靴磨き系YouTuberの価値観を変えた、ミリタリーシューズ。
靴磨き芸人 奥野 奏

靴磨き系YouTuberの価値観を変えた、ミリタリーシューズ ケンゴン Ⅱ R。 靴磨き芸人 奥野 奏

磨き甲斐のある革質と、男心をくすぐるミリタリーの意匠に惹かれました。
どんなスタイルにもはまり、ガシガシと履ける相棒のような一足です。

路上で行うクラシックなスタイルから、高級志向のカウンター式サロンへと進化を遂げたシューシャイン業界に新たな風。自らが感動した靴磨き体験を広く伝えたいという思いのもと、YouTubeで“日本一分かりやすい靴磨き動画”を配信し、支持を集めているのが靴磨き芸人こと、奥野奏さん。まさに靴磨き業界の“第三世代”とも呼ぶべきスタイルで、若い世代を中心に革靴の魅力を伝え続け、昨年に自身のお店「SHOEBOYS(シューボーイズ)」を池袋にオープンしました。今回は、そんな奥野さんのもとを訪ね、お店でも取り扱っていただいているジョセフ チーニーの魅力や革靴遍歴について語っていただきました。

ジョセフ チーニー 靴磨き芸人 奥野 奏さん

営業時代の原体験が、前人未到の肩書きに繋がる。

— 靴磨きを生業にしようと思ったきっかけを教えてください。

じつは靴磨きに興味を持ち始めたのは、つい5年ほど前なんです。大学を卒業した後、ソフトバンクテレコムという会社に就職し、法人営業を担当していました。営業職なので、当然スーツを着て革靴を履いて外回りをするわけですが、当時は本格的な紳士靴に感心がなく、安価な革靴をボロボロに履き潰しては買い替えるという日々を送っていました。ところがある日のこと、会社の同期に私の革靴を「みっともないから、磨いた方がいい」と言われまして。それを機にはじめて靴を磨いてみたら、傷が隠れるばかりではなくツヤが出てピカピカになったんです。それまでボロボロな状態が標準だったこともあり、本当に感動しました。しかも、綺麗に磨いた革靴を履いていると仕事に臨む気持ちが前向きになり、それが原体験で靴磨きにのめり込んでいくようになりました。その会社を辞めた後に、芸人を志すわけですが、舞台に立つ時は革靴を履いていたので、趣味として靴磨きを続けていました。それをどこかで発信したいと思い立ち、2016年に靴磨きのYouTubeチャンネルを始めたのですが、思いのほか好評でさらにのめり込んでいったという感じです。だからこそ、今は靴磨き芸人と名乗っています(笑)。

靴磨き芸人 奥野 奏さん SHOEBOYS オリジナルシューケアグッズ

靴磨き市場のポテンシャルに懸ける思い。

— 昨年オープンされた「SHOEBOYS」のコンセプトを教えてください。

僕自身、靴磨きのお店へ通っていたこともあるのですが、どちらかと言えばクラシックな雰囲気のショップが多く、とくに革靴ビギナーのうちは入りづらいと思うこともありました。よくお声をいただくのですが、たとえば「ドクターマーチンを持って行っても大丈夫なのかな」など、革靴初心者ですと敷居を高く感じてしまうんです。もともとそういった方に靴磨きや革靴の魅力を伝えるための配信を目指していたこともあり、コンセプトを「The Beginning of Shoe Journey」にしました。革靴旅のはじまりの場所として、気軽に利用できる店にしたいという思いを込めています。

靴磨き芸人 奥野 奏さん SHOEBOYS オリジナルシューシャインクリーム

内装にも温かみのある木材をたくさん使い、壁にもオリジナルのステッカーを貼ることで、ストリートカルチャーのイメージを取り入れています。靴磨きの料金も業界の中ではかなりリーズナブルに設定していますし、靴磨きグッズを豊富に取り揃えたり、手に取りやすいグレードの革靴を扱うなど、敷居を下げる工夫をしています。靴磨き店は飲食店とは違い、「ふらっと立ち寄ろう」とはなりづらいと思うので、YouTubeを使って配信をすることで、少しでも「SHOEBOYS」へ行ってみようと思ってもらえたら嬉しいです。じつは靴磨きのチャンネル以外に、料理のサブチャンネルもやっているのですが、それも新たなジャンルから靴磨きに興味を持ってもらいたいと思ったのが出発点なんです(笑)。ゆくゆくは店でワークショップを開いたり、靴磨きを知ってもらう機会をさらに増やしていきたいと思っています。

靴磨き芸人 奥野 奏さんの革靴遍歴

生産国や形よりも、琴線に触れる革靴を蒐集。

— 革靴遍歴を教えてください。

会社員時代は、量販店でスーツとセットで買うような数千円の安い革靴を履いていました。靴磨きに興味を持ってから、人生ではじめて買った本格的な紳士靴はスコッチグレインのストレートチップです。芸人になった記念として、舞台に立つ時には必ず履いていましたので愛用歴は5年ほどです。二足目に手に入れたトリッカーズの「バートン」は、自分の価値観を変えてくれた革靴のひとつです。ネットサーフィンをしていた時に、履き込まれて傷だらけなのにかっこいいこのモデルを見つけ「こんな風に育ててみたい!」と興奮してすぐに買いにいきました。4年ほど育てていますが、あの時見たかっこよさにはまだまだ到達できません(笑)。タフな革質や堅牢な作りなど、英国の伝統的なカントリーシューズの魅力を知ることができた思い出深い一足です。そのほかには、パラブーツの「シャンボード」やオールデンの「987」なども持っています。あまり生産国や形にはこだわらずに、まだまだ好きなものや履いてみたいものを集めている段階です。全部で20足くらいは所有していますが、その日の気分やスタイルによって選ぶのを楽しんでいます。

ジョセフ チーニー 靴磨き芸人 奥野 奏さん ケンゴン Ⅱ R バーガンディ着用

背景とモノづくりの良さにこだわり、長く愛用できる相棒を見つける。

— 革靴を選ぶ際に、どのような視点を大切にしていますか?

英国靴に触れたのがきっかけなのですが、単にデザインだけで選ぶのではなく、ブランドやモノづくりなどの背景にも憧れるようになりました。たとえば、深い歴史があるとか、ベンチメイドで一人の職人さんの手によって作られているとか、木型によってフィッティングが変わってくるとか……。だからこそ、革靴を購入する時には、ブランドサイトを徹底的に読み込むようにしています。その上で、革質や作りの良さをチェックします。個人的に革靴で一番楽しいのは、履きこむことで革靴どんどん育っていくということだと思っています。その過程に履いた靴をねぎらう靴磨きがあり、磨いてからまた履くことで自分の相棒がさらにかっこよく育っていることを実感できるんですよね。そして、それによって持ち主である自分自身も気分を上げることができるというのが、良い革靴の魅力だと思います。

ジョセフ チーニー 靴磨き芸人 奥野 奏さん SHOEBOYS ディスプレイ

英国靴の質実剛健さを体現するブランド。

— ジョセフ チーニーとの出会いを教えてください。

セレクトショップで取り扱われていることは知っていたのですが、恥ずかしながら詳しく知ったのは、約2年前です。コレクションを見たり、背景を知ることで、モノづくりの深い歴史があり、英国靴らしい伝統的なグッドイヤー製法を受け継いでいたり、時代と共に進化をさせてきた木型が数多く存在しているなど、本当に質実剛健という言葉がぴったりなブランドだという印象を持ちました。しかも、作りは本格派にも関わらず、高級紳士靴の中ではそこまで値段が張るというわけではないところにも感動しました。私の店では、革靴初心者の方が手に取りやすい3万円前後で、作りがしっかりとしたものという軸で革靴を取り揃えているのですが、そういった方々の二足目として、また、すでに何足か本格的な革靴をお持ちの方にもお勧めしたいと思い、ジョセフ チーニーを取り扱わせていただきました。最近ではリモートワークが推進され、出社をする方が少なくなったこともあり、トレンドとしてはしっかりとしたドレスシューズよりも、カジュアルよりのモデルの方が人気です。また、すでにビジネスシューズは持っていて、カジュアルなスタイルにも合わせられる革靴が欲しいというお客様が多いので、お店では汎用性の高いカントリーコレクションの「CAIRNGORM Ⅱ R」をセレクトしました。接客の際には、作りの良さやブランドとしての歴史を伝えているのですが、その話を聞いて目をキラキラとさせるお客様も多いです。

ジョセフ チーニー CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)

自分らしくカスタムできる、汎用性の高い一足。

— 奥野さん自身も「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」を愛用されていますが、魅力を教えてください。

ドレスからカジュアルまで、どんなスタイリングにも合わせやすいので重宝しています。そして、タン部分と羽根が繋がっている仕様や、雨の進入を防ぐヴェルトショーン製法、英国軍のシューズに採用されていたというラストなど、随所にミリタリーの意匠が散りばめられているところにも魅力を感じました。靴磨きの視点でとくに感動したのは革質の良さです。2年ほどガシガシ履き込んでいますが変な履きジワは入っていないですし、シボ革で傷が目立ちにくいこともあり、良い意味で遠慮なくエイジングを楽しむことができます。あとは、カジュアルシューズだからこそ好きなようにアレンジができるということでしょうか。はじめは無骨なイメージで履くことも考えたのですが、あえて丸紐を平紐に替え、トゥ部分にポリッシュをかけてドレッシーに履いています。また、退色した表情が好みなので、バーガンディで補色せずにニュートラルのクリームで手入れをしています。長く愛用する中で気分によって印象をカスタムできるという意味でも、履きこむ楽しさを教えてくれる一足だと思います。

靴磨き芸人 奥野 奏さん プロフィール
靴磨き芸人
奥野 奏さん

1990年生まれ。早稲田大学を卒業後、ソフトバンクテレコムに営業職として入社。2014年に退社し、吉本興業の門を叩く。芸人として独立後、いくつかのコンビでの活動を経て、ピン芸人に。2016年より、自身の愛する靴磨きを広めるために、YouTubeチャンネル「靴磨き芸人 奥野の『兎にも角にも靴磨き』」をスタート。“日本一分かりやすい靴磨き動画”が好評を博し、現在では登録者数10万人を超える。2019年には「靴磨き選手権2019」に出場し、準決勝まで進出。2020年にクラウドファンディングで約250万円を集め、池袋に靴磨き&革靴専門店「SHOEBOYS」をオープン。毎週土曜日は自ら店頭に立ち、靴磨きの魅力を伝えている。サブチャンネル「おっくんの宅飲みグルメ」も好評。著書に『史上最強の宅飲みご飯』。

Youtube:靴磨き芸人 奥野の『兎にも角にも靴磨き』

photo Yoko Tagawa text K-suke Matsuda(RECKLESS)

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