スーツはもちろん、アメカジなどカジュアルスタイルにも合う。
スタイリングの幅の広さを楽しめる一足だと思います。
スタイリスト・本間良二氏のもとで経験を積み、2015年に自身のブランド「Riprap」を立ち上げた西野裕人さん。修行時代には、洋服の着用シーンを提案するスタイリストアシスタントだけではなく、生地や縫製、ボタンなどの附属を選択する生産の仕事や、製品企画を経験されたそう。だからこそ、西野さんの手がけるプロダクトは、徹底したものづくりへの安心感と、コーディネートを楽しみたくなるファッション性を兼ね備えています。そんな「Riprap」が、2020年にジョセフ チーニーとのコラボモデルを初制作。また、お客様からの好評を受け、2021AWシーズンでも王道モデル「CAIRNGORM II R(ケンゴン Ⅱ R)」にブランドらしいエッセンスを加えた特別な一足を展開しています。別注のこだわりや思いを、西野さんの革靴遍歴と合わせてお聞きしました。
オリジナルのデザインを根多に、ブランドの解釈を見つける。
— 「Riprap」のモノづくりについて教えてください。
古典落語と通ずる部分があるのですが、メンズ服デザインとは「オリジナルというお題を、どう自分たちのものにしていくか」ということだと考えています。リップラップでは先ず「ハンドクラフテッドスーツ」という、ジャケット2型、シャツ1型、スラックス3型からなるドレスラインを定番展開。毛芯を使用したテーラードジャケットやマーベルト付きのスラックスなど、基礎となるアイテムを作ってから、生地や仕様、構造などの要素をシーズンのカジュアルアイテムに落とし込むやり方をしています。例えばスラックスだったら洗濯機でも洗えるようにマーベルトの腰裏生地をコットンに変換して製作したり、ベースボールキャップの芯地にはジャケットの毛芯を使用したり、ドレスシャツの工房でパジャマを縫ってもらったり……ドレスとカジュアルで仕様や資材を転用しています。デザインアイデアに関しては、例えば救命胴衣のライフジャケットの膨らみをダウンベストとして製作し、防寒着として提案しました。元々ある根多(デザイン)を“お題”として捉えています。そこに敬意を持ちながら、モノや時代とのミスマッチをつくったり、どうすればブランドらしく解釈できるのかということを考えながら洋服を作っています。
ファッションの愉しさを伝えることに、全力でありたい。
— シーズンごとのコレクションテーマはどのように決めているのですか?
プロダクトはデザインや素材の観点で考えればいくらでも作ることはできますが、テーマはそうはいきません。なので、最初から決めずに、ある程度洋服のサンプルができあがった段階で、「そう言えばこのアイテムを作るとき、あんな本や映画を観たなぁ」だったり、外に出かけて受けた印象や思った事を、頭の中でいったん編集して、咀嚼して言葉にします。それを展示会のDMにステートメント(声明)という形で載せています。ぼくは会話が好きなので、展示会でもポップアップイベントでも、商品説明から与太話までひたすら話しています。洋服はビジュアルだけではなく、メッセージも含めて、ファッションの愉しさをシェアすることに意味があると思っています。アナログなやり方なのかもしれませんが、だからこそ情熱を持った地方の個店さんからも支持されているのではないかと感じています。
足のコンプレックスから、靴紐専業ブランドをスタート。
— 「Riprap」と同時に、靴紐専業ブランド「SHOE SHIFT」を立ち上げられたのはなぜですか?
