カテゴリー: PEOPLE

フォトグラファーの足元を守る、ミリタリーシューズ。 長山 一樹


傷や汚れを気にせずに、何処へでも履いていける革靴。
ロケ撮影の時にも大活躍しています。

ファッションフォトグラファーとしてさまざまな媒体で活躍する長山一樹さんは、その職業には珍しくどんな撮影にもスーツスタイルで臨んでいます。当然、スーツに合う革靴をたくさん所有しており、撮影場所の環境によって適した一足をセレクトしているそうです。そんな長山氏が「ジョセフ チーニー」のラインナップから選んだのは、ブランドを代表するミリタリーシューズ「CAIRNGORM Ⅱ R」でした。今回は、氏の革靴遍歴やお仕事の話とともに、その魅力を伺いました。

仕事以外の活動に、楽しみの幅を広げたかった。

— 昨年、自身初となる個展を開催されていましたが、仕事とやりたいことのバランスはどのようにお考えですか?

フリーランスになってから約10年が経ちますが、毎日違う仕事をやっているはずなのに、求められる答えの出し方に差がないということに気づいてしまったんです。忙しく仕事をできていることには感謝しているのですが、脳みその使い方が偏っているのは良くないと思い、何か仕事以外のことをやりたいと思い立ったんです。それまではテーマが自然と決まらないこともあって二の足を踏んでいましたが、次第に自分の好きなものが構築されてきたこともあって、「こういうことをしたら面白いかも」とイメージが湧いてきました。それが自分の今までやってきたことと辻褄が合ったので、満を辞して、ニューヨークの街角を切り取った「ON THE CORNER NYC」という個展を開催しました。もともとファッションというカルチャーが好きなので、どんな仕事も楽しいんですが、それ以外のところに楽しみの幅を広げてみたかったんですよね。今後は、「ON THE CORNER」というシリーズで色々な国や街を取り上げていきたいと思っています。まだ100%やるとは決めていないのですが、今はインド版をやってみたいと密かに思っています。1950年代にル・コルビジェが都市開発を手がけた「チャンディーガル」という都市へ行って、半世紀がすぎた建造物がどうなっているのか切り取ってみたいですね。

やりたいことがあったら、まずはカタチにしてみるのが大切。

— 写真家さんと言えばアクティブな格好の方が多い印象ですが、長山さんが確固たるスーツスタイルを貫いているのはなぜですか?

一年半くらい前に、やりたいことを紙に書き出してみたんですよ。たとえば、「地球を一周したい」とか、「何々が欲しい」とか。その中に、「スーツを一着仕立てたい」というのがあったので、なんとなく欲しいスーツ像を思い浮かべながらあるお店へ行ってパターンオーダーで仕立てたんです。その出来栄えがかなり良かったというのもあって、スーツを着るのが楽しくなってしまったんですよね(笑)。で、どうせなら毎日着ようと思って以来、このスタイルを貫いています。僕の場合、愛用しているカメラの性質的にも撮影の時にあまり動き回らなくて済むんですよ。時には、座って撮影することもあるくらいです。もちろん、アングルとして欲しい場合は這いつくばって撮ることもありますが、そういう時はアシスタントの子が気を使って床に何かを敷いてくれます。ロケ撮影の時にも、さすがに靴だけは変えていますが基本的にはスーツを着ています。注意しないとダブルに仕上げたパンツの裾に木屑や砂が入っている時があって、帰ってから嫁に怒られますが(笑)。このスタイルにして以来、嬉しいことにドレスクロージングの仕事が増えてきたんです。やはり、やりたいことや好きなことを本気でやっていると周りも呼応してくれるものですよね。

過去から未来を含めて、価値のあるモノを選びたい。

— モノを選ぶ際に大切にしていることはありますか?

カメラがまさにそうなのですが、手間暇をかけて作られていたり、歴史があって長く愛せる本質的なモノが好きですね。たとえば、今日持ってきた二台のカメラはスウェーデンの「ハッセルブラッド」というメーカーのもので、こっち(右)はスタジオマンの時にローンを組んで手に入れて以来15年以上愛用しているものです。これはもともとフィルムカメラなんですが、パーツを付けてデジタルにしているんです。なぜこういうことが成り立つのかと言うと、ブランド自体の歴史とアイデンティティがあって、時代の違うパーツ同士に整合性があるからなんですよね。そういう意味では、過去から未来を含めて価値がありますし、普遍的でありながら進化しているモノづくりというのは素晴らしいですよね。もう一方は、展示のためにニューヨークへ行く際に新調した「H6D」という最新モデルです。このカメラもまだ「H3D」だった頃から気に入っていて、シリーズとしては10年以上愛用しています。

アメリカ靴から始まり、英国靴にたどり着いた。

— 革靴遍歴を教えてください。

革靴への憧れはずっとあって、まだスーツスタイルに目覚める前に初めて「オールデン」のチャッカブーツを買いました。その後、モディファイドラストのプレーントゥやバリーラストのウイングチップも買ったのですが、当時はスーツを着ていなかったのであまり履く機会はなかったですね。今のスーツスタイルになって革靴をよく履くようになってからは、ペニーローファーやタッセルローファーも購入しました。さすがにレザーソールばかりだとロケ撮影の時に履く靴がないので「パラブーツ」も手に入れて愛用していましたが、もっとドレッシーな革靴が欲しいと思うようになり、英国靴に惹かれるようになりましたね。英国靴は、アッパーが上品でもソールがラバーであったり、カジュアルさの中にもドレッシーな要素があるようなシューズが多く、バランスの良いところが魅力だと思ってます。今は20足くらい革靴を持っていますが、基本的にはアメリカ靴と英国靴を履き分けているような感じです。コレクションという考えはまったくないので、どの靴もちゃんと履いて長くつき合っていきたいと思っています。

オフロードに屈せず、ガシガシ履けるタフなシューズ。

— 本日履いている「CAIRNGORM Ⅱ R」はどのような部分に惹かれましたか?

仕事柄、山や海へ行くことも多いので、ロケ撮影時の靴選びは重要なんです。仮に大自然の中へ出かける場合、デリケートな革靴を履いていくわけにはいかないですからね。そういう時に履いていくために、「CAIRNGORM Ⅱ R」を選びました。購入してから早速、樹海での撮影に履いて行ったのですが、ソールのグリップ力も抜群ですし、アッパーがタフなシボ革なので汚れや傷を気にせずガシガシ履くことができました。ドレスシューズだと、大切に履きたいがためにあまり履かなくなってしまったり、手入れにも神経を使わなければいけないんですが、良い意味であまり気にせずに履ける「CAIRNGORM Ⅱ R」はロケ撮影には最高の一足ですね。僕はスーツに合わせていますが、軍パンやチノパンツとの相性も良いですし、ソールが少し汚れているくらいでも逆にかっこいいかもしれないですよね。もともと、本当に気になるまで手入れをしない方なので、何もせずともかっこよさをキープしてくれるこの靴はかなり重宝しています。

ケンゴン

歴史と技術がありながら、新しいことにも挑戦している。

— 「ジョセフ チーニー」にはどのような印象をお持ちですか?

英国のシューメーカーにはライバルが多いですが、他と比べてモダンな要素があるところが好きです。歴史が長い分、変わらずに安定しているシューメーカーさんも良いと思いますが、「ジョセフ チーニー」は歴史と技術というベースがありながらも、そこだけに固執せずに今の時代の空気を取り入れながらアップデートしているという印象があります。僕の愛用しているカメラと同じように、普遍的でありながら進化しているモノづくりをしているところは素晴らしいですよね。それに、革靴を普段履かない人にとって正統派の革靴は価格的にも敷居が高いというイメージがありますが、「ジョセフ チーニー」は本格的なモノづくりにも関わらず、挑戦しやすい価格であるのも魅力だと思います。僕の場合、初めはミリタリーシューズから入ったわけですが、個人的に次は定番のストレートチップやウイングチップのモデルを履いてみたいと思っています。

フォトグラファー
長山 一樹さん

1982年生まれ。神奈川県出身。2001年に株式会社麻布スタジオに入社。その後、2004年に守本勝栄氏に師事する。2007年に独立し「S-14」に所属して以来、さまざまなファッション誌や広告などで活躍する。2018年には、初の個展「ON THE CORNER NYC」を開催。また同年に、自身が長年愛用しているカメラのメーカー「ハッセルブラッド」の、ジャパン・ローカルアンバサダーに就任する。
https://www.ngympicture.com

photo TRYOUT text K-suke Matsuda

ジョセフチーニー

解体することで見える、知られざるモノづくりの意匠。

ジョセフチーニー


シューリペアの雄・ユニオンワークスにより、代表モデルを解体。
「ジョセフ チーニー」の徹底したモノづくりを解明する。

160以上の工程を経て、さまざまなパーツにより生み出されるジョセフ チーニーの革靴。そのこだわりは目に見える部分だけに留まらず、普段は見ることのできない構造や部材にも職人やメーカーの意匠が凝らされています。そこで今回は、シューリペア界の草分けであり、年間に何千足もの革靴修理を手がける「ユニオンワークス」さんに、「ジョセフ チーニー」を代表する2モデル「ALFREAD」と「CAIRNGORM Ⅱ R」の解体を依頼。その工程で感じたモノづくりの良さを、代表の中川氏と工場長の櫻井氏に伺いました。

靴ジョセフ チーニーを代表する2つのマスターピース。

セミブローグ

ALFRED
ストレートチップモデル「ALFRED(アルフレッド)」は、アッパーにはカーフ、ソールにはレザーソールを使用し、木型には「125」を採用しています。このラストは、2011年にブランド125周年を記念して開発されました。細身でヒール部分を小ぶりに設計しており、現代人の足にフィットする構造が特徴です。スマートな表情ながら、バランスの取れた丸みのあるトゥに伝統的なクラシックさを感じる定番モデルです。

CAIRNGORM Ⅱ R
カントリーコレクションのモデルである「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」は、アッパーにキズや汚れに強いグレインレザー、アウトソールにグリップ力と耐久性を兼ね備えたダブルコマンドソールを使用し、タフな作りで好評を博しています。また、木型には英国軍に供給していた実績もある、日本国内で展開している中では最も歴史の深い1969年に制作された「4436」を採用。非常に手間がかかる「ヴェルトショーンウェルト仕様」で作られており、アッパーとウェルトの隙間から雨水が浸入するのを防いでくれるのが魅力です。

今回解体を依頼したユニオンワークスを代表する2人。

中川一康

「ユニオンワークス」代表 中川一康
1965年生まれ。大学卒業後にファッションの道を志し、専門学校に通う。その後、アパレル会社を経て、靴修理の専門企業に就職。29歳で独立し、「ユニオンワークス」を設立する。初めは自宅兼工房でスタートし、現在では、渋谷、青山、銀座など5店舗を運営する。

「ユニオンワークス」工場長 櫻井博喜

「ユニオンワークス」工場長 櫻井博喜
記念すべきスタッフ第一号として「ユニオンワークス」に入社。現在はファクトリーの工場長として勤務し、年間1000足以上の靴修理を手がける。リペア歴20年以上の大ベテラン。

<各パーツの名称>

(左から順に)
1:アッパー
革靴の顔となる部分の革。

2:ライニング
アッパーの補強や足への快適性向上を目的にアッパーの裏側に付ける革。

3:先芯
トゥ周りを立体的に構築し、補強をするために入れる芯材。

4:月型芯
踵部の型崩れ防止とホールド力をアップのために、アッパーとライニングの間に入れる芯材。

5:ヒールソック
クッションの役割を持つインソールの踵部分を覆う薄皮。

6:縫い糸
リブとウェルトのすくい縫いに使われていた糸。各箇所に適切な糸が使われている。

7:ウェルト
アッパーやインソール、アウトソールを縫い付けるために必要な革。

8:インソール
足に接地する中底部分。裏側にはグッドイヤーウェルト製法で必要となるリブ
というパーツが付いている。

9:ミッドソール
インソールとアウトソールの間に入れるもう一枚のソール。
※使用しない場合もあります

10:シャンク
アウトソールとインソールの歪みを防ぐため、土踏まず部分に入れる芯材。

11:コルク
アウトソールとインソールの隙間を埋め、クッション材の役割を果たす。履くほどに足に馴染む。

12:アウトソール
ソールの着地面。ラバーやレザーなどさまざまな素材がある。

13:ヒール
アウトソールの踵部分に付くパーツ。一般的にアウトソールと同素材のものが付く。

英国製の品質を守り続ける数少ないメーカー。

中川:1990年代の半ばから靴修理の業界にいますが、最近は解体してみて「これ、すごいねぇ」と感動する革靴が減った気がします。

櫻井:そうですね。

中川:一概に「MADE IN ENGLAND」と言っても、中には次第に品質が悪くなっているメーカーもあるんですよね。オールソール交換という仕事で革靴を毎日のようにバラしていると、「なんだこれ」と思わざるを得ないほど作りに手を抜いている革靴もまぁまぁ見るんですよ。よくこれで検品を通してきたなと感じることも多々あります。そういう意味では、「ジョセフ チーニー」は良いですよね。バラしてみても、手を抜いている部分がまったくありませんでした。もともと真面目な靴だというイメージがあるよね?

櫻井:ありますね。今回、バラしてみてさらにそう感じました。釘を打つべきところにはしっかり打ってありますし、縫うべきところはきちんと縫ってありましたね。ソールを開いた時に、「綺麗だな」という印象が強かったです。

中川:精緻でマジメに作っているという姿勢が垣間見えますよね。革靴づくりの基本に忠実で、素材にも手を抜かずにきちんと作っている印象です。そういう意味では、価格に対して品質の高い革靴を作っている数少ないメーカーと言っても過言ではないと思います。

ステッチワークから見える技術力の高さ

中川:たとえば、外したウェルトを見ると分かるのですが、白い糸ですくい抜いをしている部分と、黒い点々で見えるアウトステッチのラインが重ならず、綺麗に平行になっています。これは基本で当たり前のことなんですが、今ではできるメーカーさんが少なくなってきているんです。革靴にとって、すくい抜いのステッチは、“心臓部”と言うべき大事な部分なので、ここに後からかけるアウトステッチが重なると、すくい縫いのステッチに触って、切れてしまうこともあるんです。そうなると完全に不良品なんですよね。ところが、こればかりはバラしてみないと分からないんです。

櫻井:「ジョセフ チーニー」の革靴は、ちゃんとアウトステッチがすくい縫いにギリギリ重ならない部分を縫っているので感心しました。現在は、このように縫うことができない英国の工場も多いですからね。すくい抜いのピッチが均等であることからも技術力の高さを感じます。

中川:あと、ウェルトにアウトステッチが縫われているのがちゃんと見えるじゃないですか。僕はこれがすごく好きなんですよ。ウェルトに浅くメスを入れてから縫う手法もありますが、革靴を長く履くことを考えるとあまり良くないんです。

櫻井:メスを入れることでウェルトが裂けやすくなることも多いですからね。新品の時には分からなくても、履き込んだり、革靴が痛んできた時にちぎれやすくなります。

中川:だからこそ、この革靴のようにウェルトにメスを入れずにしっかりアウトステッチが乗っていると安心ができて好きですね。中には、上から見た時にウェルトが張り出していて見える革靴もあるんですが、その方がリスクがなくて簡単なんです。「ジョセフ チーニー」のすごいところは、そこまで張り出しがないのにも関わらず、この仕様を実現できているところですね。

代々受け継がれてきた、妥協を許さないモノづくり。

中川:ソールはどうだった? パラっと剥がれた?

櫻井:どちらのモデルも綺麗に剥がれましたよ。革靴によっては、ソールを剥がした時にコルクが全部くっついてしまうモノもあるんですよ。

中川:昔の英国靴はアウトステッチだけでアッパーとソールを留めていたので、脇からカッターを入れて切ると綺麗にソールが剥がれたんです。最近では、接着してある革靴も多いので、変な話ですが「縫わなくてもいいんじゃないか」と思うこともあります。

櫻井:ソールが剥がしやすいということは、修理作業がしやすいということです。つまり、修理の際に余計な部分を痛めなくて済むんですよ。たとえば、ソールにこびりついたコルクを除去したり、無理に引っ張ってウェルトをちぎってしまう心配がないということですね。

中川:あとは、当然ソールの屈曲性にも関係してきますよ。接着ではなく、アウトステッチだけで留まっている方が断然履き心地は良いですね。

櫻井:あとは、アッパーのつり込みも深いですよね。最近では浅いモノも多いんですよ。アッパーの革がしっかり中につり込まれているからこそ、フォルムが美しいですよね。

中川:それは素晴らしいことだよね。リブの位置が外であればあるほど、作るのは楽になるんですよ。ただその分、見た目の美しさは欠けてしまうんです。

櫻井:そうなんです。深くつり込むことで、革靴を上から見た時にウェルトが見えなくなり、ソールが立体的に見えるようになります。「エドワード・グリーン」や「ガジアーノ&ガーリング」もかなり深くつり込んでいますよ。言ってしまえば、革靴の顔立ちを大きく左右する工程で、とくにドレスシューズには重要なポイントです。

素材のこだわりと美しさの追求に余念がない。

櫻井:パーツの一つひとつに天然素材を使っているというのも嬉しいですよね。たとえば「ALFRED」にはヒールの積み上げ部分に本革が使われていました。最近では、革と紙を細かく砕いて圧縮したパーツを使っているメーカーさんも多いんです。土踏まずの部分にも、歪みを防ぐためのウッドシャンクが使われていましたし、コルクの材質も良質でした。おそらく、「ジョン・ロブ」や「エドワード・グリーン」と同じ素材を使っているんじゃないでしょうか。

中川:見えない部分に使用されている素材の良さも然り、「ジョセフ チーニー」は見た目に影響するディテールにも妥協をしていないですよね。「ALFRED」は、コバのエッジ部分の仕上げが美しいと思いました。

櫻井:たしかに、そうですね。コバの中心を少しえぐって上下に爪(エッジ)を付けるダブルリップ仕様を辞めてしまうメーカーさんも多いんですよ。

中川:この爪がないと安っぽくて味気なく見えてしまうんですよね。なおかつ、「ALFRED」のように左右対称で同じ位置に爪をつけてあるとさらに美しい見た目に仕上げることができるんです。

革靴の製法にまで、職人のスピリットを感じる。

中川:「CAIRNGORM Ⅱ R」もすごいですよね。リペアで沢山の革靴をお預かりしますが、ヴェルトショーン製法の革靴というのは100足に1足あるかないかというぐらいなんです。この製法を続けているというのは本当に貴重ですよ。

櫻井:たしかにすごいですね。

中川:アッパーにアウトステッチがかかっているので、知識がないとステッチダウン製法と思うかもしれませんが、これはかなりすごい製法ですよ。ヴェルトショーン製法は、グッドイヤーウェルト製法の派生とも言われていますが、通常ならアッパーをライニングと一緒にリブとウェルトの間につり込み、どちらもすくい抜いで固定しますが、ヴェルトショーンの場合は、つり込んだ後、アッパーだけを戻して、ライニングは通常通り、リブ、ライニング、ウェルトですくい縫いを行い、逆にアッパーはウェルトの上に乗せてアッパー、ウェルト、アウトソールを出し縫いで止めています。そうすることでグッドイヤーウェルト製法とステッチダウン製法のメリットを併せ持つことができます。

櫻井:しかも、「CAIRNGORM Ⅱ R」はダブルソールなのでアッパーとウェルト、2枚のソールの4層をアウトステッチで一気に縫い付なければいけないですよね。

中川:非常に手間のかかる作業ですし、熟練した職人技術と特殊な機械も必要になるので生産数も限られるはずです。その甲斐もあって、防水性は高いでしょうね。

櫻井:しかも、グッドイヤーウェルト製法と同じようにリブが付いているので、隙間を埋めるためにインソールとアウトソールの間にコルクが敷き詰めてあり、シャンクも入っていました。その分ステッチダウン製法の革靴と比べて、屈曲性や履き心地が格段に上がります。

中川:「ジョセフ チーニー」のモノづくりの良さは間違いないですね。今回、2つの代表モデルを解体してみて、ある意味で“工芸品”に近いと言っても過言ではないと思いました。

ユニオンワークス

1996年に、英国製の紳士靴を中心とした靴修理店として渋谷区にて創業。2009年より、英国ブランドに依頼しオリジナルシューズの制作にも取り組む。現在では、青山、銀座、新宿などに6店舗を展開。リペア業に加えて、代表である中川氏の好きな洋服や革靴、雑貨の販売も行う。
https://www.union-works.co.jp

photo TRYOUT text K-suke Matsuda

日本一のシューシャイナーがたどり着いた、粋(いき)なローファー。 「THE WAY THINGS GO」オーナー/シューシャイナー 石見 豪


ケアと修理は切り離せないもの。
長く美しく履くためには、品質の高い英国靴が最適。

まったくの未経験の状態から路上で靴磨きをスタートし、出張靴磨きサービスなどを経て、何万足という数の革靴を磨いて修行。今年の初めに開催された「靴磨き日本選手権」に出場し、日本チャンピオンの座を勝ち取ったのが、大阪の靴磨き店「THE WAY THINGS GO」のオーナー兼シューシャイナーの石見豪さん。日々、沢山の革靴とそのストーリーに触れられている氏に、自身の革靴遍歴と英国靴の魅力を訊ねました。

靴磨きの重要性を文化として根付かせたい。

— 今年の初めに日本一のシューシャイナーの称号を獲得されたことで、さらに活動を注目されるようになったのではないでしょうか。現在は、どのような日々を過ごされていますか?

日本一になってからは、イベントや取材依頼がかなり増えました。「結果として「THE WAY THINGS GO」への来店数は、ほぼ倍になっているんです。年明けには東京にお店を出店するので、最近は東京にいることが多いですね。大阪へ戻るのは月に数回という生活を送っています。店頭に立っていることもありますが、最近ではオリジナル商品の企画にも意欲的に取り組んでいます。たとえば、このブラシも「KINKOU」というブランドを立ち上げてリリースしたモノですし、今着ているスーツも型紙からビスポークで仕立て、機械に読み込ませMTMオーダーにすることで、スタッフがユニフォームとして気軽に発注できるようにしました。

SNSのおかげで、靴が綺麗になる様子と、究極まで磨き上げた結果を誰もが気軽に見れるようになり、以前より靴磨きに関心を持たれている方が増えていますが、その一方でまだまだ「靴は修理しないと履けないが、磨かなくても履ける」と認識されている方も多いです。たしかに、グッドイヤーウェルト製法の靴であれば、ソールを張り替えれば長く履けると思いますが、やはりそこに至るまでのケアも必要なんですよね。アッパーのレザーが痛んでいるのに、ソールだけ張り替えて長く履いても格好悪いじゃないですか。そういう意味では、ケアと修理は切り離せないものだと思うので、街中に革靴の修理屋さんや洋服のクリーニング屋さんが沢山あるように、靴磨き屋が増えていけば文化としてさらに根付くと思っています。

お店の福利厚生として、本格的な「ヨガ」を導入。

— オフの時間には何をされていますか?

職業病なのですが、これまでに3万足以上の革靴を磨いてきたせいか、右腕が左腕に比べて7cmも太いんですよ。身体の左右のバランスが悪くなってしまうので、首が痛くなることも多々ありまして……。バランスの良いしなやかな筋肉をつけて、特に肩甲骨周りを重点的に、身体の柔軟性を高める必要があるんです。そこで、たまたまサッカー選手の長友佑都さんを教えていたヨガの先生が大阪にいらっしゃったので、お店の福利厚生にヨガを取り入れました。「THE WAY THINGS GO」が入っているビルに別の部屋を借りているので、その先生にお越し頂いて、休日にスタッフみんなで集まってヨガをやっています。勘違いされがちですが、ヨガはインナーマッスルを鍛えるハードな運動で、全身筋肉痛になります笑。あとは、スーツの似合う体型維持を目的にボルダリングなどもやっています。靴磨きはすごく体力のいる仕事なので、靴と同じように身体のメンテナンスも不可欠です。

お客様からの影響で日々磨かれていく感性。

— 革靴遍歴を教えてください。

サラリーマン時代に、勤めていた会社の社長から「バリー」の革靴を頂いたんです。革靴ブランドではありませんが、当時の僕からすれば、ちゃんとした革靴を履くのは初めてだったので衝撃でした。それ以来、ファッションや革靴に興味を持ち始め、自分で調べるようになりました。とくに勉強になったのは、お客様から得た知識です。出張で靴磨きをやっていた時も、茶道を嗜まれている方や立体駐車場があるような豪邸をお持ちの方の所へも行っていましたので、お客様が80万円も100万円もするスーツを着られていることも多かったんです。そこで、こちらも見栄えのするものを着ないと信用してもらえないと思ったのですが、時計やスーツの最高峰は価格も天井知らずで……。革靴であれば高級なモノでも数十万円でオーダーできるので、これならなんとか自分にも手が出るということで関心を深めていきました。社会人17年目ともなると累計で100足は超えましたが、欲しいというお客様やお店のスタッフに譲ったり、履く履かないを取捨選択しているうちに半分程になりました。
その内、よく履いている靴は20足程ですね。

中でも良く履いているのが、こちらの3足です。ジョン・ロブ ロンドンのゴルフシューズ/キルトはタンから繋がっています(笑)。あとはオーダーをしたのに、トゥとボディの色が反対であがってきた「ガジアーノ&ガーリング」のシューズ。このバタフライローファーもビスポークで、日本で初めてうちのお店がトランクショーをした「リカルドフレッチャベステッティ」のものです。イタリアのブランドらしく、ものすごく納期が遅れて苦労をしたのですが、デザインが気に入ってよく履いています。

年齢と共にたどり着いた、マイナスの美学。

ー 「ジョセフ チーニー」のローファーを購入されたきっかけを教えてください。

出張靴磨きの時に、出張先で膝をついたり、膝の上に靴を乗せて磨くことが多かったので、基本的にジャケットにデニムというスタイルで働いていました。それに伴い、カジュアルな外羽根式の靴が増えていったんですね。そういったこともあって、最近までローファーも先ほどお話したバタフライローファーしか持っていなかったんです。今のワードローブを考えてみても、グレーやネイビーなどの単色が多いですし、シンプルなローファーが欲しいと思っていたので「ジョセフ チーニー」のこの靴を購入しました。デニムにも合いますし、質実剛健なモノづくりながら、奇を衒わずにスタンダードなデザインにしているところが気に入っています。僕がかっこいいと思う50〜60代の方々がシンプルな格好をされていることもあり、年齢とともに江戸の粋(いき)と呼ばれるマイナスの美学に惹かれるようになりました。京都の上方では逆で、粋(すい)といって舞妓さんが華やかに着飾るようなプラスの美学なんですけどね。

品質が高く、ソールを変えるまでの寿命も長い。

ー 英国靴にはどのような魅力があると思いますか?

うちのお店でも、イタリア靴よりも英国靴をお持ちになられる方が非常に多いんですよ。アメリカ靴も多いですが、ほぼ「オールデン」という印象ですね。「ジョセフ チーニー」もそうですが、品質管理をすごく丁寧にされていますよね。安価な靴であれば、ソールを出し抜いする糸にナイロンの組糸を使っているので磨耗した時にすぐソールがダメになりますが、良い靴であれば麻糸にステッチングワックスやチャンを染み込ませたものでしっかり縫っているので、アウトステッチが切れたくらいでソールが開いたりしない。グッドイヤーウェルト製法の英国靴は、何度もソールを変えて履けると言われていますが、そもそもソールを変えることに至るまでの寿命が長いですよね。これはあくまで主観ですが、アメリカ靴は同じモデルでも個体差がでる確率が高いと感じています。比べて英国靴は、革をちゃんと間引いて選定する基準が平均的に高いと思います。靴自体の品質が高いからこそ、修理がしやすいというのも魅力ですよね。

靴をきちんと磨くことで、掴めるチャンスもある。

ー 革靴との理想的なつきあい方を教えてください。

サラリーマン時代の同僚が、初取引の契約を競合他社から勝ち取った時に、取引先の社長さんから言われた一言が印象に残っています。その時は、4社に相見積もりを取られていたようなのですが、明らかに他社の条件が良かったのにも関わらず、同僚の見積もりに決めてくださったんです。その理由が、「靴が綺麗だから」だったんですよ! 一つの価値観として、汚い靴を履いていた時に初対面で「汚いね」と言う方はいないですが、靴を綺麗にしているとそこを評価してくださる方もいるということです。つまり、汚い靴を履いていると逃しているチャンスが結構あるかもしれないんですよね。もし仮に取引先企業の社長さんが、そういう価値観であれば機会をもらえていない可能性がありますからね。そういう意味では、靴の美しさを一つのコミュニケーションや自己表現と捉えてみるのも面白いと思いました。

「THE WAY THINGS GO」オーナー/シューシャイナー
石見 豪さん

1982年生まれ。勤めていた会社を退社した後、靴磨き業に傾倒。路上から靴磨きをスタートし、修行を積んだ後、2012年、出張靴磨きサービスを創業。2015年、大阪の登録有形文化財内に靴磨き専門店「THE WAY THINGS GO(ザ ウェイ シングス ゴー)」をオープン。2018年1月、銀座三越店で開催された「靴磨き日本選手権大会」にて優勝。2019年1月、東京初となる店舗を出店予定。
https://www.twtgshoeshine.com

photo TRYOUT text K-suke Matsuda

アエラスタイルマガジン

ファッション誌編集長が語る、ビジネスマンが英国靴を履くべき理由。 「アエラスタイルマガジン」編集長 山本 晃弘

アエラスタイルマガジン


男性がモノを選ぶ時には理由が必要。そういう意味でも「ジョセフ チーニー」には魅力があります。

数々の男性誌で敏腕を振るい続けた後に、『アエラスタイルマガジン』を2008年に創刊。それ以来“ニッポンの男たちの着こなしを素敵にする”という命題に立ち向かい続けているのが、同誌の編集長を務める山本晃弘さん。実際にスーツを着て働くビジネスマンの意見に耳を傾け、洋服を素敵に着こなすためのルールを常にアップデートしている同誌だが、革靴においてはとくに英国靴を提案しているという。その哲学の所以や、山本さんも愛用している「ジョセフ チーニー」の魅力について尋ねた。

アエラスタイルマガジン

ビジネスマンに個性のある着こなしは必要ない。

— 山本さんは、『アエラスタイルマガジン』や、今年の3月に出版された著書『仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。』で、一貫して「着こなしに必要なのは、センスよりルール」という哲学を貫かれていますね。

『アエラスタイルマガジン』にも著書にも通ずることですが、友人にファッション雑誌を読まなくなった方が大勢いまして、そういう方々にもう一度ファッションの面白さを伝えたいという想いがありました。それを届けるためには、「センスですよ」とか「流行っていますよ」という表現では伝わらないと思い、「きちんとしたルールを知れば誰もが素敵になれる」というコンセプトを考えました。雑誌を創刊した時に、より多くの方に届けるためにタブロイドを連動し、最近ではWEBマガジンやイベントなど、さまざまなタッチポイントを設けて届けようとしています。それでも、まだまだ伝えられていないサイレントマジョリティーが沢山いることを次第に感じるようになりました。そういう方々に、少しでも伝えたいという想いもあり、『仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。』を上梓しました。そこには、『アエラスタイルマガジン』を10年作り続けてきた中で、また、男性ファッション誌に30年以上携わってきた中で、自分がどういう心がけで洋服のルールにたどり着いたのかを詰め込んでいます。よくビジネスマンの方々が目指すべきは、「個性のある上級者ではなく、知性のある中級者」とお話しますが、仕事で一番大切なのは間違いなく中身です。ただ、その中身が伝わるようにするためには、どういう着こなしをすべきか考えるのも仕事のうちだと思っています。だからこそ、素敵に見える着こなしの方法をルールとして伝えながら、実際にスーツを着て働くビジネスマンの声にも常に耳を傾けるようにしています。たとえば、「シャツのインナーに下着を着るべきか」、「スーツにバックパックを合わせるのはアリかナシか」など、リアルな声を聞いた上でルールをアップデートしていくのも私たちの使命だと思っています。

シューズ

数を持つよりも、生涯付き合える相棒を厳選。

— 革靴遍歴を教えてください。

初めて購入した革靴は、「コール ハーン」のファクトリーブランドが作っていたローファーです。故郷である岡山のアメカジショップで手に入れました。その後しばらくは、『メンズクラブ』や『ポパイ』を読んでアイビーの洗礼を受けて育ったこともあり、ローファーやデッキシューズを何足も持っていましたが、いわゆるドレスシューズというのは持っていませんでしたね。自分が『メンズクラブ』で編集の仕事をするようになってからもその名残があり、いつも靴担当の編集者と論争になっていましたよ。よくウールのスラックスに白スニーカーを合わせていたのですが、「山本さんのコーディネートは間違っている」と言われまして(笑)。ドレスパンツにドレスシューズを合わせるのは当たり前過ぎるので、「自分は自分のスタイルを貫く」と当時は少し尖っていたんですよね。今思えば、若気の至りとも言えますし、年齢的にドレススタイルに対しての照れがあったのかもしれません。どちらかと言えば、デニムやチノーズにプレーントゥの革靴やローファーを合わせる方が好みでしたね。しっかりとしたスーツスタイルにドレスシューズを履くようになったのは、『アエラスタイルマガジン』を創刊した頃からでしょうか。ワードローブに関して、「男が一生のうちに付き合う服や靴の種類はそれほど多くなくていい」という考え方をもともと持っているので、所有している革靴はそれほど多くありません。今履いている「ジョセフ チーニー」のプレーントゥ、本日お持ちした「クロケット&ジョーンズ」のストレートチップ、「チャーチ」のモンクストラップやチャッカブーツのほかに、「オールデン」のプレーントゥやローファーなどを持っていますよ。スーツを着用する時には、雑誌でも英国靴を選ぶことが多いですね。

ネクタイ

必要な処置に応じて、お店を使い分ける。

— 革靴のお手入れにこだわりはありますか?

マメな方ではないので、1〜2ヶ月に一度のペースで所有している革靴を磨くように心がけています。その他に、メンテナンスの種類によってお店を使い分けています。たとえば、仕事や展示会回りの合間には、有楽町の靴磨き屋さん「千葉スペシャル」に立ち寄り履いている靴を磨いてもらいますし、靴に雨染みができてしまった際には、新橋駅の地下にある「靴磨き本舗」にメンテナンスをお願いしています。また、年に一度まとめて「ユニオンワークス」に持ち込み、ソールの張り替えなど、必要なリペアを施してもらっています。

本当の“一生モノ”になり得るのが英国靴の魅力。

— 『アエラスタイルマガジン』で、英国靴を勧められているのはなぜですか?

一番の理由は、ソールの張り替えができるグッドイヤーウェルト製法を世に広めた国だからです。たとえば、この商品が高いのか、あるいは安いのかを考える時に、高くても買う理由があれば高くないですし、逆に安くても値段に見合う価値がなければ安くはないわけです。という風に考えると、英国靴を購入し、ソールを張り替えながら何年も付き合い続けるのか、1〜2万円の革靴を購入して一年に満たずして履き潰すのか、どちらが賢いビジネスマンなのかは明らかですよね。以前、とある高級時計ブランドのCEOをインタビューした時に、「日本の男性は靴と時計にお金をかけなさ過ぎる」と言われました。これは非常にロジカルな話で、たとえば、スーツと、靴や時計の使用頻度を比べてみると靴や時計が使用頻度が高いですよね。それに、一生同じ洋服を着ているという人は稀有ですが、靴や時計は本当の一生モノになり得ます。時計は子供に受け継げば一生どころか二生にもなりますし、靴はエイジングを楽しむことで一生付き合える着こなしのパートナーにすることができます。そういった理由で、質実剛健な作りで、リペアをしながら長く愛用できる英国靴を選んでくださいという提案をしています。

ジョセフチーニー

技術力の高さとブランドストーリーに惹かれる。

— 「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。

英国靴のブランドは沢山ありますが、「ジョン ロブ」や「エドワードグリーン」は、一生に一度は“世紀の逸品”に足を入れてみたいという方に、もう少しファッション性を求める方には、「チャーチ」を買うべきでしょうという話をよくします。で、私が一般のビジネスマンに最も勧めたいのが、価格とクオリティのバランスが取れた、「ジョセフ チーニー」と「クロケット&ジョーンズ」です。とくに「ジョセフ チーニー」に関しては、チャーチ家で育った二人の兄弟がノーサンプトンの正統な靴作りを守るために「チャーチ」と袂を分けてブランドを確立したという背景も良いですよね。男性がモノを選ぶ時の理由としては、そういったストーリーが重要だと思います。個人的には「チャーチ」と別れたことは喜ばしいことだと思っています。「チャーチ」はプラダグループに買収されたことで、ファッションピープルが憧れるブランドに成長しましたし、世の中に認知されるだけの新しい提案をしましたよね。そのおかげで、ノーサンプトンのモノづくりの素晴らしさが広く伝わったと思います。それに対して「ジョセフ チーニー」は伝統を守っているイメージがありますが、じつは世界中のショップやブランドとのコラボレーションに対して非常に柔軟ですよね。裏を返せば、ファクトリーとして機能していたブランド背景もあって、技術力が非常に高いと言うこともできます。そういった理由で、「ジョセフ チーニー」には沢山の魅力があると思います。

“アンダーステートメント”を体現した一足。

ー 愛用されている「ジョセフ チーニー」に惹かれた理由を教えてください。

これは約3年前に「BRITISH MADE 青山本店」で購入したものです。『アエラスタイルマガジン』を創刊したばかりの頃は、黒の革靴を推奨していたのですが、次第に「いやいや茶の革靴もアリでしょう」と思うようになりました。ちょうどその着こなしのルール改定を検討していた時期にこの靴に出会いました。フォルムやラストの形が自分の足に合うというのも魅力ですが、エイジングされたかのような深みのある茶の色合いにとくに惹かれました。よく「茶色の靴を履く時には、ベルトと色を合わせるべし」と提案していますが、この靴に合う茶色のベルトがなかなか見つからなかったという後日談もあります(笑)。また、これは英国に靴の取材へ行った時にシューズショップの店員さんから教えられたことでもありますが、英国製品の魅力は“アンダーステートメント”であることだと思います。悪目立ちせず、上品で質が良いモノという意味なのですが、これはビジネスマンにも言えることで、能力があって控えめな人というのは最も輝いて見えますよね。この靴は、まさにそんな一足だと思います。

