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AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY Vol.1
− エイジングにより魅力が増すグレインカーフ −

JOSEPH CHEANEY JOUNAL AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY Vol.1− エイジングにより魅力が増すグレインカーフ −

昨今ではこれまで以上にビジネススタイルのカジュアル化が進行しています。また、リモートワークの推進により出社回数が減っているという方も多く、オフでも活用できる汎用性の高いカジュアルシューズが人気を博しています。

ジョセフ チーニーのコレクションの中では、ミリタリーシューズ「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」やカントリーシューズ「AVON C(エイボン C)」がとくに好評。その流れで「グレインカーフ」を使用した他のモデルも改めて注目されています。この革は表面に大粒のシボがあり、傷や汚れ、水濡れにも強いのが魅力です。また、タフだからこそ末長くエイジングを楽しむことができるという理由で選ぶ方も多いです。

今回はグレインカーフのモデルを所有されている方々から愛靴をお借りし、エイジングサンプルとしてご紹介。十人十色の育て方による、経年変化の個性をお楽しみください。

JOSEPH CHEANEY

BURGUNDY

ワインの名産地、フランスはブルゴーニュ地方がネーミングの出自といわれる「バーガンディ」。赤みがかった茶系色には品があり、実際に英国の軍靴に採用されていた歴史もあります。代表モデルは、ミリタリーシューズ「ケンゴン Ⅱ R」。バーニッシュ加工が施され、色の濃淡がアンティーク感を演出しています。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BURGUNDY CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 1年着用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:1YEAR

「週に4日は履いている」というだけあり、すでに持ち主の足型に沿った履きジワが良い味を演出しています。手入れは一ヶ月に一度、ブラウンのクリームを塗布。幅のある平紐に替えることで、よりカジュアルな印象に。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BURGUNDY CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 3年着用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:3YEARS

手入れはせずにガシガシ履くことにより、グレインカーフの色ムラが強まり、アンティークのような雰囲気を放っている一足。新品状態時よりも暗めの色素が抜けたことで、明るい赤茶色に変化しているのも印象的です。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BURGUNDY CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 5年着用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:5YEARS

週に一日のペースで、大切に履かれてきた一足。四ヶ月に一度、ブラウンのクリームを塗り込んで育てたことで、新品時のプレーンな状態から深みのあるカラーに変身。履きジワやコバの擦れが、味を感じさせてくれます。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BURGUNDY CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 7年着用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:7YEARS

月に一度、バーガンディのクリームを塗布し、さらに二週に一度、ブラックのワックスで磨き上げるというマメなケアで育てられた一足。7年という愛用歴を感じさせないほどレザーの状態が良く、美しい光沢を放ちます。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BURGUNDY PENNINE Ⅱ R(ペナイン) 7年着用

NAME:PENNINE Ⅱ R
YEARS:7YEARS

グレインカーフの雰囲気を存分に味わうことができるミリタリーブーツ「ペナイン Ⅱ R」。ブーツならではのレザーのヤレ感が味を感じさせます。ニュートラルのクリームにより、自然な色ムラ感が出ているのも魅力。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BURGUNDY CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 8年着用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:8YEARS

あえて手入れをせずに、週一日のペースで履き込んだという潔い一足。シボが薄くなり色ムラのあるトゥや、コバのフェード感、大胆な履きジワなどがミリタリーシューズらしい無骨さと男らしさを感じさせてくれます。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BURGUNDY CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 8年着用 ダークブラウンクリーム使用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:8YEARS

元のバーガンディカラーを忘れさせるほど、大きな変身を遂げたシックな雰囲気の一足。その秘訣は、月に一度ダークブラウンのクリームを塗り込むこと。まるで本物のアンティークのような色合いが個性を放ちます。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BURGUNDY CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 29年着用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:29YEARS

29年間、週に数回履き続けているという正真正銘のヴィンテージシューズ。ナチュラルカラーのクリームで月に一度手入れを行うことで、革の状態を良好にキープ。歴史を感じさせる深みのあるカラーに仕上がっています。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BURGUNDY 経年変化まとめ

バーガンディは雰囲気のある色合いだからこそ、年数以上にエイジングを楽しめるカラー。クリームの色選びにこだわり、赤みを強めることやシックなダークブラウンに育てるのはもちろん、過度に手入れをせず、革の変化を楽しんでいるという方も多くいました。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BLACK

BLACK

冠婚葬祭でも使用されるスマートカラー「ブラック」。アスファルト道路やコンクリート造のビルなど、グレーカラーが多い日本の景観と相性が良く、都会的な印象を与えてくれるのが魅力です。写真はサイドゴアブーツの「ブレコン」。20AWより登場した新モデルで、グレインカーフの魅力を存分に味わうことができます。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BLACK PENNINE Ⅱ R(ペナイン) 1年着用

NAME:PENNINE Ⅱ R
YEARS:1YEAR

レースアップブーツらしいレザーのヤレ感が、個性を感じさせる一足。まだまだ愛用歴は浅いものの、季節に一度ニュートラルのクリームを塗布して磨くことで、グレインカーフの表面に自然な光沢が生まれています。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BLACK CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 2年着用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:2YEARS

週に二回のペースで履き込んだ一足。紐やコバのフェード感が、愛用歴以上にアンティーク感のある雰囲気を放ちます。手入れは二ヶ月に一度、ブラックのクリームを塗布することでレザーの色合いに深みを出しています。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BLACK CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 6年着用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:6YEARS

ミリタリーシューズながら、上品な佇まいを感じさせる一足です。ドレスシューズに使われる平紐に替え、トゥに薄くポリッシュをかけることで品のある顔つきに。手入れは、三ヶ月に一度ブラックのクリームを塗布。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BLACK PENNINE Ⅱ R(ペナイン) 7年着用

NAME:PENNINE Ⅱ R
YEARS:7YEARS

季節を問わず、週に一度履き続けているという一足。革のシワやシボの伸びなど、随所に経年変化がありながらも全体的に光沢があり美しい状態を保っています。オリーブグレーの平紐に替えたことで、軽やかな印象に。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY BLACK 経年変化まとめ

ブラックは履く方のライフスタイルに合わせて、カジュアルにもドレスにも履きこなせるカラー。もともとの重厚な印象を生かして無骨に育てるのも素敵ですが、紐を平紐に替えたりポリッシュをかけることで、ドレッシーに履きこなしている方もいました。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY ALMOND

ALMOND

英国には数多くの茶色が存在しますが、ジョセフ チーニーの代表的なカラーとして採用されているのが「アーモンド」。カントリーコレクションと相性が良く、自然に溶け込む爽やかな色合いが魅力です。代表的なモデルは「エイボン C」。グレインカーフにはアンティーク感を演出するバーニッシュ加工が施されています。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY ALMON AVON C(エイボン)

NAME:AVON C
YEARS:0.5YEAR

半年間、週三日履き込んだ一足。まだまだグレインカーフ特有の大粒のシボが綺麗に残っています。手入れは二ヶ月に一回のペースでニュートラルのクリームを塗布。元の濃淡を生かしたシックな表情に仕上がっています。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY ALMOND CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン) 7年着用

NAME:CAIRNGORM Ⅱ R
YEARS:7YEARS

トゥとヒールまわりにはブラックのクリームを塗布し、そのほかのアッパー部分にはブラウンのクリームで手入れをした個性派。濃淡が美しいグラデーションになり、ナチュラルで味のある経年変化を体現している好例です。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY ALMOND AVON C(エイボン) 8年着用

NAME:AVON C
YEARS:8YEARS

手入れをせずにガシガシ履き続けたという一足。もともとのカラーと比較すると、全体的に赤みのある濃いブラウンカラーに育っています。コバのフェード感と相まって、よりアンティーク感を感じさせる顔つきに。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY ALMOND 経年変化まとめ

アーモンドは新品時の色味が薄いということもあり、経年による変化をもっとも強く感じることができるカラー。だからこそクリームのカラーで遊ぶことができるので、たとえば、濃淡をつけてグラデーションにエイジングするなど、幅広く楽しむことができます。

AGING MUSEUM of JOSEPH CHEANEY 希少カラー「マホガニー」

今では希少になったカラー「マホガニー」

ジョセフ チーニーでは、モデルとの相性や時代の変化に合わせて展開色を変えることもあります。たとえば、昨今主流となっているのは「バーガンディ」ですが、それ以前にはいくつかのモデルで「マホガニー」というカラーを展開していました。バーガンディよりも赤みを抑えた明るいブラウンカラーで、現在では「HOWARD R(ハワード R)」というモデルや英国の高級紳士服・アクセサリーブランドである「ドレイクス」とのWネームのモデル等に使われているカラーです。

photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda(RECKLESS)

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靴磨き系YouTuberの価値観を変えた、ミリタリーシューズ。
靴磨き芸人 奥野 奏

靴磨き系YouTuberの価値観を変えた、ミリタリーシューズ ケンゴン Ⅱ R。 靴磨き芸人 奥野 奏

磨き甲斐のある革質と、男心をくすぐるミリタリーの意匠に惹かれました。
どんなスタイルにもはまり、ガシガシと履ける相棒のような一足です。

路上で行うクラシックなスタイルから、高級志向のカウンター式サロンへと進化を遂げたシューシャイン業界に新たな風。自らが感動した靴磨き体験を広く伝えたいという思いのもと、YouTubeで“日本一分かりやすい靴磨き動画”を配信し、支持を集めているのが靴磨き芸人こと、奥野奏さん。まさに靴磨き業界の“第三世代”とも呼ぶべきスタイルで、若い世代を中心に革靴の魅力を伝え続け、昨年に自身のお店「SHOEBOYS(シューボーイズ)」を池袋にオープンしました。今回は、そんな奥野さんのもとを訪ね、お店でも取り扱っていただいているジョセフ チーニーの魅力や革靴遍歴について語っていただきました。

ジョセフ チーニー 靴磨き芸人 奥野 奏さん

営業時代の原体験が、前人未到の肩書きに繋がる。

— 靴磨きを生業にしようと思ったきっかけを教えてください。

じつは靴磨きに興味を持ち始めたのは、つい5年ほど前なんです。大学を卒業した後、ソフトバンクテレコムという会社に就職し、法人営業を担当していました。営業職なので、当然スーツを着て革靴を履いて外回りをするわけですが、当時は本格的な紳士靴に感心がなく、安価な革靴をボロボロに履き潰しては買い替えるという日々を送っていました。ところがある日のこと、会社の同期に私の革靴を「みっともないから、磨いた方がいい」と言われまして。それを機にはじめて靴を磨いてみたら、傷が隠れるばかりではなくツヤが出てピカピカになったんです。それまでボロボロな状態が標準だったこともあり、本当に感動しました。しかも、綺麗に磨いた革靴を履いていると仕事に臨む気持ちが前向きになり、それが原体験で靴磨きにのめり込んでいくようになりました。その会社を辞めた後に、芸人を志すわけですが、舞台に立つ時は革靴を履いていたので、趣味として靴磨きを続けていました。それをどこかで発信したいと思い立ち、2016年に靴磨きのYouTubeチャンネルを始めたのですが、思いのほか好評でさらにのめり込んでいったという感じです。だからこそ、今は靴磨き芸人と名乗っています(笑)。

靴磨き芸人 奥野 奏さん SHOEBOYS オリジナルシューケアグッズ

靴磨き市場のポテンシャルに懸ける思い。

— 昨年オープンされた「SHOEBOYS」のコンセプトを教えてください。

僕自身、靴磨きのお店へ通っていたこともあるのですが、どちらかと言えばクラシックな雰囲気のショップが多く、とくに革靴ビギナーのうちは入りづらいと思うこともありました。よくお声をいただくのですが、たとえば「ドクターマーチンを持って行っても大丈夫なのかな」など、革靴初心者ですと敷居を高く感じてしまうんです。もともとそういった方に靴磨きや革靴の魅力を伝えるための配信を目指していたこともあり、コンセプトを「The Beginning of Shoe Journey」にしました。革靴旅のはじまりの場所として、気軽に利用できる店にしたいという思いを込めています。

靴磨き芸人 奥野 奏さん SHOEBOYS オリジナルシューシャインクリーム

内装にも温かみのある木材をたくさん使い、壁にもオリジナルのステッカーを貼ることで、ストリートカルチャーのイメージを取り入れています。靴磨きの料金も業界の中ではかなりリーズナブルに設定していますし、靴磨きグッズを豊富に取り揃えたり、手に取りやすいグレードの革靴を扱うなど、敷居を下げる工夫をしています。靴磨き店は飲食店とは違い、「ふらっと立ち寄ろう」とはなりづらいと思うので、YouTubeを使って配信をすることで、少しでも「SHOEBOYS」へ行ってみようと思ってもらえたら嬉しいです。じつは靴磨きのチャンネル以外に、料理のサブチャンネルもやっているのですが、それも新たなジャンルから靴磨きに興味を持ってもらいたいと思ったのが出発点なんです(笑)。ゆくゆくは店でワークショップを開いたり、靴磨きを知ってもらう機会をさらに増やしていきたいと思っています。

靴磨き芸人 奥野 奏さんの革靴遍歴

生産国や形よりも、琴線に触れる革靴を蒐集。

— 革靴遍歴を教えてください。

会社員時代は、量販店でスーツとセットで買うような数千円の安い革靴を履いていました。靴磨きに興味を持ってから、人生ではじめて買った本格的な紳士靴はスコッチグレインのストレートチップです。芸人になった記念として、舞台に立つ時には必ず履いていましたので愛用歴は5年ほどです。二足目に手に入れたトリッカーズの「バートン」は、自分の価値観を変えてくれた革靴のひとつです。ネットサーフィンをしていた時に、履き込まれて傷だらけなのにかっこいいこのモデルを見つけ「こんな風に育ててみたい!」と興奮してすぐに買いにいきました。4年ほど育てていますが、あの時見たかっこよさにはまだまだ到達できません(笑)。タフな革質や堅牢な作りなど、英国の伝統的なカントリーシューズの魅力を知ることができた思い出深い一足です。そのほかには、パラブーツの「シャンボード」やオールデンの「987」なども持っています。あまり生産国や形にはこだわらずに、まだまだ好きなものや履いてみたいものを集めている段階です。全部で20足くらいは所有していますが、その日の気分やスタイルによって選ぶのを楽しんでいます。

ジョセフ チーニー 靴磨き芸人 奥野 奏さん ケンゴン Ⅱ R バーガンディ着用

背景とモノづくりの良さにこだわり、長く愛用できる相棒を見つける。

— 革靴を選ぶ際に、どのような視点を大切にしていますか?

英国靴に触れたのがきっかけなのですが、単にデザインだけで選ぶのではなく、ブランドやモノづくりなどの背景にも憧れるようになりました。たとえば、深い歴史があるとか、ベンチメイドで一人の職人さんの手によって作られているとか、木型によってフィッティングが変わってくるとか……。だからこそ、革靴を購入する時には、ブランドサイトを徹底的に読み込むようにしています。その上で、革質や作りの良さをチェックします。個人的に革靴で一番楽しいのは、履きこむことで革靴どんどん育っていくということだと思っています。その過程に履いた靴をねぎらう靴磨きがあり、磨いてからまた履くことで自分の相棒がさらにかっこよく育っていることを実感できるんですよね。そして、それによって持ち主である自分自身も気分を上げることができるというのが、良い革靴の魅力だと思います。

ジョセフ チーニー 靴磨き芸人 奥野 奏さん SHOEBOYS ディスプレイ

英国靴の質実剛健さを体現するブランド。

— ジョセフ チーニーとの出会いを教えてください。

セレクトショップで取り扱われていることは知っていたのですが、恥ずかしながら詳しく知ったのは、約2年前です。コレクションを見たり、背景を知ることで、モノづくりの深い歴史があり、英国靴らしい伝統的なグッドイヤー製法を受け継いでいたり、時代と共に進化をさせてきた木型が数多く存在しているなど、本当に質実剛健という言葉がぴったりなブランドだという印象を持ちました。しかも、作りは本格派にも関わらず、高級紳士靴の中ではそこまで値段が張るというわけではないところにも感動しました。私の店では、革靴初心者の方が手に取りやすい3万円前後で、作りがしっかりとしたものという軸で革靴を取り揃えているのですが、そういった方々の二足目として、また、すでに何足か本格的な革靴をお持ちの方にもお勧めしたいと思い、ジョセフ チーニーを取り扱わせていただきました。最近ではリモートワークが推進され、出社をする方が少なくなったこともあり、トレンドとしてはしっかりとしたドレスシューズよりも、カジュアルよりのモデルの方が人気です。また、すでにビジネスシューズは持っていて、カジュアルなスタイルにも合わせられる革靴が欲しいというお客様が多いので、お店では汎用性の高いカントリーコレクションの「CAIRNGORM Ⅱ R」をセレクトしました。接客の際には、作りの良さやブランドとしての歴史を伝えているのですが、その話を聞いて目をキラキラとさせるお客様も多いです。

ジョセフ チーニー CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)

自分らしくカスタムできる、汎用性の高い一足。

— 奥野さん自身も「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」を愛用されていますが、魅力を教えてください。

ドレスからカジュアルまで、どんなスタイリングにも合わせやすいので重宝しています。そして、タン部分と羽根が繋がっている仕様や、雨の進入を防ぐヴェルトショーン製法、英国軍のシューズに採用されていたというラストなど、随所にミリタリーの意匠が散りばめられているところにも魅力を感じました。靴磨きの視点でとくに感動したのは革質の良さです。2年ほどガシガシ履き込んでいますが変な履きジワは入っていないですし、シボ革で傷が目立ちにくいこともあり、良い意味で遠慮なくエイジングを楽しむことができます。あとは、カジュアルシューズだからこそ好きなようにアレンジができるということでしょうか。はじめは無骨なイメージで履くことも考えたのですが、あえて丸紐を平紐に替え、トゥ部分にポリッシュをかけてドレッシーに履いています。また、退色した表情が好みなので、バーガンディで補色せずにニュートラルのクリームで手入れをしています。長く愛用する中で気分によって印象をカスタムできるという意味でも、履きこむ楽しさを教えてくれる一足だと思います。

靴磨き芸人 奥野 奏さん プロフィール
靴磨き芸人
奥野 奏さん

1990年生まれ。早稲田大学を卒業後、ソフトバンクテレコムに営業職として入社。2014年に退社し、吉本興業の門を叩く。芸人として独立後、いくつかのコンビでの活動を経て、ピン芸人に。2016年より、自身の愛する靴磨きを広めるために、YouTubeチャンネル「靴磨き芸人 奥野の『兎にも角にも靴磨き』」をスタート。“日本一分かりやすい靴磨き動画”が好評を博し、現在では登録者数10万人を超える。2019年には「靴磨き選手権2019」に出場し、準決勝まで進出。2020年にクラウドファンディングで約250万円を集め、池袋に靴磨き&革靴専門店「SHOEBOYS」をオープン。毎週土曜日は自ら店頭に立ち、靴磨きの魅力を伝えている。サブチャンネル「おっくんの宅飲みグルメ」も好評。著書に『史上最強の宅飲みご飯』。

Youtube:靴磨き芸人 奥野の『兎にも角にも靴磨き』

photo Yoko Tagawa text K-suke Matsuda(RECKLESS)

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私なりの英国靴への想い 後編|ファッションジャーナリスト 矢部 克已

私なりの英国靴への想い 後編|ファッションジャーナリスト 矢部 克已

本稿の前編で綴ったクラシックスタイルの達人、シモーネ・リーギさんが履いていたフルブローグの靴に出合う以前、私は、2010年にジョセフ チーニー社のオーナーのひとりである、ジョナサン・チャーチさんとインタビューさせていただいた。『インペリアル・コレクション』という新作ドレスシューズがテーマだったため、「ジョセフ チーニー」のコレクションは、ドレス→カントリー、の順番でブランドの特徴を理解していった。

しかし、日本での一般的な「ジョセフ チーニー」に対するイメージは、カントリーテイストの靴が得意なブランドではないだろうか。『エイボン』や『ケンゴン』といったモデルが、日本で人気なことからもそれが窺い知れる。「ジョセフ チーニー」に求めている靴は、ゆったりとしたカジュアルなファッションに合う、男らしく無骨なカントリーな雰囲気、ということになるのだろうが、本当にそうか。私はそれだけはないと感じている。

ファッションのカジュアル化を経て、
ドレスとカントリーが調和

ジョセフ チーニー ケンゴン ⅱ R ブラック
CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R) BLACK

イタリアの靴に比べれば、保守的なデザインを踏襲する英国の靴。だからこそ、私は、サルトリア仕立てのイタリアのスーツに伝統的なスタイルの英国靴を合わせている。「ジョセフ チーニー」の靴をよく観察すると、英国靴でありながら、案外アグレッシブなところもある、と思っている。それは、このところのメンズファッションの潮流のひとつになっている、ドレスとカジュアルのミックス感が影響しているのかもしれない。

2015年以降のメンズファッションは、“ドレスがカジュアルに近づき、カジュアルがドレスの要素を取り入れる”といった流れが出てきた。たとえば、クラシックなスタイルのスーツでもストレッチ素材を使ったり、伝統的なドレスシャツを仕立てる名門のシャツメーカーが、シャツジャケットをつくる、といった提案が増えた。あるいは、カジュアルなブランドが、仕立て服のような立体裁断を取り入れたジャケットを手掛けたり、カジュアルなシャツにあえて手縫いをアクセントにする、といった展開である。それぞれの、魅力や利点をうまくアレンジして、互いのテイストが接近した。そして、ドレスシューズにも、そんなバランスを狙ったモデルが登場してきた。

ジョセフ チーニー ウィルフレッド
WILFRED(ウィルフレッド) BLACK

あくまでも私見だが、「ジョセフ チーニー」のドレスシューズのなかに、ドレスシューズとしての美しさを目指しながら、カジュアルな表情をミックスしたフォルムのモデルがある。言うなれば、ドレスシューズをエレガントに仕上げるだけではなく、気兼ねせずにガンガンと履ける、カントリーシューズの要素をわずかに備えた一足である。

そのモデルが、ジョセフ チーニー社創業125周年で開発された木型『125』を使った、『アルフレッド』と『ウィルフレッド』だ。丸みのあるトウやウィズのバランスに対して、かかとを小さくした木型は、日本人の足型に沿ったフォルムもつくり出している。ラウンドトウの程よいボリューム感は、ドレスの優雅さにさりげなくカントリーの味わいを加え、実にいまっぽい顔立ち。見方によっては、ミリタリーな佇まいも感じさせる。

ジョセフ チーニー エイボン C
AVON C(エイボン C) ALMOND

ここであらためて、「ジョセフ チーニー」の人気モデル『エイボン』の表情を思い浮かべる。

シュリンクレザーに大きなパーフォレーションのウイングチップや4つの鳩目をデザインした一足は、どこから見てもカントリーシューズの要素を満たしている。また、もう一足の話題のモデル『ケンゴン』は、外羽根のデザインや巧みなヴェルトショーンウェルト製法ゆえ、味のある個性を放つ。もちろん木型こそ違え、トウのボリューム感は何か『アルフレッド』や『ウィルフレッド』に通ずる遺伝子を、私は感じる。

ジョセフ チーニー ケンゴン ⅱ R バーガンディ
CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R) BURGUNDY

ドレスシューズに洗練を求めすぎるのではなく、カントリーシューズに機能ばかりを優先することでもない。それぞれのデザインやディテールの持ち味を、長年の靴づくりで導き出したスタイル。これこそが、現在のドレスシューズにおけるひとつの傾向であり、「ジョセフ チーニー」が狙っているドレスとカントリーの接近ではないだろうか。それが、『アルフレッド』と『ウィルフレッド』のドレスシューズにはある。

もし、私がこのドレスシューズを選ぶ場合、どちらかといえば、アンティーク調に色付けしたブラウンを選びたい。コシのあるネイビーのウール生地で仕立てたスリーピースと抜群に似合うスタイルを想像させるからだ。

ファッションエディター・ジャーナリスト 矢部 克已さん プロフィール
「ウフィツィ・メディア」代表
ファッションエディター・ジャーナリスト
矢部 克已さん

イタリア1年間の在住時に、フィレンツェ、ナポリ、ヴェネツィア、ミラノに移り住み、現地で語学勉強と取材、マンウォッチングを続ける。現在は、雑誌『MEN’S PRECIOUS』でエグゼクティブ・ファッションエディター(Contribute)を務めるほか、『MEN’S EX』『THE RAKE JAPAN』『GQ JAPAN』などの雑誌、新聞、ウェブサイト、FMラジオ、トークショーなどでも活躍。イタリアのクラシックなファッションを中心に、メンズファッション全般、グルメやアートにも精通する。

TwitterID:@katsumiyabe

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私なりの英国靴への想い 前編|ファッションジャーナリスト 矢部 克已

私なりの英国靴への想い 前編|ファッションジャーナリスト 矢部 克已

いまや日本は世界有数の“ドレス靴大国”である。英国を中心に世界各国の“名靴”を集めたセレクトショップをはじめ、靴ブランドのオンリーショップも軒並みそろう。わざわざ現地に行かなくても、十分に素敵な靴に出合える。
振り返れば、その胎動は1980年代半ばといえるだろう。まずアメリカの「オールデン」が脚光を浴び、英国の「チャーチ」や「グレンソン」が日本の地盤を固めていった。その頃、イタリアブランドの靴といえば、「グッチ」のホースビットモカシンや、「サルヴァトーレ フェラガモ」のスリッポンぐらいしか知られていなかったのではないか。レースアップの革靴は、伝統的で保守的な英国のスタイルが主流だった。

ジョセフ チーニー クォーターブローグ フェンチャーチ

’90年代に入って間もなく、ファッションの世界では、“フレンチトラッド”が上陸する。“BCBG”という、パリ上流階級のトラッドを基本にしたスタイルである。靴のブランドでいえば、「ジェイエムウエストン」のシグニチャーローファーを合わせるのが約束だった。
一方で、“フレンチトラッド”ブームの以前から「ジョルジオ アルマーニ」を筆頭とする、イタリアのインポートブランドが日本を席巻していた。マーケットの規模は、“フレンチトラッド”よりもイタリアンブランドのほうが圧倒的に大きかった。靴ブランドでは、ツヤっぽい「チェーザレ パチョッティ」「ピノ ジャルディーニ」「ロレンツォ バンフィ」あたりが注目されていた。私はどちらかといえば、「ジョルジオ アルマーニ」のスタイルに染まったほうなので、ヴァンプの小さいパンプスのような華奢な靴も履いていたころ。いまでは懐かしい思い出である。

“クラシコイタリア”が台頭し、イタリアのクラシックに直面する

Pitti Uomo 92
Pitti Uomo 92の会場風景

バブル崩壊後、日本のメンズファッションに多大な影響を与えたのが、なんといっても“クラシコイタリア”だ。真っ先に“クラシコイタリア”を取り上げたメンズファッション誌は、『メンズEX』。’95年だった。やがてじわじわと、スーツやジャケット、シャツやニットといったイタリアのクラシックなアイテムが広まりはじめる。
そもそも“クラシコイタリア”とは何か。当サイトを閲覧する読者には、当時を知りえない方も多いと思うので、簡単に説明を。
本来“クラシコイタリア”とは、イタリアの各地方に根付く、手技を使ったファッションアイテムを手がけるメーカーを集めた協会の名前である。たとえば、しなやかなスーツを仕立てるナポリの「キートン」、繊細な縫製で極上の着用感を生み出すシャツの「フライ」、レインコートなどのアウターに職人的な手法を持ち込んだ「ヘルノ」といったメーカーなど、’86年の発足時に16ブランドが集まった。設立された理由は3つある。
まず、ハイクオリティの製品づくりを行い、男たちに上質な製品を身に着けてもらうこと。第2に、ものづくりに必要不可欠な技術の継承。つまり、巧みな手仕事の伝授だ。第3は、受け継がれてきたイタリアのクラシックエレガンスを後世にも残すこと。世界最大級のメンズファッションの展示会、ピッティ・ウォモのメイン会場の、それも最上階の一番奥に、加盟ブランドを集めた“クラシコイタリア”のブースを設けた。

ファッションエディター・ジャーナリスト 矢部 克巳さん

私がはじめて“クラシコイタリア”のブースを取材したのは、‘90年代後半。いまも忘れられない第一印象が、加盟ブランドの各スタッフの装い。流れるようなシルエットが際立つ上質なスーツを着たミラネーゼや、色鮮やかなジャケット&パンツのタイドアップスタイルできめたナポレターノのエレガントな着こなし。本来、愛想のいいイタリア人なのに、近寄りがたいスノッブな雰囲気が漂い、まったく隙がない。「これが実物の“クラシコイタリア”か」と、ため息が出たものだ。スーツに合わせていた多くの靴は、「チャーチ」や「エドワード グリーン」のレースアップ。あるいは「ジョンロブ」。イタリアの靴では、ほとんどが「ストール マンテラッシ」だった。靴の色は、黒ではなくブラウン。つまり、随所にハンドワークを活かした味のあるイタリアのスーツに合わせていた靴は、英国もので、ブラウンが鉄則だった。
 これを見たとき、私は強烈なショックを受けた。以来、クラシックなスーツに英国靴を合わせるのが、私の“スタイルの形”となった。サルトリアでオーダーした手縫いのスーツの味わいと、英国の堅牢な靴が実によく似合うのである。

伝統のドレスシューズからカントリーテイストの靴へ

ジョセフ チーニー エイボン C

クラシックなスタイルに変化をもたらしたのは、カジュアル化の波だった。2010年代に差し掛かる頃には、スーツやジャケットは、これまでの優雅なクラシックスタイルから、タイトなラインに変化した。伝統的な生地だけではなく、ストレッチ素材も使い、より軽快な仕立てで、カジュアルな表情になっていった。レースアップの靴も、内羽根から外羽根へ、プレーンのキャップトウからセミブローグやフルブローグなどの、カントリーなデザインが目につきはじめた。素材は、シュリンクレザーやスエードといった革が目立ってきたのだ。
 このスタイルの変化をとらえ、クラシックなスーツスタイルに独特なカジュアルの要素を見事にコーディネートしたのが、シモーネ・リーギさんである。リーギさんとは、当時フィレンツェで“フラージ”というセレクトショップのオーナー。それ以前は、“タイユアタイ”の創業者、フランコ・ミヌッチさんの右腕として働いていた、飛び抜けたセンスの持ち主。その着こなしは、いつもファッションブロガーたちに狙われていたほどだ。

ジョセフ チーニー エイボン Cを着用するリーギさん

2010年代の半ば、私がショップに立ち寄ると、ゆったりとしたシルエットの“フラージ”のスーツに、フルブローグの靴を合わせていたリーギさん。なんとも味わい深いスタイルに目を留めた。少し太めのパンツと重厚感のあるストームウェルトを施したフルブローグの靴が、絶妙なバランスを保ち、着こなしの妙味をまざまざと見せつけたのである。しかも、元々ブラウンの靴に、あえて黒のクリームを塗り重ねた、アンティークな色彩のグラデーションでオリジナル感を表現。さすが、フィレンツェを代表するクラシックの達人。カントリージェントルマンをリーギさん流に解釈した、クラシックモダンなスタイルは、“粋の極致”だった。

しかし、いま、あらためてリーギさんの写真を見ると、靴のデザインは5つのアイレットで、内羽根のデザイン。当時、リーギさんは、はっきりと靴は「ジョセフ チーニー」の『エイボンC』と私に言っていたが、勘違いして他のブランドの靴を履いていたのかもしれない。リーギさんのスナップ写真を見せてもらうと、確かに『エイボンC』の靴を愛用していた。
いずれにしても、リーギさんのドレッシーなスーツにカントリーな靴を合わせる着こなしは、その後、私のお手本となった“革命的なスーツスタイル”である。

ファッションエディター・ジャーナリスト 矢部 克已さん プロフィール
「ウフィツィ・メディア」代表
ファッションエディター・ジャーナリスト
矢部 克已さん

イタリア1年間の在住時に、フィレンツェ、ナポリ、ヴェネツィア、ミラノに移り住み、現地で語学勉強と取材、マンウォッチングを続ける。現在は、雑誌『MEN’S PRECIOUS』でエグゼクティブ・ファッションエディター(Contribute)を務めるほか、『MEN’S EX』『THE RAKE JAPAN』『GQ JAPAN』などの雑誌、新聞、ウェブサイト、FMラジオ、トークショーなどでも活躍。イタリアのクラシックなファッションを中心に、メンズファッション全般、グルメやアートにも精通する。

TwitterID:@katsumiyabe

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すべての革靴を愛する方に贈る、革靴にまつわる“知る・探す・履く”

すべての革靴を愛する方に贈る、革靴にまつわる“知る・探す・履く”

すべての革靴を愛する方に贈る、革靴にまつわる“知る・探す・履く”

「ジョセフ チーニー」に寄せられるさまざまな質問を厳選し、革靴にまつわるお悩みを解決するための知識と知恵をご紹介します。ビギナーの方でも、たくさん靴を愛でてきた方でも“次の一足は…”と考える時間はきっと心躍るのではないでしょうか。代表的な型を理解して、数多のデザインからご自身のスタイルとライフスタイルに合った一足を手に入れる…。ビジネスシーンなのか、プライベートなのか使用するシチュエーションを考えながら、改めて「知る」「探す」「履く」と3つの工程ごとに分かれたQ&Aをご覧ください。

革靴を知る

【革靴を知る】

ひとえに革靴と言っても、そのデザインにはさまざまな種類があります。まずは代表的なモデルとその特性を理解し、革靴を構成する重要なパーツであるアッパーやソールの特徴と機能について知りましょう。


Q: 代表的な革靴の種類は?

革靴のデザインを大別すると5つのカテゴリーに分けることができます。

①レースアップ・シューズ
ハトメに通した靴紐で、フィット感を調整できるデザインです。イギリス王室をルーツに持ち、「オックスフォード」と呼ばれるフォーマルな「内羽根式」と、軍靴をルーツに持ち、「ダービー」と呼ばれる「外羽根式」があります。

②ストラップ・シューズ
ベルト状のバックルとストラップの開閉により、フィット感を調整できるデザインです。とくに代表的なモデルとして、ヨーロッパのアルプス地方の修道士が履いていたサンダルを原型とする「モンクストラップ」があります。

③エラスティック・シューズ
履き口の前か脇に、伸縮性のあるゴム布地「エラスティック」を縫い付けることで、着脱を楽にしたデザインです。1830年代のイギリスで生まれた「チェルシーブーツ」が起源だと言われています。

④スリッポンシューズ
シューレースやストラップなどのパーツが付属せず、靴の形状だけで足を固定するスタイルのデザインです。代表的なモデルは「ローファー」です。

⑤ブーツ
くるぶしを覆う高さのあるデザインの総称です。一般的なシューズ「短靴」とは丈で区別され、①では「チャッカブーツ」、②では「ジョッパーブーツ」、③では「サイドゴアブーツ」などが、このカテゴリーに含まれます。


Q:トゥのデザインはどんなものがある?

トゥのデザインはどんなものがある?

トゥ(つま先部分)のデザインは、5つに大別することができます。

①プレーン・トゥ
つま先や縫い目に装飾が施されていないシンプルなもの。内羽根式のレースアップ・シューズであれば、礼装にも活用できます。

②キャップトゥ(ストレートチップ)
つま先に一文字状のステッチングを施したもの。ビジネスシューズとして人気の高いデザインです。

③エプロンフロント(Uチップ)
甲からつま先にかけてU字状の「モカシン縫い」を施し、印象的なステッチが特徴。狩猟やゴルフなど、野外スポーツ用が出自のため、ややカジュアルな印象です。

④セミブローグ(メダリオンチップ)
つま先に「ブローキング」と呼ばれる穴飾りが一文字状に施されており、さらに花状の穴飾り「メダリオン」がついているもの。礼装以外で幅広く使うことができます。

⑤フルブローグ(ウイングチップ)
つま先のブローキングがW文字状に施されており、セミブローグ以上に華やかな印象を演出。内羽根式であれば、スーツスタイルにも合わせることができます。


Q:ジョセフ チーニーの代表的なモデルは?

「ALFRED(アルフレッド)」
クラシックな顔つきで、日本人の足型に合いやすいドレスシューズ。125コレクションのキャップトゥ(ストレートチップ)モデル・アルフレッド。

「WILFRED(ウィルフレッド)」
125コレクションの中で、アルフレッドと対をなす代表的なセミブローグモデル・ウィルフレッド。

「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」
ジョセフ チーニーの質実剛健なものづくりを体感できる、カントリーコレクションの代表モデル・ケンゴン Ⅱ R。


Q:アッパーの素材には種類がある?

カーフレザー
生後6か月位までの以内の仔牛の原皮を用いた革のこと。傷が少なく、きめ細やかなのが特徴です。ジョセフ チーニーでは主に、ドイツの名門タンナー・ウィンハイマー社の高品質なカーフレザーを使用しています。

スムースレザー
ビジネスシューズに使われているレザーとして定番の、なめらかな表面の革。組織が細かく、丈夫で柔軟性にも優れた「銀付き革」と、加工を施して原皮のシワなどを綺麗にした「ガラスレザー」に大別されます。

型押し
独特の模様=シボが表面に出ているレザー。傷がついても目立ちにくいため、ビジネスとカジュアル兼用の革靴に向いています。ジョセフ チーニーで使用している「グレインカーフ」は、大粒のシボがあり、傷や汚れ、水濡れに強いのが特徴です。

スエード
原皮の裏面を起毛させて、アッパーに使えるように仕上げたレザー。やわらかで温かみのある質感が特徴です。型押しよりもカジュアルな印象のため、ビジネスシューズには向かない一方で、オフにスタイルの幅を広げる一足として重宝します。


Q:ソールの特徴を教えてほしい。

ジョセフ チーニーで扱っている代表的なソールは主に3種類。またソールの厚みには2つの種類があります。

レザーソール
分厚い牛革を積み重ねて作る、アウトソールの元祖です。適度なしなやかさとクッション性があり、通気性と耐熱性に優れているのが特徴です。天然繊維であるレザーを使用しているため、使い込むことで生まれる味わいや風合いの変化を楽しむことができます。

ダイナイトソール
合成ラバーを用いた、イギリスを代表するソールの一つです。雨に強いため、雨用ドレスシューズのアウトソールにも最適。グリップ力に優れた凹凸は、側面から見えにくいため内羽根式のようなドレスシューズに付けても、雰囲気を損なわないのが魅力です。

コマンドソール
軍靴などに使用された、無骨な印象のソール。タイヤのように深く刻まれたトレッドパターンにより、山道や岩場のような路面でも安定した歩行をすることができます。

シングルソール
アウトソール一枚で構成されているシンプルなもの。足なじみが早く、ソール本来の感触を体感することができます。

ダブルソール
アウトソールとインソールの間に、ミッドソールと呼ばれる革底をもう一層敷き詰める二重構造の仕様です。ソールが分厚くなる分だけ、より頑丈になります。

革靴を探す

【革靴を探す】

革靴を探す際のポイントは、自分のライフスタイルに合わせて、TPOにあったものを見つけること。そうすれば、きっとあなたに相応しい一足に出会うことができるはずです。


Q:ビジネススタイルと相性の良い革靴は?

ビジネススタイルと相性の良い革靴は?

