、あえて黒のクリームを塗り重ねた、アンティークな色彩のグラデーションでオリジナル感を表現。さすが、フィレンツェを代表するクラシックの達人。カントリージェントルマンをリーギさん流に解釈した、クラシックモダンなスタイルは、“粋の極致”だった。

しかし、いま、あらためてリーギさんの写真を見ると、靴のデザインは5つのアイレットで、内羽根のデザイン。当時、リーギさんは、はっきりと靴は「ジョセフ チーニー」の『エイボンC』と私に言っていたが、勘違いして他のブランドの靴を履いていたのかもしれない。リーギさんのスナップ写真を見せてもらうと、確かに『エイボンC』の靴を愛用していた。
いずれにしても、リーギさんのドレッシーなスーツにカントリーな靴を合わせる着こなしは、その後、私のお手本となった“革命的なスーツスタイル”である。

ファッションエディター・ジャーナリスト 矢部 克已さん プロフィール
「ウフィツィ・メディア」代表
ファッションエディター・ジャーナリスト
矢部 克已さん

イタリア1年間の在住時に、フィレンツェ、ナポリ、ヴェネツィア、ミラノに移り住み、現地で語学勉強と取材、マンウォッチングを続ける。現在は、雑誌『MEN’S PRECIOUS』でエグゼクティブ・ファッションエディター(Contribute)を務めるほか、『MEN’S EX』『THE RAKE JAPAN』『GQ JAPAN』などの雑誌、新聞、ウェブサイト、FMラジオ、トークショーなどでも活躍。イタリアのクラシックなファッションを中心に、メンズファッション全般、グルメやアートにも精通する。

TwitterID:@katsumiyabe

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服飾ジャーナリストが米国で出会った、英国靴デビューの原体験。 服飾ジャーナリスト 飯野 高広

革靴は自分だけの一足に育てていく過程が楽しい。
その要望に応えてくれるのが英国靴の魅力だと思います。

服飾専門学校で教鞭を振るい、さまざまなメディアへの寄稿を通じて、紳士靴やスーツなど、男性の服飾品の歴史と魅力を伝え続けている飯野高広さん。服飾ジャーナリストという肩書きの通り、長年ファッションの文化や流行を研究してきた生き字引的な存在です。そんな飯野さんが誇る170足以上の革靴コレクションの中に、英国靴の魅力にのめり込む原体験となった「ジョセフ チーニー」がありました。今回はそのエピソードとともに、革靴遍歴や英国靴の面白さについて語っていただきました。

飯野 高広

ファッションの興味や考え方をデザインする仕事。

— 服飾ジャーナリストとしての活動について教えてください。

服飾専門学校の講師業を主軸に、『ミューゼオ・スクエア』さんなどのメディアに企画を提案したり記事を寄稿しています。学校では、モッズやヒッピー文化のようなファッションの歴史についての講義をしていますが、自分の役目は服飾の敷居を下げて興味の入り口をつくることだと思っています。当たり前ですが、生徒さんと自分の世代ではファッションに関する受容の仕方が違います。私たちの若い頃はブランドに対して妄信的になっていましたが、若い世代はブランドをリスペクトする一方で客観的な視点を持っています。だからこそ、「洋服はこう着なさい」と押し付けがましく伝えるのではなく、「こういう世界もあるんだよ」と、好きなファッションについて別の視点で考えたり、興味を持つきっかけを与えることが大事だと思っています。かれこれ15年ほど教壇に立っていますが、どの年度の生徒さんも触れている文化や考え方がそれぞれ違うんですよね。そういうことを皮膚感覚で感じられるのは、私にとっても有意義です。自分とは違う感覚に触れるのを億劫にしないというのは、とても大切なことじゃないですか。だからこそ、生徒さんたちにもよく「私の授業は漢方薬だ」と言っているんですよ(笑)。即効性はないけど、後で効いてきて、5年、10年が経った後に、ファッションを振り返るポイントになればうれしいです。

時計

革靴にはレディメイドの存在意義を感じるプロダクトが多い。

— 普段どのような基準でモノを購入されていますか?

洋服に関してはオーダーメイドとヴィンテージを買うことが主になりました。ただ既製品が全然ダメだということではなく、今でも気に入ったモノがあれば買うようにしています。そういう意味では、革靴はビスポークだけでなく、まだまだレディメイドのモノを買うという感覚が強いかもしれません。私は20代の頃から高価なモノやスタンプラリー的に有名ブランドを買うということはありませんでした。それよりも、「何年つき合っていけるかな」ということを主眼に置いていました。だからこそ、今でも変わっていませんが、買う前に徹底的にモノのことを調べています。たとえば、「こういうスタイルの革靴を買うならどのブランドが良い」とか、「自分の身体のバランスを考えるとこういうモデルが良さそう」とか。そこに妥協しないことで、そのブランドしか作れない唯一無二のモデルや、自分の中の永久定番となるモノに出会うことができます。そういうモノに出会えなければ必然的にオーダーメイドになるわけですが、とくに革靴にはまだまだレディメイドの存在意義を感じるプロダクトが多い印象です。その結果、似たようなブランドのモノばかりそろえてしまうのですが(笑)。

