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服飾ジャーナリスト・飯野高広が語る、ジョセフ チーニーの定番モデルとアーカイブ。

服飾ジャーナリスト・飯野高広が語る、ジョセフ チーニーの定番モデルとアーカイブ。

服飾ジャーナリスト・飯野高広が語る、ジョセフ チーニーの定番モデルとアーカイブ。

靴の聖地・英国ノーザンプトンで1886年に創業した「ジョセフ チーニー」。

130年を超える歴史を持つ老舗シューズメーカーであり、カッティングからファイナルポリッシュまで、すべての工程を自社で行うという確固たるポリシーを守り続けています。

創業者の孫の代より海外への供給を始め、日本では約30年間、渡辺産業(ブリティッシュメイド)が総輸入代理店として継続して取り扱いをしています。同社には、過去の貴重なアーカイブモデルが貯蔵されています。

今回は、大量のアーカイブの中から、珍しいデザインや特徴的なラストを使っているモデルを幅広くピックアップ。“紳士靴の生き字引”とも言える服飾ジャーナリスト・飯野高広さんに、その魅力や歴史を定番モデルと比較しながら語っていただきました。「ジョセフ チーニー」のルーツを紐解き、さまざまな角度からこだわりを徹底解明していきます。

服飾ジャーナリスト 飯野 高広さん

服飾ジャーナリスト 飯野 高広さん

1967年生まれ、東京都出身。大学卒業後、大手鉄鋼メーカーに約11年間勤務し、2002年に独立。ビジネスマン経験を生かしたユニークな視点で、紳士靴やスーツなど男性の服飾品にまつわる記事を執筆する服飾ジャーナリストとして活動する。現在は「バンタンデザイン研究所」で講師を務める傍ら、さまざまなメディアに寄稿。「靴磨き選手権大会2020」のアドバイザーも務める。代表的な著書に『紳士靴を嗜む~はじめの一歩から極めるまで~』(朝日新聞出版)など。

【現行モデル編】

時代と人を観察し、アップデートを繰り返すのが本物の定番。

時代と人を観察し、アップデートを繰り返すのが本物の定番。

ーまずは、飯野さんにとっての「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。

ジョセフ チーニーの靴はバランスが良いと思います。“地に足がついている”と言い換えても良いかもしれません。とくに現行モデルには、木型やデザインに王道の英国靴らしいものが多いのでどんなコーディネートにも合わせやすく、あくまで履いている人を主役に引き立ててくれます。また、質実剛健な作りなので安心して履けるというのも良いですよね。

とくにドレスシューズのメインラストである125は「インサイドストレート&アウトサイドカーブ」というお約束ごとをきちんと守っているので、既成靴でありながら立体的な構造となっており、すごくバランスの良い木型だと感じます。まさに今の時代における“クラシック英国靴の定番”になるべくしてなったメーカーだと思います。

WILFRED(ウィルフレッド)」、「ALFRED(アルフレッド)
左から:「WILFRED(ウィルフレッド)」、「ALFRED(アルフレッド)」

ーたしかに、時代に合わせて木型やデザインをアップデートしているというのは、一つの特徴かもしれません。

人間の足は、時代によって微妙に変化していますよね。昔ほど外で遊ぶことが減ったとか、ワークスタイルがオフィス中心になったとか、ライフスタイルが多様化しているわけですが、ある段階から日本人の足の特徴が変化し始めたのを受けて、英国靴の木型も従来「日本人向け」と思われていたものを含めて進化させる必要が出てきたのです。

一世代前の日本人であれば、よく言われる「甲高幅広」に作れば間違いなかったのですが、1964年の「東京オリンピック」頃に生まれたちょうど私くらいの世代からは、そのセオリーが通用しなくなってきました。

また、どうやらイギリス人と比べると日本人は世代を問わず踵が小さいようで、踵のホールドが強い方が良いという発想が2000年代に出てきたんです。
ジョセフ チーニーで言えば、ドレスシューズの定番モデル「ウィルフレッド」と「アルフレッド」で採用されている125ラストは、名作2003ラストのトゥシェイプと、踵まわりは6184ラストをミックスして現代人に合うように作られていますよね。これは、さらに同社の標準であるFウィズに対して、Dハーフウィズのヒールカップを組み合わせることで踵のホールド感を上げています。そういう意味では、時代の潮流をしっかり捉えた、現代人の足型に合う革靴と言っても過言ではないですよね。

CAIRNGORN Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」、「AVON C(エイボンC)
左から:「CAIRNGORN Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」、「AVON C(エイボンC)」

ーカジュアルなモデルの方はいかがでしょうか?

2013年頃に日本でも本格的に展開がスタートした「ケンゴン Ⅱ R」、「エイボン C」の2型がカジュアルシーンを代表するモデルだと思いますが、この二つは少し背景が異なります。「ケンゴン Ⅱ R」に関してはミリタリーを由来に持つモデルで、ミリタリーラストである4436を採用し、ヴェルトショーン製法が盛り込まれていたりと、ギミック好きの日本人にとって新鮮に映ったのだと思います。

この仕様の革靴はイギリスではかなり古くからある伝統的なものなのですが、今や継続的に販売しているメーカーは希少ですよね。元来は軍隊用の革靴に取り入れられた製法なんですよね。こういう技術を現行モデルとして販売していることからも、ジョセフ チーニーが伝統ある老舗メーカーだということが伝わってきます。一方、「エイボン C」に関しては、当時すでにヨーロッパのベストセラーモデルだったモデルです。こちらはよりイギリスらしいカントリーシューズですね。

ソールに関しては、昨今流行りのビブラムの軽素材ソールのようなものに比べて相当重い重厚なコマンドソールを選ぶのは、このソールが英国のカントリーシューズに欠かせないピースだからでしょう。幸いにも、気候の変化や、次第にカジュアルな革靴を履ける風潮になってきた日本のビジネスシーンとの相性が増してきましたよね。常に社会とそこに生きる人々を観察してアップデートしてきたからこそ、普遍的なプロダクトを完成させることができるのだと思います。

【ドレスシューズ編】

履き心地と美しさを求めて、進化を遂げてきたドレスモデル。

履き心地と美しさを求めて、進化を遂げてきたドレスモデル。

ーそれでは、次にドレスシューズのアーカイブから紐解いていきたいと思います。
ドレスモデルに関しては、見た目のデザインに普遍的なものが多いですが、年代によってラストが変わっています。左から順に89ラスト、6184ラスト、1886ラスト、3888ラスト、2003ラスト、205ラストです。

89ラストはドレス系の原点とも言うべき古典的なラストですよね。甲高幅広で、一世代前の日本人の足に合っていると思います。1886ラストはたしか、今の工場の100周年の1996年に作られたものですよね。これも古典的な木型の一つですが、外羽根でも内羽根でもバランス良く決まります。現行のドレスシューズに採用している125ラストも良いのですが、良い意味でクセがないのは1886ラストですね。本当に色々なモデルに応用が利きそうです。

3888ラストは、ちょうどロングノーズが流行りはじめた時のものですね。サントーニやマンテラッシのようなアップデートされたクラシコイタリア系の革靴が日本に入ってくるようになった頃のモダンな木型です。だからこそ、伝統的でありながらややモードな印象もありますよね。

205ラストも近しい木型で、ロングノーズが定番になってきた頃に「ジョセフ チーニーでも先が尖っているような木型があっても良いのでは」ということで作られたような系譜を感じます。

左から:89ラスト、1886ラスト、2003ラスト、125ラスト
左から:89ラスト、1886ラスト、2003ラスト、125ラスト

89、1886、2003、125と古い木型順に並べると分かりやすいですよね。内側と外側のどちらからも次第に細くしています。フィット感を高めるために常にアップデートしてきたということが伝わってきますよね。

125ラスト(左)と89ラスト(右)を比較
125ラスト(左)と89ラスト(右)を比較

ー125ラストは、よくバイヤーの方に「既成靴なのにしっかり内振りがされている」と言われます。

私もこの辺りはやはり進化していると思います。89ラストと比べて125ラストは相当内側に振られていますよね。ソックシートやアウトソールに付いているブランドロゴの刻印が、見方次第では斜めに打たれてカーブしているようにも感じますから。より履き心地の良い靴を届けたいという意思を感じますよね。それにウエストの絞りも全然違いますよね。89ラストは古典的なドレスシューズのラストという意味で、私も好きなのでよく履いているのですが、125ラストの方がより履きやすさを求めて進化を遂げたものであることは間違いないです。

トゥから甲にかけての傾斜(2003ラスト)
トゥから甲にかけての傾斜(2003ラスト)

トゥから甲にかけての傾斜(125ラスト)
トゥから甲にかけての傾斜(125ラスト)

こうしてアーカイブを眺めていると、進化の過程が分かるのが面白いですよね。
とくに125ラストの靴をサイドから見ると、フィット感を高めるために甲からつま先にかけて一度グッと下がっています。125ラストはデザインに配慮しながら、ボールジョイントのホールド感を高めようとしたのではないでしょうか。

ー素材に関してはいかがでしょうか?

ジョセフ チーニーの125ラストのコレクションの黒革はドイツのウェンハイマー社のボックスカーフですよね。ブランドとしてはおそらく前身のカール・フロイデンベルグ社の頃から使っていたのではないでしょうか。また、今はなきイギリスのタンナー・ピボディ社のものも当時は使っていたと思います。

私はもし「今の革靴と30年前の革靴のどちらがおすすめ?」と聞かれたら、コンディションが良ければ30年前の方を勧めるのですが、ジョセフ チーニーに関しては別なんです。なぜかと言えば、革質にしても現行品のクオリティが高いから。

1980年代の終わり頃には、チャーチの弟分という位置付けだったのでなるべく手の届きやすい価格帯を目指して革を選んでいたんだと思います。ところが、1990年代後半に入ってたとえばイギリスの「アルフレッド・ダンヒル」や「イード&レイベンスクロフト」、アメリカ本土の「J.プレス」向けのようにこれまでとは違うお客さんを相手にするようになり、革質を上げる必要が出てきたのではないでしょうか。

そのおかげで職人さんも色々な革に慣れてきて、スキルアップに繋がっていったのではないかと思います。そういう意味では革質とモデルごとにフィットする革を選定する技術も次第に進化してきていますよね。

【カジュアルシューズ編】

質実剛健なカントリーモデルと、その一方で感じる挑戦的な姿勢。

質実剛健なカントリーモデルと、その一方で感じる挑戦的な姿勢。

ードレスシューズと同様に、カジュアルシューズに関しても時代の流れに合わせてさまざまなモデルを制作してきた歴史があります。飯野さんにとって特に印象的なものはありますか?

「ケンゴン Ⅱ R」を代表とするカジュアルシューズは素晴らしいですよね。採用されている4436ラストは、75年前から存在していたと言われている本当の意味でトラディショナルな木型だと思います。

また、今でこそ「クロムエクセルレザー」を使っている靴メーカーさんは増えてきましたが、ここには旧ロゴを使っている90年代後半に作られたモデルもあります。その当時は、イギリスの革靴メーカーがアメリカのオイルドレザーを使うなんてかなり前衛的だったのではないでしょうか。僕の知っている限りでは、ジョセフ チーニーとアルフレッドサージェントだけだと思いますよ。

新しいモノづくりにきちんとトライしようとしていたということですよね。しかも、それをヴェルトショーンで作っているんだからすごい。オイルドレザーは厚みと独特の粘りっ気があるので、例の出し縫いの箇所でへしあげて縫うのが相当大変だったはずなんです。

左から:4436ラスト、3480ラスト、1978ラスト
左から:4436ラスト、3480ラスト、1978ラスト

ーアーカイブにもありましたが内羽根ストレートチップのカントリーシューズというのは、イギリス独特の文化なのでしょうか?

