移り変わりの激しいファッショントレンドの中にあって、古き良き製法やデザインで普遍的な魅力をもつ紳士靴。一方で、定番シューズもモディファイを繰り返し年々履き心地などクオリティがあがっているのもまた事実。そんな、奥深い紳士靴の世界を一番近くで、一番多く見てきた百貨店のシューズバイヤーではないでしょうか。現状の知見に留まらず、常にトレンドに敏感な彼らの審美眼を通して、紳士靴の今とジョセフ チーニーのこれからを紐解きます。今回お呼びしたのは、ともに「メンズ館」という大店を張る三越伊勢丹、阪急百貨店の敏腕2名。
大きな流行が起きにくい中で、安定した人気を誇る英国靴

-まずそれぞれの店での取り扱いブランドを教えてください。
田畑 リーガルからエドワード・グリーン、ジョン・ロブまで、幅広い品ぞろえをしているのがメンズ館の特徴ですね。価格帯でいうと2万円台から20万円超くらい。他の英国靴ではクロケット&ジョーンズ、トリッカーズも取り扱っています。
芝崎 取り扱いブランドはそれほど多くなく、メインは伊勢丹さんとそれほど変わりません。加えて、お客様の動向を見ながら別注品や限定品を企画して、バリエーションを充実させています。トレンドとしては英国靴に力を入れていますが、同じブランドでもポジションや役割は違うかもしれませんね。

田畑 最近はオフィスでの服装がカジュアル化している影響でドレスシューズの市場がシュリンクしてしまい、大きなトレンドが起きにくくなっています。過去にはイタリア靴や国産ブランドなどのブームがありましたが、そのようなトレンドはなく、その中でも英国靴は人気が安定していて、手堅いイメージがあります。ただ、プレーントゥやローファーのような汎用性のある靴が求められている傾向が強くなってきていて、フルグローブやセミブローグの売り上げは昔と比べると落ちていますね。芝崎さんのところではどうですか。
芝崎 基本的に同じ傾向です。例えば新年度を迎える前にフレッシャーズフェアをすると、黒のストレートチップがすごく売れた時代とは違って、ビジネスシューズのカテゴリーに入る革靴を買いに来られるお客様自体が減っています。一方で、スーツが好きだから着るというお客様が一定数いるので、6~7万円よりも価格が上の靴になると売り上げは堅調に推移しています。
田畑 靴好きのお客様に限定すると、売り場に並んでいるものではなく、もっと尖ったものなど、持っていない靴を欲しがられる人が多いので、指向性が深くなっていく感じです。

芝崎 私は時間があるときは店頭で販売もするのですが、お客様が履かれている靴だけでなく服装も確認して、そこから今起こっているトレンドを推測します。また、アウターを買われた紙袋を持たれたお客様を見かけるようになると、売り場にブーツを出すなど、買い付けの段階で計画したことより、売り場の状況を見ながら軌道修正することが多いですね。
田畑 私も週末の空いている時間は店頭に立っていることが多いので、お客様の動向を見ているだけでも勉強になります。むしろ最も大事な情報だと思っていて、例えば3足しか売れなくても、手に取られた人や実際に履かれた人はすごく多かったのに、何かしらの理由で購入には至らなかったということもある。その何らかの理由を改善するとベストセラーになる可能性もあります。ですから店頭でのお客様の背景を探っていくことは、とても大事だと考えています。
履き込んでいくうちに自分の一部になるような感覚は英国靴ならではの魅力

-それでは本日のテーマであるジョセフ チーニーについて、まず英国靴についての印象を教えてください。
田畑 質実剛健で、ドレスシューズの基本中の基本が詰まっているという印象です。芝崎さんも海外出張に行かれると思いますが、工場を訪問して感じるのは非常に誠実なものづくりをしていること。細かい縫製も含めて非常に完成度が高く、またチーニーに代表されるように自社工場で一貫生産しているブランドが多いのが強みです。インポートの靴は価格が高いといわれますが。品質とのバランスを考えると決して高くないと思います。
芝崎 靴に興味を持ったきっかけが英国靴だったので、個人的に好みという部分を差し引いても、履いていくうちにフィットする感覚はやっぱり英国靴ならでは。履き始めは痛いこともあるのですが、履きこんでいくうちにフィットしていき自分の一部になるみたいな感じが好きです。あと、単純に見ていて落ち着きます。入社したての頃にジョン・ロブを買ったのですが、30歳手前でいったん履くのをやめてしまったんですよね。似合っていないというか、早すぎるんじゃないかと思って。
田畑 うん。なるほど。
芝崎 30歳を超えてから、再度履き始めたのですが、やっぱりかっこいい。年齢で縛るつもりはなく個人の自由なのですが、英国靴は大人になったら似合う靴なのかなと思っています。

田畑 英国靴の中でもチーニーの魅力は圧倒的なコストパフォーマンス。価格に対しての品質の良さが際立っていて、若い人でも手を出しやすい。実は今、チーニーはすごく売れていて、英国靴の中ではトレンドになっているといってもいいくらいです。
芝崎 チーニーは阪急メンズ東京では扱っていて、阪急メンズ大阪では2020年春夏から取り扱いがスタートします。価格帯でいうと決して高くはないのですが、安いかというとそうでもなくて、面白いのはエドワード・グリーンを履く人でもチーニーを履くんですよね。もちろん、普段リーガルを履く人でもチーニーを履きたいと思っていて、履きたいと思う人の幅がとても広いと感じています。
ジョン・ロブを履く人でもチーニーを選ぶのはつくりがしっかりしているから

田畑 チーニーの何が好きかというとラスト。若い人たちが買われる一番の理由は、優れたコスパもあるのですが、125と呼ばれるラストの影響が大きい思います。一般的にインポートの靴は日本人にぴったり合うわけではなく、特に踵が大きいんですよね。ところが125ラストは踵が小さくて、内ぶりといってセンターのラインを内側に振っていて、これらの工夫が25歳から34歳までのミレニアム世代の人たちに合っているんです。この125ラストは2011年に開発されていて、英国ブランドって進化がないように思われがちなのですが、2000年以降もきちんとラストの開発をしているという点がいいところ。実際にうちでは、この125ラストを使ったストレートチップのALFRED(アルフレッド)が圧倒的なベストセラーで、若い人たちが指名買いします。
芝崎 先ほど話しました、エドワード・グリーンやジョン・ロブを履く人が、なぜチーニーを履くのかというと、つくりがしっかりしているからなんですね。ぱっと見たときにいい靴だと分かりますし、靴を脱ぐことが多い日本だと靴のことをある程度知っている人からすると、チーニーはライニングを見てもこまかいところまでこだわっているのが分かる。単純に価格の比較でエドワード・グリーンやジョン・ロブの3分の1の価格で買えることを考えると、ものすごくいい靴なのではないかと思っています。

田畑 価格に対する品質というところで考えると、今の若い人たちはしっかりした必要なものだけを買うという印象で、買いたいものが明確に決まっている。身の丈に合ったものを買って、それが新品でなくてもいいという考えですね。先日、うちで開催した靴博ではユーズドのドレスシューズを販売したのですが、すごく売れました。いいものを新品で買うという発想ではなくて、ユーズドでも自分に合ったものがあればそれを価値として受け入れるという考えは若い人たちの間に浸透しています。無駄なものを買わないという考えで、その対象にチーニーが選ばれることが多くなっています。
芝崎 あとチーニーは他の英国靴と比べて特徴が非常にしっかりしていて、このデザインはあってしかるべきという定番をしっかり見極めてつくり込んでいる。だからピンポイントでの指名買いも多いのではないかと思います。

田畑 改めてみると、丁寧につくられていますよね。なんか、レベルが上がっているような。
芝崎 確かにレベルが上がっています。昔のドレスシューズをよく知っているおじさんが言いがちなのが、「昔はよかった」的な話。
田畑 レザーは昔の方がよかったという話ですよね。いろいろなブランドでレザーは昔の方がよかったといわれがちなのですが、チーニーはむしろよくなっている気がします。
芝崎 レザーの質だけでなく、ラストやフォルム、デザインなど、私がバイヤーになりたての頃と比べると、クオリティはものすごく上がっています。
田畑 ラストへの根付かせ方というか、ラストの再現性もすごく高くなっている気がする。あと、今はアルフレッドのような長すぎないノーズが支持されています。
芝崎 やっぱり安心感のあるのはこれなんですよね。ラウンドの長すぎないノーズ。
125ラストの開発は、時代の変化に柔軟に対応していこうという考えの表れ