自分のスタンダードになるモデルは、黒と茶のペアでそろえる。

— 革靴遍歴を教えてください。

一番初めに自分のお金で購入したのは、月並みですが「リーガル」のローファーです。学生の時に履いていたものですが、今でも大切に持っていますよ。それから日本やアメリカで作られた革靴を履くようになり、次第に英国靴や他の国の靴へと興味が広がっていきました。デザインはバラバラですが、一つルールを決めていて、自分の永久定番になるモデルに関しては黒と茶のペアでそろえるようにしています。たとえば、内羽根のパンチドキャップトゥはエドワードグリーンの「バークレー」、内羽根のフルブローグは今回持ってきたジョセフ チーニーと、旧チャーチの「チェットウィンド」、外羽根のプレーントゥはチャーチの「シャノン」とオールデンの「990」「9901」など、挙げたらキリがないですね。スタンダードの条件は、時代に左右されないデザインで、なおかつ履きながら自分だけの一足に育ってくれるモノです。ユーズドの革靴もスタンダードだと思ったら、ペアにしないと気が済まなくなってしまい、気づけば170足以上のコレクションになっていました。「棺桶に入れてくれ」なんてことを言うつもりはないので、いつか寄贈することになるかもしれないですね。20世紀の終わりから21世紀にかけて、こんな靴を履いて世の中を歩いている人がいたと後世に伝えていけたら良いなと……(笑)。

英国靴デビューの原体験となった別注モデル。

— 本日お持ちいただいたジョセフ チーニーとの出会いについて教えてください。

ジョセフ チーニーというブランドを初めて知ったのは大学生の頃でした。就職後にイギリスへ旅行した時、確かバーリントン・アーケードにあった直営店みたいな小さなお店を見つけて、いかにも英国靴らしい顔つきに惹かれたのですが、当時は「20代半ばで履いてもいいのか」という葛藤があったので、カタログをもらって帰りの飛行機の中で眺めて憧れているだけで終わってしまったんです。ところが、1999年か2000年くらいにニューヨークの「J.PRESS」を訪れた際に、別注の内羽根フルブローグと出会い、思わず黒と茶の二足を買ってしまいました。ラストは現在も使われているクラシックな「175ラスト」で、他にも外羽根のプレーントゥや内羽根のストレートチップもあって、正直に言えば全モデル欲しかったんですが、自分の中でもっとも英国靴らしいイメージに近いこのモデルだけを手に入れることで折り合いをつけました。いつもなら宅配便で郵送してもらうのですが、その時は重量オーバーになることを覚悟して自分で担いで持って帰りましたよ(笑)。そして、それ以来英国靴にのめり込んでいくようになりました。運が良かったと思うのは、英国靴デビューのきっかけが、当時の日本で10万円近くしたいわゆる高級靴と呼ばれるモノではなくて、質実剛健で履く人を引き立てるこの靴だったということです。だからこそ、20年が経った今でも変わらず大切に履いています。

“蓄積の美”を地で行く、英国らしい価値観を体現するブランド。

— この20年でジョセフ チーニーというブランドの印象は変わりましたか?

その当時もまったく悪い印象がなかったですが、おべっかを使うわけではなく、私の中で一番評価が上がったブランドです。自分の核となるポリシーを保ったまま、きちんと変わるべきところをブラッシュアップしていますよね。「イギリスの靴だよ」という文法を守りながら、シティコレクションのような現代的なアプローチがあり、その一方で「ケンゴン Ⅱ R」のような質実剛健の魂を感じるモデルもあります。英国プロダクトには創造の美よりも、“蓄積の美”という価値観が反映されていると思うんです。たとえばなぜ二階建てバスがあるのかと言えば、過去から引き継いだだけなんですよ。それは逆に言えば、変える必要がないくらい良いということですよね。いわゆる紳士靴と呼ばれる領域でも、ブローグやキャップトゥのデザインは、英国のモノという価値をこえて世界標準になっているじゃないですか。変わる必要のない良さを蓄積して磨いているからこそ、変わるべきところはいとも簡単にアップデートすることができる。イギリスには、そういう価値観を感じさせてくれるメーカーが多い印象です。ジョセフ チーニーは、まさにそれを地で行くブランドの一つだと思います。

自分だけの一足を、自分で完成させる楽しみ。

— 飯野さんの思う、英国靴の面白さとはなんでしょうか?

「革靴は自分で完成するものだよ」と言われているような、独特の“ほっといてくれる感”が私は好きです(笑)。たとえば、色で言うとコンカーという茶系のカラーがありますが、薄い色のクリームを塗ればミディアムブラウンに収まりますし、濃い色のクリームであればダークブラウンになりますよね。完成されたモノを買ってただ履くだけではなく、自分で料理できるというのは楽しいじゃないですか。家具のように日曜大工をしてへんてこな仕上がりになってしまっても味になりますし、そういう器の大きさはとても英国的だなと思います。私は職業柄、靴のクリームを買って頻繁に反応をチェックしているのですが、とりわけ質実剛健な英国靴は、それに応えてくれて自分だけの革靴になってくれるモノが多いですね。中には「過保護にしなくてもいいよ俺は」という一足もありますが、でも本日履いているのは、知人から譲り受けて15年以上履いているジョセフ チーニー製のキャップトゥです。この革靴のように、素直な革質のモノは試し甲斐があります。だから、ついモニターとして色やワックスを試してしまいますよね(笑)。そういう経験があってこそ、靴用クリームのピンチヒッターとして「ニベアクリーム」を散布したり、革を柔らかくするために化粧水「極潤α」を使うなんていう裏技も見つけることができます。色々なアプローチで自分だけの一足を完成させられる。そんな楽しみを与えてくれるのは英国靴の魅力だと思います。

