タンナーの代表が一目惚れした、コインローファー。 「栃木レザー」代表取締役 山本 昌邦


足入れをした瞬間にクオリティの高さを感じました。
英国らしい落ち着いたカラーも気に入っています。

国内屈指のタンナーとして知られている「栃木レザー」。1937年に創業し、軍需産業の発展とともに栄え、戦後は植物による「タンニンなめし」にこだわり、その魅力を世界に向けて発信し続けています。今回は、「栃木レザー」の代表である山本昌邦さんに、自身の革靴遍歴と愛用しているジョセフ チーニーの魅力について語っていただきました。

ただ消耗するのは、革に対して失礼だと気づいた20代。

— 山本さんの革靴遍歴を教えてください。

初めての革靴デビューは学生時代に履いたローファー。本革というよりは、合皮のようなものでしたが。その頃は、一足を履き潰しては新しいものに買い換えるというルーティンでしたね。ところが、就職をして商社に入った時に配属が革の原料部門だったんです。革の靴やバッグは子供の頃からなんとなく好きでしたが、その革が牛やさまざまな生物から作られているというイメージは正直ありませんでした。だからこそ、革になる前の皮という状態を見た時にはカルチャーショックを受けましたね。それを機に、革に対する想い入れが強くなり、革靴を履き潰すことが革に対して失礼だと気づきました。ですので、20代前半の頃から、どうせなら良い革靴を買おうということで、ボーナスが出た時には必ず革靴に投資していました。約40年前の所得からすれば革靴はとても高価なものだったので、高級な革靴であれば、一ヶ月分の給料が飛んでしまうということもざらでしたね(笑)。それでも、できる限り良い靴を揃え、7〜8足をローテーションするという履き方に変えました。

本当に良い革靴は、履かなくても持っておきたくなるもの。

— 想い入れのある革靴のエピソードを教えてください。

私は元々東京の商社に勤めていて、縁があって1985年から栃木で今の会社に移りました。その際に、何か記念となるものが欲しいと思い購入したのが、チャーチのコンサル(左)です。約30年前にどこかの百貨店で購入して、愛用していました。ここ2〜3年は履いていないのですが、自宅に飾ってあります。本当に良い靴だと思ったら、履かなくても持っておきたいんですよね。何足かは妻に捨てられてしまったのですが、「この想い出の革靴だけは、自分の勲章だから絶対に捨てないでくれ」と懇願しています(笑)。今日は持って来られなかったのですが、初めてのニューヨーク出張の時に買ったフローシャイムのウイングチップも想い出の一足です。お店で展示してあったので、足入れしたらぴったりで欲しい旨を店員さんに伝えたら、その方が店の奥から新しいものを持ってきたんです。「いや、今足を入れたこの靴がいいんだ」と伝えると、新しいものを欲しがらない日本人は珍しかったようで、「変わっているね」と言ってディスカウントしてくれました(笑)。もう一足は手前味噌ですが、リーガルとコラボして作った栃木レザーのシューズ(右)。最近は服装のカジュアル化傾向が進み、良い意味で弊社のタンニンなめしの革が注目されています。革靴のアッパーに使われることは珍しいので、嬉しさもあって愛用しています。

趣向は、ウイングチップからスリッポンへ。

— 革靴は何足くらいお持ちでしょうか?

履いていないものも合わせて、30足程度でしょうか。自分の体型ががっちりしていることもあり、それに合う革靴という意味でも質実剛健な英国靴が多いです。見た目にも安定感がありますし、グッドイヤーウェルト製法だとソールを替えれば長く愛用することができますからね。形はトラディショナルなウイングチップが好きです。色々な形を履きたいという気持ちもあるのですが、いつもつい同じような形を選んでしまいます(笑)。ですが、最近はお腹が出てきて紐を結ぶのが大変になったとこともあり、ローファーなどのスリッポンタイプの革靴を履く機会が増えました。パンツのデザインもスリムなものが多いので、バランス的にもスリッポンの方が合うんですよ。

本国にあるファクトリーショップで一目惚れ。

— 「ハドソン」との出会いを教えてください。

昨年の1月にジョセフ チーニーのファクトリーへ行ったのですが、待ち合わせの時刻より早めに着いてしまいました。すぐ隣にあったファクトリーショップに入って時間を潰そうと思っていたのですが、中に入るやいなや、このローファーを見つけ一目惚れしました。足を入れてみても自分の足にフィットしたので、気に入ってすぐに購入しました。とくに気に入っているのは色です。イギリスの製品は、他のヨーロッパの国々と比べて伝統の重みや重厚感を感じさせてくれるのですが、とくに色の出し方が落ち着いていて好きですね。気候や風土によるところが大きいのかもしれませんが、良い意味でくすんだ色出しが上手いですよね。それに、革質や作りもしっかりしていて足入れした瞬間から「これは長持ちするな」と感じました。カジュアルスタイルにもスーツスタイルにも合わせられるので、出張の時にも大活躍です。手入れは頻繁にはできないので、時間のある休みの日の朝に磨くように心がけています。

伝統を守り続けるために、日々改革を続けるメーカー。

— ジョセフ チーニーの印象を教えてください。

あらゆるものに共通していますが、天然素材を扱っている仕事は、絶対的な経験値がクオリティに反映されるというのが私の持論です。革にしても、1600年代頃から続いているヨーロッパのタンナーさんがなめした革は圧倒的に質が高いんですよね。長い歴史の中で積み重ねて来た技術力は、たとえそこで働く人が変わっても継承されていきます。よほど大きなデザイン変更や、経営マインドをガラッと変えたり、受け継いで来た製法を変えるとなれば話は変わるかもしれないですが。そういう意味では、英国に130年以上根付いているジョセフ チーニーの革靴は、質が高く味わいが明らかに違いますよね。これは、ある有名な寿司職人さんの受け売りですが、伝統とは改革があってこそ維持されていくものだと思います。寿司職人の世界で言うなら、シャリを握った時に毎回米粒の数が同じというレベルになれば本当の職人。それは、そこに到達するまでの創意工夫や変革を求めて積み重ねた努力の成果とも言えるわけです。ジョセフ チーニーは、ブランド自体に背景となる歴史がありながら常に改革を続けています。手前味噌ではありますが、自社にも通ずるそういった姿勢に非常に感銘を受けました。

「栃木レザー」代表取締役
山本 昌邦さん

1955年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、東京の商社で革の原料部門を担当する。1985年に栃木へ移り、「栃木皮革(現在の栃木レザー)」の代表取締役に就任。国内屈指のタンナーとして、植物を使用したタンニンなめしにこだわり、国内外に良質なレザーを供給し続けている。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda