コンプレックスから生まれた
前例のないサイドゴアブーツ。
数々のセレクトショップが取り扱う実力派ブランド「「COMOLI(コモリ)」。デザイナーの小森啓二郎さんは、長年ファッションの現場に身を置いてきた人物の一人です。そんな彼が放った、「ドレスシューズとは相性が悪い」という意外な発言。さまざまな変遷を経て「ジョセフ チーニー」にたどり着いたストーリーとその魅力を語っていただきました。
自分の服を試しに旅へ出る。
— デザイナーとしてコレクションイメージを高めるために、行なっていることはありますか?
旅ですね。年に2回、自分の服を試すという意味を込めて、展示会が終わるとすぐに行くようにしています。行き先は、次のシーズンの服をいち早く着られる場所。つまり、日本よりも早く春や冬が訪れる国ですね。最近ではアメリカの西海岸や、北欧の国々が多いです。2016AWコレクションの際に別注させて頂いた「ジョセフ チーニー」のブーツも、ロンドン、ベルリン、パリ、ミラノへ行って実際に履いてみましたし、今季新たに別注させて頂いたブーツもベルリンで試してきました。現地で実際に使用してみると分かることが沢山あります。そう考えると、洋服から離れて完全なオフの状態というのはないかもしれないですね。音楽でも映画でも何でも、洋服に繋げたいという気持ちで取り入れるようにしています。作らなくちゃいけないから作るのではなくて、常に新鮮な気持ちで服作りに臨みたいですからね。それがブランドの生命線ですし、意欲がないと作る物に出てしまうので。
自分のスタイルに合う革靴を模索して。
— 小森さんが革靴に関心を持つようになったのはいつですか?
僕は遅いですよ。初めて履いたのは、「ティンバーランド」のブーツ。その次に買ったのが「レッドウイング」のブーツだったかな。学生時代は「リーガル」のローファーを履いていましたけど。世界的に名の通った紳士靴ブランドのものを履いたのは、洋服屋に勤めてからですね。21歳の時に仕事で行ったパリで「J.M ウェストン」のローファーを買いました。ギャラリー・ラファイエットという百貨店でセールをやっていて、上司に「お前、これ買っとけ」と勧められたのがきっかけで。ところが、スニーカーと同じ感覚でサイズを選んだら、とんでもなく大きくて! みんなにバカにされました(笑)。次にパリへ行った時には、アナトミカという店で別注の「オールデン」を買いました。そのお店のフィッティングは独特で、足の実寸よりも大きなサイズを勧められて買ったんです。それもやっぱりしっくりこなかったんですよ。身体が華奢なのに足だけ異様に大きいのが気になって……。結局、自分のスタイルにドレスシューズはしっくりこないんですよ。ファッション的にもゆるい服が多かったので、それに合うバランスがないと言うか。いろいろなブランドのモノを試したんですが、どれもピンとこなかったですね。
ドレスシューズが構造的に似合わない。
— 相性が悪いというのは、足の形が特徴的だということでしょうか?
まさにそうなんです。最初に「J.Mウェストン」のローファーで失敗して以来、諦め切れずに別のサイズにも挑戦したんですが、やっぱり履いていると足が痛い。僕の足は幅が広くて平べったいので、中敷を入れないと余るんですよ。しかも、横に張っている分、欧米の横幅が狭くてシュッとしたフォルムの革靴は構造的に似合わなくて……。「ジャコメッティ」を取り扱っている会社の社長さんに会った時に、「君はドレスシューズが似合わないでしょ」と言われてようやく諦めがつきました(笑)。自分にはドレスシューズよりも、ブーツの方が相性が良いんだと。さすがに冠婚葬祭の時には割り切って履きますが、基本的にはサイドゴアやチャッカを選ぶことが多いですね。たとえば、「クラークス」のデザートブーツのように、ドレッシー過ぎないモノが好みです。ワークブーツを除けば、そもそもカジュアルなスタイルに革靴を合わせるようになったのは、自分でブランドをやり始めるようになってからですね。トータルウェアとして提案する上で、自分の作る服に合う革靴を考えるようになったのがきっかけかもしれません。
ワークブーツとドレスシューズの中間。
— 「ジョセフ チーニー」との出会いを教えてください
僕自身、もともとワークブーツが好きなこともあったので、ワークブーツとドレスシューズの中間のような革靴があったらいいなと思うようになりました。そういう靴があれば、自分のブランドで提案しているスタイルにも合うのかなと。いろいろな靴を試してはみたんですが、カジュアル感とドレス感のバランスがちょうど良いモノというのはなかなか見つからなくて……。そんな時に出会ったのが「ジョセフ チーニー」です。正直に言えば、当初は数あるイギリスブランドの一つというくらいの認識でした。ですが、歴史を辿ると「チャーチ」と密接な関係があるブランドで、現在はチャーチ創業家の方がプライドを保ちながら、正統派の靴づくりを続けているというお話を聞いて、とても興味を持ちました。靴の聖地・ノーザンプトンで、その伝統を守り続けているというスタンスにもなんとなく惹かれましたね。
靴作りの伝統とデザインの調和。
— 今季新たに別注された「ジョセフ チーニー」のこだわりを教えてください。
2016AWコレクションのブーツは、コマンドソールだったんですが、今回はシャークソールに変更しました。さらにカジュアルな雰囲気に近づいたと思います。これをいわゆるデザイナーズ靴を手がけるファクトリーに依頼すると、ただのデザイン靴になってしまう。イギリスの歴史ある老舗靴ブランドが作っているということに意味があるのかな、と思っています。革靴の構造的に無理があり、耐久性のないデザインは嫌ですが、そういう面でもバランス良く仕上げて頂いたので、長く愛用できる一足になりました。人が見た時に、「何の靴なんだろう?」と思われるデザインも気に入っています。自分で靴を作れるわけではないので、革靴に対する熱い想いがあり、良い質のモノを作ってくれるランドは貴重ですね。
シーンを選ばず、オールマイティに履ける。
— この靴はどんなスタイリングに合わせたいですか?
ヴェルヴェット・アンダーグラウンドというバンドのジャケット写真を見た時に、メンバーが黒い革ジャンに黒いパンツ、黒い革靴を合わせていたのがかっこ良くて。のブーツもそういうスタイリングに合わせたいというのはありました。「COMOLI」のコレクションの中でも、「ラベンハム」に別注したコートや、ブリティッシュモールスキンのパンツをすべて黒で統一し、ルックとして提案しています。あと、僕は作る前に先に使用するシーンを思い浮かべるタイプなんですが、たとえば、このブーツで言えば普段自分が生活している「日本の街」に合うということを意識してデザインしました。外国へ行くと建物や床が古いこともあって、無性に革靴を履きたくなるんですが、日本の街だとあんまり感じないんですよね。どちらかと言えば、スニーカーのようにもっと気軽な靴の方が合うと思うことの方が多いです。そういう意味では、このブーツはオールマイティで、シーンを選ばずに履けるというのが魅力だと思います。
小森 啓二郎さん
1976年生まれ。東京都出身。文化服装学院を卒業後、大手セレクトショップに入社。デザイナーとして10年勤めた後、独立。2011年に自身のブランド「COMOLI」を立ち上げる。“全ての洋服の原型は欧米から生まれ、ある目的の為に作られた物である”という基本概念に沿い、上質でシンプルな日常着を手がける。