服飾ジャーナリスト
飯野 高広さん

1967年生まれ、東京都出身。大学卒業後、大手鉄鋼メーカーに約11年間勤務し、2002年に独立。ビジネスマン経験を生かしたユニークな視点で、紳士靴やスーツなど男性の服飾品にまつわる記事を執筆する服飾ジャーナリストとして活動する。現在は「バンタンデザイン研究所」で講師を務める傍ら、さまざまなメディアに寄稿。「靴磨き選手権大会2020」のアドバイザーも務める。代表的な著書に『紳士靴を嗜む~はじめの一歩から極めるまで~』(朝日新聞出版)など。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda(RECKLESS)

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バイヤーが語るジョセフ チーニー

若き百貨店の紳士靴バイヤー対談 あらゆるドレスシューズを見てきたメンズ館バイヤーが語るジョセフ チーニー

バイヤーが語るジョセフ チーニー

移り変わりの激しいファッショントレンドの中にあって、古き良き製法やデザインで普遍的な魅力をもつ紳士靴。一方で、定番シューズもモディファイを繰り返し年々履き心地などクオリティがあがっているのもまた事実。そんな、奥深い紳士靴の世界を一番近くで、一番多く見てきた百貨店のシューズバイヤーではないでしょうか。現状の知見に留まらず、常にトレンドに敏感な彼らの審美眼を通して、紳士靴の今とジョセフ チーニーのこれからを紐解きます。今回お呼びしたのは、ともに「メンズ館」という大店を張る三越伊勢丹、阪急百貨店の敏腕2名。
 

潮流を捉える二大『メンズ館』の新星

三越伊勢丹 田畑智康 氏
三越伊勢丹 田畑智康 氏

2006年伊勢丹(当時)に入社。伊勢丹新宿店メンズ館の靴売り場からキャリアをスタートさせ、三越と合併後は複数店舗での靴のバイヤーとして活躍。2019年より伊勢丹新宿店メンズ館のバイヤーに就く。

バイヤーが語るジョセフ チーニー
阪急阪神百貨店 芝崎 優輔 氏

2007年に阪急百貨店(当時)に入社。阪急メンズ大阪の靴売り場に配属され、4年目からバイヤーとして活躍。現在、阪急メンズ大阪だけでなく、阪急メンズ東京、博多阪急の3店舗を担当している。
 

大きな流行が起きにくい中で、安定した人気を誇る英国靴

アルフレッド

-まずそれぞれの店での取り扱いブランドを教えてください。

田畑 リーガルからエドワード・グリーン、ジョン・ロブまで、幅広い品ぞろえをしているのがメンズ館の特徴ですね。価格帯でいうと2万円台から20万円超くらい。他の英国靴ではクロケット&ジョーンズ、トリッカーズも取り扱っています。

芝崎 取り扱いブランドはそれほど多くなく、メインは伊勢丹さんとそれほど変わりません。加えて、お客様の動向を見ながら別注品や限定品を企画して、バリエーションを充実させています。トレンドとしては英国靴に力を入れていますが、同じブランドでもポジションや役割は違うかもしれませんね。

バイヤーが語るジョセフ チーニー

田畑 最近はオフィスでの服装がカジュアル化している影響でドレスシューズの市場がシュリンクしてしまい、大きなトレンドが起きにくくなっています。過去にはイタリア靴や国産ブランドなどのブームがありましたが、そのようなトレンドはなく、その中でも英国靴は人気が安定していて、手堅いイメージがあります。ただ、プレーントゥやローファーのような汎用性のある靴が求められている傾向が強くなってきていて、フルグローブやセミブローグの売り上げは昔と比べると落ちていますね。芝崎さんのところではどうですか。

芝崎 基本的に同じ傾向です。例えば新年度を迎える前にフレッシャーズフェアをすると、黒のストレートチップがすごく売れた時代とは違って、ビジネスシューズのカテゴリーに入る革靴を買いに来られるお客様自体が減っています。一方で、スーツが好きだから着るというお客様が一定数いるので、6~7万円よりも価格が上の靴になると売り上げは堅調に推移しています。

田畑 靴好きのお客様に限定すると、売り場に並んでいるものではなく、もっと尖ったものなど、持っていない靴を欲しがられる人が多いので、指向性が深くなっていく感じです。

バイヤーが語るジョセフ チーニー

芝崎 私は時間があるときは店頭で販売もするのですが、お客様が履かれている靴だけでなく服装も確認して、そこから今起こっているトレンドを推測します。また、アウターを買われた紙袋を持たれたお客様を見かけるようになると、売り場にブーツを出すなど、買い付けの段階で計画したことより、売り場の状況を見ながら軌道修正することが多いですね。

田畑 私も週末の空いている時間は店頭に立っていることが多いので、お客様の動向を見ているだけでも勉強になります。むしろ最も大事な情報だと思っていて、例えば3足しか売れなくても、手に取られた人や実際に履かれた人はすごく多かったのに、何かしらの理由で購入には至らなかったということもある。その何らかの理由を改善するとベストセラーになる可能性もあります。ですから店頭でのお客様の背景を探っていくことは、とても大事だと考えています。

履き込んでいくうちに自分の一部になるような感覚は英国靴ならではの魅力

ジョセフ チーニー

-それでは本日のテーマであるジョセフ チーニーについて、まず英国靴についての印象を教えてください。

田畑 質実剛健で、ドレスシューズの基本中の基本が詰まっているという印象です。芝崎さんも海外出張に行かれると思いますが、工場を訪問して感じるのは非常に誠実なものづくりをしていること。細かい縫製も含めて非常に完成度が高く、またチーニーに代表されるように自社工場で一貫生産しているブランドが多いのが強みです。インポートの靴は価格が高いといわれますが。品質とのバランスを考えると決して高くないと思います。