ビジネスシューズの定番と言えば、やはり黒のキャップトゥ(ストレートチップ)です。ジョセフ チーニーでは、「ALFRED(アルフレッド)」や「LIME(ライム)」などのモデルがそれにあたります。また、スーツスタイル以外にブレザーなどのジャケパンスタイルが多い方であれば、華やかな印象のあるセミブローグモデル「WILFRED(ウィルフレッド)」もおすすめです。

ビジネススタイルと相性の良いコレクションを、こちらの記事で比較していますので、ぜひご覧ください。


Q:冠婚葬祭にふさわしい革靴は?

冠婚葬祭時、もっともオールマイティに使えるのは黒の内羽根式キャップトゥ(ストレートチップ)モデル。ジョセフ チーニーでは、「ALFRED(アルフレッド)」「LIME(ライム)」がおすすめです。


Q:雨の日にも履ける革靴は?

雨の日にも履ける革靴は?

カントリーコレクションのモデルがおすすめです。アッパーのレザーには、大粒のシボで傷や汚れ、水濡れにも強い「グレインカーフ」を使用。アウトソールには、雨天時の荒れた路面に強いコマンドソールを採用しています。

とくに「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」は、タン部分の羽根を縫い付けることで小石や水が入りにくい上に、雨の侵入を防ぐ構造の「ヴェルトショーンウェルト仕様」を取り入れています。


Q:サイズ選びで重要なポイントは?

革靴のサイジングは大切。サイズ選びを誤ってしまうと、疲れが溜まりやすくなってしまい、ひどくなると痛みが起こってしまいます。足の形は人それぞれ異なるため、下記を踏まえてショップスタッフに相談しながら、しっかりとフィッティングを選びましょう。

①足がもっともむくむ時間を知る。
人間の足は重力の影響で、夕方になると水分や老廃物が溜まりやすいと言われています。個人差はありますが、足がむくんで膨張する時間帯は誰にでもありますので、そのタイミングで革靴を購入する方がより疲れにくい一足を選ぶことができます。

②複数のサイズを試着してみる。
実際に試着する際には、面倒でも必ず複数のサイズを試してみるように心がけましょう。自分の適正だと思っているサイズのハーフサイズ上のものから順に、ハーフサイズずつ下げて履き比べ、ベストなフィッティングのものを選んだ方が、より正確なサイズの一足に出会うことができます。

革靴を履く

【革靴を履く】

革靴は購入して終わりではなく、履いて育てるのを楽しむことができるプロダクトです。ここでは、大切な革靴を長く愛用するための手入れ方法や、メンテナンス道具などをご紹介していきます。


Q:プレメンテってなに?

革靴を新品で購入した際に、履き下ろす前に行うメンテナンス。海外からの輸送や、保存時に革の水分や油が抜けてしまうと、固くて傷つきやすくなってしまいます。そのため、一度残っている古い油分等を取り除き、改めて塗り直すプレメンテが必要になります。この一手間により革に柔らかさが戻り、さらにワックスで磨いて表面をコーティングすれば、傷をつきにくくすることができます。自分で、また購入したお店にお願いするのも良いですが、靴磨きの店でプロにケアしてもらうのもおすすめです。


Q:シューホーンはなぜ必要?

革靴には基本的にかかと部分に芯が入っています。それにより、フィット感が高まり、靴の形も綺麗に保たれています。この芯の変形・破損を防ぎ、長く、美しく革靴を履き続けるために、必ずシューホーンを使用しましょう。また、十分に靴紐をゆるめてから着脱を行うのも大事です。


Q:簡単にできる手入れ方法を知りたい。

手入れの目的は、革靴から汚れを取り除き、革の内部に水分や油分を適度に補給し、柔軟で潤いのある良いコンディションを保つことです。月に一度程度のペースで行う簡単な手入れとして、片足につき保湿クリームを米粒3つ程度布に取り、靴の数カ所に置いてから、靴全体に広げて乾拭きするのがおすすめです。これだけでも革に潤いを戻すことができます。


Q:シワが気になる場合は?

シワが気になる場合は?

履きジワは、靴を履くうえで必ず生じるもの。深くついたシワが悪化すると、その部分のレザーが破損する可能性があります。残念ながら、ついてしまったシワは完璧に修復することはできませんが、手入れを通じて悪化を最小限にし、逆に味として楽しむことはできます。また、靴を長く良い状態で履き続けるためには革靴の木型にあったシューキーパーが欠かせません。ジョセフ チーニーでは純正のシューキーパーをご用意し、125ラストのモデルには専用のシューキーパーも展開しています。


Q:革靴はどのように保管するべき?

帰宅後、まずは靴紐をほどいてホールドされた状態を開放しましょう。靴についた汚れは、放っておくとさらなる汚れが積み重なってしまうので、その日のうちに軽いブラッシングをして表面の汚れを落とした方が良いです。また、同じ靴はできるかぎり2日連続で履くのを避け、履かない時にはシューキーパーを入れて履きジワを伸ばし、ソールの反りを戻しましょう。靴棚は湿気が溜まりやすいので、カビが発生するのを防ぐために、定期的な換気や吸湿剤を入れるなどのケアが必要です。


Q:リペアが必要になったら?

リペアが必要になった場合は、日本総代理店の渡辺産業にお送りいただくか、直営店の「BRITISH MADE」にお持ち下さい。

詳しくはこちらをご覧ください。


【番外編】

Q:ジョセフ チーニーの革靴が一番揃うお店は?

ジョセフ チーニーの総代理店である渡辺産業の直営店「BRITISH MADE」では、国内最多のラインナップをご覧いただくことができます。

全国の取扱店についてはこちらでご確認ください。


Q:オンラインストアはありますか?

「BRITISH MADE」のオンラインストアはこちらです。

ジョセフ チーニーの総代理店である渡辺産業の直営店「BRITISH MADE」では、国内最多のラインナップをご覧いただくことができます。

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服飾ジャーナリストが米国で出会った、英国靴デビューの原体験。 服飾ジャーナリスト 飯野 高広

革靴は自分だけの一足に育てていく過程が楽しい。
その要望に応えてくれるのが英国靴の魅力だと思います。

服飾専門学校で教鞭を振るい、さまざまなメディアへの寄稿を通じて、紳士靴やスーツなど、男性の服飾品の歴史と魅力を伝え続けている飯野高広さん。服飾ジャーナリストという肩書きの通り、長年ファッションの文化や流行を研究してきた生き字引的な存在です。そんな飯野さんが誇る170足以上の革靴コレクションの中に、英国靴の魅力にのめり込む原体験となった「ジョセフ チーニー」がありました。今回はそのエピソードとともに、革靴遍歴や英国靴の面白さについて語っていただきました。

飯野 高広

ファッションの興味や考え方をデザインする仕事。

— 服飾ジャーナリストとしての活動について教えてください。

服飾専門学校の講師業を主軸に、『ミューゼオ・スクエア』さんなどのメディアに企画を提案したり記事を寄稿しています。学校では、モッズやヒッピー文化のようなファッションの歴史についての講義をしていますが、自分の役目は服飾の敷居を下げて興味の入り口をつくることだと思っています。当たり前ですが、生徒さんと自分の世代ではファッションに関する受容の仕方が違います。私たちの若い頃はブランドに対して妄信的になっていましたが、若い世代はブランドをリスペクトする一方で客観的な視点を持っています。だからこそ、「洋服はこう着なさい」と押し付けがましく伝えるのではなく、「こういう世界もあるんだよ」と、好きなファッションについて別の視点で考えたり、興味を持つきっかけを与えることが大事だと思っています。かれこれ15年ほど教壇に立っていますが、どの年度の生徒さんも触れている文化や考え方がそれぞれ違うんですよね。そういうことを皮膚感覚で感じられるのは、私にとっても有意義です。自分とは違う感覚に触れるのを億劫にしないというのは、とても大切なことじゃないですか。だからこそ、生徒さんたちにもよく「私の授業は漢方薬だ」と言っているんですよ(笑)。即効性はないけど、後で効いてきて、5年、10年が経った後に、ファッションを振り返るポイントになればうれしいです。

時計

革靴にはレディメイドの存在意義を感じるプロダクトが多い。

— 普段どのような基準でモノを購入されていますか?

洋服に関してはオーダーメイドとヴィンテージを買うことが主になりました。ただ既製品が全然ダメだということではなく、今でも気に入ったモノがあれば買うようにしています。そういう意味では、革靴はビスポークだけでなく、まだまだレディメイドのモノを買うという感覚が強いかもしれません。私は20代の頃から高価なモノやスタンプラリー的に有名ブランドを買うということはありませんでした。それよりも、「何年つき合っていけるかな」ということを主眼に置いていました。だからこそ、今でも変わっていませんが、買う前に徹底的にモノのことを調べています。たとえば、「こういうスタイルの革靴を買うならどのブランドが良い」とか、「自分の身体のバランスを考えるとこういうモデルが良さそう」とか。そこに妥協しないことで、そのブランドしか作れない唯一無二のモデルや、自分の中の永久定番となるモノに出会うことができます。そういうモノに出会えなければ必然的にオーダーメイドになるわけですが、とくに革靴にはまだまだレディメイドの存在意義を感じるプロダクトが多い印象です。その結果、似たようなブランドのモノばかりそろえてしまうのですが(笑)。

自分のスタンダードになるモデルは、黒と茶のペアでそろえる。

— 革靴遍歴を教えてください。

一番初めに自分のお金で購入したのは、月並みですが「リーガル」のローファーです。学生の時に履いていたものですが、今でも大切に持っていますよ。それから日本やアメリカで作られた革靴を履くようになり、次第に英国靴や他の国の靴へと興味が広がっていきました。デザインはバラバラですが、一つルールを決めていて、自分の永久定番になるモデルに関しては黒と茶のペアでそろえるようにしています。たとえば、内羽根のパンチドキャップトゥはエドワードグリーンの「バークレー」、内羽根のフルブローグは今回持ってきたジョセフ チーニーと、旧チャーチの「チェットウィンド」、外羽根のプレーントゥはチャーチの「シャノン」とオールデンの「990」「9901」など、挙げたらキリがないですね。スタンダードの条件は、時代に左右されないデザインで、なおかつ履きながら自分だけの一足に育ってくれるモノです。ユーズドの革靴もスタンダードだと思ったら、ペアにしないと気が済まなくなってしまい、気づけば170足以上のコレクションになっていました。「棺桶に入れてくれ」なんてことを言うつもりはないので、いつか寄贈することになるかもしれないですね。20世紀の終わりから21世紀にかけて、こんな靴を履いて世の中を歩いている人がいたと後世に伝えていけたら良いなと……(笑)。

英国靴デビューの原体験となった別注モデル。

— 本日お持ちいただいたジョセフ チーニーとの出会いについて教えてください。

ジョセフ チーニーというブランドを初めて知ったのは大学生の頃でした。就職後にイギリスへ旅行した時、確かバーリントン・アーケードにあった直営店みたいな小さなお店を見つけて、いかにも英国靴らしい顔つきに惹かれたのですが、当時は「20代半ばで履いてもいいのか」という葛藤があったので、カタログをもらって帰りの飛行機の中で眺めて憧れているだけで終わってしまったんです。ところが、1999年か2000年くらいにニューヨークの「J.PRESS」を訪れた際に、別注の内羽根フルブローグと出会い、思わず黒と茶の二足を買ってしまいました。ラストは現在も使われているクラシックな「175ラスト」で、他にも外羽根のプレーントゥや内羽根のストレートチップもあって、正直に言えば全モデル欲しかったんですが、自分の中でもっとも英国靴らしいイメージに近いこのモデルだけを手に入れることで折り合いをつけました。いつもなら宅配便で郵送してもらうのですが、その時は重量オーバーになることを覚悟して自分で担いで持って帰りましたよ(笑)。そして、それ以来英国靴にのめり込んでいくようになりました。運が良かったと思うのは、英国靴デビューのきっかけが、当時の日本で10万円近くしたいわゆる高級靴と呼ばれるモノではなくて、質実剛健で履く人を引き立てるこの靴だったということです。だからこそ、20年が経った今でも変わらず大切に履いています。

“蓄積の美”を地で行く、英国らしい価値観を体現するブランド。

— この20年でジョセフ チーニーというブランドの印象は変わりましたか?

その当時もまったく悪い印象がなかったですが、おべっかを使うわけではなく、私の中で一番評価が上がったブランドです。自分の核となるポリシーを保ったまま、きちんと変わるべきところをブラッシュアップしていますよね。「イギリスの靴だよ」という文法を守りながら、シティコレクションのような現代的なアプローチがあり、その一方で「ケンゴン Ⅱ R」のような質実剛健の魂を感じるモデルもあります。英国プロダクトには創造の美よりも、“蓄積の美”という価値観が反映されていると思うんです。たとえばなぜ二階建てバスがあるのかと言えば、過去から引き継いだだけなんですよ。それは逆に言えば、変える必要がないくらい良いということですよね。いわゆる紳士靴と呼ばれる領域でも、ブローグやキャップトゥのデザインは、英国のモノという価値をこえて世界標準になっているじゃないですか。変わる必要のない良さを蓄積して磨いているからこそ、変わるべきところはいとも簡単にアップデートすることができる。イギリスには、そういう価値観を感じさせてくれるメーカーが多い印象です。ジョセフ チーニーは、まさにそれを地で行くブランドの一つだと思います。

自分だけの一足を、自分で完成させる楽しみ。

— 飯野さんの思う、英国靴の面白さとはなんでしょうか?

「革靴は自分で完成するものだよ」と言われているような、独特の“ほっといてくれる感”が私は好きです(笑)。たとえば、色で言うとコンカーという茶系のカラーがありますが、薄い色のクリームを塗ればミディアムブラウンに収まりますし、濃い色のクリームであればダークブラウンになりますよね。完成されたモノを買ってただ履くだけではなく、自分で料理できるというのは楽しいじゃないですか。家具のように日曜大工をしてへんてこな仕上がりになってしまっても味になりますし、そういう器の大きさはとても英国的だなと思います。私は職業柄、靴のクリームを買って頻繁に反応をチェックしているのですが、とりわけ質実剛健な英国靴は、それに応えてくれて自分だけの革靴になってくれるモノが多いですね。中には「過保護にしなくてもいいよ俺は」という一足もありますが、でも本日履いているのは、知人から譲り受けて15年以上履いているジョセフ チーニー製のキャップトゥです。この革靴のように、素直な革質のモノは試し甲斐があります。だから、ついモニターとして色やワックスを試してしまいますよね(笑)。そういう経験があってこそ、靴用クリームのピンチヒッターとして「ニベアクリーム」を散布したり、革を柔らかくするために化粧水「極潤α」を使うなんていう裏技も見つけることができます。色々なアプローチで自分だけの一足を完成させられる。そんな楽しみを与えてくれるのは英国靴の魅力だと思います。

服飾ジャーナリスト
飯野 高広さん

1967年生まれ、東京都出身。大学卒業後、大手鉄鋼メーカーに約11年間勤務し、2002年に独立。ビジネスマン経験を生かしたユニークな視点で、紳士靴やスーツなど男性の服飾品にまつわる記事を執筆する服飾ジャーナリストとして活動する。現在は「バンタンデザイン研究所」で講師を務める傍ら、さまざまなメディアに寄稿。「靴磨き選手権大会2020」のアドバイザーも務める。代表的な著書に『紳士靴を嗜む~はじめの一歩から極めるまで~』(朝日新聞出版)など。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda(RECKLESS)

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ジョセフチーニー

テーラーの修行時代の記憶をつなぐ、30年モノの一足。 「BLUE SHEARS」代表/テーラー&カッター 久保田 博

ジョセフチーニー

長い歴史を通じてアップデートを重ねてきた製品には、時にフルオーダーを超えるほどの魅力があります。

英国紳士のスタイルを象徴する高級テーラーが立ち並ぶ、ロンドンのサヴィル・ロウストリート。その一角にある老舗テーラー「ギーブス&ホークス」にて修行を積み、同店初の日本人テーラー&カッターとして独立した久保田博さん。現在は、世田谷区瀬田にある自身のテーラーと、渋谷にある工房を往来し、お客様のためにビスポークスーツを仕立てています。そんな久保田さんにとって、想い出深い一足が修行時代に手に入れた「ジョセフ チーニー」。そのエピソードや革靴遍歴について尋ねました。

「BLUE SHEARS」代表/テーラー&カッター 久保田 博

留学中にサヴィル・ロウに出会い、テーラーの道へ。

— 10代の頃、渡英されたのはなぜですか?

経営を学ぶために留学し、イギリスの大学へ通っていました。レディングという街に住み、週末になると友人と一緒にロンドンへ繰り出していたのですが、そこで出会ったのがサヴィル・ロウ。私が行っていたのは90年代初頭の頃でしたが、当時は黒のボーラーハットをかぶっているようなクラシックなスタイルの紳士が結構歩いていて、とても魅力的な通りでした。また、日本の景気が良かったこともあり、当時は日本人のお客さんもたくさんいました。そういう背景もあり、大学の卒論で「サヴィル・ロウの歴史と経営学」を書くために、「ギーブス&ホークス」という老舗へインタビューを申し込んだ時も、日本人の私に好感を持ってくれて快諾してくれました。そして、その縁で大学卒業後から働かせてもらえることになりました。私は始めに縫製士(テーラー)の仕事をしていたのですが、当時は日本に支店があり、日本人の私を裁断士(カッター)として送り込もうという話が持ち上がりました。その結果、勤めていた6年の間で縫製と裁断の仕事も学ぶことができました。サヴィル・ロウでは分業が基本なので、テーラーとカッターのどちらもできる人というのは珍しいです。そのおかげもあって、帰国してからも技術に困らず、自分のお店を持つことができました。

ビスポークスーツは、お客様との共同作業で生まれる。

— 日本人と英国人のスーツ観に違いはありますか?

イギリスでサヴィル・ロウのテーラーへスーツを作りに来る方というのは、基本的には富裕層です。それ以外の方がスーツを作るということはあまりないですね。そういったこともあってか、ビスポークスーツ=アートという考えの方も多いです。日本ではそういう考えの方は珍しいですが、逆にスーツ自体が好きで、お金を貯めてでも良い一着を仕立てたいという方がいるのが魅力だと思っています。私の店でも、パターンオーダーは1割くらいで、ほとんどのお客様はフルオーダーでスーツを仕立てられています。英国人と日本人では体型が大きく違うので、日本で仕事を始めたばかりの頃は、サヴィル・ロウで学んだ型紙を作るシステムと異なる部分があり、比率などの公式をアップデートするまでに時間がかかりました。ビスポークスーツを仕立てるのは技術が必要ですし、オーダーから完成まで時間のかかる仕事ですが、お客様とのコミュニケーションを通じて、最終的にお互いの納得のいく一着が完成した時の喜びはひとしおです。この技術と気持ちを後世に伝えるべく、アカデミーを設立して縫製士を育てています。いつか生徒たちとも、一緒に仕事をできるようになったら嬉しいと思っています。

イギリスの影響を受け、サッカー愛がさらに強まる。

— オフの時間はどのように過ごされていますか?

「ギーブス&ホークス」で働いていた時はチェルシーに住んでいたので、近くにあったスタジアムへよくサッカー観戦に行っていました。イギリスでは熱狂的なサッカーファンが多く、国際試合に負けた翌日には相手国の人たちと喧嘩が起きるほどの白熱ぶりなんです。そんな影響を受け、私ももともと好きだったサッカーをさらに好きになりました。非公式ですが、自分のテーラーの名前にもチェルシーFCのクラブカラーである「ブルー」を付けています(笑)。今でも休みの日にはJリーグの試合を観にいきますし、チェルシーFCが来日すると必ず試合を観にいきます。また、数年に一回くらいのペースでイギリスへ行っているのですが、その時にも「ギーブス&ホークス」時代の同僚たちと会って、一緒にサッカー観戦を楽しんでいます。残念なのは、イギリスへ住んでいた頃はプレミアリーグのメンバーシップに入っていたので数千円でチケットを買えたのですが、日本で買おうとすると数万円もかかってしまうこと。ただ、その分とても良い息抜きになるのでお金には代えられないですね。

修理をして長く愛用できるのが、英国靴の良さ。

— 革靴遍歴を教えてください。

今は12足ほど革靴を持っていますが、自分のルーツ的にも英国靴が主で、他の国の靴はあまり履かないです。覚えている限りでもっとも古いのは、イギリスで購入した「ジョン シューメーカー」のドレスシューズ。とてもリーズナブルだったこともあり当時はよく履いていました。その後、21歳の頃に「ギーブス&ホークス」で買ったのが「ジョセフ チーニー」製、黒のパンチドキャップトゥです。当時は「ギーブス&ホークス」の革靴を「ジョセフ チーニー」が作っていたんです。足の形に靴底が沈んでいくような感覚を味わうことができた、自分にとって初めての本格的な革靴で、通勤の時には毎日のように履いていましたね。イギリスは街が石畳で革靴のソールがかなり痛むので、何度も修理して大切に履いていました。残念ながら、27歳で帰国する際に、向こうに置いてきてしまったのをとても後悔しています。それから色々な英国靴を試しましたが、個人的に思い入れがあるのがエドワードグリーンの「チェルシー」というストレートチップ。モデル名もさることながら、シンプルで洗練された形が好みで、黒と茶のカーフ、オーストリッチなどを持っています。長く愛用しているのは、どれも歴史がある英国メーカーのもの。伝統的な技術があるからこそ、修理対応がしっかりしていて、壊れても直して長年使えるのが魅力だと思います。

想い出の一足が、いつしか仕事の相棒に。

— 本日履かれている「ジョセフ チーニー」はいつ頃に購入されたものでしょうか。

これは90年代中頃に「ギーブス&ホークス」で購入した「ジョセフ チーニー」製のものです。当時は、黒い革靴ばかり履いていたので、茶系にも挑戦しようと思って手に入れたのですが、結局履く機会を逃してしまい一度も履かずに大切に保管していました。そのおかげもあって、お客様が仕立てたスーツのフィッティングをする際に履いてもらう革靴として、今でも現役で大活躍しています。約30年前のものとは思えないほど、形も洗練されていますし、作りもしっかりしていますよね。インソールには、「ギーブス&ホークス」の昔のロゴも刻印されているので、見る度にサヴィル・ロウでの修行時代のことを思い出すことができる記念品的な一足です。

積み重ねてきた歴史が生み出す、多くの方に愛される逸品。

— 「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。

当時の私は、「ジョセフ チーニー」ブランドの立ち位置などはあまり理解していませんでしたが、老舗の「ギーブス&ホークス」の革靴を手がけているというだけで、十分真面目なモノづくりを真摯に続けてきているメーカーだということは伝わっていました。スーツにおいてもそうなのですが、既製品には既製品ならではの魅力があり、逆にフルオーダーではできないような部分もたくさんあります。たとえば、「ジョセフ チーニー」の革靴は、長い歴史の中でアップデートを積み重ねてきた技術が落とし込まれているからこそ、より多くの方にフィットするような木型を作ることができているのだと思います。これからも、たくさんの方に愛されるようなモノづくりを変わらずに続けて欲しいですね。

「BLUE SHEARS」代表/ヘッドカッター
久保田 博さん

1972年生まれ、東京都出身。10代の時に経営学を学ぶために渡英。卒業後、ロンドンのサヴィル・ロウ通りにある英国王室御用達テーラー『ギーブス&ホークス』にて6年間テーラリングの修行をする。同店初の日本人テーラー&カッターとして独立し、2005年に自身のテーラー「ブルーシアーズ」を世田谷に構える。渋谷青山にある工房ではプロのテーラーを養成する「ブルーシアーズアカデミー」を開講し、後進の育成に取り組む。海外での受注会などにも勤しむ。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda(RECKLESS)

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