イギリスでは、内羽根ながらストームウェルトにダブルソールといったチャンキーなものが一つの流儀として成立しているんです。おそらく独特の紳士道、ダンディズムみたいなものがあるのでしょう。普通はカントリーシューズであれば外羽根にしますよね。もし内羽根があったとしても、モードなアプローチのものだと思います。そう考えると、イギリスではやはり一定の需要があるということなんですよ。チャーチにもストームウェルト仕様の内羽根ストレートチップモデルが昔から定番でありますよね。

“田舎に住んでいるけど、見えるところは全部自分の土地”みたいな、田舎貴族の方が履かれるかもしれません。そういう方は、ロンドンに小さな住まいを持っているので、そこへ行くためにレンジローバーに乗るんですよね。都会的でありながらタフにも使えるというコンセプトは、この内羽根のカントリーシューズと通ずる部分があるじゃないですか。

こういうものを質実剛健に作り続ける一方で、175ラストのチャッカブーツのような真面目なモデルも作っているんですよね。シンプルなデザインながら、少しカットを高めに設計して、ディテールはワイルドにしてありますね。もしかしたら試行錯誤していたのかもしれませんね。

175ラスト、オールアラウンドウェルト仕様
175ラスト、オールアラウンドウェルト仕様

175ラストは本国では主に外羽根のモデルに採用される木型で、89ラストと同じ昔からあるラストなんですよ。おそらくですが、80年代終わり頃で、色々な靴メーカーがUチップを作り始めた頃の時代に生まれたものだと思います。このモデルはカントリーシューズなので、アッパーとウェルトの隙間から水や砂の侵入を防ぐストームウェルト仕様になっています。

しかも、つま先からヒールまで一周ウェルトを巻くオールアラウンドウェルト(360度ウェルト)仕様にもなっていますね。ドレスシューズに関しては、ヒール周りの固定に釘を使うことも多いのですが、ウェルトを全周させることで耐水性が高められるだけでなく、釘を使わない分見た目よりも軽くなるんですよ。こういったディテールに当時のデザイナーのセンスを感じます。

【デザイン編】

色や素材で遊ぶ90年代と、革自体の加工が隆盛した2000年代以降。

色や素材で遊ぶ90年代と、革自体の加工が隆盛した2000年代以降。

ー真面目なモノづくりの一方で、新しいことに挑戦しているジョセフ チーニーの姿勢はこれらのモデルからも感じていただけると思います。

あまり見かけないデザインや異素材のコンビネーションが楽しいですね。ただ新鮮なように見えて、じつはこうしたデザインは意外にトラディショナルなものなんです。たとえば、このベージュ系のツイルとブラウン系レザーのコンビは、夏場にテニスのウィンブルドン選手権やクリケットの試合を観戦しに行く時に履くデザインだと思います。ジョセフ チーニーのモノづくりは基礎がしっかりしているからこそ、トラディショナルなデザインをベースに応用を利かせることができるのでしょうね。

時にこのモデルのようなコンビ素材の革靴が、オールレザーのシューズよりも高価なことがありますが、これも「なんでもかんでも革の方が高級で良い、とは限らない」的な古の審美眼を思い出させてくれます。馬車の椅子なんかはその典型ですね。御者の椅子は耐久性重視の革張りで、客席は決まって布です。英国の御料車は女王陛下がお乗りになられる後部座席を今でも布張りにしているのも、そんな伝統からの流れです。

多様な素材を組み合わせたコンビネーションモデル
多様な素材を組み合わせたコンビネーションモデル

それにしても、遊びの利いた組み合わせなのに、ジョセフ チーニーの革靴はクラシックな雰囲気を醸していますね。本来は外に出すはずのフリンジを中にしまったり、コバの一部をグリーンにしたり、工夫を凝らしています。異素材を組み合わせると、配色の幅が広がりますよね。今までになかった配色が生まれ、古典的なアイテムが斬新に生まれ変わります。

ファッションシーンでも、イギリスでは表と裏で生地が違うリバーシブルのアイテムが結構あるじゃないですか。おそらく“伝統的な変化球”として、こういった組み合わせが受け継がれているのでしょう。今見てもレトロでお洒落だけど、逆に今だからこそなんだか時代にフィットするような気もします。

アンティーク加工で色ムラを施したモデル
アンティーク加工で色ムラを施したモデル

ー異素材のコンビもそうですが、2000年代頃から新たな色の革靴が増え始めたような印象があります。

21世紀以降は、このローファーのようにアンティーク加工を施したモデルが顕著に多くなってきましたよね。グリーンやグレーなど、それまではあまりチョイスされなかったカラーが出始めたのと同時期に色ムラのある革靴が増えました。

イギリスのスムースレザー系のタンナーが減っていった一方で、ヨーロッパでアーティスティックなことに挑戦するタンナーが登場して一気に供給が広がりました。おそらく、イギリスやフランスがやらないような新しいことをやるという流れがあったのだと思います。それまでは、革と革以外の素材の組み合わせで遊んでいたのが、21世紀になって革自体に演出を施すようになったということが見えてきますね。

【テクニック編】

基本に忠実でありながら、トレンドを取り入れるセンスが巧み

基本に忠実でありながら、トレンドを取り入れるセンスが巧み。

ー90年代に入ってから細かなディテールが現行品と異なるものが増えたのには、どんな理由が考えられるでしょうか。

90年代後半はメンズファッションの歴史で「モダン・ブリティッシュ」と呼ばれています。それまでの伝統的なブリティッシュ・トラッドの要素を残しつつ、洋服も革靴も少しモダンにしたものが流行ったんですよ。

すっかり人気の定着したポール・スミスだけでなく、ビスポークテーラーのオズワルド・ボーディングやティモシー・エレベスト、革靴メーカーであればホールカットの靴をウリにしていた「ティム・リトル」、当時は南アフリカの工場で作らせていた「オリバー・スウィニー」、日本でも人気のあった「パトリック・コックス」がこういったスタイルを提唱していました。

大きめのブローキング
大きめのブローキング

そういった背景の中で出てきたのが、デザインを強調するディテールです。たとえば、大きめのブローキング、装飾の強いメダリオン、ギザギザのストームウェルト、スクエアのトゥなどが挙げられます。トラディショナルという文脈は守りつつ、モダンなスパイスを加えたものがウケていたのでしょう。

ストームウェルトに施されたギザギザ
ストームウェルトに施されたギザギザ

あとは、靴が好きな方には木型にこだわりを持つ方も多いと思いますが、私個人的には紙型も大事だと考えています。そういう意味で、ジョセフ チーニーは芸達者だと思います。基本を守りながら、トレンドを入れて、双方のバランスを取るのがとても上手いですよね。極端な話ですが、イギリスのブランドなのに、アメリカっぽい靴をオーダーしたらきっとできてしまうだろうなとも思っています。テクニックで言えば、このコバを見てください。

極限まで削られたコバ
極限まで削られたコバ

ここまでコバが削ってある革靴は久しぶりに見ました。職人さんの「ここまでやってやったぜ」という意気込みを感じますよね(笑)。これは、ジョセフ チーニーでは「デッドクローズ」と呼ばれている仕様です。文字通り、これ以上いったらNGなところまで削っています。仕事がとても丁寧で、技術の高さを裏付ける証拠です。これまでに、さまざまなブランドの別注やオーダーに応えてきたというのが良く分かりますね。

インペリアルコレクションはビスポークさながらのクオリティ
インペリアルコレクションはビスポークさながらのクオリティ

チャーチ創業家がジョセフ チーニーを買収し、再度独立した後に出した「インペリアルコレクション」はその賜物ではないでしょうか。ウエスト部分がシェイプされて、土踏まずの真ん中が山のように盛り上がっているフィドルバック仕様や、ソールの半面を黒く塗る半カラス仕上げ、アウトソールにステッチが見えないようにしたヒドゥンチャネルなど、技術力が成すエレガントな意匠が詰め込まれています。

職人が手作業で入れるスキンステッチ
職人が手作業で入れるスキンステッチ

そのほかにも、たとえばこのモデルを見てください。スキンステッチが入っています。こういった分かる人にだけグッとくる装飾がなんとも美しいですね。履く人のことを常に探求しスキルやセンスを磨いてきたからこそ、こうした“ちょっとした遊び心”の要素が妙に引き立つような感覚を覚えます。

パイピング部分にもほかのモデルと異なりラインが入っています

これも珍しい仕様ですね。パイピング部分にもほかのモデルと異なりラインが入っています。このように色々と実験をしているようにも見えるんですよ。成功や失敗という話ではなくて、たとえば当時の世情や流行、経済活動など、すべてを技術の栄養にしているのだと思います。

左から:「アルフレッド」の裁断面、「ケンゴン Ⅱ R」の裁断面
左から:「アルフレッド」の裁断面、「ケンゴン Ⅱ R」の裁断面

あとはソールに敷き詰められたコルクの量もモデルによって違いますよね。こちらは「アルフレッド」と「ケンゴン Ⅱ R」を裁断したものですが、コルクの入れ方をドレスとカジュアルで若干変えているのが分かりますよね。

ドレスシューズの場合は、ヒールを釘打ちするために土踏まずからヒールの前半分くらいまで入れて、一方でカントリーシューズのようなタフに履くモデルには、コルクをフルで入れています。さらに、シャンクには長さがあり、足なじみが良い天然素材の木製シャンクが使われています。

レザーボードで作られたヒールの積み上げ
レザーボードで作られたヒールの積み上げ

ヒール部分の積み上げにしても、ジョセフ チーニーはすべてレザーボードで作られています。原材料を安く仕上げるために、最下部だけをレザーにしてそのほかを別の素材にしているよう革靴もありますからね。普段目にしない箇所にこそ、こだわっているブランドのポリシーが改めて分かる気がします。

これらすべての工程を自社で行い、日本での総代理店もずっと変わらない。だからこそジョセフ チーニーは、日本との密なやり取りを経て、お客様からのレスポンスを経験値として蓄積していっているのですね。その積み重ねがさまざまなオーダーやファンの期待に応えるモノづくりに繋がっているのだと思います。これだけの数のアーカイブモデルを見て、そのことを改めて感じさせられました。

photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda(RECKLESS)

すべての革靴を愛する方に贈る、革靴にまつわる“知る・探す・履く”

すべての革靴を愛する方に贈る、革靴にまつわる“知る・探す・履く”

すべての革靴を愛する方に贈る、革靴にまつわる“知る・探す・履く”

「ジョセフ チーニー」に寄せられるさまざまな質問を厳選し、革靴にまつわるお悩みを解決するための知識と知恵をご紹介します。ビギナーの方でも、たくさん靴を愛でてきた方でも“次の一足は…”と考える時間はきっと心躍るのではないでしょうか。代表的な型を理解して、数多のデザインからご自身のスタイルとライフスタイルに合った一足を手に入れる…。ビジネスシーンなのか、プライベートなのか使用するシチュエーションを考えながら、改めて「知る」「探す」「履く」と3つの工程ごとに分かれたQ&Aをご覧ください。

革靴を知る

【革靴を知る】

ひとえに革靴と言っても、そのデザインにはさまざまな種類があります。まずは代表的なモデルとその特性を理解し、革靴を構成する重要なパーツであるアッパーやソールの特徴と機能について知りましょう。


Q: 代表的な革靴の種類は?

革靴のデザインを大別すると5つのカテゴリーに分けることができます。

①レースアップ・シューズ
ハトメに通した靴紐で、フィット感を調整できるデザインです。イギリス王室をルーツに持ち、「オックスフォード」と呼ばれるフォーマルな「内羽根式」と、軍靴をルーツに持ち、「ダービー」と呼ばれる「外羽根式」があります。

②ストラップ・シューズ
ベルト状のバックルとストラップの開閉により、フィット感を調整できるデザインです。とくに代表的なモデルとして、ヨーロッパのアルプス地方の修道士が履いていたサンダルを原型とする「モンクストラップ」があります。

③エラスティック・シューズ
履き口の前か脇に、伸縮性のあるゴム布地「エラスティック」を縫い付けることで、着脱を楽にしたデザインです。1830年代のイギリスで生まれた「チェルシーブーツ」が起源だと言われています。

④スリッポンシューズ
シューレースやストラップなどのパーツが付属せず、靴の形状だけで足を固定するスタイルのデザインです。代表的なモデルは「ローファー」です。

⑤ブーツ
くるぶしを覆う高さのあるデザインの総称です。一般的なシューズ「短靴」とは丈で区別され、①では「チャッカブーツ」、②では「ジョッパーブーツ」、③では「サイドゴアブーツ」などが、このカテゴリーに含まれます。


Q:トゥのデザインはどんなものがある?

トゥのデザインはどんなものがある?

トゥ(つま先部分)のデザインは、5つに大別することができます。

①プレーン・トゥ
つま先や縫い目に装飾が施されていないシンプルなもの。内羽根式のレースアップ・シューズであれば、礼装にも活用できます。

②キャップトゥ(ストレートチップ)
つま先に一文字状のステッチングを施したもの。ビジネスシューズとして人気の高いデザインです。

③エプロンフロント(Uチップ)
甲からつま先にかけてU字状の「モカシン縫い」を施し、印象的なステッチが特徴。狩猟やゴルフなど、野外スポーツ用が出自のため、ややカジュアルな印象です。

④セミブローグ(メダリオンチップ)
つま先に「ブローキング」と呼ばれる穴飾りが一文字状に施されており、さらに花状の穴飾り「メダリオン」がついているもの。礼装以外で幅広く使うことができます。

⑤フルブローグ(ウイングチップ)
つま先のブローキングがW文字状に施されており、セミブローグ以上に華やかな印象を演出。内羽根式であれば、スーツスタイルにも合わせることができます。


Q:ジョセフ チーニーの代表的なモデルは?