芝崎 靴に興味を持ったきっかけが英国靴だったので、個人的に好みという部分を差し引いても、履いていくうちにフィットする感覚はやっぱり英国靴ならでは。履き始めは痛いこともあるのですが、履きこんでいくうちにフィットしていき自分の一部になるみたいな感じが好きです。あと、単純に見ていて落ち着きます。入社したての頃にジョン・ロブを買ったのですが、30歳手前でいったん履くのをやめてしまったんですよね。似合っていないというか、早すぎるんじゃないかと思って。

田畑 うん。なるほど。

芝崎 30歳を超えてから、再度履き始めたのですが、やっぱりかっこいい。年齢で縛るつもりはなく個人の自由なのですが、英国靴は大人になったら似合う靴なのかなと思っています。

バイヤーが語るジョセフ チーニー

田畑 英国靴の中でもチーニーの魅力は圧倒的なコストパフォーマンス。価格に対しての品質の良さが際立っていて、若い人でも手を出しやすい。実は今、チーニーはすごく売れていて、英国靴の中ではトレンドになっているといってもいいくらいです。

芝崎 チーニーは阪急メンズ東京では扱っていて、阪急メンズ大阪では2020年春夏から取り扱いがスタートします。価格帯でいうと決して高くはないのですが、安いかというとそうでもなくて、面白いのはエドワード・グリーンを履く人でもチーニーを履くんですよね。もちろん、普段リーガルを履く人でもチーニーを履きたいと思っていて、履きたいと思う人の幅がとても広いと感じています。

ジョン・ロブを履く人でもチーニーを選ぶのはつくりがしっかりしているから

アルフレッド

田畑 チーニーの何が好きかというとラスト。若い人たちが買われる一番の理由は、優れたコスパもあるのですが、125と呼ばれるラストの影響が大きい思います。一般的にインポートの靴は日本人にぴったり合うわけではなく、特に踵が大きいんですよね。ところが125ラストは踵が小さくて、内ぶりといってセンターのラインを内側に振っていて、これらの工夫が25歳から34歳までのミレニアム世代の人たちに合っているんです。この125ラストは2011年に開発されていて、英国ブランドって進化がないように思われがちなのですが、2000年以降もきちんとラストの開発をしているという点がいいところ。実際にうちでは、この125ラストを使ったストレートチップのALFRED(アルフレッド)が圧倒的なベストセラーで、若い人たちが指名買いします。

芝崎 先ほど話しました、エドワード・グリーンやジョン・ロブを履く人が、なぜチーニーを履くのかというと、つくりがしっかりしているからなんですね。ぱっと見たときにいい靴だと分かりますし、靴を脱ぐことが多い日本だと靴のことをある程度知っている人からすると、チーニーはライニングを見てもこまかいところまでこだわっているのが分かる。単純に価格の比較でエドワード・グリーンやジョン・ロブの3分の1の価格で買えることを考えると、ものすごくいい靴なのではないかと思っています。

アルフレッド

田畑 価格に対する品質というところで考えると、今の若い人たちはしっかりした必要なものだけを買うという印象で、買いたいものが明確に決まっている。身の丈に合ったものを買って、それが新品でなくてもいいという考えですね。先日、うちで開催した靴博ではユーズドのドレスシューズを販売したのですが、すごく売れました。いいものを新品で買うという発想ではなくて、ユーズドでも自分に合ったものがあればそれを価値として受け入れるという考えは若い人たちの間に浸透しています。無駄なものを買わないという考えで、その対象にチーニーが選ばれることが多くなっています。

芝崎 あとチーニーは他の英国靴と比べて特徴が非常にしっかりしていて、このデザインはあってしかるべきという定番をしっかり見極めてつくり込んでいる。だからピンポイントでの指名買いも多いのではないかと思います。

アルフレッド

田畑 改めてみると、丁寧につくられていますよね。なんか、レベルが上がっているような。

芝崎 確かにレベルが上がっています。昔のドレスシューズをよく知っているおじさんが言いがちなのが、「昔はよかった」的な話。

田畑 レザーは昔の方がよかったという話ですよね。いろいろなブランドでレザーは昔の方がよかったといわれがちなのですが、チーニーはむしろよくなっている気がします。

芝崎 レザーの質だけでなく、ラストやフォルム、デザインなど、私がバイヤーになりたての頃と比べると、クオリティはものすごく上がっています。

田畑 ラストへの根付かせ方というか、ラストの再現性もすごく高くなっている気がする。あと、今はアルフレッドのような長すぎないノーズが支持されています。

芝崎 やっぱり安心感のあるのはこれなんですよね。ラウンドの長すぎないノーズ。

125ラストの開発は、時代の変化に柔軟に対応していこうという考えの表れ

バイヤーが語るジョセフ チーニー

-お話が変わりまして、それぞれの店舗で扱われているチーニーのモデルを教えてください。

田畑 売り場としてチーニー対して期待している役割として、英国靴の入門編というのがあり、手堅く間違いのない靴選びをしていただきたいという思いで、定番のモデルを常時そろえています。

芝崎 阪急メンズ東京も定番を中心に取り揃えています。ですがこの秋冬は、脱ぎ履きしやすい靴ということでサイドゴアブーツも扱うようになりました。基本的にレースアップのブーツが選ばれにくくなっているので、エレガントで見た目もかっこよくて、さらに脱ぎ履きしやすいという理由ですね。この2~3年、サイドゴアブーツ自体が人気のアイテムとして注目されています。

アルフレッド

田畑 バイヤー目線でいうとアルフレッドは本当に好きですね。今、私の中でも注目しているのは内ぶりなんですよ。大量生産するにはどうしてもセンターに中心を持ってこないといけないのですが、でも足ってそもそも人差し指のところが高くなっている。既成靴だと、靴の最も高いところと足の最も高いところが合っていないところがあって、最近ではその問題をクリアしていこうというブランドがいくつか出ているんですね。そのためには木型のよさだけでなく、職人の技術の両方を兼ね備えていなくてはいけなくて、アルフレッドがこの価格で買えるのならイチオシですね。

芝崎 他に挙げるなら5万円台で展開しているシティコレクションもおすすめ。本当に入口の価格帯で、中でもフルグローブのウイングチップは、カントリーっぽい雰囲気というか、皆があまり履いていないような靴だからこそ履きたいというのはあります。改めて見ると、コテコテしている靴というのもなかなかかっこいい。こういう靴をあえてかちっとしたスーツに合わせるのもいいかもしれません。私は新入社員の頃、年に1回ノーザンプトンを訪れるという旅行を個人的にやっていて、チーニーのアウトレットで購入した茶色のグローブ系のモデルを2足所有しています。

フルブローグ

田畑 チーニーのオーナーであるウィリアム・チャーチ氏はジェントルマンで優しいですよね。

芝崎 海外の展示会に行くと、丁寧に商品を紹介してくださるのですが、会社の代表があれだけ細かく一つひとつを紹介するという事例は他にはありません。オーナーがものごとをよく分かっている証拠なので、そんなブランドは信頼できると思います。

田畑 オーナーに情熱があるというのは大事です。チーニーはセレクトショップなどの別注を手掛けることでも知られているのですが、小ロットなのにも関わらず柔軟に対応してくれる。それだけでなく、別注のロゴまでつくってくれるなんてなかなかありません。

芝崎 本当にそうですよね。英国ブランドってすごくいいものづくりをするのですが、一方で思考がストップしているところがあって、売れないということに対してその理由をなかなか理解してくれない。チーニーが細かく対応してくれるというのは、そのあたりのことを理解してくれているのだと思います。

田畑 マーケットに対しての理解がありますよね。市場は常に変化しているのに、その変化に対応してくれるブランドって少ないんですよ。125ラストが2011年に開発されているのも、時代の変化に柔軟に対応していこうというチーニーの考えの表れだと思います。

次代が変わっていく中で、お互いに言いたいことがいえる関係性が重要

ジョセフ チーニー

-それでは最後に、今後チーニーに期待したいことを教えてください。

田畑 英国靴はある種完成されていて、伝統の継承がすべてだというブランドもなくはないので、チーニーとはぜひ一緒に進化していきたいです。お客様の価値観やマーケットはこれからも変化していくので、技術的な進化も含めてどんどん変わっていければいいなと思います。

芝崎 トレンドが目まぐるしく変わっていくと、今までの買われ方とは違う買われ方というのが出てくると思うんですよね。その中で、どれだけ我々の要望を聞いてもらえて、形にできるかというところが売り上げにつながってくる。現在、チーニーにはこのようなことには対応していただいているので心配はしていないのですが、これからスーツがもっと着られなくなって、それこそ民族衣装みたいになる可能性だってある。そうなったときにどんな対応をしていただけるのかという点において、お互いどれだけ情報交換や情報収集できるかが重要だと思っています。よりお互いに言いたいことがいえる関係性をこれからも築いていきたいですね。

photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda

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ジョセフチーニー

英国好きのスタイリストが、12 年愛用しているドレスシューズ。「江東衣裳」代表/スタイリスト 部坂 尚吾

ジョセフチーニー


優れた技術の基盤とそれを積み重ねてきた伝統がある。
僕にとって「ジョセフ チーニー」は究極の “バイプレーヤー”です。

雑誌、広告、映画などで活躍するスタイストの部坂尚吾さんは、自他共に認める英国ラヴァー。毎年一度はイギリスを訪れ、その街の一員として雰囲気を味わい、人間観察を楽しんでいるそうです。そんな部坂さんですが、365日革靴以外は履かないというこだわりの持ち主。しかも、その趣向はかなり偏っているのだとか。長年愛用されている「ジョセフ チーニー」のお話と、革靴遍歴を尋ねました。

スタイリスト部坂 尚吾さん

イギリスの生活に溶け込み、雰囲気を味わう旅。

— よくイギリスへ旅行されているのはなぜですか?

イギリスのスーツスタイルが好きだったことが転じて、イギリスそのものを好きになってしまったからです。今では移住したいとすら思っています。だから、年に一度は休みを設けてヨーロッパへ旅行するようにしています。今年は、両親の還暦祝いを兼ねてイギリス旅行をしてきました。以前、フランスが好きな妻に合わせ、イギリスとフランスとの一週間ずつの滞在になったことがありましたが、滞在時間が短すぎて少し消化不良でした(笑)。観光地を巡るツアーも楽しいですが、できる限りその街に長くいて、そこで暮らすかのように滞在するようにしています。そのおかげで、表面的ではない物事を発見できるように思います。また、その際になるべく日本にいるときと同じような生活リズムをキープするように心がけています。旅先で張り切り過ぎて無理をしてしまうと大体体調を崩してしまうので……。イギリスはお店の閉まる時間が早く、早寝早起きの僕の生活リズムにもぴったり合っています。旅行はそういったことを実感したり、街や人の雰囲気を味わうことができる贅沢な時間です。あまりにも有意義な時間を過ごすことができるので、帰国するのが億劫になってしまうことがしばしばあります。

グレンロイヤル

スタイルからオリジナリティを感じること。

— 英国人から学んだことでとくに印象的だったことはありますか?