-お話が変わりまして、それぞれの店舗で扱われているチーニーのモデルを教えてください。
田畑 売り場としてチーニー対して期待している役割として、英国靴の入門編というのがあり、手堅く間違いのない靴選びをしていただきたいという思いで、定番のモデルを常時そろえています。
芝崎 阪急メンズ東京も定番を中心に取り揃えています。ですがこの秋冬は、脱ぎ履きしやすい靴ということでサイドゴアブーツも扱うようになりました。基本的にレースアップのブーツが選ばれにくくなっているので、エレガントで見た目もかっこよくて、さらに脱ぎ履きしやすいという理由ですね。この2~3年、サイドゴアブーツ自体が人気のアイテムとして注目されています。

田畑 バイヤー目線でいうとアルフレッドは本当に好きですね。今、私の中でも注目しているのは内ぶりなんですよ。大量生産するにはどうしてもセンターに中心を持ってこないといけないのですが、でも足ってそもそも人差し指のところが高くなっている。既成靴だと、靴の最も高いところと足の最も高いところが合っていないところがあって、最近ではその問題をクリアしていこうというブランドがいくつか出ているんですね。そのためには木型のよさだけでなく、職人の技術の両方を兼ね備えていなくてはいけなくて、アルフレッドがこの価格で買えるのならイチオシですね。
芝崎 他に挙げるなら5万円台で展開しているシティコレクションもおすすめ。本当に入口の価格帯で、中でもフルグローブのウイングチップは、カントリーっぽい雰囲気というか、皆があまり履いていないような靴だからこそ履きたいというのはあります。改めて見ると、コテコテしている靴というのもなかなかかっこいい。こういう靴をあえてかちっとしたスーツに合わせるのもいいかもしれません。私は新入社員の頃、年に1回ノーザンプトンを訪れるという旅行を個人的にやっていて、チーニーのアウトレットで購入した茶色のグローブ系のモデルを2足所有しています。

田畑 チーニーのオーナーであるウィリアム・チャーチ氏はジェントルマンで優しいですよね。
芝崎 海外の展示会に行くと、丁寧に商品を紹介してくださるのですが、会社の代表があれだけ細かく一つひとつを紹介するという事例は他にはありません。オーナーがものごとをよく分かっている証拠なので、そんなブランドは信頼できると思います。
田畑 オーナーに情熱があるというのは大事です。チーニーはセレクトショップなどの別注を手掛けることでも知られているのですが、小ロットなのにも関わらず柔軟に対応してくれる。それだけでなく、別注のロゴまでつくってくれるなんてなかなかありません。
芝崎 本当にそうですよね。英国ブランドってすごくいいものづくりをするのですが、一方で思考がストップしているところがあって、売れないということに対してその理由をなかなか理解してくれない。チーニーが細かく対応してくれるというのは、そのあたりのことを理解してくれているのだと思います。
田畑 マーケットに対しての理解がありますよね。市場は常に変化しているのに、その変化に対応してくれるブランドって少ないんですよ。125ラストが2011年に開発されているのも、時代の変化に柔軟に対応していこうというチーニーの考えの表れだと思います。
次代が変わっていく中で、お互いに言いたいことがいえる関係性が重要

-それでは最後に、今後チーニーに期待したいことを教えてください。
田畑 英国靴はある種完成されていて、伝統の継承がすべてだというブランドもなくはないので、チーニーとはぜひ一緒に進化していきたいです。お客様の価値観やマーケットはこれからも変化していくので、技術的な進化も含めてどんどん変わっていければいいなと思います。
芝崎 トレンドが目まぐるしく変わっていくと、今までの買われ方とは違う買われ方というのが出てくると思うんですよね。その中で、どれだけ我々の要望を聞いてもらえて、形にできるかというところが売り上げにつながってくる。現在、チーニーにはこのようなことには対応していただいているので心配はしていないのですが、これからスーツがもっと着られなくなって、それこそ民族衣装みたいになる可能性だってある。そうなったときにどんな対応をしていただけるのかという点において、お互いどれだけ情報交換や情報収集できるかが重要だと思っています。よりお互いに言いたいことがいえる関係性をこれからも築いていきたいですね。
photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda

優れた技術の基盤とそれを積み重ねてきた伝統がある。
僕にとって「ジョセフ チーニー」は究極の “バイプレーヤー”です。
雑誌、広告、映画などで活躍するスタイストの部坂尚吾さんは、自他共に認める英国ラヴァー。毎年一度はイギリスを訪れ、その街の一員として雰囲気を味わい、人間観察を楽しんでいるそうです。そんな部坂さんですが、365日革靴以外は履かないというこだわりの持ち主。しかも、その趣向はかなり偏っているのだとか。長年愛用されている「ジョセフ チーニー」のお話と、革靴遍歴を尋ねました。

イギリスの生活に溶け込み、雰囲気を味わう旅。
— よくイギリスへ旅行されているのはなぜですか?
イギリスのスーツスタイルが好きだったことが転じて、イギリスそのものを好きになってしまったからです。今では移住したいとすら思っています。だから、年に一度は休みを設けてヨーロッパへ旅行するようにしています。今年は、両親の還暦祝いを兼ねてイギリス旅行をしてきました。以前、フランスが好きな妻に合わせ、イギリスとフランスとの一週間ずつの滞在になったことがありましたが、滞在時間が短すぎて少し消化不良でした(笑)。観光地を巡るツアーも楽しいですが、できる限りその街に長くいて、そこで暮らすかのように滞在するようにしています。そのおかげで、表面的ではない物事を発見できるように思います。また、その際になるべく日本にいるときと同じような生活リズムをキープするように心がけています。旅先で張り切り過ぎて無理をしてしまうと大体体調を崩してしまうので……。イギリスはお店の閉まる時間が早く、早寝早起きの僕の生活リズムにもぴったり合っています。旅行はそういったことを実感したり、街や人の雰囲気を味わうことができる贅沢な時間です。あまりにも有意義な時間を過ごすことができるので、帰国するのが億劫になってしまうことがしばしばあります。

スタイルからオリジナリティを感じること。
— 英国人から学んだことでとくに印象的だったことはありますか?
イギリスに行くたびに強く思うのは、確固たる自分のスタイルを持った人が多いということです。トレンドに敏感で、街を観察すれば何が旬なのかおおよそ見当のつく日本とは異なり、イギリスではそれが非常にわかりづらいです。たとえば、「ザ・フー」のバンドTシャツを着て、ボロボロのジーンズという出で立ちなのに、なぜか足元だけピカピカに磨かれたドレス靴を履いている人や、ビスポークであろうスーツを着こなす銀幕スターのような人など、オリジナリティ溢れる格好の人が多いです。自分自身のポリシーを持っていてスタイルを大切にする文化はとても魅力的に感じます。作り手のこだわりが伝わるものに魅力を感じて手に取ることが多いのですが、気が付けば茶系のレザーアイテムが多くなっていました。いずれも、昔ながらの製法を受け継ぐなどポリシーやスタイルを貫いているメーカーが多いです。先日のイギリス旅行でも、ブライドルレザーの水筒ケースに一目惚れしました。保温性に優れているようにも見えないし、とりわけ軽い訳でもない。なぜこれを生産しようと思ったのかが気になって仕方がなかったです。お店の店員さんも“本当に買うの?”というような表情をしていました(笑)。

365日革靴で過ごすのが、部坂流。
— 英国のオリジナリティを大切にする考えは、部坂さん自身のスタイルにも生きていますか?
そうかもしれません。僕は20代の前半の頃から革靴以外履かなくなりました。なぜかと言えば、革靴を履くとコーディネートが締まるのでかっこいいからというシンプルな理由です。昔、テレビ番組のADをやっていた時にロケハンで無人島へ行ったんです。その時にも当然のごとく真っ赤な革靴を履いていったら、ディレクターに「ふざけんなっ!」と本気で怒られたことがあります……。撮影前日に「別の靴を買ってこい」と言われてお金をもらったのですが、あろうことかコンバースのオールスターハイカットを買って行ってまた怒られました。もっと脱ぎ履きしやすい靴で来いという真意をはき違えていましたね(笑)。スタイルを貫くというのはなかなか簡単なことではありませんね。僕自身は、今も365日革靴を履き続けています。もちろんスタイリングをする際には、自分の好みを押し付けるようなことはしません。ですが、僕の好きなスタイルを理解し、共感してくださる方とお仕事をさせていただく機会が多いのは嬉しいことです。

自身の原体験であり、スタイルに合う英国靴に傾倒。
— 革靴遍歴を教えてください。
初めて履いた革靴のことはあまり覚えていないのですが、20代前半の時にスーツに合わせて英国靴を買ったのが最初だと思います。今日履いている「ジョセフ チーニー」を購入したのもその頃だったはず。その後、当時まだ根強く残っていたクラシコイタリアブームの影響でイタリア靴も履くようになりましたが、現在では、英国靴が圧倒的に多いです。たとえば、「ジョセフ チーニー」をはじめ「ジョンロブ」「エドワードグリーン」「チャーチ」「ジョージクレバリー」「フォスター&サン」「クロケット&ジョーンズ」「トリッカーズ」など、一通り英国メーカーは履いていますし、所有している革靴の8割は英国靴です。自分が履いてみたいと思ったものと、衣装として使ってみたいものを収集していった感じでしょうか。英国靴以外ですと、イタリアの「ストール・マンテラッシ」「マンニーナ」「エンツォ・ボナフェ」、フランスの「パラブーツ」なども何足か持っていますが、やはり英国靴の比ではないですね。こういった話をしていて、よく人に驚かれるのが、アメリカ靴を一足も持っていないことです。稀に衣装として使用することはあるものの、ついに自分で購入に至る機会はありませんでした。

12年前に、先輩の勧めで手に入れた思い出の品。
— 本日履かれている「ジョセフ チーニー」はいつ頃に購入されたものでしょうか。
これは12年ほど前に、当時勤めていたセレクトショップで購入しました。僕の着ていた英国式のスーツに合わせて、先輩が見立ててくれた思い出の一足です。古典的なバーズアイのスーツに、ストレートチップでは真面目過ぎるので、内羽根にメダリオンが施されたこのモデルを推薦してくれたんです。ドレスの革靴自体を履き始めて間もない頃に購入した一足ということもあり、思い入れが深く今でも愛用しています。自分で定期的に磨いているのですが、とても気に入っているので、時には二日連続履いてしまうこともあります(笑)。それにも関わらず12年間履いても未だに現役で、本当にしっかりした作りだということをしみじみと感じています。最近「ユニオンワークス」でオールソール交換をお願いしたのですが、従来のレザーソールからオークバークレザーのソールに換えたり、ヴィンテージスティールを施すなど、カスタムすることで違いを楽しんでいます。この「11028ラスト」は、履いた時の足の収まりがとても心地良いです。トゥが細くウィズが広いデザインも、スタイルを選ばずどんなスーツにも合わせやすいところが魅力的ですね。

主役にも脇役になる、究極の“バイプレーヤー”。
— 「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。
10足以上持っていますが、クローゼットを見返してみて改めてラインナップの幅広さを感じました。僕が所有しているモデルだけでも、「CAIRNGORM Ⅱ R (ケンゴン Ⅱ R)」のようなカントリーブーツカントリーシューズ、「ALFRED(アルフレッド)」のようなドレス靴シューズ、コンビのローファーみたいなカジュアルなものまで様々です。メーカーさんによって、ジャンルの得意不得意があると思うのですが、「ジョセフ チーニー」のコレクションはどのモデルも履きやすく、スタイリングに合わせやすいのが魅力だと思います。また、数多い英国の靴ブランドの中で、圧倒的に他社とのコラボレーションモデルが多いのではないでしょうか。優れた技術の基盤がしっかりとあり、それを積み重ねてきた伝統があります。それが、多少のアレンジを受け入れられる余裕を生み出すのではないでしょうか。こうした高い柔軟性を備えた「ジョセフ チーニー」を、僕は究極の“バイプレーヤー”だと思っています。これほどバランスの取れたメーカーは、稀有なのではないでしょうか。
スタイリスト
部坂 尚吾さん
1985年生まれ。松竹京都撮影所、テレビ朝日での番組制作を経て、2011年よりスタイリストとして活動をスタート。2015年に、「江東衣裳」を設立する。映画、CM、雑誌、タレントなどのスタイリングから、各種媒体の企画、製作のディレクション、執筆など、マルチに活躍。BRITISH MADEのWEB内「STORIES」にて連載中。現在、スタイリストアシスタントを募集中。
photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda

男の革靴、必要なのは最低3足。
仕事から休日までカバーするにはどう選ぶのが正解?
本格的な製法で作られたレザーシューズは何十年と愛用できますが、適切なお手入れに加えて“履いたら休ませる”ことが大切。靴の寿命を縮めないローテーションのためには、最低3足は必要といわれています。そこで、幅広いデザインバリエーションを誇るジョセフ チーニーのラインナップから、汎用性を考慮して3足をピックアップ。スタイリスト四方章敬さんに、1週間の活用例を提案いただきました。

このラインナップなら、どんなシーンにも対応できる
いずれもジョセフ チーニーの定番モデル。左:オーセンティックなコインローファー「ハドソン」。程よく丸みを帯びつつ現代的なスマートさも感じさせるラスト5203を採用しています。きめ細かい上質なカーフで仕立てることにより、ドレススタイルへの対応力も高い一足。中:カジュアルライン“カントリーコレクション”の人気作「ケンゴン Ⅱ R」。
ミリタリーシューズに由来し、ラストはかつて英国軍にも提供していた4436を使用。さらに「ヴェルトショーン製法」と呼ばれる特殊なグッドイヤー製法で作ることで、雨水や埃が靴内部に入りにくく仕立てたヘビーデューティーなモデルです。右:セミブローグのドレスシューズ「ウィルフレッド」。端正で小ぶりな穴飾りによって装飾性を控えめにし、上品な印象に仕上げています。ラストはドレスシューズの定番125。2011年にブランド創業125周年を記念して誕生した木型で、小ぶりなヒールカップが日本人の足にもマッチします。
この3足を使って、スタイリスト四方さんが1週間コーディネートを提案

[Mon.]シリアスな会議は、スーツと内羽根靴でピリッと締めて。
週始めの月曜はミーティングの連続という方も多いはず。上役を交えた会議などシリアスな場面では、やはりビシッとスーツで臨みたいもの。乱れのない服装は相手に信頼感を与えるだけでなく、自分の立ち居振る舞いにも自信をつけてくれるはずです。そんなドレススタイルに合わせたのは、内羽根式セミブローグの「ウィルフレッド」。
「スーツはドレッシーなネイビーストライプですが、紡毛素材を選んで秋らしい季節感をさりげなく演出しています。ここに合わせる靴は王道のストレートチップでも悪くありませんが、少しだけ装飾性のあるセミブローグがベストマッチ。柔らかなスーツの生地感とあいまって、キリッと引き締まりつつも堅苦しくないビジネススタイルにまとまります。『ウィルフレッド』はラストがトゥボリュームは残しつつも、ウェストの絞りや小ぶりなヒールによりモダンな印象なので、スーツにも合わせやすいですね」(四方さん)

[Tue.] 終日市場リサーチ。外回りは上品かつ快適な足元で
一日中、外を歩き回るアクティブな日。疲れにくい服装でパフォーマンスを上げたいところですが、やはりビジネススタイルとしての上品さはキープすべき。そんなシーンで活躍するのが、ミリタリーシューズ由来の「ケンゴン Ⅱ R」です。締め付け感のない履き心地に加え、頑健なラバーソールにグレインレザーという素材使いにより、靴に気を遣うことなくガシガシ歩けるのもポイント。
「カントリーな表情の靴に合わせて、ツイードジャケットやミドルゲージのニットなど、温かみのある雰囲気でスタイリングしました。『ケンゴン Ⅱ R』はアッパーもソールも重厚で武骨ですが、外羽根式ウイングチップよりもデザインがシンプルなので、ビジネススタイルにも無理なく合わせられますね。コットンパンツを合わせる場合は、クリースの入ったもの選んでカジュアルに見えすぎないようにするとオンの佇まいをキープできます」(四方さん)

[Wed.]ノー残業デーは、カジュアルスーツとローファーで軽快に
社内が揃って早く退勤できるノー残業デー。なかなかスケジュールの合わない同期たちと、ブリティッシュパブで久しぶりに一杯……。そんな日は、リラックス感に加えて多少の華やかさもあると、楽しいムードをさらに盛り上げられることでしょう。
「パブに映える服装ということで、ロイヤルブルーのコットンスーツで軽やかさと華やぎを意識しました。インナーは寛ぎ感と上品さを兼備し、小粋な洒脱さも演出できるハイゲージのタートルニット。とくれば、足元も軽快なローファーが最適です。『ハドソン』はラウンドトウですがポッテリしすぎていないので、このスーツのようにドレスカジュアルな洋服と非常に相性がいいですね。アメリカのローファーとは一味違う、都会的な洗練を感じさせるところが魅力だと思います」(四方さん)

[Thu.]憂鬱な雨の日も、悪天候に強い一足があれば安心
雨天の通勤や外回りはなんとも憂鬱なもの。上半身は傘で守れても、靴底から冷たい水が染みて不快な思いをしたり、せっかくの革靴が泥で傷んでしまったりと、トラブルの種がたくさん。そんな日に「ケンゴン Ⅱ R」が大活躍してくれます。ヴェルトショーン製法とよばれる特殊な仕立てにより、雨水が中に染みにくい作りになっていることに加え、分厚いダブルコマンドソールで悪路も快適に歩くことができます。アッパーも汚れや水気に強いグレインレザーで、雨の中でも気を遣わなくていいのが魅力。
「肌寒い雨の日をイメージして、キルティングコートとコーディネートしました。靴もコートもカントリーテイストなので、全体に統一感が生まれますね。最近はコートもゆったりとしたワイドシルエットのものが主流になっていますが、ボリュームのある『ケンゴン Ⅱ R』はそんなコートと好バランスです」(四方さん)

[Fri.]得意先と会食。セミブローグはジャケパンにも絶好
金曜夜には、長い付き合いのクライアントと食事会へ。気心知れた中なので、カチッとスーツで決める必要はないけれど、場にふさわしいドレス感は欲しい。そんな時はタイドアップしたジャケパンスタイルがちょうどいい具合です。そこに四方さんが合わせたのが、上品なセミブローグ「ウィルフレッド」。
「内羽根式のセミブローグシューズは、スーツにもジャケパンにも合う汎用性の高いデザイン。一足持っておくと重宝するアイテムです。このコーディネートでは、今季トレンドのフレンチを意識してみました。ポイントは黒を効かせること。ジャケット、ニット、ネクタイすべてに黒が入っています。足元の黒靴ともリンクして、トラディショナルだけれどクールな印象に映るのがポイントですね」(四方さん)

[Sat.]土曜は美術館へ。オーバーシャツとローファーできれいめに
美術館など大人な場所で過ごす休日は、服装も品よくきれいめにまとめたいところ。きちんと見えつつジャケットより気軽なオーバーシャツはそんなシーンで活躍するアイテムですが、そこに好相性なのがローファー「ハドソン」です。
「この『ハドソン』は色みもすごく魅力的ですね。少しグレーがかったブラウンで、渋さもありながら柔らかさも感じます。このコーディネートではイエローに近いベージュのコーデュロイパンツと合わせましたが、こういう華やかな色ともきれいに馴染んでくれます。トップスはガンクラブチェックのオーバーシャツにニットポロでトラッドにまとめつつ、スカーフをプラスして大人の洒落っ気を演出してみました」(四方さん)

[Sun.]クルマを飛ばして湖畔へ。大人アウトドアにも「ケンゴン Ⅱ R」が重宝
紅葉を見に湖畔まで日帰り旅行。もちろんスニーカーでもOKですが、より大人なスタイルで休日を満喫するなら、クラシックアウトドアでまとめるのがおすすめです。
「オイルドジャケットにカセンティーノ(イタリア、トスカーナ地方伝統のウール。毛玉のような起毛感が特徴)のプルオーバーといったトラッドなアイテムを活用して、アウドドアでも大人ならではのスタイルを考えました。こういったラギッドな装いにも『ケンゴン Ⅱ R』は似合いますね。履き込んで味を出していくと、さらにいい感じになると思います。オイルドジャケットやデニムと同様、エイジングでいっそう味わいが深まるのもこの靴の魅力だと思います」(四方さん)
英国ノーサンプトン伝統の本格的な作りはもちろん、大人の装いに幅広く対応するクラシックモダンなデザインもブランドの持ち味。四方さんのスタイリングを参考に、あなたのワードローブにも是非取り入れてみてください。
スタイリスト
四方章敬さん
1982年生まれ。武内雅英氏に師事し、2010年に独立。「LEON」「MEN’S EX」「Men’s Precious」「THE RAKE JAPAN」などラグジュアリーメンズ誌で活躍。ドレス、カジュアルともに精通し、クラシックを軸としつつひとひねり効かせたスタイリングに定評あり。
photo Kenichiro Higa text Hiromitsu Kosone