英国好きのスタイリストが、12 年愛用しているドレスシューズ。「江東衣裳」代表/スタイリスト 部坂 尚吾

ジョセフチーニー


優れた技術の基盤とそれを積み重ねてきた伝統がある。
僕にとって「ジョセフ チーニー」は究極の “バイプレーヤー”です。

雑誌、広告、映画などで活躍するスタイストの部坂尚吾さんは、自他共に認める英国ラヴァー。毎年一度はイギリスを訪れ、その街の一員として雰囲気を味わい、人間観察を楽しんでいるそうです。そんな部坂さんですが、365日革靴以外は履かないというこだわりの持ち主。しかも、その趣向はかなり偏っているのだとか。長年愛用されている「ジョセフ チーニー」のお話と、革靴遍歴を尋ねました。

スタイリスト部坂 尚吾さん

イギリスの生活に溶け込み、雰囲気を味わう旅。

— よくイギリスへ旅行されているのはなぜですか?

イギリスのスーツスタイルが好きだったことが転じて、イギリスそのものを好きになってしまったからです。今では移住したいとすら思っています。だから、年に一度は休みを設けてヨーロッパへ旅行するようにしています。今年は、両親の還暦祝いを兼ねてイギリス旅行をしてきました。以前、フランスが好きな妻に合わせ、イギリスとフランスとの一週間ずつの滞在になったことがありましたが、滞在時間が短すぎて少し消化不良でした(笑)。観光地を巡るツアーも楽しいですが、できる限りその街に長くいて、そこで暮らすかのように滞在するようにしています。そのおかげで、表面的ではない物事を発見できるように思います。また、その際になるべく日本にいるときと同じような生活リズムをキープするように心がけています。旅先で張り切り過ぎて無理をしてしまうと大体体調を崩してしまうので……。イギリスはお店の閉まる時間が早く、早寝早起きの僕の生活リズムにもぴったり合っています。旅行はそういったことを実感したり、街や人の雰囲気を味わうことができる贅沢な時間です。あまりにも有意義な時間を過ごすことができるので、帰国するのが億劫になってしまうことがしばしばあります。

グレンロイヤル

スタイルからオリジナリティを感じること。

— 英国人から学んだことでとくに印象的だったことはありますか?

イギリスに行くたびに強く思うのは、確固たる自分のスタイルを持った人が多いということです。トレンドに敏感で、街を観察すれば何が旬なのかおおよそ見当のつく日本とは異なり、イギリスではそれが非常にわかりづらいです。たとえば、「ザ・フー」のバンドTシャツを着て、ボロボロのジーンズという出で立ちなのに、なぜか足元だけピカピカに磨かれたドレス靴を履いている人や、ビスポークであろうスーツを着こなす銀幕スターのような人など、オリジナリティ溢れる格好の人が多いです。自分自身のポリシーを持っていてスタイルを大切にする文化はとても魅力的に感じます。作り手のこだわりが伝わるものに魅力を感じて手に取ることが多いのですが、気が付けば茶系のレザーアイテムが多くなっていました。いずれも、昔ながらの製法を受け継ぐなどポリシーやスタイルを貫いているメーカーが多いです。先日のイギリス旅行でも、ブライドルレザーの水筒ケースに一目惚れしました。保温性に優れているようにも見えないし、とりわけ軽い訳でもない。なぜこれを生産しようと思ったのかが気になって仕方がなかったです。お店の店員さんも“本当に買うの?”というような表情をしていました(笑)。

ジョセフチーニー

365日革靴で過ごすのが、部坂流。

— 英国のオリジナリティを大切にする考えは、部坂さん自身のスタイルにも生きていますか?

そうかもしれません。僕は20代の前半の頃から革靴以外履かなくなりました。なぜかと言えば、革靴を履くとコーディネートが締まるのでかっこいいからというシンプルな理由です。昔、テレビ番組のADをやっていた時にロケハンで無人島へ行ったんです。その時にも当然のごとく真っ赤な革靴を履いていったら、ディレクターに「ふざけんなっ!」と本気で怒られたことがあります……。撮影前日に「別の靴を買ってこい」と言われてお金をもらったのですが、あろうことかコンバースのオールスターハイカットを買って行ってまた怒られました。もっと脱ぎ履きしやすい靴で来いという真意をはき違えていましたね(笑)。スタイルを貫くというのはなかなか簡単なことではありませんね。僕自身は、今も365日革靴を履き続けています。もちろんスタイリングをする際には、自分の好みを押し付けるようなことはしません。ですが、僕の好きなスタイルを理解し、共感してくださる方とお仕事をさせていただく機会が多いのは嬉しいことです。