イギリスに行くたびに強く思うのは、確固たる自分のスタイルを持った人が多いということです。トレンドに敏感で、街を観察すれば何が旬なのかおおよそ見当のつく日本とは異なり、イギリスではそれが非常にわかりづらいです。たとえば、「ザ・フー」のバンドTシャツを着て、ボロボロのジーンズという出で立ちなのに、なぜか足元だけピカピカに磨かれたドレス靴を履いている人や、ビスポークであろうスーツを着こなす銀幕スターのような人など、オリジナリティ溢れる格好の人が多いです。自分自身のポリシーを持っていてスタイルを大切にする文化はとても魅力的に感じます。作り手のこだわりが伝わるものに魅力を感じて手に取ることが多いのですが、気が付けば茶系のレザーアイテムが多くなっていました。いずれも、昔ながらの製法を受け継ぐなどポリシーやスタイルを貫いているメーカーが多いです。先日のイギリス旅行でも、ブライドルレザーの水筒ケースに一目惚れしました。保温性に優れているようにも見えないし、とりわけ軽い訳でもない。なぜこれを生産しようと思ったのかが気になって仕方がなかったです。お店の店員さんも“本当に買うの?”というような表情をしていました(笑)。

ジョセフチーニー

365日革靴で過ごすのが、部坂流。

— 英国のオリジナリティを大切にする考えは、部坂さん自身のスタイルにも生きていますか?

そうかもしれません。僕は20代の前半の頃から革靴以外履かなくなりました。なぜかと言えば、革靴を履くとコーディネートが締まるのでかっこいいからというシンプルな理由です。昔、テレビ番組のADをやっていた時にロケハンで無人島へ行ったんです。その時にも当然のごとく真っ赤な革靴を履いていったら、ディレクターに「ふざけんなっ!」と本気で怒られたことがあります……。撮影前日に「別の靴を買ってこい」と言われてお金をもらったのですが、あろうことかコンバースのオールスターハイカットを買って行ってまた怒られました。もっと脱ぎ履きしやすい靴で来いという真意をはき違えていましたね(笑)。スタイルを貫くというのはなかなか簡単なことではありませんね。僕自身は、今も365日革靴を履き続けています。もちろんスタイリングをする際には、自分の好みを押し付けるようなことはしません。ですが、僕の好きなスタイルを理解し、共感してくださる方とお仕事をさせていただく機会が多いのは嬉しいことです。

ジョセフチーニー

自身の原体験であり、スタイルに合う英国靴に傾倒。

— 革靴遍歴を教えてください。

初めて履いた革靴のことはあまり覚えていないのですが、20代前半の時にスーツに合わせて英国靴を買ったのが最初だと思います。今日履いている「ジョセフ チーニー」を購入したのもその頃だったはず。その後、当時まだ根強く残っていたクラシコイタリアブームの影響でイタリア靴も履くようになりましたが、現在では、英国靴が圧倒的に多いです。たとえば、「ジョセフ チーニー」をはじめ「ジョンロブ」「エドワードグリーン」「チャーチ」「ジョージクレバリー」「フォスター&サン」「クロケット&ジョーンズ」「トリッカーズ」など、一通り英国メーカーは履いていますし、所有している革靴の8割は英国靴です。自分が履いてみたいと思ったものと、衣装として使ってみたいものを収集していった感じでしょうか。英国靴以外ですと、イタリアの「ストール・マンテラッシ」「マンニーナ」「エンツォ・ボナフェ」、フランスの「パラブーツ」なども何足か持っていますが、やはり英国靴の比ではないですね。こういった話をしていて、よく人に驚かれるのが、アメリカ靴を一足も持っていないことです。稀に衣装として使用することはあるものの、ついに自分で購入に至る機会はありませんでした。

ジョセフチーニー

12年前に、先輩の勧めで手に入れた思い出の品。

— 本日履かれている「ジョセフ チーニー」はいつ頃に購入されたものでしょうか。

これは12年ほど前に、当時勤めていたセレクトショップで購入しました。僕の着ていた英国式のスーツに合わせて、先輩が見立ててくれた思い出の一足です。古典的なバーズアイのスーツに、ストレートチップでは真面目過ぎるので、内羽根にメダリオンが施されたこのモデルを推薦してくれたんです。ドレスの革靴自体を履き始めて間もない頃に購入した一足ということもあり、思い入れが深く今でも愛用しています。自分で定期的に磨いているのですが、とても気に入っているので、時には二日連続履いてしまうこともあります(笑)。それにも関わらず12年間履いても未だに現役で、本当にしっかりした作りだということをしみじみと感じています。最近「ユニオンワークス」でオールソール交換をお願いしたのですが、従来のレザーソールからオークバークレザーのソールに換えたり、ヴィンテージスティールを施すなど、カスタムすることで違いを楽しんでいます。この「11028ラスト」は、履いた時の足の収まりがとても心地良いです。トゥが細くウィズが広いデザインも、スタイルを選ばずどんなスーツにも合わせやすいところが魅力的ですね。