「ALFRED(アルフレッド)」
クラシックな顔つきで、日本人の足型に合いやすいドレスシューズ。125コレクションのキャップトゥ(ストレートチップ)モデル・アルフレッド。

「WILFRED(ウィルフレッド)」
125コレクションの中で、アルフレッドと対をなす代表的なセミブローグモデル・ウィルフレッド。

「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」
ジョセフ チーニーの質実剛健なものづくりを体感できる、カントリーコレクションの代表モデル・ケンゴン Ⅱ R。


Q:アッパーの素材には種類がある?

カーフレザー
生後6か月位までの以内の仔牛の原皮を用いた革のこと。傷が少なく、きめ細やかなのが特徴です。ジョセフ チーニーでは主に、ドイツの名門タンナー・ウィンハイマー社の高品質なカーフレザーを使用しています。

スムースレザー
ビジネスシューズに使われているレザーとして定番の、なめらかな表面の革。組織が細かく、丈夫で柔軟性にも優れた「銀付き革」と、加工を施して原皮のシワなどを綺麗にした「ガラスレザー」に大別されます。

型押し
独特の模様=シボが表面に出ているレザー。傷がついても目立ちにくいため、ビジネスとカジュアル兼用の革靴に向いています。ジョセフ チーニーで使用している「グレインカーフ」は、大粒のシボがあり、傷や汚れ、水濡れに強いのが特徴です。

スエード
原皮の裏面を起毛させて、アッパーに使えるように仕上げたレザー。やわらかで温かみのある質感が特徴です。型押しよりもカジュアルな印象のため、ビジネスシューズには向かない一方で、オフにスタイルの幅を広げる一足として重宝します。


Q:ソールの特徴を教えてほしい。

ジョセフ チーニーで扱っている代表的なソールは主に3種類。またソールの厚みには2つの種類があります。

レザーソール
分厚い牛革を積み重ねて作る、アウトソールの元祖です。適度なしなやかさとクッション性があり、通気性と耐熱性に優れているのが特徴です。天然繊維であるレザーを使用しているため、使い込むことで生まれる味わいや風合いの変化を楽しむことができます。

ダイナイトソール
合成ラバーを用いた、イギリスを代表するソールの一つです。雨に強いため、雨用ドレスシューズのアウトソールにも最適。グリップ力に優れた凹凸は、側面から見えにくいため内羽根式のようなドレスシューズに付けても、雰囲気を損なわないのが魅力です。

コマンドソール
軍靴などに使用された、無骨な印象のソール。タイヤのように深く刻まれたトレッドパターンにより、山道や岩場のような路面でも安定した歩行をすることができます。

シングルソール
アウトソール一枚で構成されているシンプルなもの。足なじみが早く、ソール本来の感触を体感することができます。

ダブルソール
アウトソールとインソールの間に、ミッドソールと呼ばれる革底をもう一層敷き詰める二重構造の仕様です。ソールが分厚くなる分だけ、より頑丈になります。

革靴を探す

【革靴を探す】

革靴を探す際のポイントは、自分のライフスタイルに合わせて、TPOにあったものを見つけること。そうすれば、きっとあなたに相応しい一足に出会うことができるはずです。


Q:ビジネススタイルと相性の良い革靴は?

ビジネススタイルと相性の良い革靴は?

ビジネスシューズの定番と言えば、やはり黒のキャップトゥ(ストレートチップ)です。ジョセフ チーニーでは、「ALFRED(アルフレッド)」や「LIME(ライム)」などのモデルがそれにあたります。また、スーツスタイル以外にブレザーなどのジャケパンスタイルが多い方であれば、華やかな印象のあるセミブローグモデル「WILFRED(ウィルフレッド)」もおすすめです。

ビジネススタイルと相性の良いコレクションを、こちらの記事で比較していますので、ぜひご覧ください。


Q:冠婚葬祭にふさわしい革靴は?

冠婚葬祭時、もっともオールマイティに使えるのは黒の内羽根式キャップトゥ(ストレートチップ)モデル。ジョセフ チーニーでは、「ALFRED(アルフレッド)」「LIME(ライム)」がおすすめです。


Q:雨の日にも履ける革靴は?

雨の日にも履ける革靴は?

カントリーコレクションのモデルがおすすめです。アッパーのレザーには、大粒のシボで傷や汚れ、水濡れにも強い「グレインカーフ」を使用。アウトソールには、雨天時の荒れた路面に強いコマンドソールを採用しています。

とくに「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」は、タン部分の羽根を縫い付けることで小石や水が入りにくい上に、雨の侵入を防ぐ構造の「ヴェルトショーンウェルト仕様」を取り入れています。


Q:サイズ選びで重要なポイントは?

革靴のサイジングは大切。サイズ選びを誤ってしまうと、疲れが溜まりやすくなってしまい、ひどくなると痛みが起こってしまいます。足の形は人それぞれ異なるため、下記を踏まえてショップスタッフに相談しながら、しっかりとフィッティングを選びましょう。

①足がもっともむくむ時間を知る。
人間の足は重力の影響で、夕方になると水分や老廃物が溜まりやすいと言われています。個人差はありますが、足がむくんで膨張する時間帯は誰にでもありますので、そのタイミングで革靴を購入する方がより疲れにくい一足を選ぶことができます。

②複数のサイズを試着してみる。
実際に試着する際には、面倒でも必ず複数のサイズを試してみるように心がけましょう。自分の適正だと思っているサイズのハーフサイズ上のものから順に、ハーフサイズずつ下げて履き比べ、ベストなフィッティングのものを選んだ方が、より正確なサイズの一足に出会うことができます。

革靴を履く

【革靴を履く】

革靴は購入して終わりではなく、履いて育てるのを楽しむことができるプロダクトです。ここでは、大切な革靴を長く愛用するための手入れ方法や、メンテナンス道具などをご紹介していきます。


Q:プレメンテってなに?

革靴を新品で購入した際に、履き下ろす前に行うメンテナンス。海外からの輸送や、保存時に革の水分や油が抜けてしまうと、固くて傷つきやすくなってしまいます。そのため、一度残っている古い油分等を取り除き、改めて塗り直すプレメンテが必要になります。この一手間により革に柔らかさが戻り、さらにワックスで磨いて表面をコーティングすれば、傷をつきにくくすることができます。自分で、また購入したお店にお願いするのも良いですが、靴磨きの店でプロにケアしてもらうのもおすすめです。


Q:シューホーンはなぜ必要?

革靴には基本的にかかと部分に芯が入っています。それにより、フィット感が高まり、靴の形も綺麗に保たれています。この芯の変形・破損を防ぎ、長く、美しく革靴を履き続けるために、必ずシューホーンを使用しましょう。また、十分に靴紐をゆるめてから着脱を行うのも大事です。


Q:簡単にできる手入れ方法を知りたい。

手入れの目的は、革靴から汚れを取り除き、革の内部に水分や油分を適度に補給し、柔軟で潤いのある良いコンディションを保つことです。月に一度程度のペースで行う簡単な手入れとして、片足につき保湿クリームを米粒3つ程度布に取り、靴の数カ所に置いてから、靴全体に広げて乾拭きするのがおすすめです。これだけでも革に潤いを戻すことができます。


Q:シワが気になる場合は?

シワが気になる場合は?

履きジワは、靴を履くうえで必ず生じるもの。深くついたシワが悪化すると、その部分のレザーが破損する可能性があります。残念ながら、ついてしまったシワは完璧に修復することはできませんが、手入れを通じて悪化を最小限にし、逆に味として楽しむことはできます。また、靴を長く良い状態で履き続けるためには革靴の木型にあったシューキーパーが欠かせません。ジョセフ チーニーでは純正のシューキーパーをご用意し、125ラストのモデルには専用のシューキーパーも展開しています。


Q:革靴はどのように保管するべき?

帰宅後、まずは靴紐をほどいてホールドされた状態を開放しましょう。靴についた汚れは、放っておくとさらなる汚れが積み重なってしまうので、その日のうちに軽いブラッシングをして表面の汚れを落とした方が良いです。また、同じ靴はできるかぎり2日連続で履くのを避け、履かない時にはシューキーパーを入れて履きジワを伸ばし、ソールの反りを戻しましょう。靴棚は湿気が溜まりやすいので、カビが発生するのを防ぐために、定期的な換気や吸湿剤を入れるなどのケアが必要です。


Q:リペアが必要になったら?

リペアが必要になった場合は、日本総代理店の渡辺産業にお送りいただくか、直営店の「BRITISH MADE」にお持ち下さい。

詳しくはこちらをご覧ください。


【番外編】

Q:ジョセフ チーニーの革靴が一番揃うお店は?

ジョセフ チーニーの総代理店である渡辺産業の直営店「BRITISH MADE」では、国内最多のラインナップをご覧いただくことができます。

全国の取扱店についてはこちらでご確認ください。


Q:オンラインストアはありますか?

「BRITISH MADE」のオンラインストアはこちらです。

ジョセフ チーニーの総代理店である渡辺産業の直営店「BRITISH MADE」では、国内最多のラインナップをご覧いただくことができます。

服飾ジャーナリストが米国で出会った、英国靴デビューの原体験。 服飾ジャーナリスト 飯野 高広

革靴は自分だけの一足に育てていく過程が楽しい。
その要望に応えてくれるのが英国靴の魅力だと思います。

服飾専門学校で教鞭を振るい、さまざまなメディアへの寄稿を通じて、紳士靴やスーツなど、男性の服飾品の歴史と魅力を伝え続けている飯野高広さん。服飾ジャーナリストという肩書きの通り、長年ファッションの文化や流行を研究してきた生き字引的な存在です。そんな飯野さんが誇る170足以上の革靴コレクションの中に、英国靴の魅力にのめり込む原体験となった「ジョセフ チーニー」がありました。今回はそのエピソードとともに、革靴遍歴や英国靴の面白さについて語っていただきました。

飯野 高広

ファッションの興味や考え方をデザインする仕事。

— 服飾ジャーナリストとしての活動について教えてください。

服飾専門学校の講師業を主軸に、『ミューゼオ・スクエア』さんなどのメディアに企画を提案したり記事を寄稿しています。学校では、モッズやヒッピー文化のようなファッションの歴史についての講義をしていますが、自分の役目は服飾の敷居を下げて興味の入り口をつくることだと思っています。当たり前ですが、生徒さんと自分の世代ではファッションに関する受容の仕方が違います。私たちの若い頃はブランドに対して妄信的になっていましたが、若い世代はブランドをリスペクトする一方で客観的な視点を持っています。だからこそ、「洋服はこう着なさい」と押し付けがましく伝えるのではなく、「こういう世界もあるんだよ」と、好きなファッションについて別の視点で考えたり、興味を持つきっかけを与えることが大事だと思っています。かれこれ15年ほど教壇に立っていますが、どの年度の生徒さんも触れている文化や考え方がそれぞれ違うんですよね。そういうことを皮膚感覚で感じられるのは、私にとっても有意義です。自分とは違う感覚に触れるのを億劫にしないというのは、とても大切なことじゃないですか。だからこそ、生徒さんたちにもよく「私の授業は漢方薬だ」と言っているんですよ(笑)。即効性はないけど、後で効いてきて、5年、10年が経った後に、ファッションを振り返るポイントになればうれしいです。

時計

革靴にはレディメイドの存在意義を感じるプロダクトが多い。

— 普段どのような基準でモノを購入されていますか?

洋服に関してはオーダーメイドとヴィンテージを買うことが主になりました。ただ既製品が全然ダメだということではなく、今でも気に入ったモノがあれば買うようにしています。そういう意味では、革靴はビスポークだけでなく、まだまだレディメイドのモノを買うという感覚が強いかもしれません。私は20代の頃から高価なモノやスタンプラリー的に有名ブランドを買うということはありませんでした。それよりも、「何年つき合っていけるかな」ということを主眼に置いていました。だからこそ、今でも変わっていませんが、買う前に徹底的にモノのことを調べています。たとえば、「こういうスタイルの革靴を買うならどのブランドが良い」とか、「自分の身体のバランスを考えるとこういうモデルが良さそう」とか。そこに妥協しないことで、そのブランドしか作れない唯一無二のモデルや、自分の中の永久定番となるモノに出会うことができます。そういうモノに出会えなければ必然的にオーダーメイドになるわけですが、とくに革靴にはまだまだレディメイドの存在意義を感じるプロダクトが多い印象です。その結果、似たようなブランドのモノばかりそろえてしまうのですが(笑)。

自分のスタンダードになるモデルは、黒と茶のペアでそろえる。

— 革靴遍歴を教えてください。

一番初めに自分のお金で購入したのは、月並みですが「リーガル」のローファーです。学生の時に履いていたものですが、今でも大切に持っていますよ。それから日本やアメリカで作られた革靴を履くようになり、次第に英国靴や他の国の靴へと興味が広がっていきました。デザインはバラバラですが、一つルールを決めていて、自分の永久定番になるモデルに関しては黒と茶のペアでそろえるようにしています。たとえば、内羽根のパンチドキャップトゥはエドワードグリーンの「バークレー」、内羽根のフルブローグは今回持ってきたジョセフ チーニーと、旧チャーチの「チェットウィンド」、外羽根のプレーントゥはチャーチの「シャノン」とオールデンの「990」「9901」など、挙げたらキリがないですね。スタンダードの条件は、時代に左右されないデザインで、なおかつ履きながら自分だけの一足に育ってくれるモノです。ユーズドの革靴もスタンダードだと思ったら、ペアにしないと気が済まなくなってしまい、気づけば170足以上のコレクションになっていました。「棺桶に入れてくれ」なんてことを言うつもりはないので、いつか寄贈することになるかもしれないですね。20世紀の終わりから21世紀にかけて、こんな靴を履いて世の中を歩いている人がいたと後世に伝えていけたら良いなと……(笑)。

英国靴デビューの原体験となった別注モデル。

— 本日お持ちいただいたジョセフ チーニーとの出会いについて教えてください。

ジョセフ チーニーというブランドを初めて知ったのは大学生の頃でした。就職後にイギリスへ旅行した時、確かバーリントン・アーケードにあった直営店みたいな小さなお店を見つけて、いかにも英国靴らしい顔つきに惹かれたのですが、当時は「20代半ばで履いてもいいのか」という葛藤があったので、カタログをもらって帰りの飛行機の中で眺めて憧れているだけで終わってしまったんです。ところが、1999年か2000年くらいにニューヨークの「J.PRESS」を訪れた際に、別注の内羽根フルブローグと出会い、思わず黒と茶の二足を買ってしまいました。ラストは現在も使われているクラシックな「175ラスト」で、他にも外羽根のプレーントゥや内羽根のストレートチップもあって、正直に言えば全モデル欲しかったんですが、自分の中でもっとも英国靴らしいイメージに近いこのモデルだけを手に入れることで折り合いをつけました。いつもなら宅配便で郵送してもらうのですが、その時は重量オーバーになることを覚悟して自分で担いで持って帰りましたよ(笑)。そして、それ以来英国靴にのめり込んでいくようになりました。運が良かったと思うのは、英国靴デビューのきっかけが、当時の日本で10万円近くしたいわゆる高級靴と呼ばれるモノではなくて、質実剛健で履く人を引き立てるこの靴だったということです。だからこそ、20年が経った今でも変わらず大切に履いています。

“蓄積の美”を地で行く、英国らしい価値観を体現するブランド。

— この20年でジョセフ チーニーというブランドの印象は変わりましたか?

その当時もまったく悪い印象がなかったですが、おべっかを使うわけではなく、私の中で一番評価が上がったブランドです。自分の核となるポリシーを保ったまま、きちんと変わるべきところをブラッシュアップしていますよね。「イギリスの靴だよ」という文法を守りながら、シティコレクションのような現代的なアプローチがあり、その一方で「ケンゴン Ⅱ R」のような質実剛健の魂を感じるモデルもあります。英国プロダクトには創造の美よりも、“蓄積の美”という価値観が反映されていると思うんです。たとえばなぜ二階建てバスがあるのかと言えば、過去から引き継いだだけなんですよ。それは逆に言えば、変える必要がないくらい良いということですよね。いわゆる紳士靴と呼ばれる領域でも、ブローグやキャップトゥのデザインは、英国のモノという価値をこえて世界標準になっているじゃないですか。変わる必要のない良さを蓄積して磨いているからこそ、変わるべきところはいとも簡単にアップデートすることができる。イギリスには、そういう価値観を感じさせてくれるメーカーが多い印象です。ジョセフ チーニーは、まさにそれを地で行くブランドの一つだと思います。

自分だけの一足を、自分で完成させる楽しみ。

— 飯野さんの思う、英国靴の面白さとはなんでしょうか?

「革靴は自分で完成するものだよ」と言われているような、独特の“ほっといてくれる感”が私は好きです(笑)。たとえば、色で言うとコンカーという茶系のカラーがありますが、薄い色のクリームを塗ればミディアムブラウンに収まりますし、濃い色のクリームであればダークブラウンになりますよね。完成されたモノを買ってただ履くだけではなく、自分で料理できるというのは楽しいじゃないですか。家具のように日曜大工をしてへんてこな仕上がりになってしまっても味になりますし、そういう器の大きさはとても英国的だなと思います。私は職業柄、靴のクリームを買って頻繁に反応をチェックしているのですが、とりわけ質実剛健な英国靴は、それに応えてくれて自分だけの革靴になってくれるモノが多いですね。中には「過保護にしなくてもいいよ俺は」という一足もありますが、でも本日履いているのは、知人から譲り受けて15年以上履いているジョセフ チーニー製のキャップトゥです。この革靴のように、素直な革質のモノは試し甲斐があります。だから、ついモニターとして色やワックスを試してしまいますよね(笑)。そういう経験があってこそ、靴用クリームのピンチヒッターとして「ニベアクリーム」を散布したり、革を柔らかくするために化粧水「極潤α」を使うなんていう裏技も見つけることができます。色々なアプローチで自分だけの一足を完成させられる。そんな楽しみを与えてくれるのは英国靴の魅力だと思います。

服飾ジャーナリスト
飯野 高広さん

1967年生まれ、東京都出身。大学卒業後、大手鉄鋼メーカーに約11年間勤務し、2002年に独立。ビジネスマン経験を生かしたユニークな視点で、紳士靴やスーツなど男性の服飾品にまつわる記事を執筆する服飾ジャーナリストとして活動する。現在は「バンタンデザイン研究所」で講師を務める傍ら、さまざまなメディアに寄稿。「靴磨き選手権大会2020」のアドバイザーも務める。代表的な著書に『紳士靴を嗜む~はじめの一歩から極めるまで~』(朝日新聞出版)など。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda(RECKLESS)

ウィルフレッド

知っておきたい本格靴の基礎知識 #3.ドレスシューズ編

ウィルフレッド

これまで2回にわたり、知っておきたい革靴のキホンを解説してきた連載企画も今回でラスト。締めくくりにご紹介したいのは、本格靴の王道として外せないドレスシューズです。あらゆる靴ブランドが展開していて、一見どれも同じように見えるだけに、どれを選べばいいか迷う方も多いのでは。そこで、チョイスの際に注目すべきポイントをまとめました。

ドレスシューズ

そもそも、ドレスシューズとは?

ビジネスシーンでの装いに不可欠なアイテムといえばドレスシューズ。スーツやテーラードジャケットにはもちろん、クールビズなどジャケットを着ない場合でも、グレースラックスに上質なドレスシューズをコーディネートするだけでビジネスらしさを演出できます。シンプルでフォーマル度の高い「ストレートチップ」から穴飾りでデザイン性をプラスした「フルブローグ」と呼ばれるものまで、デザインによっていくつかの種類に分けられていますが、共通するのはスリムなシェイプと薄いソール、そして一般的に「内羽根式」と呼ばれる、靴紐を通す部分が甲と一体化した構造を採用していること。また細かいところでは、パーツを縫い合わせるステッチもカジュアルな革靴に比べて繊細に施されているのが特徴です。
近年では一見ドレスシューズに見えてスニーカーの作りを採用したコンフォートシューズも増えていますが、伝統的な仕立てのものはソールがすり減っても交換できるため、修理しながら長く愛用できるというメリットがあります。もちろんビジネススタイルの格もアップでき、トレンドに左右されず履ける靴なので、やはり大人として一足は正統派ドレスシューズを持っておきたいものです。

メンズファッションの基本というべき靴

歴史ある本格靴ブランドなら必ずといっていいほどラインナップし、男性のワードローブにおける基本中の基本とみなされているドレスシューズ。その歴史をひもとくと、現在私たちが着ているスーツの成り立ちと少なからず関連を持っていることがわかります。もともとは「ラウンジスーツ」と呼ばれ、室内で寛ぐための服だったスーツが外出着として市民権を得ていったのは19世紀後半〜20世紀初頭のこと。当初、その足下は編み上げのブーツが主流でしたが、時代を経るにしたがって丈の短い紐靴も増え、20世紀に入ると現在のドレスシューズにかなり近いものが多く見られるようになっていきました。室内着だったスーツが着用の簡便さから正装として広がり、次第に体型を美しく見せる服として進化していったのと同様に、ドレスシューズも脱ぎ履きのしやすさから一般化し、現在のように抑揚を効かせた美しいシェイプに洗練されていったと考えられます。

“良いドレスシューズ”を選ぶ3つのポイント
きめ細かくしなやかなカーフ素材

ドレスシューズのクオリティを決定的に左右するのがアッパーの素材。同じ牛革でも、柔らかい仔牛の皮を使った「カーフ」から分厚い成牛の皮を加工した「ステアハイド」まで、さまざまな種類が存在します。本格靴ブランドが作るドレスシューズには、しなやかできめの細かいカーフが使用されています。履き心地がよく、見た目にも高級感があり、立体的なシェイプを形作れるのが特徴です。ジョセフ チーニーのドレスシューズのメインコレクションである125ラストを採用したモデルには、カーフの中でも最高級といわれるドイツのワインハイマー社製ボックスカーフを採用。質感の美しさは絶品で、磨くことによって輝くような仕上がりになります。

ドレスシューズ

靴作りの美学が表れる羽根周り

靴に詳しい人ほどこだわっているのが、羽根周りのデザインです。まずポイントとなるのがアイレット(靴紐を通す穴)。ミリタリーやカントリーと異なり、ドレスシューズではハトメが外側から見えないものが基本となりますが、加えてアイレットの数にも注目。左右5つずつ穴が開けられた5アイレットがクラシックなドレスシューズの定番とされています。イタリア靴などでは6アイレットのものもしばしば見られますが、これらはよりモダンな印象に。また、アイレットの並び方も靴の印象を左右します。ジョセフ チーニーでは全てのアイレットが直線状に並んでいるものが多く、これは端正で折り目正しい雰囲気に繋がります。対して、爪先に向かって広がっているものは優美な顔つきに。一見どれも同じように見えるドレス靴ですが、微差を比較しつつさりげないこだわりを込められるのが面白いところなのです。

シングルソール

美しく仕上げられたシングルソール

ドレスシューズでは薄いシングルソールが用いられるのが一般的ですが、上質なものはコバ(ソールの断面)がしっかりと磨かれ、滑らかに仕上げられています。さらにブランドによっては、「ツメ仕上げ」と呼ばれるフィニッシュを施すことも。写真のソールを見ると、コバの上下が盛り上がっていることがわかります。このツメ仕上げを行うことで、ソールのエッジが立ってキリッと引き締まった印象に。ジョセフ チーニーのドレス靴では、ひと手間かけてこの仕上げを採用しています。

ウィルフレッド

ジョセフ チーニーのドレスシューズ二大定番はこちら
ビジネスカジュアルにも映える「ウィルフレッド」

ドレス靴の定番といえばストレートチップ。ジョセフ チーニーでも下の「アルフレッド」が長らく人気No.1をキープしていましたが、近年それに並ぶ人気を博しているのがこちらの「ウィルフレッド」。控えめな穴飾りがあしらわれたセミブローグの一足です。さりげない装飾性がプラスされているため、ノータイやノージャケットの装いにもマッチする汎用性が魅力です。木型は2011年にブランド125周年を記念して製作された「LAST125」。バランスのよいラウンドトウによる正統派のシェイプに加え、ヒールカップが小さめに設計されているため日本人の足に合いやすいのも特徴です。

アルフレッド

結婚式にも活躍する「アルフレッド」

こちらは王道のストレートチップ。「ウィルフレッド」同様にLAST125を採用し、アッパーはワインハイマー社のボックスカーフを使用しています。スーツはもちろんタキシードまで合わせられるフォーマルなデザインのため、日常のビジネスシーンだけでなく冠婚葬祭にも対応します。

photo Masahiro Sano text Hiromitsu Kosone

AVONC

知っておきたい本格靴の基礎知識 #2.カントリーシューズ編

AVONC

知っているようで意外と知らない革靴のキホンを、全3回にわたって解説する連載企画。第2回は「カントリーシューズ」をテーマにお届けします。ミリタリーシューズと似ているけれど、違いはどこにある? ベストマッチなコーディネートは? などなど、気になる疑問にお答えいたします。

カントリーシューズ

そもそも、カントリーシューズとは?

