125コレクションとシティコレクションを徹底比較

ジョセフ チーニー

ジョセフ チーニーを代表するドレスシューズには、125コレクションとシティコレクションという2つの定番ラインがあります。大きな違いはラストが異なる点。それによってフォルムやディテールがどう違うのか、またデザインや素材、製法なども含めて、両コレクションの相違点や共通点について比較します。
1.コレクションとラスト

125コレクションはジョセフ チーニーの創立125周年を記念し、2011年に開発した125ラストを使ったラインです。ストレートチップの「ALFRED(アルフレッド)」、セミブローグの「WILFRED(ウィルフレッド)」、ウイングチップの「ARTHUR Ⅲ(アーサーⅢ)」等があります。125ラストはアーカイブの中から、名作2003ラストのラウンドトゥと6184ラストのヒールカップ部分を取り入れて作りました。6184ラストとは、かつてアメリカ市場向けに生産していたライン「ロイヤルツイード」に採用されていたものです。125ラストの特徴は、ウィズがFなのに対してヒールカップをDハーフにしたコンビネーションになっていること。踵が小さい現代人に合うようにバランスよくデザインしています。

125コレクション

125コレクション。左よりWILFRED(ウィルフレッド)のブラック、モカ、ALFRED(アルフレッド)のブラック、ARTHUR Ⅲ(アーサーⅢ)のブラック。

wilfred

125コレクションを代表するモデル「WILFRED(ウィルフレッド)」。内羽根式のセミブローグで、ブローギングとメダリオンがほどよい華やかさを添えます。

一方のシティコレクションは、ストレートチップの「LIME(ライム)」、クォーターブローグの「FENCHURCH(フェンチャーチ)」、ウイングチップの「BROADⅡ(ブロードⅡ)」、外羽根式プレーントゥの「OLD(オールド)」といったモデルがあります。名前からも想像できる通り、世界有数の金融街として知られるロンドンのシティで働く人々から支持を得ているコレクションです。細くシャープな印象のアーモンドトゥが採用され、またノーズがやや長めなのでエレガントなたたずまいを身上としています。
シティコレクション

左よりシティコレクションのBROAD II(ブロード Ⅱ)、FENCHURCH(フェンチャーチ)、LIME(ライム)、OLD(オールド)で、すべてブラック。

シティコレクションを代表するモデル「LIME(ライム)」。シックな内羽根式のストレートチップで、華美な装飾を控えたオーソドックスなデザインです。

2.印象とスタイル

それでは、125コレクションとシティコレクションの全体的なイメージの違いから見ていきましょう。どちらのコレクションも内羽根式が中心で、オーセンティックなデザイン。125コレクションは丸みのあるトゥが印象的で、昔ながらのイギリス靴らしい丸みがあるものの完全な丸ではなく、少し角が残るようなフォルムです。まさにクラシックな正統派のイギリス靴というたたずまい。ややボリュームがあるため、グレンチェックやツイード、フランネルといったクラシックな柄や厚手の生地のスーツとも好相性です。対するシティコレクションはやや幅広でノーズも長め。アーモンドトゥなのでドレッシーな印象が強く、都会的なスタンダードなスーツに合わせやすくなっています。服装としては、英国調のクラシックスタイルには125コレクションが、モダンなスタイルにはシティコレクションが似合うといえるでしょう。

クラシックなフォルムを持つ125コレクション(左)と、エレガントな印象を与えるシティコレクション(右)。

3.ディテール

ディテールを見ていくと、125ラストはウィズがやや細めで前述の通りヒールカップは小さめ。11028ラストは全体的に余裕があり、ウィズも広めになっています。甲の高さについてもつま先の方は11028ラストの方が若干高いのですが、125ラストはしっかり下がって角度を付けて上がっています。より立体的なフォルムなのが125ラストで、一方の11028ラストはなだらかな傾斜になっています。一般的には125ラストの方が日本人には合いやすいといわれているのですが、幅広甲高な人には11028ラストの方が合う場合もあります。どちらのラストに合うかは足の形状との相性によっても変わりますので、着用時のスタイルに合うソックスを履き、フィッティングでしっかりと見極める必要性があります。

125ラスト

イギリス靴らしいラウンドトゥとやや細めのウィズを持つ125ラスト。

11028ラスト

スマートな形状のトゥとやや幅広のウィズを持つ11028ラスト。

125ラスト

トゥから甲にかけてのラインは一旦下がった後に、やや急な角度で立ち上がる125ラスト。

11028ラスト

トゥから甲にかけてのラインは下がることなく、なだらかな傾斜で上がっていく11028ラスト。

ヒールカップ

11028ラスト(左)と、6184ラストのヒールカップを継承した125ラスト(右)。125ラストの方が高い位置まで踵をホールドし、台形のように上にいくに従って幅が狭まっていきます。

4.素材と工程

レザーについて、125コレクションはドイツのタンナーであるウィンハイマーのボックスカーフを採用しています。同社は伝説のタンナーといわれているカール・フロイデンベルグの技術を引き継いでいる、ボックスカーフにおける名タンナー。裁断する際に、伸びやすいところやシワが出やすいところを考慮して、レザーにおける適正な部分をカットしていきます。対して、シティコレクションではヨーロッパの上質なカーフを大量に仕入れ、無駄なく裁断することでコストを抑えています。新品時における見た目の印象はほとんど変わらず、125コレクションとシティコレクションに使う材料の中で、唯一異なるのがアッパーに使われるレザーです。レザー以外の材料は同じものを使用しています。

125コレクション(左)はウィンハイマーのボックスカーフを、シティコレクション(右)はヨーロッパの上質なカーフを使っています。

最後に125コレクションとシティコレクションに共通する要素として、製造について説明します。レザーのカッティングからファイナルポリッシュまでの全工程をノーザンプトンの自社工場で完結。製造工程や期間は基本的に同じで、熟練の職人によって8週間で160以上の工程を経て作られています。

125コレクション(左)とシティコレクション(右)のヒール。ともに踵の積み立てにはすべてレザーを使っています。

特に強調したい点としては、見えないところまで実直に作っているということ。ウェルトのアウトステッチはピッチが均等で細かく出し縫いを行い、インソールとアウトソールをくっつける際、接着剤を多く使用すると屈曲性が劣るため、ステッチでしっかり止めています。グッドイヤーウェルト製法の作りについても、アッパーのつり込みが深くできているため立体的に立ち上がり、フォルムが美しく見えるようになっています。さらに細かい点でいうと、コバの側面中央を削って上下にエッジを付けるダブルリップという美しく見せるための仕様も、シティコレクションでも簡素化せずに行っています。アッパーに使っているレザーの違いによって、価格帯が異なる125コレクションとシティコレクションですが、妥協のないもの作りはまったく同じなのです。