ジョセフチーニー

主役にも脇役になる、究極の“バイプレーヤー”。

— 「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。

10足以上持っていますが、クローゼットを見返してみて改めてラインナップの幅広さを感じました。僕が所有しているモデルだけでも、「CAIRNGORM Ⅱ R (ケンゴン Ⅱ R)」のようなカントリーブーツカントリーシューズ、「ALFRED(アルフレッド)」のようなドレス靴シューズ、コンビのローファーみたいなカジュアルなものまで様々です。メーカーさんによって、ジャンルの得意不得意があると思うのですが、「ジョセフ チーニー」のコレクションはどのモデルも履きやすく、スタイリングに合わせやすいのが魅力だと思います。また、数多い英国の靴ブランドの中で、圧倒的に他社とのコラボレーションモデルが多いのではないでしょうか。優れた技術の基盤がしっかりとあり、それを積み重ねてきた伝統があります。それが、多少のアレンジを受け入れられる余裕を生み出すのではないでしょうか。こうした高い柔軟性を備えた「ジョセフ チーニー」を、僕は究極の“バイプレーヤー”だと思っています。これほどバランスの取れたメーカーは、稀有なのではないでしょうか。

スタイリスト部坂 尚吾さん
スタイリスト
部坂 尚吾さん

1985年生まれ。松竹京都撮影所、テレビ朝日での番組制作を経て、2011年よりスタイリストとして活動をスタート。2015年に、「江東衣裳」を設立する。映画、CM、雑誌、タレントなどのスタイリングから、各種媒体の企画、製作のディレクション、執筆など、マルチに活躍。BRITISH MADEのWEB内「STORIES」にて連載中。現在、スタイリストアシスタントを募集中。

photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda

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チーニー3足

定番3足を1週間コーディネート。 スタイリスト四方章敬さんならこう合わせる!



男の革靴、必要なのは最低3足。
仕事から休日までカバーするにはどう選ぶのが正解?

本格的な製法で作られたレザーシューズは何十年と愛用できますが、適切なお手入れに加えて“履いたら休ませる”ことが大切。靴の寿命を縮めないローテーションのためには、最低3足は必要といわれています。そこで、幅広いデザインバリエーションを誇るジョセフ チーニーのラインナップから、汎用性を考慮して3足をピックアップ。スタイリスト四方章敬さんに、1週間の活用例を提案いただきました。

チーニー3足

このラインナップなら、どんなシーンにも対応できる

いずれもジョセフ チーニーの定番モデル。左:オーセンティックなコインローファー「ハドソン」。程よく丸みを帯びつつ現代的なスマートさも感じさせるラスト5203を採用しています。きめ細かい上質なカーフで仕立てることにより、ドレススタイルへの対応力も高い一足。中:カジュアルライン“カントリーコレクション”の人気作「ケンゴン Ⅱ R」。
ミリタリーシューズに由来し、ラストはかつて英国軍にも提供していた4436を使用。さらに「ヴェルトショーン製法」と呼ばれる特殊なグッドイヤー製法で作ることで、雨水や埃が靴内部に入りにくく仕立てたヘビーデューティーなモデルです。右:セミブローグのドレスシューズ「ウィルフレッド」。端正で小ぶりな穴飾りによって装飾性を控えめにし、上品な印象に仕上げています。ラストはドレスシューズの定番125。2011年にブランド創業125周年を記念して誕生した木型で、小ぶりなヒールカップが日本人の足にもマッチします。

この3足を使って、スタイリスト四方さんが1週間コーディネートを提案

チーニー スタイリング

[Mon.]シリアスな会議は、スーツと内羽根靴でピリッと締めて。

週始めの月曜はミーティングの連続という方も多いはず。上役を交えた会議などシリアスな場面では、やはりビシッとスーツで臨みたいもの。乱れのない服装は相手に信頼感を与えるだけでなく、自分の立ち居振る舞いにも自信をつけてくれるはずです。そんなドレススタイルに合わせたのは、内羽根式セミブローグの「ウィルフレッド」。
「スーツはドレッシーなネイビーストライプですが、紡毛素材を選んで秋らしい季節感をさりげなく演出しています。ここに合わせる靴は王道のストレートチップでも悪くありませんが、少しだけ装飾性のあるセミブローグがベストマッチ。柔らかなスーツの生地感とあいまって、キリッと引き締まりつつも堅苦しくないビジネススタイルにまとまります。『ウィルフレッド』はラストがトゥボリュームは残しつつも、ウェストの絞りや小ぶりなヒールによりモダンな印象なので、スーツにも合わせやすいですね」(四方さん)

チーニー スタイリング

[Tue.] 終日市場リサーチ。外回りは上品かつ快適な足元で

一日中、外を歩き回るアクティブな日。疲れにくい服装でパフォーマンスを上げたいところですが、やはりビジネススタイルとしての上品さはキープすべき。そんなシーンで活躍するのが、ミリタリーシューズ由来の「ケンゴン Ⅱ R」です。締め付け感のない履き心地に加え、頑健なラバーソールにグレインレザーという素材使いにより、靴に気を遣うことなくガシガシ歩けるのもポイント。
「カントリーな表情の靴に合わせて、ツイードジャケットやミドルゲージのニットなど、温かみのある雰囲気でスタイリングしました。『ケンゴン Ⅱ R』はアッパーもソールも重厚で武骨ですが、外羽根式ウイングチップよりもデザインがシンプルなので、ビジネススタイルにも無理なく合わせられますね。コットンパンツを合わせる場合は、クリースの入ったもの選んでカジュアルに見えすぎないようにするとオンの佇まいをキープできます」(四方さん)