前回紹介したミリタリーシューズと同様、革靴の中ではカジュアルに分類されるカントリーシューズ。ぽってりとしたラウンドトウ、厚みのあるソール、丈夫な作りなど、ミリタリーと共通する点も多いですが、カントリーならではの特徴もあります。中でも象徴的なのが、トウ部分を翼のように切り替えたウイングチップと、全体にあしらわれた穴飾り。ブローギングやパーフォレーションと呼ばれるこの意匠は、16世紀ごろ英国で生まれたものとされ、もともとは機能性を高めるために考案されたといわれています。当時の英国には湿地が多く、しばしば靴の中に水が入り込んで溜まってしまうことがあったそう。そこでアッパーに穴を開け、浸入した水を外に出しやすくしたのがブローギングの起源となりました。やがてそれが装飾となり、カントリーシューズのアイコンとして広まっていったというわけです。
ブローギングのないミリタリーシューズが武骨でたくましい印象なのに対して、こちらは素朴でクラシックな顔つきが魅力。ワックスコットンジャケットやコーデュロイパンツなど、同じく英国カントリーをルーツとするアイテムとコーディネートするのが英国紳士定番の着こなしです。またビジネスカジュアルが浸透した昨今では、ジャケパンにカントリーシューズという仕事スタイルも増えてきています。

ブリティッシュトラッドに欠かせない靴

英国的なスタイルを築くうえで欠かせない存在となっているカントリーシューズ。質実剛健な印象がある一方で、クラシックな品格を感じさせる靴としても知られていますが、それは英国上流階級のたしなみであるハンティングシーンで愛用されていた歴史とも関係しています。1920年代ごろの写真を見ると、狩猟の定番であるロングブーツスタイルに加えて、ニッカーボッカーズにハイソックス、そして足下にカントリーシューズという装いの紳士たちを確認することができます。このように昔から貴族文化と結びついて継承されてきた靴だからこそ、さりげない品位と格調を醸し出しているのです。一方、カントリーシューズは古くから農作業用のワークブーツとして広く親しまれてきたという歴史もあり、階級を超えて英国人に愛されてきたものだということがわかります。ブリティッシュトラッドにカントリーシューズが不可欠なのは、こういった背景によるものなのです。

カントリーシューズの特徴って何?
ボリュームあるラウンドトウと穴飾り

カントリーシューズの定番デザインといえば、大小の穴飾りをライン状に配したブローギングとトウのメダリオン。このようなウイングチップのものはフルブローグとも呼ばれます。ドレスシューズにもフルブローグのデザインは存在しますが、カントリーの場合、ブローギングの穴が大きいのが特徴的。これによってカジュアル感の高い顔つきを演出しています。加えて、ぽってりとボリュームのあるラウンドトウもカントリーシューズらしさの源。ウィズ(横幅)も広めのものが多いため、履き心地もコンフォートで万人の足に馴染みやすいのも特徴です。ちなみにトウにあしらわれたメダリオンはブランドごとに独自の図案を採用していて、紋章のような役割も果たしています。

“羽根周り”もカントリーらしさの決め手

脱ぎ履きが容易で窮屈感が少ない外羽根式がカントリーシューズのスタンダード。ミリタリーシューズと共通する作りですが、こちらはアイレット(靴紐を通す穴)が左右4つずつとなっており、一般的な5アイレットに比べ一つ少ないのが特徴的です。締め付け感がさらに少なくなり、リラックスした履き心地になることに加え、見た目もカジュアルな印象がアップ。アイレットには金属のハトメが取り付けられているのもさりげないアクセントとして効いています。

水気から靴を守る「スプリットウェルト」

アッパーとソールをつなぎ合わせるために用いる「ウェルト」と呼ばれるパーツにも、カントリーシューズならではの特徴が。一見気付きにくいのですが、よく見るアッパーとソールの隙間をふさぐようにウェルトが取り付けられているのがわかります。これは「スプリットウェルト」と呼ばれる仕様で、悪路を歩いた際に水気が靴内部に浸入するのを防ぐ目的で考え出されたもの。アウトドア由来のカントリーシューズらしいディテールです。ドレスシューズに採用されるフラットウェルトと比べると、こちらのほうがソール周りにボリュームが出てがっしりとした印象になります。ちなみに、スプリットウェルトと同様の防水仕立てには「ストームウェルト」や「リバースウェルト」といったバリエーションも。前者はスプリットウェルトとよく似ていますが若干カジュアル感のある印象に、後者はウェルトの取り付け方が異なっています。

AVONC

ジョセフ チーニーおすすめのカントリーシューズは?
近年、人気急上昇中の注目モデル「エイボン C」

2009年に誕生し、ジョセフ チーニーのカジュアルシューズを代表する木型となっている「LAST 12508」を採用したカントリーシューズ。ボリュームをもたせつつ野暮ったく見せない適度なバランスに設計されたラウンドトウと、安定感のある大きめのヒールが特徴です。アッパーは上質感と力強さを兼ね備えたグレインカーフ。上品なウールパンツからラギッドなデニムまで幅広くマッチします。ヨーロッパでは以前から高い人気を博してきたモデルで、日本でも近年注目度が高まっているモデルです。

photo Masahiro Sano text Hiromitsu Kosone

ケンゴンⅡ R

知っておきたい、本格靴の基礎知識 #1.ミリタリーシューズ編

ケンゴンⅡ R

革靴の購入を考えているけれど、何を選んでいいか迷う! スーツに合わせるならどんな靴? カジュアル使いにおすすめなのは?……そんな疑問を抱える方のために、全3回にわたってお届けする連載企画。革靴の中でも代表的な3つのタイプを取り上げ、詳しくご紹介します。初回のテーマは「ミリタリーシューズ」。デニムやコットンパンツと相性抜群な、休日靴の定番です。軍由来ならではのユニークなディテールも見どころ。その魅力を徹底解説します。

ケンゴンⅡ R

そもそも、ミリタリーシューズとは?

その名のとおり、軍靴を由来とするミリタリーシューズ。現在ファッションとして浸透しているものの多くは、第一次・第二次世界大戦時代に生まれたものがルーツとなっています。デザイン上の大きな特徴となるのは、丸みを帯びたトウと全体的にボリュームのあるがっしりしたシェイプ。これはもともと、戦線に赴く兵士たちへ安定した品質の物資を大量に供給することが求められた戦時下において、さまざまな足の形にフィットする合理的な形状として考案されたものでした。
しかし、後年になると素朴でありながら独特な味わいがあり、男らしさを感じさせるデザインがファッションアイテムとしても注目されるようになります。過酷な戦地を踏破するために採用された頑丈な作り、そしてミリタリーシューズならではのディテールも機能美として愛好されてきました。革靴でありながらカジュアルスタイルにベストマッチで、かつ大人っぽく見せてくれるのも人気のポイント。なかでもジョセフ チーニーのミリタリーシューズは、英国ならではの格式を感じさせるのが特徴です。同じ英国軍由来のグルカショーツやタクティカルセーターと合わせれば、一格上の夏スタイルを築けます。

軍への供給実績は高品質の証

名門と称される靴ブランドの中には、かつて軍へミリタリーシューズを供給していたところも少なくありません。軍が求める基準を満たす靴作りができるということは、高い技術と品質の証明でもあったのです。実はジョセフ チーニーも、英国軍への供給実績をもつブランド。当時、軍に採用されたラスト(木型)とデザインを踏襲して現在ラインナップするのが、「ケンゴンⅡ R」と名付けられた写真のモデルです。タフな作りもさることながら、ミリタリーシューズならではの独特なディテールも注目のポイント。以下、具体的に見ていきましょう。

ケンゴンⅡ R

今や希少な「ヴェルトショーン製法」

「ケンゴンⅡ R」の大きな特徴となっているのが「ヴェルトショーン製法」と呼ばれる仕立て。本格靴の主流であるグッドイヤー製法と似ていますが、こちらはソールの上を覆うようにアッパーの革を縫い付けているのがポイントです。グッドイヤーの場合、アッパーがウェルト(アッパーとソールを繋ぐための細い帯状の革)の内側に潜り込む形になるため、この隙間から雨水や細かいホコリが靴の中に入ってきてしまいますが、隙間のないヴェルトショーンではこれを防ぐことができるというわけです。悪路の多いミリタリーシーンで重宝されてきた作りですが、非常に手間がかかるため、今では歴史ある英国靴メーカーでもヴェルトショーン製法を行っているところはごくわずか。機能性に加えて、デザインのアクセントとしても効いています。

ベローズタン

ホコリや雨水を防ぐ「ベローズタン」

一見わかりにくいのですが、シューレースを外すとさらなるミリタリーディテールが。足の甲を覆う “ベロ”が羽根の部分と繋がっていることがわかります。これは「ベローズタン」と呼ばれる仕様で、トレッキングシューズなど登山靴とも共通する作りです。ベロと羽根の間からホコリや雨が入ってくるのを防ぐためのもので、上のヴェルトショーン製法と合わせて悪路対策を目的として採用されています。外からは見えないディテールだけに、これを省略しているミリタリー風シューズも多い中、「ケンゴン Ⅱ R」では革の裁断や縫製にひと手間増えるのもいとわず“本物”の仕様にこだわっています。

コマンドソール

悪路をものともしない「コマンドソール」

さまざまなバリエーションが存在するラバーソールの中でも、極めて高いグリップ力と安定性を誇るのがコマンドソール。険しい山道やぬかるみ、砂利道など、コンディションの悪い地面用に開発されたものです。タウンユースでも快適さを発揮し、雨上がりやゴツゴツ
した石畳などを歩いても疲れにくいのが特徴。また、サイドから見てもわかるほどくっきりとした凹凸が刻まれ、がっちりと厚みがあるため、タフで男らしい印象を演出してくれるのも魅力です。武骨なミリタリーシューズのデザインと相性抜群。「ケンゴン Ⅱ R」では英国イッツシェイド社製のコマンドソールを採用しています。

ケンゴンⅡ R

ジョセフ チーニーのおすすめミリタリーシューズは?
ローカットでオールシーズン履ける「ケンゴン Ⅱ R」

75年以上前から存在したと言われており、英国軍にも提供していた木型「LAST4436」を採用するミリタリーシューズ。ノーズが短めでボリュームのあるラウンドトウが独特な愛嬌を備えています。ウィズ(横幅)が広めのため締め付け感がなく、リラックスして履けるのも魅力。アッパーのデザインもかつての英国軍採用モデルを踏襲。トウに入った2本のツインステッチと、V字に革を切り替えたサイドが印象的です。ブーツが多いミリタリーシューズですが、こちらは春夏にも活躍するローカット。雨の日でも滑りにくく、作りも極めて丈夫なので、天候を問わず長く愛用できる一足です。

photo Masahiro Sano text Hiromitsu Kosone

ジョセフチーニー

テーラーの修行時代の記憶をつなぐ、30年モノの一足。 「BLUE SHEARS」代表/テーラー&カッター 久保田 博

ジョセフチーニー

長い歴史を通じてアップデートを重ねてきた製品には、時にフルオーダーを超えるほどの魅力があります。

英国紳士のスタイルを象徴する高級テーラーが立ち並ぶ、ロンドンのサヴィル・ロウストリート。その一角にある老舗テーラー「ギーブス&ホークス」にて修行を積み、同店初の日本人テーラー&カッターとして独立した久保田博さん。現在は、世田谷区瀬田にある自身のテーラーと、渋谷にある工房を往来し、お客様のためにビスポークスーツを仕立てています。そんな久保田さんにとって、想い出深い一足が修行時代に手に入れた「ジョセフ チーニー」。そのエピソードや革靴遍歴について尋ねました。

「BLUE SHEARS」代表/テーラー&カッター 久保田 博

留学中にサヴィル・ロウに出会い、テーラーの道へ。

— 10代の頃、渡英されたのはなぜですか?

経営を学ぶために留学し、イギリスの大学へ通っていました。レディングという街に住み、週末になると友人と一緒にロンドンへ繰り出していたのですが、そこで出会ったのがサヴィル・ロウ。私が行っていたのは90年代初頭の頃でしたが、当時は黒のボーラーハットをかぶっているようなクラシックなスタイルの紳士が結構歩いていて、とても魅力的な通りでした。また、日本の景気が良かったこともあり、当時は日本人のお客さんもたくさんいました。そういう背景もあり、大学の卒論で「サヴィル・ロウの歴史と経営学」を書くために、「ギーブス&ホークス」という老舗へインタビューを申し込んだ時も、日本人の私に好感を持ってくれて快諾してくれました。そして、その縁で大学卒業後から働かせてもらえることになりました。私は始めに縫製士(テーラー)の仕事をしていたのですが、当時は日本に支店があり、日本人の私を裁断士(カッター)として送り込もうという話が持ち上がりました。その結果、勤めていた6年の間で縫製と裁断の仕事も学ぶことができました。サヴィル・ロウでは分業が基本なので、テーラーとカッターのどちらもできる人というのは珍しいです。そのおかげもあって、帰国してからも技術に困らず、自分のお店を持つことができました。

ビスポークスーツは、お客様との共同作業で生まれる。

— 日本人と英国人のスーツ観に違いはありますか?

イギリスでサヴィル・ロウのテーラーへスーツを作りに来る方というのは、基本的には富裕層です。それ以外の方がスーツを作るということはあまりないですね。そういったこともあってか、ビスポークスーツ=アートという考えの方も多いです。日本ではそういう考えの方は珍しいですが、逆にスーツ自体が好きで、お金を貯めてでも良い一着を仕立てたいという方がいるのが魅力だと思っています。私の店でも、パターンオーダーは1割くらいで、ほとんどのお客様はフルオーダーでスーツを仕立てられています。英国人と日本人では体型が大きく違うので、日本で仕事を始めたばかりの頃は、サヴィル・ロウで学んだ型紙を作るシステムと異なる部分があり、比率などの公式をアップデートするまでに時間がかかりました。ビスポークスーツを仕立てるのは技術が必要ですし、オーダーから完成まで時間のかかる仕事ですが、お客様とのコミュニケーションを通じて、最終的にお互いの納得のいく一着が完成した時の喜びはひとしおです。この技術と気持ちを後世に伝えるべく、アカデミーを設立して縫製士を育てています。いつか生徒たちとも、一緒に仕事をできるようになったら嬉しいと思っています。

イギリスの影響を受け、サッカー愛がさらに強まる。

— オフの時間はどのように過ごされていますか?

「ギーブス&ホークス」で働いていた時はチェルシーに住んでいたので、近くにあったスタジアムへよくサッカー観戦に行っていました。イギリスでは熱狂的なサッカーファンが多く、国際試合に負けた翌日には相手国の人たちと喧嘩が起きるほどの白熱ぶりなんです。そんな影響を受け、私ももともと好きだったサッカーをさらに好きになりました。非公式ですが、自分のテーラーの名前にもチェルシーFCのクラブカラーである「ブルー」を付けています(笑)。今でも休みの日にはJリーグの試合を観にいきますし、チェルシーFCが来日すると必ず試合を観にいきます。また、数年に一回くらいのペースでイギリスへ行っているのですが、その時にも「ギーブス&ホークス」時代の同僚たちと会って、一緒にサッカー観戦を楽しんでいます。残念なのは、イギリスへ住んでいた頃はプレミアリーグのメンバーシップに入っていたので数千円でチケットを買えたのですが、日本で買おうとすると数万円もかかってしまうこと。ただ、その分とても良い息抜きになるのでお金には代えられないですね。

修理をして長く愛用できるのが、英国靴の良さ。

— 革靴遍歴を教えてください。

今は12足ほど革靴を持っていますが、自分のルーツ的にも英国靴が主で、他の国の靴はあまり履かないです。覚えている限りでもっとも古いのは、イギリスで購入した「ジョン シューメーカー」のドレスシューズ。とてもリーズナブルだったこともあり当時はよく履いていました。その後、21歳の頃に「ギーブス&ホークス」で買ったのが「ジョセフ チーニー」製、黒のパンチドキャップトゥです。当時は「ギーブス&ホークス」の革靴を「ジョセフ チーニー」が作っていたんです。足の形に靴底が沈んでいくような感覚を味わうことができた、自分にとって初めての本格的な革靴で、通勤の時には毎日のように履いていましたね。イギリスは街が石畳で革靴のソールがかなり痛むので、何度も修理して大切に履いていました。残念ながら、27歳で帰国する際に、向こうに置いてきてしまったのをとても後悔しています。それから色々な英国靴を試しましたが、個人的に思い入れがあるのがエドワードグリーンの「チェルシー」というストレートチップ。モデル名もさることながら、シンプルで洗練された形が好みで、黒と茶のカーフ、オーストリッチなどを持っています。長く愛用しているのは、どれも歴史がある英国メーカーのもの。伝統的な技術があるからこそ、修理対応がしっかりしていて、壊れても直して長年使えるのが魅力だと思います。

想い出の一足が、いつしか仕事の相棒に。

— 本日履かれている「ジョセフ チーニー」はいつ頃に購入されたものでしょうか。

これは90年代中頃に「ギーブス&ホークス」で購入した「ジョセフ チーニー」製のものです。当時は、黒い革靴ばかり履いていたので、茶系にも挑戦しようと思って手に入れたのですが、結局履く機会を逃してしまい一度も履かずに大切に保管していました。そのおかげもあって、お客様が仕立てたスーツのフィッティングをする際に履いてもらう革靴として、今でも現役で大活躍しています。約30年前のものとは思えないほど、形も洗練されていますし、作りもしっかりしていますよね。インソールには、「ギーブス&ホークス」の昔のロゴも刻印されているので、見る度にサヴィル・ロウでの修行時代のことを思い出すことができる記念品的な一足です。

積み重ねてきた歴史が生み出す、多くの方に愛される逸品。

— 「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。

当時の私は、「ジョセフ チーニー」ブランドの立ち位置などはあまり理解していませんでしたが、老舗の「ギーブス&ホークス」の革靴を手がけているというだけで、十分真面目なモノづくりを真摯に続けてきているメーカーだということは伝わっていました。スーツにおいてもそうなのですが、既製品には既製品ならではの魅力があり、逆にフルオーダーではできないような部分もたくさんあります。たとえば、「ジョセフ チーニー」の革靴は、長い歴史の中でアップデートを積み重ねてきた技術が落とし込まれているからこそ、より多くの方にフィットするような木型を作ることができているのだと思います。これからも、たくさんの方に愛されるようなモノづくりを変わらずに続けて欲しいですね。

「BLUE SHEARS」代表/ヘッドカッター
久保田 博さん

1972年生まれ、東京都出身。10代の時に経営学を学ぶために渡英。卒業後、ロンドンのサヴィル・ロウ通りにある英国王室御用達テーラー『ギーブス&ホークス』にて6年間テーラリングの修行をする。同店初の日本人テーラー&カッターとして独立し、2005年に自身のテーラー「ブルーシアーズ」を世田谷に構える。渋谷青山にある工房ではプロのテーラーを養成する「ブルーシアーズアカデミー」を開講し、後進の育成に取り組む。海外での受注会などにも勤しむ。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda(RECKLESS)

バイヤーが語るジョセフ チーニー

若き百貨店の紳士靴バイヤー対談 あらゆるドレスシューズを見てきたメンズ館バイヤーが語るジョセフ チーニー

バイヤーが語るジョセフ チーニー

移り変わりの激しいファッショントレンドの中にあって、古き良き製法やデザインで普遍的な魅力をもつ紳士靴。一方で、定番シューズもモディファイを繰り返し年々履き心地などクオリティがあがっているのもまた事実。そんな、奥深い紳士靴の世界を一番近くで、一番多く見てきた百貨店のシューズバイヤーではないでしょうか。現状の知見に留まらず、常にトレンドに敏感な彼らの審美眼を通して、紳士靴の今とジョセフ チーニーのこれからを紐解きます。今回お呼びしたのは、ともに「メンズ館」という大店を張る三越伊勢丹、阪急百貨店の敏腕2名。
 

潮流を捉える二大『メンズ館』の新星

三越伊勢丹 田畑智康 氏
三越伊勢丹 田畑智康 氏

2006年伊勢丹(当時)に入社。伊勢丹新宿店メンズ館の靴売り場からキャリアをスタートさせ、三越と合併後は複数店舗での靴のバイヤーとして活躍。2019年より伊勢丹新宿店メンズ館のバイヤーに就く。

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阪急阪神百貨店 芝崎 優輔 氏

2007年に阪急百貨店(当時)に入社。阪急メンズ大阪の靴売り場に配属され、4年目からバイヤーとして活躍。現在、阪急メンズ大阪だけでなく、阪急メンズ東京、博多阪急の3店舗を担当している。
 

大きな流行が起きにくい中で、安定した人気を誇る英国靴

アルフレッド

-まずそれぞれの店での取り扱いブランドを教えてください。

田畑 リーガルからエドワード・グリーン、ジョン・ロブまで、幅広い品ぞろえをしているのがメンズ館の特徴ですね。価格帯でいうと2万円台から20万円超くらい。他の英国靴ではクロケット&ジョーンズ、トリッカーズも取り扱っています。

芝崎 取り扱いブランドはそれほど多くなく、メインは伊勢丹さんとそれほど変わりません。加えて、お客様の動向を見ながら別注品や限定品を企画して、バリエーションを充実させています。トレンドとしては英国靴に力を入れていますが、同じブランドでもポジションや役割は違うかもしれませんね。

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田畑 最近はオフィスでの服装がカジュアル化している影響でドレスシューズの市場がシュリンクしてしまい、大きなトレンドが起きにくくなっています。過去にはイタリア靴や国産ブランドなどのブームがありましたが、そのようなトレンドはなく、その中でも英国靴は人気が安定していて、手堅いイメージがあります。ただ、プレーントゥやローファーのような汎用性のある靴が求められている傾向が強くなってきていて、フルグローブやセミブローグの売り上げは昔と比べると落ちていますね。芝崎さんのところではどうですか。

芝崎 基本的に同じ傾向です。例えば新年度を迎える前にフレッシャーズフェアをすると、黒のストレートチップがすごく売れた時代とは違って、ビジネスシューズのカテゴリーに入る革靴を買いに来られるお客様自体が減っています。一方で、スーツが好きだから着るというお客様が一定数いるので、6~7万円よりも価格が上の靴になると売り上げは堅調に推移しています。

田畑 靴好きのお客様に限定すると、売り場に並んでいるものではなく、もっと尖ったものなど、持っていない靴を欲しがられる人が多いので、指向性が深くなっていく感じです。

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芝崎 私は時間があるときは店頭で販売もするのですが、お客様が履かれている靴だけでなく服装も確認して、そこから今起こっているトレンドを推測します。また、アウターを買われた紙袋を持たれたお客様を見かけるようになると、売り場にブーツを出すなど、買い付けの段階で計画したことより、売り場の状況を見ながら軌道修正することが多いですね。

田畑 私も週末の空いている時間は店頭に立っていることが多いので、お客様の動向を見ているだけでも勉強になります。むしろ最も大事な情報だと思っていて、例えば3足しか売れなくても、手に取られた人や実際に履かれた人はすごく多かったのに、何かしらの理由で購入には至らなかったということもある。その何らかの理由を改善するとベストセラーになる可能性もあります。ですから店頭でのお客様の背景を探っていくことは、とても大事だと考えています。

履き込んでいくうちに自分の一部になるような感覚は英国靴ならではの魅力

ジョセフ チーニー

-それでは本日のテーマであるジョセフ チーニーについて、まず英国靴についての印象を教えてください。

田畑 質実剛健で、ドレスシューズの基本中の基本が詰まっているという印象です。芝崎さんも海外出張に行かれると思いますが、工場を訪問して感じるのは非常に誠実なものづくりをしていること。細かい縫製も含めて非常に完成度が高く、またチーニーに代表されるように自社工場で一貫生産しているブランドが多いのが強みです。インポートの靴は価格が高いといわれますが。品質とのバランスを考えると決して高くないと思います。

芝崎 靴に興味を持ったきっかけが英国靴だったので、個人的に好みという部分を差し引いても、履いていくうちにフィットする感覚はやっぱり英国靴ならでは。履き始めは痛いこともあるのですが、履きこんでいくうちにフィットしていき自分の一部になるみたいな感じが好きです。あと、単純に見ていて落ち着きます。入社したての頃にジョン・ロブを買ったのですが、30歳手前でいったん履くのをやめてしまったんですよね。似合っていないというか、早すぎるんじゃないかと思って。

田畑 うん。なるほど。

芝崎 30歳を超えてから、再度履き始めたのですが、やっぱりかっこいい。年齢で縛るつもりはなく個人の自由なのですが、英国靴は大人になったら似合う靴なのかなと思っています。

バイヤーが語るジョセフ チーニー

田畑 英国靴の中でもチーニーの魅力は圧倒的なコストパフォーマンス。価格に対しての品質の良さが際立っていて、若い人でも手を出しやすい。実は今、チーニーはすごく売れていて、英国靴の中ではトレンドになっているといってもいいくらいです。

芝崎 チーニーは阪急メンズ東京では扱っていて、阪急メンズ大阪では2020年春夏から取り扱いがスタートします。価格帯でいうと決して高くはないのですが、安いかというとそうでもなくて、面白いのはエドワード・グリーンを履く人でもチーニーを履くんですよね。もちろん、普段リーガルを履く人でもチーニーを履きたいと思っていて、履きたいと思う人の幅がとても広いと感じています。

ジョン・ロブを履く人でもチーニーを選ぶのはつくりがしっかりしているから

アルフレッド

田畑 チーニーの何が好きかというとラスト。若い人たちが買われる一番の理由は、優れたコスパもあるのですが、125と呼ばれるラストの影響が大きい思います。一般的にインポートの靴は日本人にぴったり合うわけではなく、特に踵が大きいんですよね。ところが125ラストは踵が小さくて、内ぶりといってセンターのラインを内側に振っていて、これらの工夫が25歳から34歳までのミレニアム世代の人たちに合っているんです。この125ラストは2011年に開発されていて、英国ブランドって進化がないように思われがちなのですが、2000年以降もきちんとラストの開発をしているという点がいいところ。実際にうちでは、この125ラストを使ったストレートチップのALFRED(アルフレッド)が圧倒的なベストセラーで、若い人たちが指名買いします。

芝崎 先ほど話しました、エドワード・グリーンやジョン・ロブを履く人が、なぜチーニーを履くのかというと、つくりがしっかりしているからなんですね。ぱっと見たときにいい靴だと分かりますし、靴を脱ぐことが多い日本だと靴のことをある程度知っている人からすると、チーニーはライニングを見てもこまかいところまでこだわっているのが分かる。単純に価格の比較でエドワード・グリーンやジョン・ロブの3分の1の価格で買えることを考えると、ものすごくいい靴なのではないかと思っています。

アルフレッド

田畑 価格に対する品質というところで考えると、今の若い人たちはしっかりした必要なものだけを買うという印象で、買いたいものが明確に決まっている。身の丈に合ったものを買って、それが新品でなくてもいいという考えですね。先日、うちで開催した靴博ではユーズドのドレスシューズを販売したのですが、すごく売れました。いいものを新品で買うという発想ではなくて、ユーズドでも自分に合ったものがあればそれを価値として受け入れるという考えは若い人たちの間に浸透しています。無駄なものを買わないという考えで、その対象にチーニーが選ばれることが多くなっています。

芝崎 あとチーニーは他の英国靴と比べて特徴が非常にしっかりしていて、このデザインはあってしかるべきという定番をしっかり見極めてつくり込んでいる。だからピンポイントでの指名買いも多いのではないかと思います。

アルフレッド

田畑 改めてみると、丁寧につくられていますよね。なんか、レベルが上がっているような。

芝崎 確かにレベルが上がっています。昔のドレスシューズをよく知っているおじさんが言いがちなのが、「昔はよかった」的な話。

田畑 レザーは昔の方がよかったという話ですよね。いろいろなブランドでレザーは昔の方がよかったといわれがちなのですが、チーニーはむしろよくなっている気がします。

芝崎 レザーの質だけでなく、ラストやフォルム、デザインなど、私がバイヤーになりたての頃と比べると、クオリティはものすごく上がっています。

田畑 ラストへの根付かせ方というか、ラストの再現性もすごく高くなっている気がする。あと、今はアルフレッドのような長すぎないノーズが支持されています。

芝崎 やっぱり安心感のあるのはこれなんですよね。ラウンドの長すぎないノーズ。

125ラストの開発は、時代の変化に柔軟に対応していこうという考えの表れ

バイヤーが語るジョセフ チーニー

-お話が変わりまして、それぞれの店舗で扱われているチーニーのモデルを教えてください。

田畑 売り場としてチーニー対して期待している役割として、英国靴の入門編というのがあり、手堅く間違いのない靴選びをしていただきたいという思いで、定番のモデルを常時そろえています。

芝崎 阪急メンズ東京も定番を中心に取り揃えています。ですがこの秋冬は、脱ぎ履きしやすい靴ということでサイドゴアブーツも扱うようになりました。基本的にレースアップのブーツが選ばれにくくなっているので、エレガントで見た目もかっこよくて、さらに脱ぎ履きしやすいという理由ですね。この2~3年、サイドゴアブーツ自体が人気のアイテムとして注目されています。

アルフレッド

田畑 バイヤー目線でいうとアルフレッドは本当に好きですね。今、私の中でも注目しているのは内ぶりなんですよ。大量生産するにはどうしてもセンターに中心を持ってこないといけないのですが、でも足ってそもそも人差し指のところが高くなっている。既成靴だと、靴の最も高いところと足の最も高いところが合っていないところがあって、最近ではその問題をクリアしていこうというブランドがいくつか出ているんですね。そのためには木型のよさだけでなく、職人の技術の両方を兼ね備えていなくてはいけなくて、アルフレッドがこの価格で買えるのならイチオシですね。

芝崎 他に挙げるなら5万円台で展開しているシティコレクションもおすすめ。本当に入口の価格帯で、中でもフルグローブのウイングチップは、カントリーっぽい雰囲気というか、皆があまり履いていないような靴だからこそ履きたいというのはあります。改めて見ると、コテコテしている靴というのもなかなかかっこいい。こういう靴をあえてかちっとしたスーツに合わせるのもいいかもしれません。私は新入社員の頃、年に1回ノーザンプトンを訪れるという旅行を個人的にやっていて、チーニーのアウトレットで購入した茶色のグローブ系のモデルを2足所有しています。

フルブローグ

田畑 チーニーのオーナーであるウィリアム・チャーチ氏はジェントルマンで優しいですよね。

芝崎 海外の展示会に行くと、丁寧に商品を紹介してくださるのですが、会社の代表があれだけ細かく一つひとつを紹介するという事例は他にはありません。オーナーがものごとをよく分かっている証拠なので、そんなブランドは信頼できると思います。

田畑 オーナーに情熱があるというのは大事です。チーニーはセレクトショップなどの別注を手掛けることでも知られているのですが、小ロットなのにも関わらず柔軟に対応してくれる。それだけでなく、別注のロゴまでつくってくれるなんてなかなかありません。

芝崎 本当にそうですよね。英国ブランドってすごくいいものづくりをするのですが、一方で思考がストップしているところがあって、売れないということに対してその理由をなかなか理解してくれない。チーニーが細かく対応してくれるというのは、そのあたりのことを理解してくれているのだと思います。

田畑 マーケットに対しての理解がありますよね。市場は常に変化しているのに、その変化に対応してくれるブランドって少ないんですよ。125ラストが2011年に開発されているのも、時代の変化に柔軟に対応していこうというチーニーの考えの表れだと思います。

次代が変わっていく中で、お互いに言いたいことがいえる関係性が重要

ジョセフ チーニー

-それでは最後に、今後チーニーに期待したいことを教えてください。

田畑 英国靴はある種完成されていて、伝統の継承がすべてだというブランドもなくはないので、チーニーとはぜひ一緒に進化していきたいです。お客様の価値観やマーケットはこれからも変化していくので、技術的な進化も含めてどんどん変わっていければいいなと思います。

芝崎 トレンドが目まぐるしく変わっていくと、今までの買われ方とは違う買われ方というのが出てくると思うんですよね。その中で、どれだけ我々の要望を聞いてもらえて、形にできるかというところが売り上げにつながってくる。現在、チーニーにはこのようなことには対応していただいているので心配はしていないのですが、これからスーツがもっと着られなくなって、それこそ民族衣装みたいになる可能性だってある。そうなったときにどんな対応をしていただけるのかという点において、お互いどれだけ情報交換や情報収集できるかが重要だと思っています。よりお互いに言いたいことがいえる関係性をこれからも築いていきたいですね。

photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda

ジョセフチーニー

英国好きのスタイリストが、12 年愛用しているドレスシューズ。「江東衣裳」代表/スタイリスト 部坂 尚吾

ジョセフチーニー


優れた技術の基盤とそれを積み重ねてきた伝統がある。
僕にとって「ジョセフ チーニー」は究極の “バイプレーヤー”です。

雑誌、広告、映画などで活躍するスタイストの部坂尚吾さんは、自他共に認める英国ラヴァー。毎年一度はイギリスを訪れ、その街の一員として雰囲気を味わい、人間観察を楽しんでいるそうです。そんな部坂さんですが、365日革靴以外は履かないというこだわりの持ち主。しかも、その趣向はかなり偏っているのだとか。長年愛用されている「ジョセフ チーニー」のお話と、革靴遍歴を尋ねました。

スタイリスト部坂 尚吾さん

イギリスの生活に溶け込み、雰囲気を味わう旅。

— よくイギリスへ旅行されているのはなぜですか?

イギリスのスーツスタイルが好きだったことが転じて、イギリスそのものを好きになってしまったからです。今では移住したいとすら思っています。だから、年に一度は休みを設けてヨーロッパへ旅行するようにしています。今年は、両親の還暦祝いを兼ねてイギリス旅行をしてきました。以前、フランスが好きな妻に合わせ、イギリスとフランスとの一週間ずつの滞在になったことがありましたが、滞在時間が短すぎて少し消化不良でした(笑)。観光地を巡るツアーも楽しいですが、できる限りその街に長くいて、そこで暮らすかのように滞在するようにしています。そのおかげで、表面的ではない物事を発見できるように思います。また、その際になるべく日本にいるときと同じような生活リズムをキープするように心がけています。旅先で張り切り過ぎて無理をしてしまうと大体体調を崩してしまうので……。イギリスはお店の閉まる時間が早く、早寝早起きの僕の生活リズムにもぴったり合っています。旅行はそういったことを実感したり、街や人の雰囲気を味わうことができる贅沢な時間です。あまりにも有意義な時間を過ごすことができるので、帰国するのが億劫になってしまうことがしばしばあります。

グレンロイヤル

スタイルからオリジナリティを感じること。

— 英国人から学んだことでとくに印象的だったことはありますか?

イギリスに行くたびに強く思うのは、確固たる自分のスタイルを持った人が多いということです。トレンドに敏感で、街を観察すれば何が旬なのかおおよそ見当のつく日本とは異なり、イギリスではそれが非常にわかりづらいです。たとえば、「ザ・フー」のバンドTシャツを着て、ボロボロのジーンズという出で立ちなのに、なぜか足元だけピカピカに磨かれたドレス靴を履いている人や、ビスポークであろうスーツを着こなす銀幕スターのような人など、オリジナリティ溢れる格好の人が多いです。自分自身のポリシーを持っていてスタイルを大切にする文化はとても魅力的に感じます。作り手のこだわりが伝わるものに魅力を感じて手に取ることが多いのですが、気が付けば茶系のレザーアイテムが多くなっていました。いずれも、昔ながらの製法を受け継ぐなどポリシーやスタイルを貫いているメーカーが多いです。先日のイギリス旅行でも、ブライドルレザーの水筒ケースに一目惚れしました。保温性に優れているようにも見えないし、とりわけ軽い訳でもない。なぜこれを生産しようと思ったのかが気になって仕方がなかったです。お店の店員さんも“本当に買うの?”というような表情をしていました(笑)。

ジョセフチーニー

365日革靴で過ごすのが、部坂流。

— 英国のオリジナリティを大切にする考えは、部坂さん自身のスタイルにも生きていますか?

そうかもしれません。僕は20代の前半の頃から革靴以外履かなくなりました。なぜかと言えば、革靴を履くとコーディネートが締まるのでかっこいいからというシンプルな理由です。昔、テレビ番組のADをやっていた時にロケハンで無人島へ行ったんです。その時にも当然のごとく真っ赤な革靴を履いていったら、ディレクターに「ふざけんなっ!」と本気で怒られたことがあります……。撮影前日に「別の靴を買ってこい」と言われてお金をもらったのですが、あろうことかコンバースのオールスターハイカットを買って行ってまた怒られました。もっと脱ぎ履きしやすい靴で来いという真意をはき違えていましたね(笑)。スタイルを貫くというのはなかなか簡単なことではありませんね。僕自身は、今も365日革靴を履き続けています。もちろんスタイリングをする際には、自分の好みを押し付けるようなことはしません。ですが、僕の好きなスタイルを理解し、共感してくださる方とお仕事をさせていただく機会が多いのは嬉しいことです。

ジョセフチーニー

自身の原体験であり、スタイルに合う英国靴に傾倒。

— 革靴遍歴を教えてください。

初めて履いた革靴のことはあまり覚えていないのですが、20代前半の時にスーツに合わせて英国靴を買ったのが最初だと思います。今日履いている「ジョセフ チーニー」を購入したのもその頃だったはず。その後、当時まだ根強く残っていたクラシコイタリアブームの影響でイタリア靴も履くようになりましたが、現在では、英国靴が圧倒的に多いです。たとえば、「ジョセフ チーニー」をはじめ「ジョンロブ」「エドワードグリーン」「チャーチ」「ジョージクレバリー」「フォスター&サン」「クロケット&ジョーンズ」「トリッカーズ」など、一通り英国メーカーは履いていますし、所有している革靴の8割は英国靴です。自分が履いてみたいと思ったものと、衣装として使ってみたいものを収集していった感じでしょうか。英国靴以外ですと、イタリアの「ストール・マンテラッシ」「マンニーナ」「エンツォ・ボナフェ」、フランスの「パラブーツ」なども何足か持っていますが、やはり英国靴の比ではないですね。こういった話をしていて、よく人に驚かれるのが、アメリカ靴を一足も持っていないことです。稀に衣装として使用することはあるものの、ついに自分で購入に至る機会はありませんでした。

ジョセフチーニー

12年前に、先輩の勧めで手に入れた思い出の品。

— 本日履かれている「ジョセフ チーニー」はいつ頃に購入されたものでしょうか。

これは12年ほど前に、当時勤めていたセレクトショップで購入しました。僕の着ていた英国式のスーツに合わせて、先輩が見立ててくれた思い出の一足です。古典的なバーズアイのスーツに、ストレートチップでは真面目過ぎるので、内羽根にメダリオンが施されたこのモデルを推薦してくれたんです。ドレスの革靴自体を履き始めて間もない頃に購入した一足ということもあり、思い入れが深く今でも愛用しています。自分で定期的に磨いているのですが、とても気に入っているので、時には二日連続履いてしまうこともあります(笑)。それにも関わらず12年間履いても未だに現役で、本当にしっかりした作りだということをしみじみと感じています。最近「ユニオンワークス」でオールソール交換をお願いしたのですが、従来のレザーソールからオークバークレザーのソールに換えたり、ヴィンテージスティールを施すなど、カスタムすることで違いを楽しんでいます。この「11028ラスト」は、履いた時の足の収まりがとても心地良いです。トゥが細くウィズが広いデザインも、スタイルを選ばずどんなスーツにも合わせやすいところが魅力的ですね。

ジョセフチーニー

主役にも脇役になる、究極の“バイプレーヤー”。

— 「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。

10足以上持っていますが、クローゼットを見返してみて改めてラインナップの幅広さを感じました。僕が所有しているモデルだけでも、「CAIRNGORM Ⅱ R (ケンゴン Ⅱ R)」のようなカントリーブーツカントリーシューズ、「ALFRED(アルフレッド)」のようなドレス靴シューズ、コンビのローファーみたいなカジュアルなものまで様々です。メーカーさんによって、ジャンルの得意不得意があると思うのですが、「ジョセフ チーニー」のコレクションはどのモデルも履きやすく、スタイリングに合わせやすいのが魅力だと思います。また、数多い英国の靴ブランドの中で、圧倒的に他社とのコラボレーションモデルが多いのではないでしょうか。優れた技術の基盤がしっかりとあり、それを積み重ねてきた伝統があります。それが、多少のアレンジを受け入れられる余裕を生み出すのではないでしょうか。こうした高い柔軟性を備えた「ジョセフ チーニー」を、僕は究極の“バイプレーヤー”だと思っています。これほどバランスの取れたメーカーは、稀有なのではないでしょうか。

スタイリスト部坂 尚吾さん
スタイリスト
部坂 尚吾さん

1985年生まれ。松竹京都撮影所、テレビ朝日での番組制作を経て、2011年よりスタイリストとして活動をスタート。2015年に、「江東衣裳」を設立する。映画、CM、雑誌、タレントなどのスタイリングから、各種媒体の企画、製作のディレクション、執筆など、マルチに活躍。BRITISH MADEのWEB内「STORIES」にて連載中。現在、スタイリストアシスタントを募集中。

photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda

チーニー3足

定番3足を1週間コーディネート。 スタイリスト四方章敬さんならこう合わせる!



男の革靴、必要なのは最低3足。
仕事から休日までカバーするにはどう選ぶのが正解?

本格的な製法で作られたレザーシューズは何十年と愛用できますが、適切なお手入れに加えて“履いたら休ませる”ことが大切。靴の寿命を縮めないローテーションのためには、最低3足は必要といわれています。そこで、幅広いデザインバリエーションを誇るジョセフ チーニーのラインナップから、汎用性を考慮して3足をピックアップ。スタイリスト四方章敬さんに、1週間の活用例を提案いただきました。

チーニー3足

このラインナップなら、どんなシーンにも対応できる

いずれもジョセフ チーニーの定番モデル。左:オーセンティックなコインローファー「ハドソン」。程よく丸みを帯びつつ現代的なスマートさも感じさせるラスト5203を採用しています。きめ細かい上質なカーフで仕立てることにより、ドレススタイルへの対応力も高い一足。中:カジュアルライン“カントリーコレクション”の人気作「ケンゴン Ⅱ R」。
ミリタリーシューズに由来し、ラストはかつて英国軍にも提供していた4436を使用。さらに「ヴェルトショーン製法」と呼ばれる特殊なグッドイヤー製法で作ることで、雨水や埃が靴内部に入りにくく仕立てたヘビーデューティーなモデルです。右:セミブローグのドレスシューズ「ウィルフレッド」。端正で小ぶりな穴飾りによって装飾性を控えめにし、上品な印象に仕上げています。ラストはドレスシューズの定番125。2011年にブランド創業125周年を記念して誕生した木型で、小ぶりなヒールカップが日本人の足にもマッチします。

この3足を使って、スタイリスト四方さんが1週間コーディネートを提案

チーニー スタイリング

[Mon.]シリアスな会議は、スーツと内羽根靴でピリッと締めて。

週始めの月曜はミーティングの連続という方も多いはず。上役を交えた会議などシリアスな場面では、やはりビシッとスーツで臨みたいもの。乱れのない服装は相手に信頼感を与えるだけでなく、自分の立ち居振る舞いにも自信をつけてくれるはずです。そんなドレススタイルに合わせたのは、内羽根式セミブローグの「ウィルフレッド」。
「スーツはドレッシーなネイビーストライプですが、紡毛素材を選んで秋らしい季節感をさりげなく演出しています。ここに合わせる靴は王道のストレートチップでも悪くありませんが、少しだけ装飾性のあるセミブローグがベストマッチ。柔らかなスーツの生地感とあいまって、キリッと引き締まりつつも堅苦しくないビジネススタイルにまとまります。『ウィルフレッド』はラストがトゥボリュームは残しつつも、ウェストの絞りや小ぶりなヒールによりモダンな印象なので、スーツにも合わせやすいですね」(四方さん)

チーニー スタイリング

[Tue.] 終日市場リサーチ。外回りは上品かつ快適な足元で

一日中、外を歩き回るアクティブな日。疲れにくい服装でパフォーマンスを上げたいところですが、やはりビジネススタイルとしての上品さはキープすべき。そんなシーンで活躍するのが、ミリタリーシューズ由来の「ケンゴン Ⅱ R」です。締め付け感のない履き心地に加え、頑健なラバーソールにグレインレザーという素材使いにより、靴に気を遣うことなくガシガシ歩けるのもポイント。
「カントリーな表情の靴に合わせて、ツイードジャケットやミドルゲージのニットなど、温かみのある雰囲気でスタイリングしました。『ケンゴン Ⅱ R』はアッパーもソールも重厚で武骨ですが、外羽根式ウイングチップよりもデザインがシンプルなので、ビジネススタイルにも無理なく合わせられますね。コットンパンツを合わせる場合は、クリースの入ったもの選んでカジュアルに見えすぎないようにするとオンの佇まいをキープできます」(四方さん)

チーニー スタイリング

[Wed.]ノー残業デーは、カジュアルスーツとローファーで軽快に

社内が揃って早く退勤できるノー残業デー。なかなかスケジュールの合わない同期たちと、ブリティッシュパブで久しぶりに一杯……。そんな日は、リラックス感に加えて多少の華やかさもあると、楽しいムードをさらに盛り上げられることでしょう。
「パブに映える服装ということで、ロイヤルブルーのコットンスーツで軽やかさと華やぎを意識しました。インナーは寛ぎ感と上品さを兼備し、小粋な洒脱さも演出できるハイゲージのタートルニット。とくれば、足元も軽快なローファーが最適です。『ハドソン』はラウンドトウですがポッテリしすぎていないので、このスーツのようにドレスカジュアルな洋服と非常に相性がいいですね。アメリカのローファーとは一味違う、都会的な洗練を感じさせるところが魅力だと思います」(四方さん)

チーニー スタイリング

[Thu.]憂鬱な雨の日も、悪天候に強い一足があれば安心

雨天の通勤や外回りはなんとも憂鬱なもの。上半身は傘で守れても、靴底から冷たい水が染みて不快な思いをしたり、せっかくの革靴が泥で傷んでしまったりと、トラブルの種がたくさん。そんな日に「ケンゴン Ⅱ R」が大活躍してくれます。ヴェルトショーン製法とよばれる特殊な仕立てにより、雨水が中に染みにくい作りになっていることに加え、分厚いダブルコマンドソールで悪路も快適に歩くことができます。アッパーも汚れや水気に強いグレインレザーで、雨の中でも気を遣わなくていいのが魅力。
「肌寒い雨の日をイメージして、キルティングコートとコーディネートしました。靴もコートもカントリーテイストなので、全体に統一感が生まれますね。最近はコートもゆったりとしたワイドシルエットのものが主流になっていますが、ボリュームのある『ケンゴン Ⅱ R』はそんなコートと好バランスです」(四方さん)

チーニー  スタイリング

[Fri.]得意先と会食。セミブローグはジャケパンにも絶好

金曜夜には、長い付き合いのクライアントと食事会へ。気心知れた中なので、カチッとスーツで決める必要はないけれど、場にふさわしいドレス感は欲しい。そんな時はタイドアップしたジャケパンスタイルがちょうどいい具合です。そこに四方さんが合わせたのが、上品なセミブローグ「ウィルフレッド」。
「内羽根式のセミブローグシューズは、スーツにもジャケパンにも合う汎用性の高いデザイン。一足持っておくと重宝するアイテムです。このコーディネートでは、今季トレンドのフレンチを意識してみました。ポイントは黒を効かせること。ジャケット、ニット、ネクタイすべてに黒が入っています。足元の黒靴ともリンクして、トラディショナルだけれどクールな印象に映るのがポイントですね」(四方さん)

[Sat.]土曜は美術館へ。オーバーシャツとローファーできれいめに

美術館など大人な場所で過ごす休日は、服装も品よくきれいめにまとめたいところ。きちんと見えつつジャケットより気軽なオーバーシャツはそんなシーンで活躍するアイテムですが、そこに好相性なのがローファー「ハドソン」です。
「この『ハドソン』は色みもすごく魅力的ですね。少しグレーがかったブラウンで、渋さもありながら柔らかさも感じます。このコーディネートではイエローに近いベージュのコーデュロイパンツと合わせましたが、こういう華やかな色ともきれいに馴染んでくれます。トップスはガンクラブチェックのオーバーシャツにニットポロでトラッドにまとめつつ、スカーフをプラスして大人の洒落っ気を演出してみました」(四方さん)

[Sun.]クルマを飛ばして湖畔へ。大人アウトドアにも「ケンゴン Ⅱ R」が重宝

紅葉を見に湖畔まで日帰り旅行。もちろんスニーカーでもOKですが、より大人なスタイルで休日を満喫するなら、クラシックアウトドアでまとめるのがおすすめです。
「オイルドジャケットにカセンティーノ(イタリア、トスカーナ地方伝統のウール。毛玉のような起毛感が特徴)のプルオーバーといったトラッドなアイテムを活用して、アウドドアでも大人ならではのスタイルを考えました。こういったラギッドな装いにも『ケンゴン Ⅱ R』は似合いますね。履き込んで味を出していくと、さらにいい感じになると思います。オイルドジャケットやデニムと同様、エイジングでいっそう味わいが深まるのもこの靴の魅力だと思います」(四方さん)

英国ノーサンプトン伝統の本格的な作りはもちろん、大人の装いに幅広く対応するクラシックモダンなデザインもブランドの持ち味。四方さんのスタイリングを参考に、あなたのワードローブにも是非取り入れてみてください。

スタイリスト
四方章敬さん

1982年生まれ。武内雅英氏に師事し、2010年に独立。「LEON」「MEN’S EX」「Men’s Precious」「THE RAKE JAPAN」などラグジュアリーメンズ誌で活躍。ドレス、カジュアルともに精通し、クラシックを軸としつつひとひねり効かせたスタイリングに定評あり。

photo Kenichiro Higa text Hiromitsu Kosone