ジョセフチーニー

「アエラスタイルマガジン」編集長
山本 晃弘さん

1963年生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、ファッションエディターとしてのキャリアをスタート。『MEN’S CLUB』、『GQ JAPAN』などを経て、2008年に朝日新聞出版の設立に参画。同年11月には、編集長として『AERA STYLE MAGAZINE』を立ち上げる。雑誌の編集のほか、ファッションやライフスタイルのコンテンツ・動画制作、ビジネスマンや就活生に向けた「スーツの着こなし」アドバイザーなど、媒体を問わず幅広く活躍。著書に、『仕事ができる人は、小さめスーツを着ている。』。
https://asm.asahi.com

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スタイリストが語る、トラディショナルシューズの魅力。 村山 佳世子


スタイリングに取り入れやすい、マニッシュシューズ。

約25年のスタイリスト歴を持つ村山佳世子さんは、意外にも昔からメンズのスタイルに惹かれていたのだそう。とくに、比較的スタイリングに取り入れやすいアイテムがメンズライクな革靴だと言います。昨今では、女性から市民権を得ている革靴ですが、どんな点が魅力なのでしょうか。「ジョセフ チーニー」のお話とともに語っていただきました。

好きなモノに囲まれる幸せな仕事。

— スタイリストという仕事の魅力を教えてください。

昔からファッションが好きで、携わることができるお仕事に就きたいという想いがありました。私の若い頃は、雑誌がファッションの情報を得る情報源でしたので、色々な雑誌を読んでいくうちにスタイリストという職業に憧れましたね。現在は、集英社の『eclat』や『Marisol』でスタイリングのお仕事を頂いたり、ブランドのカタログやモデルのスタイリングなどを手がけることもあります。また、今はまだ準備段階なんですが、スタイリングの単行本を出版する予定もあります。スタイリスト業をスタートしてから約25年の月日が経つのですが、次第に「自分らしいスタイリングとは何か」を考えるようになってきました。だからこそ、今回のインタビューも含めて、自分の好きなブランドにまつわるお仕事を頂けるのはとても幸せなことですね。それが何よりのやりがいです。

メンズファッションからインスピレーションを得る。

— スタイリングの着想を得るために意識していることはありますか?

街を歩いてメンズファッションをチェックするのが好きです。旅で海外へ行った際も、自分がお洒落だなと思う人は意外に男性が多いんです。メンズファッションはレディースに比べてアイテムの幅が狭いですが、その分こだわりが強いので、シンプルな服装でもお洒落に着こなしている方が多い印象です。最近では、男性と女性の着こなしが近くなっていることもあって、コレクションの中にメンズライクな靴を合わせているブランドも増えています。洋服を買いに行っても、トータルコーディネートとして革靴も含めて提案されているので、女性にとってもスタイリングに取り入れやすいですよね。メンズっぽい革靴を合わせるだけで、現代的な着こなしに見えますし、ヒールに比べて歩きやすいというのも魅力だと思います。

基本にあるのは、トラディショナルなデザイン。

— 革靴遍歴を教えてください。

若い頃に夢中になったのは、「グッチ」のビットローファーですね。履き潰した今でも大切に持っています。それから大人になるにつれて上品な紐靴を買うようになりました。基本的には「ジョセフ チーニー」や「J.M.ウェストン」
のように、シンプルでトラディショナルなデザインの革靴が好きですね。その中で、色味やデザインが異なるものを気分やトレンドに合わせて買い足すことが多いかもしれません。シルエットで言えば、「マルタン・マルジェラ」のように丸っぽいフォルムの革靴も好きなんですが、「チャーチ」のコンビシューズのように細みでスタイリッシュな革靴も好きですね。元々、あまりヒールを履かないので、楽をしたいけどスニーカーを履けないようなTPOの時に革靴は大活躍していますよ。

着こなしに取り入れやすいスタイリッシュな面構え。

— 「ジョセフ チーニー」の魅力を教えてください。

ジョセフ チーニーの輸入総代理店である渡辺産業さんで見せて頂いて、よくスタイリング用にお借りしていました。伝統があり定番モデルも揃っていますし、ラストの形がスタイリッシュなので女性の着こなしに取り入れやすいんです。私はウイングチップが好きなので、このモデルを自分用に選びました。装飾のあるデザインですが、フォルムが美しい分、上品に見えるところが好みです。雰囲気のあるブラウンカラーもとても気に入っています。茶系のレザーは、ブランドによって色味が異なるので面白いですよね。

あえてカジュアルな着こなしに取り入れたい。

— 「ジョセフ チーニー」はどんなスタイリングに合わせたいですか?

デニムとの相性は抜群だと思います。知人のライターさんに教えてもらった写真集に、デニムにトラディショナルな革靴を合わせている着こなしが載っていてとても新鮮でした。私自身、一年を通じてデニムを履くことが多いので参考になりましたね。あとは伝統的なデザインだからこそ、バギーパンツやクロップドパンツのようにカジュアルなパンツに合わせるというのも良いかもしれません。

トレンドに左右されず、長く愛用することができる。

— 女性に革靴を勧めるとしたら、どんな点がポイントになりますか?

トラディショナルな革靴の魅力は、季節や時代に関係なく履けるところだと思います。女性にとっては少し値段の張る革靴かもしれないですが、何年も履けるという意味では決して高い買い物ではないと思います。たとえば、パンプスなんかだと汚れて捨ててしまうこともあるのですが、メンズライクな革靴は汚れや傷、シワも味になるのでずっと愛用できますよね。たとえ履かないシーズンがあったとしても、履きたい気分の時に履けるので、捨てずにずっと持っておきたくなるというのも魅力です。

スタイリスト
村山 佳世子さん

文化服装学院スタイリスト科を卒業後、アシスタントを経て、1992年に独立。『non-no』『LEE』『BAILA』など数々の女性誌でスタイリングを手がけ、『Marisol』には創刊当時から携わる。ブランンドカタログやモデルのスタイリングの活動が中心。

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テキスタイルデザイナーが、通勤に欠かせないブーツ。 「wallace sewell」エマ・スウェル


長時間の徒歩も快適なレースアップブーツ。

ロンドンを拠点に活動するテキスタイルブランド「ウォレス スウェル」。デザイナーの一人であるエマさんは、いつも徒歩35分の道のりを歩いてアトリエに通っています。そんな日々のウォーキングに欠かせないのが「ジョセフ チーニー」のブーツ。出会った時のお話や魅力をお聞きしました。

卒業制作コンペで、優勝したのがきっかけ。

— 「ウォレス スウェル」はどのようにして作られたのですか?

立ち上げメンバーのハリエットと私はロンドンにある、「ロイヤル・カレッジ・オブ・アート」という学校で学んでいて、卒業した2年後の1992年にブランドを立ち上げました。私は両親が建築の仕事をしていましたし、姉もテキスタイルの仕事をしていたので、自然とモノづくりに触れられる環境で育ちました。学校在籍時に卒業制作のコンペがあったので、布テキスタイルの作品を出展したのですが、勝ち抜いてフランスやドイツ、アメリカなどの国々の作品と共に日本で行われた決勝戦に出場することになりました。そこで、優勝したのもブランドの礎になっています。その時に、テキスタイルデザイナーの須藤玲子さんに出会ったのも大きかったです。彼女は商談をセッティングしてくれましたし、日本で自分たちと同じスタイルのモノづくりが行われていることに感銘を受けました。そういった流れでブランドを設立し、ちょうど昨年25周年を迎えました。

目に映るものが、テキスタイルの着想源。

— テキスタイルはどんなものからインスピレーションを得ることが多いですか?

普段からパンを作ったり料理をすることが好きですし、オフの時にはキャンプへ出かけたり、カントリーサイドを歩いたりしています。その時に見たモノや景色から想像を膨らませることが多いです。たとえば、2018年のコレクションでは日本に来た時に訪れた場所や、印象に残ったものをテキスタイルに落とし込みました。渋谷のビル群や地下鉄のホーム、街の向こうに映る富士山などを、スカーフやクッション、ブランケットにして表現しました。写真を撮ったものを見ながらノートに絵を描いてみて、テキスタイルにした時のイメージを想像するのはとても楽しいです。

デザイナーと作り手のコミュニケーションが大切。

— モノづくりのこだわりを教えてください。

コンピューターがないような時代に学んでいたので、伝統的な手織りの方が身近でした。だから、オールドファッションかもしれないけど、いろいろなモノを実際に手で作るのが好きなんです。今は手作業の部分と機械化する部分をうまく組み合わせてプロダクトを作っていますが、テキスタイルのスワッチだけは、未だに手で織って作っていますよ。

私たちの製品は、マンチェスターの近くの工場で作られていますが、もともとは違う工場にお願いしていたんです。ですが、難しいパターンのテキスタイルのクオリティを保つために、コミュニケーションを取れる距離にある工場に変えました。私たちが工場へ行って職人さんたちと話しながら、一緒に作り上げるということがモノづくりには大切だと思っています。

徒歩通勤に欠かせないのは、履いた時の快適さ。

— 「ジョセフ チーニー」のブーツを購入された理由は?