チーニー スタイリング

[Wed.]ノー残業デーは、カジュアルスーツとローファーで軽快に

社内が揃って早く退勤できるノー残業デー。なかなかスケジュールの合わない同期たちと、ブリティッシュパブで久しぶりに一杯……。そんな日は、リラックス感に加えて多少の華やかさもあると、楽しいムードをさらに盛り上げられることでしょう。
「パブに映える服装ということで、ロイヤルブルーのコットンスーツで軽やかさと華やぎを意識しました。インナーは寛ぎ感と上品さを兼備し、小粋な洒脱さも演出できるハイゲージのタートルニット。とくれば、足元も軽快なローファーが最適です。『ハドソン』はラウンドトウですがポッテリしすぎていないので、このスーツのようにドレスカジュアルな洋服と非常に相性がいいですね。アメリカのローファーとは一味違う、都会的な洗練を感じさせるところが魅力だと思います」(四方さん)

チーニー スタイリング

[Thu.]憂鬱な雨の日も、悪天候に強い一足があれば安心

雨天の通勤や外回りはなんとも憂鬱なもの。上半身は傘で守れても、靴底から冷たい水が染みて不快な思いをしたり、せっかくの革靴が泥で傷んでしまったりと、トラブルの種がたくさん。そんな日に「ケンゴン Ⅱ R」が大活躍してくれます。ヴェルトショーン製法とよばれる特殊な仕立てにより、雨水が中に染みにくい作りになっていることに加え、分厚いダブルコマンドソールで悪路も快適に歩くことができます。アッパーも汚れや水気に強いグレインレザーで、雨の中でも気を遣わなくていいのが魅力。
「肌寒い雨の日をイメージして、キルティングコートとコーディネートしました。靴もコートもカントリーテイストなので、全体に統一感が生まれますね。最近はコートもゆったりとしたワイドシルエットのものが主流になっていますが、ボリュームのある『ケンゴン Ⅱ R』はそんなコートと好バランスです」(四方さん)

チーニー  スタイリング

[Fri.]得意先と会食。セミブローグはジャケパンにも絶好

金曜夜には、長い付き合いのクライアントと食事会へ。気心知れた中なので、カチッとスーツで決める必要はないけれど、場にふさわしいドレス感は欲しい。そんな時はタイドアップしたジャケパンスタイルがちょうどいい具合です。そこに四方さんが合わせたのが、上品なセミブローグ「ウィルフレッド」。
「内羽根式のセミブローグシューズは、スーツにもジャケパンにも合う汎用性の高いデザイン。一足持っておくと重宝するアイテムです。このコーディネートでは、今季トレンドのフレンチを意識してみました。ポイントは黒を効かせること。ジャケット、ニット、ネクタイすべてに黒が入っています。足元の黒靴ともリンクして、トラディショナルだけれどクールな印象に映るのがポイントですね」(四方さん)

[Sat.]土曜は美術館へ。オーバーシャツとローファーできれいめに

美術館など大人な場所で過ごす休日は、服装も品よくきれいめにまとめたいところ。きちんと見えつつジャケットより気軽なオーバーシャツはそんなシーンで活躍するアイテムですが、そこに好相性なのがローファー「ハドソン」です。
「この『ハドソン』は色みもすごく魅力的ですね。少しグレーがかったブラウンで、渋さもありながら柔らかさも感じます。このコーディネートではイエローに近いベージュのコーデュロイパンツと合わせましたが、こういう華やかな色ともきれいに馴染んでくれます。トップスはガンクラブチェックのオーバーシャツにニットポロでトラッドにまとめつつ、スカーフをプラスして大人の洒落っ気を演出してみました」(四方さん)

[Sun.]クルマを飛ばして湖畔へ。大人アウトドアにも「ケンゴン Ⅱ R」が重宝

紅葉を見に湖畔まで日帰り旅行。もちろんスニーカーでもOKですが、より大人なスタイルで休日を満喫するなら、クラシックアウトドアでまとめるのがおすすめです。
「オイルドジャケットにカセンティーノ(イタリア、トスカーナ地方伝統のウール。毛玉のような起毛感が特徴)のプルオーバーといったトラッドなアイテムを活用して、アウドドアでも大人ならではのスタイルを考えました。こういったラギッドな装いにも『ケンゴン Ⅱ R』は似合いますね。履き込んで味を出していくと、さらにいい感じになると思います。オイルドジャケットやデニムと同様、エイジングでいっそう味わいが深まるのもこの靴の魅力だと思います」(四方さん)

英国ノーサンプトン伝統の本格的な作りはもちろん、大人の装いに幅広く対応するクラシックモダンなデザインもブランドの持ち味。四方さんのスタイリングを参考に、あなたのワードローブにも是非取り入れてみてください。

スタイリスト
四方章敬さん

1982年生まれ。武内雅英氏に師事し、2010年に独立。「LEON」「MEN’S EX」「Men’s Precious」「THE RAKE JAPAN」などラグジュアリーメンズ誌で活躍。ドレス、カジュアルともに精通し、クラシックを軸としつつひとひねり効かせたスタイリングに定評あり。

photo Kenichiro Higa text Hiromitsu Kosone

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