ジョセフチーニー

自身の原体験であり、スタイルに合う英国靴に傾倒。

— 革靴遍歴を教えてください。

初めて履いた革靴のことはあまり覚えていないのですが、20代前半の時にスーツに合わせて英国靴を買ったのが最初だと思います。今日履いている「ジョセフ チーニー」を購入したのもその頃だったはず。その後、当時まだ根強く残っていたクラシコイタリアブームの影響でイタリア靴も履くようになりましたが、現在では、英国靴が圧倒的に多いです。たとえば、「ジョセフ チーニー」をはじめ「ジョンロブ」「エドワードグリーン」「チャーチ」「ジョージクレバリー」「フォスター&サン」「クロケット&ジョーンズ」「トリッカーズ」など、一通り英国メーカーは履いていますし、所有している革靴の8割は英国靴です。自分が履いてみたいと思ったものと、衣装として使ってみたいものを収集していった感じでしょうか。英国靴以外ですと、イタリアの「ストール・マンテラッシ」「マンニーナ」「エンツォ・ボナフェ」、フランスの「パラブーツ」なども何足か持っていますが、やはり英国靴の比ではないですね。こういった話をしていて、よく人に驚かれるのが、アメリカ靴を一足も持っていないことです。稀に衣装として使用することはあるものの、ついに自分で購入に至る機会はありませんでした。

ジョセフチーニー

12年前に、先輩の勧めで手に入れた思い出の品。

— 本日履かれている「ジョセフ チーニー」はいつ頃に購入されたものでしょうか。

これは12年ほど前に、当時勤めていたセレクトショップで購入しました。僕の着ていた英国式のスーツに合わせて、先輩が見立ててくれた思い出の一足です。古典的なバーズアイのスーツに、ストレートチップでは真面目過ぎるので、内羽根にメダリオンが施されたこのモデルを推薦してくれたんです。ドレスの革靴自体を履き始めて間もない頃に購入した一足ということもあり、思い入れが深く今でも愛用しています。自分で定期的に磨いているのですが、とても気に入っているので、時には二日連続履いてしまうこともあります(笑)。それにも関わらず12年間履いても未だに現役で、本当にしっかりした作りだということをしみじみと感じています。最近「ユニオンワークス」でオールソール交換をお願いしたのですが、従来のレザーソールからオークバークレザーのソールに換えたり、ヴィンテージスティールを施すなど、カスタムすることで違いを楽しんでいます。この「11028ラスト」は、履いた時の足の収まりがとても心地良いです。トゥが細くウィズが広いデザインも、スタイルを選ばずどんなスーツにも合わせやすいところが魅力的ですね。

ジョセフチーニー

主役にも脇役になる、究極の“バイプレーヤー”。

— 「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。

10足以上持っていますが、クローゼットを見返してみて改めてラインナップの幅広さを感じました。僕が所有しているモデルだけでも、「CAIRNGORM Ⅱ R (ケンゴン Ⅱ R)」のようなカントリーブーツカントリーシューズ、「ALFRED(アルフレッド)」のようなドレス靴シューズ、コンビのローファーみたいなカジュアルなものまで様々です。メーカーさんによって、ジャンルの得意不得意があると思うのですが、「ジョセフ チーニー」のコレクションはどのモデルも履きやすく、スタイリングに合わせやすいのが魅力だと思います。また、数多い英国の靴ブランドの中で、圧倒的に他社とのコラボレーションモデルが多いのではないでしょうか。優れた技術の基盤がしっかりとあり、それを積み重ねてきた伝統があります。それが、多少のアレンジを受け入れられる余裕を生み出すのではないでしょうか。こうした高い柔軟性を備えた「ジョセフ チーニー」を、僕は究極の“バイプレーヤー”だと思っています。これほどバランスの取れたメーカーは、稀有なのではないでしょうか。

スタイリスト部坂 尚吾さん
スタイリスト
部坂 尚吾さん

1985年生まれ。松竹京都撮影所、テレビ朝日での番組制作を経て、2011年よりスタイリストとして活動をスタート。2015年に、「江東衣裳」を設立する。映画、CM、雑誌、タレントなどのスタイリングから、各種媒体の企画、製作のディレクション、執筆など、マルチに活躍。BRITISH MADEのWEB内「STORIES」にて連載中。現在、スタイリストアシスタントを募集中。

photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda