ファッションエディターが心を打たれた、アイコンの履きこなし。 「ウフィツィ・メディア」代表 矢部 克已


Murton


都会的なスーツに、カントリーシューズを合わせるという意外性。

「ウフィツィ・メディア」代表/ファッションエディター・ジャーナリストとして、さまざまな媒体で活躍する矢部克已さん。イタリア在住経験があり、年に2回開催される「ピッティ・ウォモ」に毎回足を運んでいる氏は、ファッションを始め、グルメやアートなどのカルチャーにも精通しています。今回は、イタリア的視点で見る「ジョセフ チーニー」の印象や、愛用されているモデルの思い出を伺いました。

構想を練るのが、一番の醍醐味。

— 現在はどのようなスタイルでお仕事をされていますか?

ファッションエディターとして雑誌の誌面を作ることがメイン。昔ながらのやり方かもしれませんが、原稿を書くことも含めて0から100まで一貫してやりたいというのが僕のスタンスです。編集という仕事にはさまざまな局面がありますが、漠然と企画を考えている時が一番楽しいかもしれないですね。打ち合わせや会議では企画書を用意して、どういう構成やロジックになっているのかをプレゼンするわけですが、それよりももっと前の段階です。どこかへ出かけている時に、「男のスタイルがこういう風だったらかっこいいんじゃないか」とか「こういう内容をこんなスタッフで作り上げたい」あるいは「自分が担当する原稿をどこまで深く面白く書ききれるか」と、構想を練ることに充実感があります。編集の仕事に就いてから30年以上経つので、よく「飽きないね」と言われますが、飽きたらとっくに辞めているはずですよね。今はこれまで以上にひとつひとつの仕事に時間をかけたいという想いが強いので、ピュアな気持ちで写真や文章のクオリティを上げられるように心がけています。そういう細かい部分を積み重ねていくことで、納得できる仕事になると思うんですよね。

— イタリアへはどのくらいの頻度で行かれていますか?

毎年1月と6月に開催される「ピッティ・ウォモ」と、もう1本別の取材が年間のプランに入っています。ですので、最低でも年に3回は行っています。僕は、『流行通信HOMME』と『Men’s Club』の社員編集者として合わせて10年勤めた後、退社して1997年から1年間イタリアへ”留遊学”していたんです。その時は、初めにフィレンツェに住んで、その後はナポリやヴェネツィア、ミラノへ移動しました。帰国後フリーランスになってからは、現在のように仕事で行くようになりました。基本的にはファッションの仕事が多いのですが、一時期はフィレンツェで「ピッティ・ウォモ」を取材した後、トスカーナ州のワイナリーを見て巡っていたこともありました。機会があれば、プライベートでゆっくりと行きたいと思っています。

唯一無二なモノづくりが好き。

— モノを選ぶ際のこだわりを教えてください。

オーダーメイドでもプレタポルテでも、何か思いが込められたモノが好きです。たとえば、10年以上愛用しているモノに「ビスコンティ」のペンがありますが、これはヴァン・ゴッホの作品をデザインに落とし込んだスペシャルなコレクションの逸品。「ひまわり」をモチーフとしてデザインに落し込んだ1本に出会ってから、何本も蒐集するようになりました。既製品ながらも、決して同じものは1本とないところが気にいっています。


Left: Avon C

革靴は、60足ほど所有しています。その多くは、オーセンティックなモノづくりのドレスシューズです。カントリーシューズも持っていますが、ツイードのスーツなど秋冬シーズンのコーディネートに取り入れることが多いです。いずれにしても、スーツに合わせる靴はある程度伝統的な面構えを備えた、エレガントなデザインを選びます。そういう意味で英国靴は良いですね。イタリア人もクラシックな服が好きな人ほど、英国靴のモノづくりや伝統をリスペクトしています。

クオリティと価格のバランスが取れたブランド。

— 「ジョセフ チーニー」との出会いはいつですか?

2010年の5月に、「ジョセフ チーニー」の共同経営者の一人、ジョナサン・チャーチ氏にインタビューをさせていただきました。まだ当時は「チャーチ」の下請けという印象が強くて、ブランドとしてあまり輪郭が立っている感じはしていませんでした。ところが、「インペリアルコレクション」という素晴らしいドレスシューズを見せられて印象が変わりましたね。それ以来、注目するようになりました。今日履いているシューズも、今年の1月に「ピッティ・ウォモ」へ行った際にブースで見せてもらってオーダーしたものです。イングリッシュタンのカラーも好きですし、履き心地も良くて自分の足に馴染んでいます。近年では、バイヤーの間でコストパフォーマンスを重要視する傾向にあります。商品の魅力に加え、クオリティと価格のバランスという視点で見た時に、「ジョセフ チーニー」はとても良いレンジに位置していると思います。今後もさらにいろいろなデザインが期待されるのではないでしょうか。

ー「ジョセフ チーニー」の中でとくに思い入れのあるモデルはありますか?

2015年くらいに、元「タイユアタイ」ディレクターのシモーネ・リーギ氏にフィレンツェで会ったとき「AVON C」を履いていたんですよ。彼のスーツスタイルはゆったりしていて、ジャケットの着丈は長く、パンツも太いんですが、そんなスタイルにこの靴を合わせていたんです。「AVON C」はパーフォレーションの穴が大きいカントリーシューズなのに、都会的なスーツに合わせるというスタイルが面白く、「こういった格好もアリなんだ」と思いましたね。それで気になり、「欲しい、買いたい」と吹聴していたら、たまたまイタリア人で「ジョセフ チーニー」のエージェントの方がいて在庫を用意してくれたんです。ところが、購入したもののスーツに合わせるのが案外難しくて……。シモーネ・リーギ氏のセンスの良さや着こなしのうまさを感じました。僕はスーツではなく、ブルゾンに合わせて愛用していました。靴は単体で見て良いなと思う瞬間もありますが、誰かが履いていて良いなと思った時の印象は強烈です。余談ですが、今年の2月、我が家に兄が遊びに来た時に、ある勝負に負けて「AVON C」を泣く泣く譲ることになってしまいました。そういったことも含めて、とても因縁深いモデルです(笑)。

「ウフィツィ・メディア」代表
ファッションエディター・ジャーナリスト
矢部 克已さん

イタリア1年間の在住時に、フィレンツェ、ナポリ、ヴェネツィア、ミラノに移り住み、現地で語学勉強と取材、マンウォッチングを続ける。現在は、雑誌『MEN’S PRECIOUS』でエグゼクティブ・ファッションエディター(Contribute)を務めるほか、『MEN’S EX』『THE RAKE JAPAN』『GQ JAPAN』などの雑誌、新聞、ウェブサイト、FMラジオ、トークショーなどでも活躍。イタリアのクラシックなファッションを中心に、メンズファッション全般、グルメやアートにも精通する。
TwitterID:@katsumiyabe

photo TRYOUT text K-suke Matsuda

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