昔から足の形がコンプレックスで、モデルによってはインソールを入れないと履ける靴が限られてしまうほど、足幅が狭く甲が低いんです。そういったこともあり、靴に附属されている靴紐だと長さが合わないので、高校生の頃からスニーカーを買う時に、合わせて靴紐も買う習慣が染み付いていました。だからこそ、「誰でもフィットするシューレースブランド」という構想を昔から温めていました。それに加えて、リップラップを立ち上げる際に、洋服のコンセプトとは違った間口の広い専業ブランドとして立ち上げることにしました。シューシフトでは、長さを8サイズ、紐幅を2サイズ展開しているので、人間であれば合わない人はいないと思います(笑)。スニーカーでも革靴でも、靴紐の通し方ってたくさんあるので、お好みの通し方に合わせて、長さを替えて楽しむこともできます。
生産国に捉われず、琴線に触れた革靴を楽しむ。
— 革靴編歴を教えてください。
25歳くらいまで、革靴は〈クラークス〉くらいしか履いたことがありませんでした。昔からアメリカ古着が好きだったので、その次に手を出したのは〈ウォークオーバー〉のダーティーバックス。いずれもスニーカーと同じようなノリで履けるし、スエードなのでケアもそこまで気にならない。むしろ、履き潰してボロボロになった状態もかっこいいので、今でも捨てられなくて何足も所有しています。以前、文献で読んだのですが、「ホワイトバックスを汚して履くカルチャーから生まれたのがダーティーバックス」らしく、そういった背景に惹かれました。その後、師匠に勧められ〈ジェイエムウェストン〉のローファーやゴルフを買ったり、定番のプレーントゥが欲しくなったので〈オールデン〉を購入しました。そして、2020年に別注させていただいた〈ジョセフ チーニー〉のダービーシューズ「HARTWELL(MOD)」、この秋冬の「CAIRNGORM II R」に繋がり、今は英国靴へ関心が向いています。色々な靴を履いてみて思うのは、国ごとにそれぞれ良さがあるということです。アメリカ靴は足馴染みが良くて履きやすいし、フランス靴は古着と合わせても独特な色気がでます。一方で、英国靴は、質実剛健な作りが徐々に足に馴染んでいく過程を愉しめるのが魅力だと思いました。
念願の初別注は、思い入れの深いダービーシューズ。
— 2020年のジョセフ チーニーとの初コラボにいたる経緯や、シューメーカーとしての印象を教えてください。
ジョセフ チーニーのコレクションを初めて見たのは、2013年頃。輸入総代理店の渡辺産業の展示会へ行った時のことです。当時、僕は生産の仕事をしていたこともあり、モノの品質に敏感でした。だからこそ、ジョセフ チーニーのプロダクトを見た時に、めちゃくちゃハイクオリティに対して価格がリーズナブルなところに驚きました。それ以来、毎回展示会に呼んでいただき、独立してからも「いつか別注を実現したい」という思いが募っていきました。そしてブランドの成長と共に念願が叶い、2020年にリップラップとしても初となるレザーシューズを製作していただきました。別注にあたり、サンプルとなる新旧モデルや、革のスワッチなどもたくさん見せていただいて、自分の思い入れの深いシューズであるダーティーバックスをモチーフにしたいと思い、このデザインを選びました。自分の好きなものだからこそウチの洋服との相性も良く、お客様からも反響がありました。ぼく自身も、サンプルを1年半ほど頻繁に履いていて、汚れてきた姿も様になっているので気に入っています。
完成されたモデルだからこそ、コラボレーションの意義にこだわった。
— この2021年AWシーズンとして別注された「CAIRNGORM II R」のこだわりを教えてください。
ジョセフ チーニーのような歴史のあるシューメーカーが作る靴は古典だと思います。しっかりした作りで、何十年も前から受け継がれている形で。そこに対して、どうやってぼくたちがいじれば面白くなるかを考えました。とくに、「CAIRNGORM II R」のような伝統的なモデルですと、デザインが完成されているのでそこまでタッチすべきところがないんです。なので、デザインはそのままに、インラインにはなかったマホガニーカラーで別注させていただきました。また、通常トゥに施されているバーニッシュ加工をあえて省いてもらいました。職人さんからは、「なぜ仕上げの加工をしないのか?」という意見があったようですが、アッパーに色差がない方がぽってりとした印象に映るので、さまざまなスタイルに合わせやすいと思いました。あと、シューレースはシューシフトでこの靴の為に製作しました。“石目”という編み方で、加工をしてないドライな質感のコットン100%の紐を採用しています。今回のモデルは、前回のダービーシューズとは違い、ウチのお客様にとって真新しい印象に感じられるはずです。この「CAIRNGORM II R」は、ツイードのスーツだったり、仕立てのいいウーステッドのスラックスと合わせるようなカントリースタイルが真ん中にあるとすれば、外角にあるスタイルとして、例えばトラックの運転手がワークパンツとこの堅牢な靴を合わせていたらとてもクールだと思います。今回の別注アイテムを介して、「自分のイメージを持って服を愉しむことがファッションの本質じゃない?」。そんな提案ができたらと思います。ぼくたちにとってチャレンジの一足なので、今からお客様の反応が楽しみです。
西野 裕人
1984年生まれ、石川県出身。スタイリスト本間良二氏に師事。スタイリストアシスタント、〈BROWN by 2-tacs(ブラウンバイツータックス)〉の生産、企画、販売員などを務め、2015年に独立。2016S/Sシーズンより、自身のブランド〈Riprap(リップラップ)〉をスタート。コンセプトは、「ファッションとは個人を形容する手段と肯定し、リップラップは被服による発言化、発声化を提唱する」。また同時に、靴紐専業ブランド〈SHOE SHIFT(シューシフト)〉を始動する。
http://r-i-p-r-a-p.com/
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