私はロンドンのカムデンの辺りに住んでいて、アトリエのあるエンジェルまで毎日35分くらい歩いて通っています。昔はよく革靴を履いていましたが、最近では歩きやすさを重視してずっとスニーカーを履いていました。でも、冬になると暖かいブーツが欲しいなとも思っていました。履き心地が良くて、なおかつスタイリッシュなモノを探していたんですが、革靴好きの旦那が、「ジョセフ チーニー」を勧めてくれたんです。そして、今年の1月に初めて購入しました。デザインもトラディショナルで、靴擦れもしないですし、とても快適なので気に入っています。他にレザーブーツやヒールの靴も持っているんですが、長時間歩くとなるとなかなか履けないんですよね。このクラシックな色も気に入っていますが、本当はアーモンドカラーにしようと思っていたんです。旦那さんがこの色の方が良いと言って聞かなくて。次に買う時は一人で行こうと思います(笑)。でも、その代わりに靴の手入れは旦那がやってくれるんですけどね。

タイムレスなクオリティであること。

— 「ジョセフ チーニー」のモノづくりと自身のブランドに通ずる部分はありますか?

「ジョセフ チーニー」は、作る過程をとても大切にしています。だからこそ、長く愛用できるというのは私たちのブランドと同じですね。やはり、一過性のファッションではなく、時代を超えて愛されるプロダクトというのが良いですよね。私たちもトレンド情報に流されず、プロダクトの魅力を突き詰めていくスタイルを心がけています。きっと「ジョセフ チーニー」もそうなのではないかと、製品を見て感じます。もしコラボレーションすることがあれば、レザーやステッチの色で遊んでみたいですね。

「wallace sewell」共同設立者兼デザイナー
エマ・スウェルさん

1990年にロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業。1992年にハリエット・ウォレス・ジョーンズと共にテキスタイルデザインスタジオ「ウォレス スウェル」を設立。 大英博物館、王立芸術院、テートギャラリーなどの有名建築物内の装飾品や、ロンドンの鉄道、地下鉄のソファデザインなどを手がける。

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ファッションエディターが心を打たれた、アイコンの履きこなし。 「ウフィツィ・メディア」代表 矢部 克已


Murton


都会的なスーツに、カントリーシューズを合わせるという意外性。

「ウフィツィ・メディア」代表/ファッションエディター・ジャーナリストとして、さまざまな媒体で活躍する矢部克已さん。イタリア在住経験があり、年に2回開催される「ピッティ・ウォモ」に毎回足を運んでいる氏は、ファッションを始め、グルメやアートなどのカルチャーにも精通しています。今回は、イタリア的視点で見る「ジョセフ チーニー」の印象や、愛用されているモデルの思い出を伺いました。

構想を練るのが、一番の醍醐味。

— 現在はどのようなスタイルでお仕事をされていますか?

ファッションエディターとして雑誌の誌面を作ることがメイン。昔ながらのやり方かもしれませんが、原稿を書くことも含めて0から100まで一貫してやりたいというのが僕のスタンスです。編集という仕事にはさまざまな局面がありますが、漠然と企画を考えている時が一番楽しいかもしれないですね。打ち合わせや会議では企画書を用意して、どういう構成やロジックになっているのかをプレゼンするわけですが、それよりももっと前の段階です。どこかへ出かけている時に、「男のスタイルがこういう風だったらかっこいいんじゃないか」とか「こういう内容をこんなスタッフで作り上げたい」あるいは「自分が担当する原稿をどこまで深く面白く書ききれるか」と、構想を練ることに充実感があります。編集の仕事に就いてから30年以上経つので、よく「飽きないね」と言われますが、飽きたらとっくに辞めているはずですよね。今はこれまで以上にひとつひとつの仕事に時間をかけたいという想いが強いので、ピュアな気持ちで写真や文章のクオリティを上げられるように心がけています。そういう細かい部分を積み重ねていくことで、納得できる仕事になると思うんですよね。

— イタリアへはどのくらいの頻度で行かれていますか?

毎年1月と6月に開催される「ピッティ・ウォモ」と、もう1本別の取材が年間のプランに入っています。ですので、最低でも年に3回は行っています。僕は、『流行通信HOMME』と『Men’s Club』の社員編集者として合わせて10年勤めた後、退社して1997年から1年間イタリアへ”留遊学”していたんです。その時は、初めにフィレンツェに住んで、その後はナポリやヴェネツィア、ミラノへ移動しました。帰国後フリーランスになってからは、現在のように仕事で行くようになりました。基本的にはファッションの仕事が多いのですが、一時期はフィレンツェで「ピッティ・ウォモ」を取材した後、トスカーナ州のワイナリーを見て巡っていたこともありました。機会があれば、プライベートでゆっくりと行きたいと思っています。

唯一無二なモノづくりが好き。

— モノを選ぶ際のこだわりを教えてください。

オーダーメイドでもプレタポルテでも、何か思いが込められたモノが好きです。たとえば、10年以上愛用しているモノに「ビスコンティ」のペンがありますが、これはヴァン・ゴッホの作品をデザインに落とし込んだスペシャルなコレクションの逸品。「ひまわり」をモチーフとしてデザインに落し込んだ1本に出会ってから、何本も蒐集するようになりました。既製品ながらも、決して同じものは1本とないところが気にいっています。


Left: Avon C

革靴は、60足ほど所有しています。その多くは、オーセンティックなモノづくりのドレスシューズです。カントリーシューズも持っていますが、ツイードのスーツなど秋冬シーズンのコーディネートに取り入れることが多いです。いずれにしても、スーツに合わせる靴はある程度伝統的な面構えを備えた、エレガントなデザインを選びます。そういう意味で英国靴は良いですね。イタリア人もクラシックな服が好きな人ほど、英国靴のモノづくりや伝統をリスペクトしています。

クオリティと価格のバランスが取れたブランド。

— 「ジョセフ チーニー」との出会いはいつですか?

2010年の5月に、「ジョセフ チーニー」の共同経営者の一人、ジョナサン・チャーチ氏にインタビューをさせていただきました。まだ当時は「チャーチ」の下請けという印象が強くて、ブランドとしてあまり輪郭が立っている感じはしていませんでした。ところが、「インペリアルコレクション」という素晴らしいドレスシューズを見せられて印象が変わりましたね。それ以来、注目するようになりました。今日履いているシューズも、今年の1月に「ピッティ・ウォモ」へ行った際にブースで見せてもらってオーダーしたものです。イングリッシュタンのカラーも好きですし、履き心地も良くて自分の足に馴染んでいます。近年では、バイヤーの間でコストパフォーマンスを重要視する傾向にあります。商品の魅力に加え、クオリティと価格のバランスという視点で見た時に、「ジョセフ チーニー」はとても良いレンジに位置していると思います。今後もさらにいろいろなデザインが期待されるのではないでしょうか。

ー「ジョセフ チーニー」の中でとくに思い入れのあるモデルはありますか?

2015年くらいに、元「タイユアタイ」ディレクターのシモーネ・リーギ氏にフィレンツェで会ったとき「AVON C」を履いていたんですよ。彼のスーツスタイルはゆったりしていて、ジャケットの着丈は長く、パンツも太いんですが、そんなスタイルにこの靴を合わせていたんです。「AVON C」はパーフォレーションの穴が大きいカントリーシューズなのに、都会的なスーツに合わせるというスタイルが面白く、「こういった格好もアリなんだ」と思いましたね。それで気になり、「欲しい、買いたい」と吹聴していたら、たまたまイタリア人で「ジョセフ チーニー」のエージェントの方がいて在庫を用意してくれたんです。ところが、購入したもののスーツに合わせるのが案外難しくて……。シモーネ・リーギ氏のセンスの良さや着こなしのうまさを感じました。僕はスーツではなく、ブルゾンに合わせて愛用していました。靴は単体で見て良いなと思う瞬間もありますが、誰かが履いていて良いなと思った時の印象は強烈です。余談ですが、今年の2月、我が家に兄が遊びに来た時に、ある勝負に負けて「AVON C」を泣く泣く譲ることになってしまいました。そういったことも含めて、とても因縁深いモデルです(笑)。

「ウフィツィ・メディア」代表
ファッションエディター・ジャーナリスト
矢部 克已さん

イタリア1年間の在住時に、フィレンツェ、ナポリ、ヴェネツィア、ミラノに移り住み、現地で語学勉強と取材、マンウォッチングを続ける。現在は、雑誌『MEN’S PRECIOUS』でエグゼクティブ・ファッションエディター(Contribute)を務めるほか、『MEN’S EX』『THE RAKE JAPAN』『GQ JAPAN』などの雑誌、新聞、ウェブサイト、FMラジオ、トークショーなどでも活躍。イタリアのクラシックなファッションを中心に、メンズファッション全般、グルメやアートにも精通する。
TwitterID:@katsumiyabe

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対談:英国靴における、レディメイドとビスポークの異なる魅力。 ウィリアム チャーチ × 「マーキス」川口昭司

歴史ある英国靴メーカーのオーナーと、英国で修行を積んだ新進気鋭ビスポーク職人。
二人が語る、英国の靴づくり。

2011年に江戸川橋で創業した「マーキス」は、靴職人の川口昭司さんがご夫婦で手がけるビスポークシューメーカーです。ともに靴聖地・ノーサンプトンにある公的職業訓練校「トレシャム・インスティテュート」で学び、職人として修行を積んだお二人が仕立てた革靴は、そのクオリティの高さと美しさから靴好きの間で話題になっています。今回、英国への造詣の深い川口氏と、「ジョセフ チーニー」のオーナー、ウィリアム チャーチ氏が、お互いの靴作りについて対談。ビスポークとレディメイドそれぞれの魅力を語り合います。

長い歴史の中でアップデートされてきた、知恵の結晶。

— レディメイドの魅力について教えてください。

川口 「私はビスポークシューズを年間で約70足作っています。お客様それぞれに合わせた革靴を仕立てる上で、やはりラスト作りが難しいですね。修行をしていた時に、ビスポークラストのアーカイブを見ましたが、それと同時にレディメイド(既成)のラストもたくさん研究しました。『ジョセフ チーニー』をはじめ、レディメイドを作るメーカーのラストはデザインやシェイプを含めた構造がとても素晴らしい。なぜかと言えば、メーカーのラストには改良を重ねてきた長い歴史があり、そこから多くのことを学ぶことができるからです」

ウィリアム「私の工場でも、継続して改善するように努めています。川口さんにとって、『ジョセフ チーニー』はどんな印象ですか?」

川口「クラシックな靴作りを継承し続けているシューメーカーだと思います。昨今は時代に流されて変にモダンになるシューメーカーも多い中、正統派の靴作りを続けるのは難しいことだと思います」

ウィリアム「そうですね。クラシックでトラディショナルな英国製のモノづくりを守りながら、時にモダンさを取り入れる必要もあると思っています」

川口「やはり、歴史があるというのは重要ですよね。レディメイドのラストは、歴史の中で改良されて残ったというところにかなりの価値があります。それは、言わば長い年月で積み重なって来た情報の集積なんです。足に合う、合わないではなく、ここの構造はこうあるべきという知恵が詰まっているんですよ。それはビスポークが敵わないところの一つですね。一般的にビスポークの方が価格は高いですが、必ずしもこちらが上というわけではないんです。ビスポークにはビスポークの良さ、レディメイドにはレディメイドの良さがありますよね」

技術=クオリティで勝負できるのがビスポークシューズ。

— ビスポークシューズの魅力について教えてください。

ウィリアム「ビスポークシューズは、お客様一人ひとりに対して丁寧に作っていくので、本当に細かいディテールにこだわらないといけないですし、相当な技術が必要だと思います」

川口 「そうですね。レディメイドはラストが決まっている分、アッパーのパターンを何回でも見直して、一番綺麗に見える形を突き詰めることができます。ですが、ビスポークは一つひとつラストが違うので美しいパターンを生み出すのはかなり難しいですね」

ウィリアム 「日本のビスポークシューズの技術は、トップオブクオリティだと思います。とは言え、帰国されて日本のマーケットでチャレンジする上で、大変な面も多かったと思います。どのようにしてお客様を獲得されたのですか?」

川口「最初のお客様は友人でした。その後は、SNSなど口コミで広がっていきました。日本のお客様は革靴の知識もあり、靴に投資するという考え方を持っている方も多いです。また、クオリティが高いと認められれば、たとえ新しいシューメーカーであっても評価して頂けます。」

ウィリアム「それは素晴らしいことですね。どんなスタイルでやられているのですか?」

川口「まずは注文時に来ていただいて、ラストを作ってからフィッティングに来ていただきます。ファーストオーダーだけは、納品時にも来ていただいています」

ウィリアム「レディメイドに比べると必然的にお客様の数は少なくなると思いますが、その分スペシャルなプロダクトだというのが魅力ですね。将来的には海外展開も考えていますか?」

川口「そうですね。香港の「Atitre House」では年に2回ほど定期的にトランクショーを行っています。ビスポークがレディメイドと違うのは、大きな機械に投資をしたり、在庫を持つ必要がないことです。もちろん、その分技術が必要になりますし、海外で展開するにはフィッティングを変えなければいけないという問題もありますが」

暗黙のルールが、英国靴のらしさを作る。

— お二人がお互いに革靴を勧めるとしたら、どんなモノを勧めますか?

川口「私がウィリアムさんにお勧めしたいのは、フルブローグのシューズです。
これは私が一番好きなスタイルです。革靴にはプレーントゥやキャップトウなど様々なスタイルがありますが、その中でもフルブローグは英国靴らしく、男らしい力強さを感じるスタイルだと思います。」

ウィリアム
「私がお勧めしたいのは、こちらのモデルです。見た目はビスポークほど美しくないですが、構造がじつにイギリス的です。グッドイヤーウェルト製法ですし、ヴィンテージパターンの125ラストを使っています。このラストは、ウィズのサイズに対してヒールをタイトなフィッティングにしているので、甲が広く踵の小さい日本人の足型に合うように計算されています。ラストは現代に合わせつつ、見た目はクラシック。イギリスのシンボル的なデザインの一足です」

川口「クラシックシューズを作るのは本当に難しいですよね。一概にクラシックと言っても、メーカーごとに独自のルールを持っているんです。たとえば、バンプポイントをどこにするか、キャップの位置をどうするか、ハトメの長さをどうするかなどの黄金比が、ある程度ルールとして受け継がれていて、その中で作るのでクラシックな顔になるんですよね」

ウィリアム「新しい職人をトレーニングする時に引き継ぐものなので、たしかに外から見れば難しいのかもしれませんね。メーカーごとに細かな部分は違うと思いますが、クラシックシューズの基本的なスタイルは同じだと思います」

高い品質を維持するために、後継者を育てる。

— 今後の革靴業界に必要なことはありますか?

ウィリアム「クオリティの高さというのは、ひとつ武器になると思っています。たとえば、グッドイヤーウェルト製法にしてもお客様が知れば知るほど評価が高まります。『ジョセフ チーニー』に限らず、そういった品質の高いシューズは可能性がありますね。今後は後継者の職人さんを増やしていくことで技術を受け継いで頂くことがすごく大切だと思います」

川口「そうですね。今は3人の弟子がいて、技術を受け継いでいます。『ジョセフ チーニー』には、若い職人さんはたくさんいらっしゃいますか?」

ウィリアム「はい。130年以上の歴史があるシューメーカーですし、ノーサンプトンの伝統的な靴作りの技術が身につくということもあって、若い職人のご両親も安心して送り出してくれています。若い方から70歳くらいのベテランの方までが一緒に働いているのですが、モノづくりの技術も血縁みたいなものなので、いかに後世に引き継いでいくのかということが、重要な課題だと思っています」

「Marquess」代表
川口昭司

1980年、福岡県生まれ。大学卒業後に渡英。ノーサンプトン州ウェリンボローにある専門学校「トレシャム・インスティチュート」で靴作りの技術を学ぶ。その後、ビスポーク職人・ポール・ウィルソン氏に師事。独立後、「ガジアーノ&ガーリング」などのビスポーク靴製作にもアウトワーカーとして携わる。2008年に帰国し、2011年に自身のブランド、「マーキス」を江戸川橋で創業。現在は店舗を銀座に移し、日々靴作りに勤しむ。

「JOSEPH CHEANEY」オーナー
ウィリアム・チャーチ

1967年、英国ノーサンプトン生まれ。英国靴の名門チャーチ家の5代目として育つ。大学在学中にMBAを取得し、卒業後に国際不動産の会社にて勤務。1995年に「チャーチ」へ入社し、取締役に就任。その後、2009年に従兄弟のジョナサンとともに、ジョセフ チーニーの独立に参画。現在はオーナーとして経営手腕を振るう。

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リペアを重ねて履き続ける スタイリストの愛用ブーツ。  小松 嘉章

週4日ペースで履きこなす理想的なサイドゴアブーツ。

メンズファッション誌を中心に活躍するスタイリストの小松嘉章さんが、ここ数年ヘビロテし続けているブーツがある。それは、「ジョセフ チーニー」のサイドゴアブーツ。リペアを繰り返し履き続けているという履き方は、まさに英国靴に相応しいスタイル。オンオフのお話とともに、ブーツの魅力を語っていただきました。

意外にアクティブ、でも漫画が一番好き。

— プライベートではどんな生活をされていますか?

じつは、サーフィンを10年ほどやっています(笑)。青山のセレクトショップ「ブルーム&ブランチ」ディレクターの柿本くんに誘ってもらったのがきっかけで始めました。仕事でなかなか行けない事も多いので、「やっている」と堂々と言えるレベルなのかはわからないですが、それでも年に1度は、先輩方と行くサーフトリップへご一緒させていただいています。日本とは違う文化や大自然、環境に感動したりします。あとは、フットサルもしています。こう見えて、意外とアクティブなんですよ。漫画も好きですね。最近心を洗われたのは『さよなら群青』という作品。PL学園野球部の話を描いた『バトルスタディーズ』もいまはまってます。登場人物のファッションで言うと、絵のタッチも含め『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズはお洒落だなって昔から思っていました。漫画を読んでいる時が一番リラックスしているかもしれません。

知識よりも、感覚を大切にしたい。

— スタイリングの引き出しを増やすためにやっていることはありますか?

まわりからは“ロジック感のあるスタイリング”と言われる事が多いのですが、自分では、常に感覚的でいたいと思っています。海外のコレクションは毎シーズンチェックするようにしていますし、洋雑誌もチェックしています。撮影の時、ページ作りのイメージソースにすることもあります。よく昔の映画のスタイリングを参考にするという話があるのですが、僕は映画から取り入れることはそこまでないかもしれないですね。とくに意識して引き出しを増やすという作業はしてないと思います。最近は、イギリスのユース感漂うスタイルをつくるのにはまっています。サッカーのユニフォームを取り入れたり、サスペンダー使い、チェック柄、細身のパンツなど。いわゆるフーリガンやモッズ的な着こなしですね。そういったアイテムや着こなしを自分なりに消化してスタイリングに落とし込んでます。

足と身長のアンバランスな大きさが悩み。

— 革靴を履くようになったきっかけはありますか?

僕は、もともとそんなに革靴を履いていなかったんですよ。服飾の専門学校に通っていた時には、派手でクセのある服装で、足元はさらに独特なはずしを考えていました。アシスタント時代は靴の脱ぎ履きが多いうえにしゃがむことも多かったので、基本的にはスニーカーを履くことの方が多かったです。ちゃんと革靴を履くようになったのは、独立してからですね。様々な年代の媒体の仕事をさせていただくようになってどんどん増えていった気がします。それからは、気分やトレンドに合わせて好きなものを購入しています。あまり履いてないものも含めると、30足くらいに増えました。僕は身長が177cmなんですけど、それに対して足が26cmしかないんですよ。足元にボリュームがないと変に足が小さく見えてしまうので、基本的には身長とのバランスが取れるような革靴を選ぶようにしています。

スタイリングに取り入れやすい万能靴。

— 「ジョセフ チーニー」のサイドゴアブーツを購入された理由は?

チーニーのサイドゴアブーツは、ボリュームがあって男らしいのに、プレーンで上品なところが気に入りました。サイドゴアブーツ自体はもともと好きで、個人的にはとても万能な形だと思っています。脱ぎ履きしやすいですし、カジュアルにもスーツにも合わせられます。一時、スキンズをイメージソースにしたスタイリングにはまってたんですが、編み上げブーツのかわりにその時もよく取り入れていましたね。僕は、基本的にスラックスを履いていることが多いのですが、スラックスのレングスをこのブーツに合う丈に丈上げして、トップスをあえてスウェットやカジュアルなブルゾンでハズすというのは好きなスタイルです。昔は本格靴の“入門ブランド”というイメージだったんですが、最近では感度の高いファッション業界の人たちに「チーニー、良いよね」って褒められることが増えた気がします。

長く愛用したいからこそ、プロの力を借りる。

— 手入れのこだわりはありますか?

当初は自分でメンテナンスをしていたんですが、履きジワをうまく伸ばすことができなかったんです。とはいえ、なかなかお店にシューケアを頼むのは腰が重くて……。ところが、試しに「THE BAR by Brift H」にお願いしたところ、仕上がりの違いに感動したんです(笑)。しかも、日常のメンテナンス方法まで教えていただいて! それ以来、気になってきたらお店に持って行くようにしています。このブーツは週4日ペースで履き込んでいるせいか、すでにソールを二回替えて、カカト部分も修理しています。でも、これだけヘビーに履いていてもアッパーだけはかなり綺麗なんです。さすが、プロの力です!(笑)。

スタイリスト
小松 嘉章さん

1983年、秋田県生まれ。文化服装学院を卒業後、5年間のアシスタント時代を経て2009年に独立。現在は、ファッション誌を中心に、俳優やアーティスト、広告など幅広く活躍。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda

靴磨きチャンピオンが惚れ込んだ ドレス靴ではない一足。 「Brift H」代表 長谷川 裕也

アウトドアの頼れる相棒シボ革のレースアップブーツ。

年間約10,000足を磨きあげるシューラウンジ「Brift H」。代表を務める長谷川裕也さんは、2017年にロンドンで開催された世界靴磨き大会で優勝した、ワールドチャンピオン。日々数多の革靴のメンテナンスを手がけている氏に、「ジョセフ チーニー」の魅力と想い出を語っていただきました。

世界的に小さな“靴磨きムーブメント”が起きている。

— 年間でどのくらいの革靴を磨かれていますか?

今は繁忙期ですので、1日に20足は革靴を磨いています。通常は、1日に10足くらいでしょうか。僕だけでも、平均年間2,000〜3,000足は磨いています。お店全体では、年間10,000足くらいです。最近は、靴磨きを自分でやられる方も増えています。当店でも、以前は靴磨きのご依頼のお客様が主だったのですが、ケア用品を買いに来る方も増えましたね。一昨年に上梓した『靴磨きの本』も、売れ行きが伸びていますが、本を読んだり、Youtubeなどで動画を見て参考にして自分で磨かれているようですね。お店や百貨店などのイベントで靴磨きをすることもあるのですが、昨年末に行った香港やバンコクでも予約がフルで埋まるくらい好評でした! 日本以外の国々ですと、靴磨きの専門店がほとんどないので、特別感があるのかもしれませんね。当店でも、とくにアジア系の旅行者の方が、革靴を持ってきてくださることが増えてきています。世界的にちょっとした“靴磨きのムーブメント”が起きているのかもしれません。

釣りと筋トレはライフスタイルに欠かせない。

— オフタイムには、どんなことをされていますか?

ずっとサーフィンをやっていたのですが、息子が小学生になってからは一緒に釣りへ出かけることが増えました。千葉の鴨川や舘山の辺りへ車で行くことが多く、早朝に釣具屋さんで仕掛けを買いつつ、何が釣れるか情報収集をしています。3月に、息子と男二人で奄美大島へ釣り旅行に行くのがとても楽しみです。あとは、パーソナルトレーナーさんについていただいて、定期的に体幹メインの筋トレをしています。靴磨きは左手で靴を押さえて、右手で磨くので、身体の左側に負担がかかって凝りやすくなるんです。その結果、筋肉量のバランスが悪くなるので身体を鍛える必要があります。じつは、2年前に靴磨きをできないくらい首が痛くなったんですよ。鍼治療や、カイロプラクティックなどを試してはみたんですが、あまり効果が望めず……。最終的にトレーニングをすることで治ったので、それ以来ちゃんと身体を鍛えるようにしています。

職業柄、どうしても増えてしまう革靴。

— 革靴は何足くらいお持ちですか?

今は25足ほどでしょうか。職業柄、勉強という意味もあっていろいろと買ってしまうんですが、子供が大きくなってきて下駄箱のスペースも限られてきたので、断捨離しました。一時は70足くらいまで増えてしまったんですが(笑)。コレクション欲はまったくなくて、革靴はあくまで“ファッションアイテム”だと思っています。だから、人とかぶらないモノであったり、自分が楽しんで履けるモノを選ぶようにしています。今日持ってきたスエードのシューズ(画像右)は、昨年末にトランクショーを行った香港の「アーモリー」というお店で買ったものです。茶のスエードは毛先が白っぽく見えることもあるので、黒いスプレーを吹いて、徐々に色を濃くしています。ブローグシューズ(画像左)は、イギリスで修行を積まれた川口昭司さんの手がける「マーキス」のビスポークシューズです。英国人よりも英国らしい靴を作っていて、履いていると「それは、どの英国ブランドの靴ですか?」と聞かれることが多いです。僕は、右足の小指が張り出ていたり、左足の薬指に魚の目みたいなものができやすいんです。なので、もちろん既成のモノも買いますが、最近ではビスポーク(オーダーメイド)で靴を誂える機会が増えていますね。

かなりの頻度で愛用しているレースアップブーツ。

— 「ジョセフ チーニー」との出会いを教えてください。

13年前に路上で靴磨きをスタートした時に、当時一緒に活動をしていた友人が「良い靴が欲しい」と言い出して丸の内の「トゥモローランド」に入ったんです。そこで、彼が買ったのがチーニーのセミブローグシューズでした。それが初めての出会いかもしれません。個人的に思い入れがあるのは、このレースアップブーツですね。実用性が高いので、じつは釣りをする時にも履いて行っています。グリップ力があるので、危険な堤防やテトラポットの上でも滑らないですし、水にも強いのでかなり重宝しています。釣り以外でも、天候が悪い日やオフの時には結構な頻度で履いていますよ。まさに、頼れる相棒的な感じです。見た目はゴツいんですが、履き口が柔らかくて履きやすいところも良いですね。最近は紐が面倒になってきてしまったので、レースアップを解かなくても脱ぎ履きできるように、ブーツの内側にジップを付けてカスタムしたいと画策しています(笑)。黒のシボ革は、ジップとの相性も良いと思うんですよね。

良いエイジングには、革靴への気配りが必要。

— 革靴の楽しみ方を教えてください。

やはりエイジングですね。磨くにつれて色が変化していくのも良いですし、意図的に濃い色や薄い色を入れることで変化させるのも面白いですよ。よく雑誌で、“○○さんが十何年前に買った革靴”という特集がありますが、履き込んだ革靴はかっこいいんですよね。新しくピカピカであることよりも、手入れをしていくことででてくる本当の味。早く自分の持っている革靴すべての味を出したいなと常々思います。当店のお客様でも、エイジングがうまくいく方とそうでない方がいるんですが、シューツリーを入れていなかったり、連続で何日も履くとダメなんですよね。一方で、ブーツに関してはガンガン履いている方がかっこいいですよね。ドレスシューズとは違って、疲れ切っている感じが良かったりもします。いずれにしても、革の寿命を延ばすというのがケアをする上で一番大事なことだと思いますので、クリームを入れるのは必須ですね。光沢加減は革靴の種類や好みによって変えるとより違いが出て楽しめますよ。

靴磨きは、長く愛用するためのメンテナンス。

— 革靴との理想的なつき合い方を教えてください。

うちのお客様で、「ジョージ クレバリー」でビスポークをするようなお洒落な方がいるのですが、その一方で30年くらい前に購入された「ロイド」の革靴をずっと履かれています。革がバリバリに割れているんですが、きちんと磨いているので、そのダメージすら絵になっていて。ボロボロになっても様になるのは、さすが英国靴だなと思います。その方は、綺麗なビスポークシューズも履きつつ、時にはずっと愛用している「ロイド」の靴をスーツに合わせているのがとても素敵です。まるで、長年愛用している革靴をパッチしながら履いているチャールズ皇太子のようで。とくに、ドレスシューズに関しては傷や汚れにあまりに神経質になる方や、実用というよりコレクションで集めている方も多いのですが、リアルに履いている方がつき合い方として正しいですし、個人的にはかっこいいと思います。長く愛用するために、大切にするというのが靴磨きの本懐。さらに広く靴磨きの文化や魅力を広められるよう、これからも活動をしていきたいです。

「Brift H」代表
長谷川 裕也さん

1984年、千葉県生まれ。株式会社「BOOT BLACK JAPAN」代表取締役、「Brift H」代表。路上での靴磨きからキャリアをスタートし、2008年には世界初のカウンタースタイルの靴磨き店「Brift H」をオープン。2017年にロンドンで開催された第一回「世界靴磨き大会」にて優勝。名実ともに世界一の靴磨き職人の称号を手にいれる。著書に『靴磨きの本』など。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda