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私なりの英国靴への想い 前編|ファッションジャーナリスト 矢部 克已

私なりの英国靴への想い 前編|ファッションジャーナリスト 矢部 克已

いまや日本は世界有数の“ドレス靴大国”である。英国を中心に世界各国の“名靴”を集めたセレクトショップをはじめ、靴ブランドのオンリーショップも軒並みそろう。わざわざ現地に行かなくても、十分に素敵な靴に出合える。
振り返れば、その胎動は1980年代半ばといえるだろう。まずアメリカの「オールデン」が脚光を浴び、英国の「チャーチ」や「グレンソン」が日本の地盤を固めていった。その頃、イタリアブランドの靴といえば、「グッチ」のホースビットモカシンや、「サルヴァトーレ フェラガモ」のスリッポンぐらいしか知られていなかったのではないか。レースアップの革靴は、伝統的で保守的な英国のスタイルが主流だった。

ジョセフ チーニー クォーターブローグ フェンチャーチ

’90年代に入って間もなく、ファッションの世界では、“フレンチトラッド”が上陸する。“BCBG”という、パリ上流階級のトラッドを基本にしたスタイルである。靴のブランドでいえば、「ジェイエムウエストン」のシグニチャーローファーを合わせるのが約束だった。
一方で、“フレンチトラッド”ブームの以前から「ジョルジオ アルマーニ」を筆頭とする、イタリアのインポートブランドが日本を席巻していた。マーケットの規模は、“フレンチトラッド”よりもイタリアンブランドのほうが圧倒的に大きかった。靴ブランドでは、ツヤっぽい「チェーザレ パチョッティ」「ピノ ジャルディーニ」「ロレンツォ バンフィ」あたりが注目されていた。私はどちらかといえば、「ジョルジオ アルマーニ」のスタイルに染まったほうなので、ヴァンプの小さいパンプスのような華奢な靴も履いていたころ。いまでは懐かしい思い出である。

“クラシコイタリア”が台頭し、イタリアのクラシックに直面する

Pitti Uomo 92
Pitti Uomo 92の会場風景

バブル崩壊後、日本のメンズファッションに多大な影響を与えたのが、なんといっても“クラシコイタリア”だ。真っ先に“クラシコイタリア”を取り上げたメンズファッション誌は、『メンズEX』。’95年だった。やがてじわじわと、スーツやジャケット、シャツやニットといったイタリアのクラシックなアイテムが広まりはじめる。
そもそも“クラシコイタリア”とは何か。当サイトを閲覧する読者には、当時を知りえない方も多いと思うので、簡単に説明を。
本来“クラシコイタリア”とは、イタリアの各地方に根付く、手技を使ったファッションアイテムを手がけるメーカーを集めた協会の名前である。たとえば、しなやかなスーツを仕立てるナポリの「キートン」、繊細な縫製で極上の着用感を生み出すシャツの「フライ」、レインコートなどのアウターに職人的な手法を持ち込んだ「ヘルノ」といったメーカーなど、’86年の発足時に16ブランドが集まった。設立された理由は3つある。
まず、ハイクオリティの製品づくりを行い、男たちに上質な製品を身に着けてもらうこと。第2に、ものづくりに必要不可欠な技術の継承。つまり、巧みな手仕事の伝授だ。第3は、受け継がれてきたイタリアのクラシックエレガンスを後世にも残すこと。世界最大級のメンズファッションの展示会、ピッティ・ウォモのメイン会場の、それも最上階の一番奥に、加盟ブランドを集めた“クラシコイタリア”のブースを設けた。

ファッションエディター・ジャーナリスト 矢部 克巳さん

私がはじめて“クラシコイタリア”のブースを取材したのは、‘90年代後半。いまも忘れられない第一印象が、加盟ブランドの各スタッフの装い。流れるようなシルエットが際立つ上質なスーツを着たミラネーゼや、色鮮やかなジャケット&パンツのタイドアップスタイルできめたナポレターノのエレガントな着こなし。本来、愛想のいいイタリア人なのに、近寄りがたいスノッブな雰囲気が漂い、まったく隙がない。「これが実物の“クラシコイタリア”か」と、ため息が出たものだ。スーツに合わせていた多くの靴は、「チャーチ」や「エドワード グリーン」のレースアップ。あるいは「ジョンロブ」。イタリアの靴では、ほとんどが「ストール マンテラッシ」だった。靴の色は、黒ではなくブラウン。つまり、随所にハンドワークを活かした味のあるイタリアのスーツに合わせていた靴は、英国もので、ブラウンが鉄則だった。
 これを見たとき、私は強烈なショックを受けた。以来、クラシックなスーツに英国靴を合わせるのが、私の“スタイルの形”となった。サルトリアでオーダーした手縫いのスーツの味わいと、英国の堅牢な靴が実によく似合うのである。

伝統のドレスシューズからカントリーテイストの靴へ

ジョセフ チーニー エイボン C

クラシックなスタイルに変化をもたらしたのは、カジュアル化の波だった。2010年代に差し掛かる頃には、スーツやジャケットは、これまでの優雅なクラシックスタイルから、タイトなラインに変化した。伝統的な生地だけではなく、ストレッチ素材も使い、より軽快な仕立てで、カジュアルな表情になっていった。レースアップの靴も、内羽根から外羽根へ、プレーンのキャップトウからセミブローグやフルブローグなどの、カントリーなデザインが目につきはじめた。素材は、シュリンクレザーやスエードといった革が目立ってきたのだ。
 このスタイルの変化をとらえ、クラシックなスーツスタイルに独特なカジュアルの要素を見事にコーディネートしたのが、シモーネ・リーギさんである。リーギさんとは、当時フィレンツェで“フラージ”というセレクトショップのオーナー。それ以前は、“タイユアタイ”の創業者、フランコ・ミヌッチさんの右腕として働いていた、飛び抜けたセンスの持ち主。その着こなしは、いつもファッションブロガーたちに狙われていたほどだ。

ジョセフ チーニー エイボン Cを着用するリーギさん

2010年代の半ば、私がショップに立ち寄ると、ゆったりとしたシルエットの“フラージ”のスーツに、フルブローグの靴を合わせていたリーギさん。なんとも味わい深いスタイルに目を留めた。少し太めのパンツと重厚感のあるストームウェルトを施したフルブローグの靴が、絶妙なバランスを保ち、着こなしの妙味をまざまざと見せつけたのである。しかも、元々ブラウンの靴に、あえて黒のクリームを塗り重ねた、アンティークな色彩のグラデーションでオリジナル感を表現。さすが、フィレンツェを代表するクラシックの達人。カントリージェントルマンをリーギさん流に解釈した、クラシックモダンなスタイルは、“粋の極致”だった。

しかし、いま、あらためてリーギさんの写真を見ると、靴のデザインは5つのアイレットで、内羽根のデザイン。当時、リーギさんは、はっきりと靴は「ジョセフ チーニー」の『エイボンC』と私に言っていたが、勘違いして他のブランドの靴を履いていたのかもしれない。リーギさんのスナップ写真を見せてもらうと、確かに『エイボンC』の靴を愛用していた。
いずれにしても、リーギさんのドレッシーなスーツにカントリーな靴を合わせる着こなしは、その後、私のお手本となった“革命的なスーツスタイル”である。

ファッションエディター・ジャーナリスト 矢部 克已さん プロフィール
「ウフィツィ・メディア」代表
ファッションエディター・ジャーナリスト
矢部 克已さん

イタリア1年間の在住時に、フィレンツェ、ナポリ、ヴェネツィア、ミラノに移り住み、現地で語学勉強と取材、マンウォッチングを続ける。現在は、雑誌『MEN’S PRECIOUS』でエグゼクティブ・ファッションエディター(Contribute)を務めるほか、『MEN’S EX』『THE RAKE JAPAN』『GQ JAPAN』などの雑誌、新聞、ウェブサイト、FMラジオ、トークショーなどでも活躍。イタリアのクラシックなファッションを中心に、メンズファッション全般、グルメやアートにも精通する。

TwitterID:@katsumiyabe

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すべての革靴を愛する方に贈る、革靴にまつわる“知る・探す・履く”

すべての革靴を愛する方に贈る、革靴にまつわる“知る・探す・履く”

すべての革靴を愛する方に贈る、革靴にまつわる“知る・探す・履く”

「ジョセフ チーニー」に寄せられるさまざまな質問を厳選し、革靴にまつわるお悩みを解決するための知識と知恵をご紹介します。ビギナーの方でも、たくさん靴を愛でてきた方でも“次の一足は…”と考える時間はきっと心躍るのではないでしょうか。代表的な型を理解して、数多のデザインからご自身のスタイルとライフスタイルに合った一足を手に入れる…。ビジネスシーンなのか、プライベートなのか使用するシチュエーションを考えながら、改めて「知る」「探す」「履く」と3つの工程ごとに分かれたQ&Aをご覧ください。

革靴を知る

【革靴を知る】

ひとえに革靴と言っても、そのデザインにはさまざまな種類があります。まずは代表的なモデルとその特性を理解し、革靴を構成する重要なパーツであるアッパーやソールの特徴と機能について知りましょう。


Q: 代表的な革靴の種類は?

革靴のデザインを大別すると5つのカテゴリーに分けることができます。

①レースアップ・シューズ
ハトメに通した靴紐で、フィット感を調整できるデザインです。イギリス王室をルーツに持ち、「オックスフォード」と呼ばれるフォーマルな「内羽根式」と、軍靴をルーツに持ち、「ダービー」と呼ばれる「外羽根式」があります。

②ストラップ・シューズ
ベルト状のバックルとストラップの開閉により、フィット感を調整できるデザインです。とくに代表的なモデルとして、ヨーロッパのアルプス地方の修道士が履いていたサンダルを原型とする「モンクストラップ」があります。

③エラスティック・シューズ
履き口の前か脇に、伸縮性のあるゴム布地「エラスティック」を縫い付けることで、着脱を楽にしたデザインです。1830年代のイギリスで生まれた「チェルシーブーツ」が起源だと言われています。

④スリッポンシューズ
シューレースやストラップなどのパーツが付属せず、靴の形状だけで足を固定するスタイルのデザインです。代表的なモデルは「ローファー」です。

⑤ブーツ
くるぶしを覆う高さのあるデザインの総称です。一般的なシューズ「短靴」とは丈で区別され、①では「チャッカブーツ」、②では「ジョッパーブーツ」、③では「サイドゴアブーツ」などが、このカテゴリーに含まれます。


Q:トゥのデザインはどんなものがある?

トゥのデザインはどんなものがある?

トゥ(つま先部分)のデザインは、5つに大別することができます。

①プレーン・トゥ
つま先や縫い目に装飾が施されていないシンプルなもの。内羽根式のレースアップ・シューズであれば、礼装にも活用できます。

②キャップトゥ(ストレートチップ)
つま先に一文字状のステッチングを施したもの。ビジネスシューズとして人気の高いデザインです。

③エプロンフロント(Uチップ)
甲からつま先にかけてU字状の「モカシン縫い」を施し、印象的なステッチが特徴。狩猟やゴルフなど、野外スポーツ用が出自のため、ややカジュアルな印象です。

④セミブローグ(メダリオンチップ)
つま先に「ブローキング」と呼ばれる穴飾りが一文字状に施されており、さらに花状の穴飾り「メダリオン」がついているもの。礼装以外で幅広く使うことができます。

⑤フルブローグ(ウイングチップ)
つま先のブローキングがW文字状に施されており、セミブローグ以上に華やかな印象を演出。内羽根式であれば、スーツスタイルにも合わせることができます。


Q:ジョセフ チーニーの代表的なモデルは?

「ALFRED(アルフレッド)」
クラシックな顔つきで、日本人の足型に合いやすいドレスシューズ。125コレクションのキャップトゥ(ストレートチップ)モデル・アルフレッド。

「WILFRED(ウィルフレッド)」
125コレクションの中で、アルフレッドと対をなす代表的なセミブローグモデル・ウィルフレッド。

「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」
ジョセフ チーニーの質実剛健なものづくりを体感できる、カントリーコレクションの代表モデル・ケンゴン Ⅱ R。


Q:アッパーの素材には種類がある?

カーフレザー
生後6か月位までの以内の仔牛の原皮を用いた革のこと。傷が少なく、きめ細やかなのが特徴です。ジョセフ チーニーでは主に、ドイツの名門タンナー・ウィンハイマー社の高品質なカーフレザーを使用しています。

スムースレザー
ビジネスシューズに使われているレザーとして定番の、なめらかな表面の革。組織が細かく、丈夫で柔軟性にも優れた「銀付き革」と、加工を施して原皮のシワなどを綺麗にした「ガラスレザー」に大別されます。

型押し
独特の模様=シボが表面に出ているレザー。傷がついても目立ちにくいため、ビジネスとカジュアル兼用の革靴に向いています。ジョセフ チーニーで使用している「グレインカーフ」は、大粒のシボがあり、傷や汚れ、水濡れに強いのが特徴です。

スエード
原皮の裏面を起毛させて、アッパーに使えるように仕上げたレザー。やわらかで温かみのある質感が特徴です。型押しよりもカジュアルな印象のため、ビジネスシューズには向かない一方で、オフにスタイルの幅を広げる一足として重宝します。


Q:ソールの特徴を教えてほしい。

ジョセフ チーニーで扱っている代表的なソールは主に3種類。またソールの厚みには2つの種類があります。

レザーソール
分厚い牛革を積み重ねて作る、アウトソールの元祖です。適度なしなやかさとクッション性があり、通気性と耐熱性に優れているのが特徴です。天然繊維であるレザーを使用しているため、使い込むことで生まれる味わいや風合いの変化を楽しむことができます。

ダイナイトソール
合成ラバーを用いた、イギリスを代表するソールの一つです。雨に強いため、雨用ドレスシューズのアウトソールにも最適。グリップ力に優れた凹凸は、側面から見えにくいため内羽根式のようなドレスシューズに付けても、雰囲気を損なわないのが魅力です。

コマンドソール
軍靴などに使用された、無骨な印象のソール。タイヤのように深く刻まれたトレッドパターンにより、山道や岩場のような路面でも安定した歩行をすることができます。

シングルソール
アウトソール一枚で構成されているシンプルなもの。足なじみが早く、ソール本来の感触を体感することができます。

ダブルソール
アウトソールとインソールの間に、ミッドソールと呼ばれる革底をもう一層敷き詰める二重構造の仕様です。ソールが分厚くなる分だけ、より頑丈になります。

革靴を探す

【革靴を探す】

革靴を探す際のポイントは、自分のライフスタイルに合わせて、TPOにあったものを見つけること。そうすれば、きっとあなたに相応しい一足に出会うことができるはずです。


Q:ビジネススタイルと相性の良い革靴は?

ビジネススタイルと相性の良い革靴は?

ビジネスシューズの定番と言えば、やはり黒のキャップトゥ(ストレートチップ)です。ジョセフ チーニーでは、「ALFRED(アルフレッド)」や「LIME(ライム)」などのモデルがそれにあたります。また、スーツスタイル以外にブレザーなどのジャケパンスタイルが多い方であれば、華やかな印象のあるセミブローグモデル「WILFRED(ウィルフレッド)」もおすすめです。

ビジネススタイルと相性の良いコレクションを、こちらの記事で比較していますので、ぜひご覧ください。


Q:冠婚葬祭にふさわしい革靴は?

冠婚葬祭時、もっともオールマイティに使えるのは黒の内羽根式キャップトゥ(ストレートチップ)モデル。ジョセフ チーニーでは、「ALFRED(アルフレッド)」「LIME(ライム)」がおすすめです。


Q:雨の日にも履ける革靴は?

雨の日にも履ける革靴は?

カントリーコレクションのモデルがおすすめです。アッパーのレザーには、大粒のシボで傷や汚れ、水濡れにも強い「グレインカーフ」を使用。アウトソールには、雨天時の荒れた路面に強いコマンドソールを採用しています。

とくに「CAIRNGORM Ⅱ R(ケンゴン Ⅱ R)」は、タン部分の羽根を縫い付けることで小石や水が入りにくい上に、雨の侵入を防ぐ構造の「ヴェルトショーンウェルト仕様」を取り入れています。


Q:サイズ選びで重要なポイントは?

革靴のサイジングは大切。サイズ選びを誤ってしまうと、疲れが溜まりやすくなってしまい、ひどくなると痛みが起こってしまいます。足の形は人それぞれ異なるため、下記を踏まえてショップスタッフに相談しながら、しっかりとフィッティングを選びましょう。

①足がもっともむくむ時間を知る。
人間の足は重力の影響で、夕方になると水分や老廃物が溜まりやすいと言われています。個人差はありますが、足がむくんで膨張する時間帯は誰にでもありますので、そのタイミングで革靴を購入する方がより疲れにくい一足を選ぶことができます。

②複数のサイズを試着してみる。
実際に試着する際には、面倒でも必ず複数のサイズを試してみるように心がけましょう。自分の適正だと思っているサイズのハーフサイズ上のものから順に、ハーフサイズずつ下げて履き比べ、ベストなフィッティングのものを選んだ方が、より正確なサイズの一足に出会うことができます。

革靴を履く

【革靴を履く】

革靴は購入して終わりではなく、履いて育てるのを楽しむことができるプロダクトです。ここでは、大切な革靴を長く愛用するための手入れ方法や、メンテナンス道具などをご紹介していきます。


Q:プレメンテってなに?

革靴を新品で購入した際に、履き下ろす前に行うメンテナンス。海外からの輸送や、保存時に革の水分や油が抜けてしまうと、固くて傷つきやすくなってしまいます。そのため、一度残っている古い油分等を取り除き、改めて塗り直すプレメンテが必要になります。この一手間により革に柔らかさが戻り、さらにワックスで磨いて表面をコーティングすれば、傷をつきにくくすることができます。自分で、また購入したお店にお願いするのも良いですが、靴磨きの店でプロにケアしてもらうのもおすすめです。


Q:シューホーンはなぜ必要?

革靴には基本的にかかと部分に芯が入っています。それにより、フィット感が高まり、靴の形も綺麗に保たれています。この芯の変形・破損を防ぎ、長く、美しく革靴を履き続けるために、必ずシューホーンを使用しましょう。また、十分に靴紐をゆるめてから着脱を行うのも大事です。


Q:簡単にできる手入れ方法を知りたい。

手入れの目的は、革靴から汚れを取り除き、革の内部に水分や油分を適度に補給し、柔軟で潤いのある良いコンディションを保つことです。月に一度程度のペースで行う簡単な手入れとして、片足につき保湿クリームを米粒3つ程度布に取り、靴の数カ所に置いてから、靴全体に広げて乾拭きするのがおすすめです。これだけでも革に潤いを戻すことができます。


Q:シワが気になる場合は?

シワが気になる場合は?

履きジワは、靴を履くうえで必ず生じるもの。深くついたシワが悪化すると、その部分のレザーが破損する可能性があります。残念ながら、ついてしまったシワは完璧に修復することはできませんが、手入れを通じて悪化を最小限にし、逆に味として楽しむことはできます。また、靴を長く良い状態で履き続けるためには革靴の木型にあったシューキーパーが欠かせません。ジョセフ チーニーでは純正のシューキーパーをご用意し、125ラストのモデルには専用のシューキーパーも展開しています。


Q:革靴はどのように保管するべき?

帰宅後、まずは靴紐をほどいてホールドされた状態を開放しましょう。靴についた汚れは、放っておくとさらなる汚れが積み重なってしまうので、その日のうちに軽いブラッシングをして表面の汚れを落とした方が良いです。また、同じ靴はできるかぎり2日連続で履くのを避け、履かない時にはシューキーパーを入れて履きジワを伸ばし、ソールの反りを戻しましょう。靴棚は湿気が溜まりやすいので、カビが発生するのを防ぐために、定期的な換気や吸湿剤を入れるなどのケアが必要です。


Q:リペアが必要になったら?

リペアが必要になった場合は、日本総代理店の渡辺産業にお送りいただくか、直営店の「BRITISH MADE」にお持ち下さい。

詳しくはこちらをご覧ください。


【番外編】

Q:ジョセフ チーニーの革靴が一番揃うお店は?

ジョセフ チーニーの総代理店である渡辺産業の直営店「BRITISH MADE」では、国内最多のラインナップをご覧いただくことができます。

全国の取扱店についてはこちらでご確認ください。


Q:オンラインストアはありますか?

「BRITISH MADE」のオンラインストアはこちらです。

ジョセフ チーニーの総代理店である渡辺産業の直営店「BRITISH MADE」では、国内最多のラインナップをご覧いただくことができます。

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服飾ジャーナリストが米国で出会った、英国靴デビューの原体験。 服飾ジャーナリスト 飯野 高広

革靴は自分だけの一足に育てていく過程が楽しい。
その要望に応えてくれるのが英国靴の魅力だと思います。

服飾専門学校で教鞭を振るい、さまざまなメディアへの寄稿を通じて、紳士靴やスーツなど、男性の服飾品の歴史と魅力を伝え続けている飯野高広さん。服飾ジャーナリストという肩書きの通り、長年ファッションの文化や流行を研究してきた生き字引的な存在です。そんな飯野さんが誇る170足以上の革靴コレクションの中に、英国靴の魅力にのめり込む原体験となった「ジョセフ チーニー」がありました。今回はそのエピソードとともに、革靴遍歴や英国靴の面白さについて語っていただきました。

飯野 高広

ファッションの興味や考え方をデザインする仕事。

— 服飾ジャーナリストとしての活動について教えてください。

服飾専門学校の講師業を主軸に、『ミューゼオ・スクエア』さんなどのメディアに企画を提案したり記事を寄稿しています。学校では、モッズやヒッピー文化のようなファッションの歴史についての講義をしていますが、自分の役目は服飾の敷居を下げて興味の入り口をつくることだと思っています。当たり前ですが、生徒さんと自分の世代ではファッションに関する受容の仕方が違います。私たちの若い頃はブランドに対して妄信的になっていましたが、若い世代はブランドをリスペクトする一方で客観的な視点を持っています。だからこそ、「洋服はこう着なさい」と押し付けがましく伝えるのではなく、「こういう世界もあるんだよ」と、好きなファッションについて別の視点で考えたり、興味を持つきっかけを与えることが大事だと思っています。かれこれ15年ほど教壇に立っていますが、どの年度の生徒さんも触れている文化や考え方がそれぞれ違うんですよね。そういうことを皮膚感覚で感じられるのは、私にとっても有意義です。自分とは違う感覚に触れるのを億劫にしないというのは、とても大切なことじゃないですか。だからこそ、生徒さんたちにもよく「私の授業は漢方薬だ」と言っているんですよ(笑)。即効性はないけど、後で効いてきて、5年、10年が経った後に、ファッションを振り返るポイントになればうれしいです。

時計

革靴にはレディメイドの存在意義を感じるプロダクトが多い。

— 普段どのような基準でモノを購入されていますか?

洋服に関してはオーダーメイドとヴィンテージを買うことが主になりました。ただ既製品が全然ダメだということではなく、今でも気に入ったモノがあれば買うようにしています。そういう意味では、革靴はビスポークだけでなく、まだまだレディメイドのモノを買うという感覚が強いかもしれません。私は20代の頃から高価なモノやスタンプラリー的に有名ブランドを買うということはありませんでした。それよりも、「何年つき合っていけるかな」ということを主眼に置いていました。だからこそ、今でも変わっていませんが、買う前に徹底的にモノのことを調べています。たとえば、「こういうスタイルの革靴を買うならどのブランドが良い」とか、「自分の身体のバランスを考えるとこういうモデルが良さそう」とか。そこに妥協しないことで、そのブランドしか作れない唯一無二のモデルや、自分の中の永久定番となるモノに出会うことができます。そういうモノに出会えなければ必然的にオーダーメイドになるわけですが、とくに革靴にはまだまだレディメイドの存在意義を感じるプロダクトが多い印象です。その結果、似たようなブランドのモノばかりそろえてしまうのですが(笑)。

自分のスタンダードになるモデルは、黒と茶のペアでそろえる。

— 革靴遍歴を教えてください。

一番初めに自分のお金で購入したのは、月並みですが「リーガル」のローファーです。学生の時に履いていたものですが、今でも大切に持っていますよ。それから日本やアメリカで作られた革靴を履くようになり、次第に英国靴や他の国の靴へと興味が広がっていきました。デザインはバラバラですが、一つルールを決めていて、自分の永久定番になるモデルに関しては黒と茶のペアでそろえるようにしています。たとえば、内羽根のパンチドキャップトゥはエドワードグリーンの「バークレー」、内羽根のフルブローグは今回持ってきたジョセフ チーニーと、旧チャーチの「チェットウィンド」、外羽根のプレーントゥはチャーチの「シャノン」とオールデンの「990」「9901」など、挙げたらキリがないですね。スタンダードの条件は、時代に左右されないデザインで、なおかつ履きながら自分だけの一足に育ってくれるモノです。ユーズドの革靴もスタンダードだと思ったら、ペアにしないと気が済まなくなってしまい、気づけば170足以上のコレクションになっていました。「棺桶に入れてくれ」なんてことを言うつもりはないので、いつか寄贈することになるかもしれないですね。20世紀の終わりから21世紀にかけて、こんな靴を履いて世の中を歩いている人がいたと後世に伝えていけたら良いなと……(笑)。

英国靴デビューの原体験となった別注モデル。

— 本日お持ちいただいたジョセフ チーニーとの出会いについて教えてください。

ジョセフ チーニーというブランドを初めて知ったのは大学生の頃でした。就職後にイギリスへ旅行した時、確かバーリントン・アーケードにあった直営店みたいな小さなお店を見つけて、いかにも英国靴らしい顔つきに惹かれたのですが、当時は「20代半ばで履いてもいいのか」という葛藤があったので、カタログをもらって帰りの飛行機の中で眺めて憧れているだけで終わってしまったんです。ところが、1999年か2000年くらいにニューヨークの「J.PRESS」を訪れた際に、別注の内羽根フルブローグと出会い、思わず黒と茶の二足を買ってしまいました。ラストは現在も使われているクラシックな「175ラスト」で、他にも外羽根のプレーントゥや内羽根のストレートチップもあって、正直に言えば全モデル欲しかったんですが、自分の中でもっとも英国靴らしいイメージに近いこのモデルだけを手に入れることで折り合いをつけました。いつもなら宅配便で郵送してもらうのですが、その時は重量オーバーになることを覚悟して自分で担いで持って帰りましたよ(笑)。そして、それ以来英国靴にのめり込んでいくようになりました。運が良かったと思うのは、英国靴デビューのきっかけが、当時の日本で10万円近くしたいわゆる高級靴と呼ばれるモノではなくて、質実剛健で履く人を引き立てるこの靴だったということです。だからこそ、20年が経った今でも変わらず大切に履いています。

“蓄積の美”を地で行く、英国らしい価値観を体現するブランド。

— この20年でジョセフ チーニーというブランドの印象は変わりましたか?

その当時もまったく悪い印象がなかったですが、おべっかを使うわけではなく、私の中で一番評価が上がったブランドです。自分の核となるポリシーを保ったまま、きちんと変わるべきところをブラッシュアップしていますよね。「イギリスの靴だよ」という文法を守りながら、シティコレクションのような現代的なアプローチがあり、その一方で「ケンゴン Ⅱ R」のような質実剛健の魂を感じるモデルもあります。英国プロダクトには創造の美よりも、“蓄積の美”という価値観が反映されていると思うんです。たとえばなぜ二階建てバスがあるのかと言えば、過去から引き継いだだけなんですよ。それは逆に言えば、変える必要がないくらい良いということですよね。いわゆる紳士靴と呼ばれる領域でも、ブローグやキャップトゥのデザインは、英国のモノという価値をこえて世界標準になっているじゃないですか。変わる必要のない良さを蓄積して磨いているからこそ、変わるべきところはいとも簡単にアップデートすることができる。イギリスには、そういう価値観を感じさせてくれるメーカーが多い印象です。ジョセフ チーニーは、まさにそれを地で行くブランドの一つだと思います。

自分だけの一足を、自分で完成させる楽しみ。

— 飯野さんの思う、英国靴の面白さとはなんでしょうか?

「革靴は自分で完成するものだよ」と言われているような、独特の“ほっといてくれる感”が私は好きです(笑)。たとえば、色で言うとコンカーという茶系のカラーがありますが、薄い色のクリームを塗ればミディアムブラウンに収まりますし、濃い色のクリームであればダークブラウンになりますよね。完成されたモノを買ってただ履くだけではなく、自分で料理できるというのは楽しいじゃないですか。家具のように日曜大工をしてへんてこな仕上がりになってしまっても味になりますし、そういう器の大きさはとても英国的だなと思います。私は職業柄、靴のクリームを買って頻繁に反応をチェックしているのですが、とりわけ質実剛健な英国靴は、それに応えてくれて自分だけの革靴になってくれるモノが多いですね。中には「過保護にしなくてもいいよ俺は」という一足もありますが、でも本日履いているのは、知人から譲り受けて15年以上履いているジョセフ チーニー製のキャップトゥです。この革靴のように、素直な革質のモノは試し甲斐があります。だから、ついモニターとして色やワックスを試してしまいますよね(笑)。そういう経験があってこそ、靴用クリームのピンチヒッターとして「ニベアクリーム」を散布したり、革を柔らかくするために化粧水「極潤α」を使うなんていう裏技も見つけることができます。色々なアプローチで自分だけの一足を完成させられる。そんな楽しみを与えてくれるのは英国靴の魅力だと思います。

服飾ジャーナリスト
飯野 高広さん

1967年生まれ、東京都出身。大学卒業後、大手鉄鋼メーカーに約11年間勤務し、2002年に独立。ビジネスマン経験を生かしたユニークな視点で、紳士靴やスーツなど男性の服飾品にまつわる記事を執筆する服飾ジャーナリストとして活動する。現在は「バンタンデザイン研究所」で講師を務める傍ら、さまざまなメディアに寄稿。「靴磨き選手権大会2020」のアドバイザーも務める。代表的な著書に『紳士靴を嗜む~はじめの一歩から極めるまで~』(朝日新聞出版)など。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda(RECKLESS)

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知っておきたい本格靴の基礎知識 #2.カントリーシューズ編

AVONC

知っているようで意外と知らない革靴のキホンを、全3回にわたって解説する連載企画。第2回は「カントリーシューズ」をテーマにお届けします。ミリタリーシューズと似ているけれど、違いはどこにある? ベストマッチなコーディネートは? などなど、気になる疑問にお答えいたします。

カントリーシューズ

そもそも、カントリーシューズとは?

前回紹介したミリタリーシューズと同様、革靴の中ではカジュアルに分類されるカントリーシューズ。ぽってりとしたラウンドトウ、厚みのあるソール、丈夫な作りなど、ミリタリーと共通する点も多いですが、カントリーならではの特徴もあります。中でも象徴的なのが、トウ部分を翼のように切り替えたウイングチップと、全体にあしらわれた穴飾り。ブローギングやパーフォレーションと呼ばれるこの意匠は、16世紀ごろ英国で生まれたものとされ、もともとは機能性を高めるために考案されたといわれています。当時の英国には湿地が多く、しばしば靴の中に水が入り込んで溜まってしまうことがあったそう。そこでアッパーに穴を開け、浸入した水を外に出しやすくしたのがブローギングの起源となりました。やがてそれが装飾となり、カントリーシューズのアイコンとして広まっていったというわけです。
ブローギングのないミリタリーシューズが武骨でたくましい印象なのに対して、こちらは素朴でクラシックな顔つきが魅力。ワックスコットンジャケットやコーデュロイパンツなど、同じく英国カントリーをルーツとするアイテムとコーディネートするのが英国紳士定番の着こなしです。またビジネスカジュアルが浸透した昨今では、ジャケパンにカントリーシューズという仕事スタイルも増えてきています。

ブリティッシュトラッドに欠かせない靴

英国的なスタイルを築くうえで欠かせない存在となっているカントリーシューズ。質実剛健な印象がある一方で、クラシックな品格を感じさせる靴としても知られていますが、それは英国上流階級のたしなみであるハンティングシーンで愛用されていた歴史とも関係しています。1920年代ごろの写真を見ると、狩猟の定番であるロングブーツスタイルに加えて、ニッカーボッカーズにハイソックス、そして足下にカントリーシューズという装いの紳士たちを確認することができます。このように昔から貴族文化と結びついて継承されてきた靴だからこそ、さりげない品位と格調を醸し出しているのです。一方、カントリーシューズは古くから農作業用のワークブーツとして広く親しまれてきたという歴史もあり、階級を超えて英国人に愛されてきたものだということがわかります。ブリティッシュトラッドにカントリーシューズが不可欠なのは、こういった背景によるものなのです。

カントリーシューズの特徴って何?
ボリュームあるラウンドトウと穴飾り

カントリーシューズの定番デザインといえば、大小の穴飾りをライン状に配したブローギングとトウのメダリオン。このようなウイングチップのものはフルブローグとも呼ばれます。ドレスシューズにもフルブローグのデザインは存在しますが、カントリーの場合、ブローギングの穴が大きいのが特徴的。これによってカジュアル感の高い顔つきを演出しています。加えて、ぽってりとボリュームのあるラウンドトウもカントリーシューズらしさの源。ウィズ(横幅)も広めのものが多いため、履き心地もコンフォートで万人の足に馴染みやすいのも特徴です。ちなみにトウにあしらわれたメダリオンはブランドごとに独自の図案を採用していて、紋章のような役割も果たしています。

“羽根周り”もカントリーらしさの決め手

脱ぎ履きが容易で窮屈感が少ない外羽根式がカントリーシューズのスタンダード。ミリタリーシューズと共通する作りですが、こちらはアイレット(靴紐を通す穴)が左右4つずつとなっており、一般的な5アイレットに比べ一つ少ないのが特徴的です。締め付け感がさらに少なくなり、リラックスした履き心地になることに加え、見た目もカジュアルな印象がアップ。アイレットには金属のハトメが取り付けられているのもさりげないアクセントとして効いています。

水気から靴を守る「スプリットウェルト」

アッパーとソールをつなぎ合わせるために用いる「ウェルト」と呼ばれるパーツにも、カントリーシューズならではの特徴が。一見気付きにくいのですが、よく見るアッパーとソールの隙間をふさぐようにウェルトが取り付けられているのがわかります。これは「スプリットウェルト」と呼ばれる仕様で、悪路を歩いた際に水気が靴内部に浸入するのを防ぐ目的で考え出されたもの。アウトドア由来のカントリーシューズらしいディテールです。ドレスシューズに採用されるフラットウェルトと比べると、こちらのほうがソール周りにボリュームが出てがっしりとした印象になります。ちなみに、スプリットウェルトと同様の防水仕立てには「ストームウェルト」や「リバースウェルト」といったバリエーションも。前者はスプリットウェルトとよく似ていますが若干カジュアル感のある印象に、後者はウェルトの取り付け方が異なっています。

AVONC

ジョセフ チーニーおすすめのカントリーシューズは?
近年、人気急上昇中の注目モデル「エイボン C」

2009年に誕生し、ジョセフ チーニーのカジュアルシューズを代表する木型となっている「LAST 12508」を採用したカントリーシューズ。ボリュームをもたせつつ野暮ったく見せない適度なバランスに設計されたラウンドトウと、安定感のある大きめのヒールが特徴です。アッパーは上質感と力強さを兼ね備えたグレインカーフ。上品なウールパンツからラギッドなデニムまで幅広くマッチします。ヨーロッパでは以前から高い人気を博してきたモデルで、日本でも近年注目度が高まっているモデルです。

photo Masahiro Sano text Hiromitsu Kosone

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ケンゴンⅡ R

知っておきたい、本格靴の基礎知識 #1.ミリタリーシューズ編

ケンゴンⅡ R

革靴の購入を考えているけれど、何を選んでいいか迷う! スーツに合わせるならどんな靴? カジュアル使いにおすすめなのは?……そんな疑問を抱える方のために、全3回にわたってお届けする連載企画。革靴の中でも代表的な3つのタイプを取り上げ、詳しくご紹介します。初回のテーマは「ミリタリーシューズ」。デニムやコットンパンツと相性抜群な、休日靴の定番です。軍由来ならではのユニークなディテールも見どころ。その魅力を徹底解説します。

ケンゴンⅡ R

そもそも、ミリタリーシューズとは?

その名のとおり、軍靴を由来とするミリタリーシューズ。現在ファッションとして浸透しているものの多くは、第一次・第二次世界大戦時代に生まれたものがルーツとなっています。デザイン上の大きな特徴となるのは、丸みを帯びたトウと全体的にボリュームのあるがっしりしたシェイプ。これはもともと、戦線に赴く兵士たちへ安定した品質の物資を大量に供給することが求められた戦時下において、さまざまな足の形にフィットする合理的な形状として考案されたものでした。
しかし、後年になると素朴でありながら独特な味わいがあり、男らしさを感じさせるデザインがファッションアイテムとしても注目されるようになります。過酷な戦地を踏破するために採用された頑丈な作り、そしてミリタリーシューズならではのディテールも機能美として愛好されてきました。革靴でありながらカジュアルスタイルにベストマッチで、かつ大人っぽく見せてくれるのも人気のポイント。なかでもジョセフ チーニーのミリタリーシューズは、英国ならではの格式を感じさせるのが特徴です。同じ英国軍由来のグルカショーツやタクティカルセーターと合わせれば、一格上の夏スタイルを築けます。

軍への供給実績は高品質の証

名門と称される靴ブランドの中には、かつて軍へミリタリーシューズを供給していたところも少なくありません。軍が求める基準を満たす靴作りができるということは、高い技術と品質の証明でもあったのです。実はジョセフ チーニーも、英国軍への供給実績をもつブランド。当時、軍に採用されたラスト(木型)とデザインを踏襲して現在ラインナップするのが、「ケンゴンⅡ R」と名付けられた写真のモデルです。タフな作りもさることながら、ミリタリーシューズならではの独特なディテールも注目のポイント。以下、具体的に見ていきましょう。

ケンゴンⅡ R

今や希少な「ヴェルトショーン製法」

「ケンゴンⅡ R」の大きな特徴となっているのが「ヴェルトショーン製法」と呼ばれる仕立て。本格靴の主流であるグッドイヤー製法と似ていますが、こちらはソールの上を覆うようにアッパーの革を縫い付けているのがポイントです。グッドイヤーの場合、アッパーがウェルト(アッパーとソールを繋ぐための細い帯状の革)の内側に潜り込む形になるため、この隙間から雨水や細かいホコリが靴の中に入ってきてしまいますが、隙間のないヴェルトショーンではこれを防ぐことができるというわけです。悪路の多いミリタリーシーンで重宝されてきた作りですが、非常に手間がかかるため、今では歴史ある英国靴メーカーでもヴェルトショーン製法を行っているところはごくわずか。機能性に加えて、デザインのアクセントとしても効いています。

ベローズタン

ホコリや雨水を防ぐ「ベローズタン」

一見わかりにくいのですが、シューレースを外すとさらなるミリタリーディテールが。足の甲を覆う “ベロ”が羽根の部分と繋がっていることがわかります。これは「ベローズタン」と呼ばれる仕様で、トレッキングシューズなど登山靴とも共通する作りです。ベロと羽根の間からホコリや雨が入ってくるのを防ぐためのもので、上のヴェルトショーン製法と合わせて悪路対策を目的として採用されています。外からは見えないディテールだけに、これを省略しているミリタリー風シューズも多い中、「ケンゴン Ⅱ R」では革の裁断や縫製にひと手間増えるのもいとわず“本物”の仕様にこだわっています。

コマンドソール

悪路をものともしない「コマンドソール」

さまざまなバリエーションが存在するラバーソールの中でも、極めて高いグリップ力と安定性を誇るのがコマンドソール。険しい山道やぬかるみ、砂利道など、コンディションの悪い地面用に開発されたものです。タウンユースでも快適さを発揮し、雨上がりやゴツゴツ
した石畳などを歩いても疲れにくいのが特徴。また、サイドから見てもわかるほどくっきりとした凹凸が刻まれ、がっちりと厚みがあるため、タフで男らしい印象を演出してくれるのも魅力です。武骨なミリタリーシューズのデザインと相性抜群。「ケンゴン Ⅱ R」では英国イッツシェイド社製のコマンドソールを採用しています。

ケンゴンⅡ R

ジョセフ チーニーのおすすめミリタリーシューズは?
ローカットでオールシーズン履ける「ケンゴン Ⅱ R」

75年以上前から存在したと言われており、英国軍にも提供していた木型「LAST4436」を採用するミリタリーシューズ。ノーズが短めでボリュームのあるラウンドトウが独特な愛嬌を備えています。ウィズ(横幅)が広めのため締め付け感がなく、リラックスして履けるのも魅力。アッパーのデザインもかつての英国軍採用モデルを踏襲。トウに入った2本のツインステッチと、V字に革を切り替えたサイドが印象的です。ブーツが多いミリタリーシューズですが、こちらは春夏にも活躍するローカット。雨の日でも滑りにくく、作りも極めて丈夫なので、天候を問わず長く愛用できる一足です。

photo Masahiro Sano text Hiromitsu Kosone

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ジョセフチーニー

テーラーの修行時代の記憶をつなぐ、30年モノの一足。 「BLUE SHEARS」代表/テーラー&カッター 久保田 博

ジョセフチーニー

長い歴史を通じてアップデートを重ねてきた製品には、時にフルオーダーを超えるほどの魅力があります。

英国紳士のスタイルを象徴する高級テーラーが立ち並ぶ、ロンドンのサヴィル・ロウストリート。その一角にある老舗テーラー「ギーブス&ホークス」にて修行を積み、同店初の日本人テーラー&カッターとして独立した久保田博さん。現在は、世田谷区瀬田にある自身のテーラーと、渋谷にある工房を往来し、お客様のためにビスポークスーツを仕立てています。そんな久保田さんにとって、想い出深い一足が修行時代に手に入れた「ジョセフ チーニー」。そのエピソードや革靴遍歴について尋ねました。

「BLUE SHEARS」代表/テーラー&カッター 久保田 博

留学中にサヴィル・ロウに出会い、テーラーの道へ。

— 10代の頃、渡英されたのはなぜですか?

経営を学ぶために留学し、イギリスの大学へ通っていました。レディングという街に住み、週末になると友人と一緒にロンドンへ繰り出していたのですが、そこで出会ったのがサヴィル・ロウ。私が行っていたのは90年代初頭の頃でしたが、当時は黒のボーラーハットをかぶっているようなクラシックなスタイルの紳士が結構歩いていて、とても魅力的な通りでした。また、日本の景気が良かったこともあり、当時は日本人のお客さんもたくさんいました。そういう背景もあり、大学の卒論で「サヴィル・ロウの歴史と経営学」を書くために、「ギーブス&ホークス」という老舗へインタビューを申し込んだ時も、日本人の私に好感を持ってくれて快諾してくれました。そして、その縁で大学卒業後から働かせてもらえることになりました。私は始めに縫製士(テーラー)の仕事をしていたのですが、当時は日本に支店があり、日本人の私を裁断士(カッター)として送り込もうという話が持ち上がりました。その結果、勤めていた6年の間で縫製と裁断の仕事も学ぶことができました。サヴィル・ロウでは分業が基本なので、テーラーとカッターのどちらもできる人というのは珍しいです。そのおかげもあって、帰国してからも技術に困らず、自分のお店を持つことができました。

ビスポークスーツは、お客様との共同作業で生まれる。

— 日本人と英国人のスーツ観に違いはありますか?

イギリスでサヴィル・ロウのテーラーへスーツを作りに来る方というのは、基本的には富裕層です。それ以外の方がスーツを作るということはあまりないですね。そういったこともあってか、ビスポークスーツ=アートという考えの方も多いです。日本ではそういう考えの方は珍しいですが、逆にスーツ自体が好きで、お金を貯めてでも良い一着を仕立てたいという方がいるのが魅力だと思っています。私の店でも、パターンオーダーは1割くらいで、ほとんどのお客様はフルオーダーでスーツを仕立てられています。英国人と日本人では体型が大きく違うので、日本で仕事を始めたばかりの頃は、サヴィル・ロウで学んだ型紙を作るシステムと異なる部分があり、比率などの公式をアップデートするまでに時間がかかりました。ビスポークスーツを仕立てるのは技術が必要ですし、オーダーから完成まで時間のかかる仕事ですが、お客様とのコミュニケーションを通じて、最終的にお互いの納得のいく一着が完成した時の喜びはひとしおです。この技術と気持ちを後世に伝えるべく、アカデミーを設立して縫製士を育てています。いつか生徒たちとも、一緒に仕事をできるようになったら嬉しいと思っています。

イギリスの影響を受け、サッカー愛がさらに強まる。

— オフの時間はどのように過ごされていますか?

「ギーブス&ホークス」で働いていた時はチェルシーに住んでいたので、近くにあったスタジアムへよくサッカー観戦に行っていました。イギリスでは熱狂的なサッカーファンが多く、国際試合に負けた翌日には相手国の人たちと喧嘩が起きるほどの白熱ぶりなんです。そんな影響を受け、私ももともと好きだったサッカーをさらに好きになりました。非公式ですが、自分のテーラーの名前にもチェルシーFCのクラブカラーである「ブルー」を付けています(笑)。今でも休みの日にはJリーグの試合を観にいきますし、チェルシーFCが来日すると必ず試合を観にいきます。また、数年に一回くらいのペースでイギリスへ行っているのですが、その時にも「ギーブス&ホークス」時代の同僚たちと会って、一緒にサッカー観戦を楽しんでいます。残念なのは、イギリスへ住んでいた頃はプレミアリーグのメンバーシップに入っていたので数千円でチケットを買えたのですが、日本で買おうとすると数万円もかかってしまうこと。ただ、その分とても良い息抜きになるのでお金には代えられないですね。

修理をして長く愛用できるのが、英国靴の良さ。

— 革靴遍歴を教えてください。

今は12足ほど革靴を持っていますが、自分のルーツ的にも英国靴が主で、他の国の靴はあまり履かないです。覚えている限りでもっとも古いのは、イギリスで購入した「ジョン シューメーカー」のドレスシューズ。とてもリーズナブルだったこともあり当時はよく履いていました。その後、21歳の頃に「ギーブス&ホークス」で買ったのが「ジョセフ チーニー」製、黒のパンチドキャップトゥです。当時は「ギーブス&ホークス」の革靴を「ジョセフ チーニー」が作っていたんです。足の形に靴底が沈んでいくような感覚を味わうことができた、自分にとって初めての本格的な革靴で、通勤の時には毎日のように履いていましたね。イギリスは街が石畳で革靴のソールがかなり痛むので、何度も修理して大切に履いていました。残念ながら、27歳で帰国する際に、向こうに置いてきてしまったのをとても後悔しています。それから色々な英国靴を試しましたが、個人的に思い入れがあるのがエドワードグリーンの「チェルシー」というストレートチップ。モデル名もさることながら、シンプルで洗練された形が好みで、黒と茶のカーフ、オーストリッチなどを持っています。長く愛用しているのは、どれも歴史がある英国メーカーのもの。伝統的な技術があるからこそ、修理対応がしっかりしていて、壊れても直して長年使えるのが魅力だと思います。

想い出の一足が、いつしか仕事の相棒に。

— 本日履かれている「ジョセフ チーニー」はいつ頃に購入されたものでしょうか。

これは90年代中頃に「ギーブス&ホークス」で購入した「ジョセフ チーニー」製のものです。当時は、黒い革靴ばかり履いていたので、茶系にも挑戦しようと思って手に入れたのですが、結局履く機会を逃してしまい一度も履かずに大切に保管していました。そのおかげもあって、お客様が仕立てたスーツのフィッティングをする際に履いてもらう革靴として、今でも現役で大活躍しています。約30年前のものとは思えないほど、形も洗練されていますし、作りもしっかりしていますよね。インソールには、「ギーブス&ホークス」の昔のロゴも刻印されているので、見る度にサヴィル・ロウでの修行時代のことを思い出すことができる記念品的な一足です。

積み重ねてきた歴史が生み出す、多くの方に愛される逸品。

— 「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。

当時の私は、「ジョセフ チーニー」ブランドの立ち位置などはあまり理解していませんでしたが、老舗の「ギーブス&ホークス」の革靴を手がけているというだけで、十分真面目なモノづくりを真摯に続けてきているメーカーだということは伝わっていました。スーツにおいてもそうなのですが、既製品には既製品ならではの魅力があり、逆にフルオーダーではできないような部分もたくさんあります。たとえば、「ジョセフ チーニー」の革靴は、長い歴史の中でアップデートを積み重ねてきた技術が落とし込まれているからこそ、より多くの方にフィットするような木型を作ることができているのだと思います。これからも、たくさんの方に愛されるようなモノづくりを変わらずに続けて欲しいですね。

「BLUE SHEARS」代表/ヘッドカッター
久保田 博さん

1972年生まれ、東京都出身。10代の時に経営学を学ぶために渡英。卒業後、ロンドンのサヴィル・ロウ通りにある英国王室御用達テーラー『ギーブス&ホークス』にて6年間テーラリングの修行をする。同店初の日本人テーラー&カッターとして独立し、2005年に自身のテーラー「ブルーシアーズ」を世田谷に構える。渋谷青山にある工房ではプロのテーラーを養成する「ブルーシアーズアカデミー」を開講し、後進の育成に取り組む。海外での受注会などにも勤しむ。

photo TRYOUT text K-suke Matsuda(RECKLESS)

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バイヤーが語るジョセフ チーニー

若き百貨店の紳士靴バイヤー対談 あらゆるドレスシューズを見てきたメンズ館バイヤーが語るジョセフ チーニー

バイヤーが語るジョセフ チーニー

移り変わりの激しいファッショントレンドの中にあって、古き良き製法やデザインで普遍的な魅力をもつ紳士靴。一方で、定番シューズもモディファイを繰り返し年々履き心地などクオリティがあがっているのもまた事実。そんな、奥深い紳士靴の世界を一番近くで、一番多く見てきた百貨店のシューズバイヤーではないでしょうか。現状の知見に留まらず、常にトレンドに敏感な彼らの審美眼を通して、紳士靴の今とジョセフ チーニーのこれからを紐解きます。今回お呼びしたのは、ともに「メンズ館」という大店を張る三越伊勢丹、阪急百貨店の敏腕2名。
 

潮流を捉える二大『メンズ館』の新星

三越伊勢丹 田畑智康 氏
三越伊勢丹 田畑智康 氏

2006年伊勢丹(当時)に入社。伊勢丹新宿店メンズ館の靴売り場からキャリアをスタートさせ、三越と合併後は複数店舗での靴のバイヤーとして活躍。2019年より伊勢丹新宿店メンズ館のバイヤーに就く。

バイヤーが語るジョセフ チーニー
阪急阪神百貨店 芝崎 優輔 氏

2007年に阪急百貨店(当時)に入社。阪急メンズ大阪の靴売り場に配属され、4年目からバイヤーとして活躍。現在、阪急メンズ大阪だけでなく、阪急メンズ東京、博多阪急の3店舗を担当している。
 

大きな流行が起きにくい中で、安定した人気を誇る英国靴

アルフレッド

-まずそれぞれの店での取り扱いブランドを教えてください。

田畑 リーガルからエドワード・グリーン、ジョン・ロブまで、幅広い品ぞろえをしているのがメンズ館の特徴ですね。価格帯でいうと2万円台から20万円超くらい。他の英国靴ではクロケット&ジョーンズ、トリッカーズも取り扱っています。

芝崎 取り扱いブランドはそれほど多くなく、メインは伊勢丹さんとそれほど変わりません。加えて、お客様の動向を見ながら別注品や限定品を企画して、バリエーションを充実させています。トレンドとしては英国靴に力を入れていますが、同じブランドでもポジションや役割は違うかもしれませんね。

バイヤーが語るジョセフ チーニー

田畑 最近はオフィスでの服装がカジュアル化している影響でドレスシューズの市場がシュリンクしてしまい、大きなトレンドが起きにくくなっています。過去にはイタリア靴や国産ブランドなどのブームがありましたが、そのようなトレンドはなく、その中でも英国靴は人気が安定していて、手堅いイメージがあります。ただ、プレーントゥやローファーのような汎用性のある靴が求められている傾向が強くなってきていて、フルグローブやセミブローグの売り上げは昔と比べると落ちていますね。芝崎さんのところではどうですか。

芝崎 基本的に同じ傾向です。例えば新年度を迎える前にフレッシャーズフェアをすると、黒のストレートチップがすごく売れた時代とは違って、ビジネスシューズのカテゴリーに入る革靴を買いに来られるお客様自体が減っています。一方で、スーツが好きだから着るというお客様が一定数いるので、6~7万円よりも価格が上の靴になると売り上げは堅調に推移しています。

田畑 靴好きのお客様に限定すると、売り場に並んでいるものではなく、もっと尖ったものなど、持っていない靴を欲しがられる人が多いので、指向性が深くなっていく感じです。

バイヤーが語るジョセフ チーニー

芝崎 私は時間があるときは店頭で販売もするのですが、お客様が履かれている靴だけでなく服装も確認して、そこから今起こっているトレンドを推測します。また、アウターを買われた紙袋を持たれたお客様を見かけるようになると、売り場にブーツを出すなど、買い付けの段階で計画したことより、売り場の状況を見ながら軌道修正することが多いですね。

田畑 私も週末の空いている時間は店頭に立っていることが多いので、お客様の動向を見ているだけでも勉強になります。むしろ最も大事な情報だと思っていて、例えば3足しか売れなくても、手に取られた人や実際に履かれた人はすごく多かったのに、何かしらの理由で購入には至らなかったということもある。その何らかの理由を改善するとベストセラーになる可能性もあります。ですから店頭でのお客様の背景を探っていくことは、とても大事だと考えています。

履き込んでいくうちに自分の一部になるような感覚は英国靴ならではの魅力

ジョセフ チーニー

-それでは本日のテーマであるジョセフ チーニーについて、まず英国靴についての印象を教えてください。

田畑 質実剛健で、ドレスシューズの基本中の基本が詰まっているという印象です。芝崎さんも海外出張に行かれると思いますが、工場を訪問して感じるのは非常に誠実なものづくりをしていること。細かい縫製も含めて非常に完成度が高く、またチーニーに代表されるように自社工場で一貫生産しているブランドが多いのが強みです。インポートの靴は価格が高いといわれますが。品質とのバランスを考えると決して高くないと思います。

芝崎 靴に興味を持ったきっかけが英国靴だったので、個人的に好みという部分を差し引いても、履いていくうちにフィットする感覚はやっぱり英国靴ならでは。履き始めは痛いこともあるのですが、履きこんでいくうちにフィットしていき自分の一部になるみたいな感じが好きです。あと、単純に見ていて落ち着きます。入社したての頃にジョン・ロブを買ったのですが、30歳手前でいったん履くのをやめてしまったんですよね。似合っていないというか、早すぎるんじゃないかと思って。

田畑 うん。なるほど。

芝崎 30歳を超えてから、再度履き始めたのですが、やっぱりかっこいい。年齢で縛るつもりはなく個人の自由なのですが、英国靴は大人になったら似合う靴なのかなと思っています。

バイヤーが語るジョセフ チーニー

田畑 英国靴の中でもチーニーの魅力は圧倒的なコストパフォーマンス。価格に対しての品質の良さが際立っていて、若い人でも手を出しやすい。実は今、チーニーはすごく売れていて、英国靴の中ではトレンドになっているといってもいいくらいです。

芝崎 チーニーは阪急メンズ東京では扱っていて、阪急メンズ大阪では2020年春夏から取り扱いがスタートします。価格帯でいうと決して高くはないのですが、安いかというとそうでもなくて、面白いのはエドワード・グリーンを履く人でもチーニーを履くんですよね。もちろん、普段リーガルを履く人でもチーニーを履きたいと思っていて、履きたいと思う人の幅がとても広いと感じています。

ジョン・ロブを履く人でもチーニーを選ぶのはつくりがしっかりしているから

アルフレッド

田畑 チーニーの何が好きかというとラスト。若い人たちが買われる一番の理由は、優れたコスパもあるのですが、125と呼ばれるラストの影響が大きい思います。一般的にインポートの靴は日本人にぴったり合うわけではなく、特に踵が大きいんですよね。ところが125ラストは踵が小さくて、内ぶりといってセンターのラインを内側に振っていて、これらの工夫が25歳から34歳までのミレニアム世代の人たちに合っているんです。この125ラストは2011年に開発されていて、英国ブランドって進化がないように思われがちなのですが、2000年以降もきちんとラストの開発をしているという点がいいところ。実際にうちでは、この125ラストを使ったストレートチップのALFRED(アルフレッド)が圧倒的なベストセラーで、若い人たちが指名買いします。

芝崎 先ほど話しました、エドワード・グリーンやジョン・ロブを履く人が、なぜチーニーを履くのかというと、つくりがしっかりしているからなんですね。ぱっと見たときにいい靴だと分かりますし、靴を脱ぐことが多い日本だと靴のことをある程度知っている人からすると、チーニーはライニングを見てもこまかいところまでこだわっているのが分かる。単純に価格の比較でエドワード・グリーンやジョン・ロブの3分の1の価格で買えることを考えると、ものすごくいい靴なのではないかと思っています。

アルフレッド

田畑 価格に対する品質というところで考えると、今の若い人たちはしっかりした必要なものだけを買うという印象で、買いたいものが明確に決まっている。身の丈に合ったものを買って、それが新品でなくてもいいという考えですね。先日、うちで開催した靴博ではユーズドのドレスシューズを販売したのですが、すごく売れました。いいものを新品で買うという発想ではなくて、ユーズドでも自分に合ったものがあればそれを価値として受け入れるという考えは若い人たちの間に浸透しています。無駄なものを買わないという考えで、その対象にチーニーが選ばれることが多くなっています。

芝崎 あとチーニーは他の英国靴と比べて特徴が非常にしっかりしていて、このデザインはあってしかるべきという定番をしっかり見極めてつくり込んでいる。だからピンポイントでの指名買いも多いのではないかと思います。

アルフレッド

田畑 改めてみると、丁寧につくられていますよね。なんか、レベルが上がっているような。

芝崎 確かにレベルが上がっています。昔のドレスシューズをよく知っているおじさんが言いがちなのが、「昔はよかった」的な話。

田畑 レザーは昔の方がよかったという話ですよね。いろいろなブランドでレザーは昔の方がよかったといわれがちなのですが、チーニーはむしろよくなっている気がします。

芝崎 レザーの質だけでなく、ラストやフォルム、デザインなど、私がバイヤーになりたての頃と比べると、クオリティはものすごく上がっています。

田畑 ラストへの根付かせ方というか、ラストの再現性もすごく高くなっている気がする。あと、今はアルフレッドのような長すぎないノーズが支持されています。

芝崎 やっぱり安心感のあるのはこれなんですよね。ラウンドの長すぎないノーズ。

125ラストの開発は、時代の変化に柔軟に対応していこうという考えの表れ

バイヤーが語るジョセフ チーニー

-お話が変わりまして、それぞれの店舗で扱われているチーニーのモデルを教えてください。

田畑 売り場としてチーニー対して期待している役割として、英国靴の入門編というのがあり、手堅く間違いのない靴選びをしていただきたいという思いで、定番のモデルを常時そろえています。

芝崎 阪急メンズ東京も定番を中心に取り揃えています。ですがこの秋冬は、脱ぎ履きしやすい靴ということでサイドゴアブーツも扱うようになりました。基本的にレースアップのブーツが選ばれにくくなっているので、エレガントで見た目もかっこよくて、さらに脱ぎ履きしやすいという理由ですね。この2~3年、サイドゴアブーツ自体が人気のアイテムとして注目されています。

アルフレッド

田畑 バイヤー目線でいうとアルフレッドは本当に好きですね。今、私の中でも注目しているのは内ぶりなんですよ。大量生産するにはどうしてもセンターに中心を持ってこないといけないのですが、でも足ってそもそも人差し指のところが高くなっている。既成靴だと、靴の最も高いところと足の最も高いところが合っていないところがあって、最近ではその問題をクリアしていこうというブランドがいくつか出ているんですね。そのためには木型のよさだけでなく、職人の技術の両方を兼ね備えていなくてはいけなくて、アルフレッドがこの価格で買えるのならイチオシですね。

芝崎 他に挙げるなら5万円台で展開しているシティコレクションもおすすめ。本当に入口の価格帯で、中でもフルグローブのウイングチップは、カントリーっぽい雰囲気というか、皆があまり履いていないような靴だからこそ履きたいというのはあります。改めて見ると、コテコテしている靴というのもなかなかかっこいい。こういう靴をあえてかちっとしたスーツに合わせるのもいいかもしれません。私は新入社員の頃、年に1回ノーザンプトンを訪れるという旅行を個人的にやっていて、チーニーのアウトレットで購入した茶色のグローブ系のモデルを2足所有しています。

フルブローグ

田畑 チーニーのオーナーであるウィリアム・チャーチ氏はジェントルマンで優しいですよね。

芝崎 海外の展示会に行くと、丁寧に商品を紹介してくださるのですが、会社の代表があれだけ細かく一つひとつを紹介するという事例は他にはありません。オーナーがものごとをよく分かっている証拠なので、そんなブランドは信頼できると思います。

田畑 オーナーに情熱があるというのは大事です。チーニーはセレクトショップなどの別注を手掛けることでも知られているのですが、小ロットなのにも関わらず柔軟に対応してくれる。それだけでなく、別注のロゴまでつくってくれるなんてなかなかありません。

芝崎 本当にそうですよね。英国ブランドってすごくいいものづくりをするのですが、一方で思考がストップしているところがあって、売れないということに対してその理由をなかなか理解してくれない。チーニーが細かく対応してくれるというのは、そのあたりのことを理解してくれているのだと思います。

田畑 マーケットに対しての理解がありますよね。市場は常に変化しているのに、その変化に対応してくれるブランドって少ないんですよ。125ラストが2011年に開発されているのも、時代の変化に柔軟に対応していこうというチーニーの考えの表れだと思います。

次代が変わっていく中で、お互いに言いたいことがいえる関係性が重要

ジョセフ チーニー

-それでは最後に、今後チーニーに期待したいことを教えてください。

田畑 英国靴はある種完成されていて、伝統の継承がすべてだというブランドもなくはないので、チーニーとはぜひ一緒に進化していきたいです。お客様の価値観やマーケットはこれからも変化していくので、技術的な進化も含めてどんどん変わっていければいいなと思います。

芝崎 トレンドが目まぐるしく変わっていくと、今までの買われ方とは違う買われ方というのが出てくると思うんですよね。その中で、どれだけ我々の要望を聞いてもらえて、形にできるかというところが売り上げにつながってくる。現在、チーニーにはこのようなことには対応していただいているので心配はしていないのですが、これからスーツがもっと着られなくなって、それこそ民族衣装みたいになる可能性だってある。そうなったときにどんな対応をしていただけるのかという点において、お互いどれだけ情報交換や情報収集できるかが重要だと思っています。よりお互いに言いたいことがいえる関係性をこれからも築いていきたいですね。

photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda

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ジョセフチーニー

英国好きのスタイリストが、12 年愛用しているドレスシューズ。「江東衣裳」代表/スタイリスト 部坂 尚吾

ジョセフチーニー


優れた技術の基盤とそれを積み重ねてきた伝統がある。
僕にとって「ジョセフ チーニー」は究極の “バイプレーヤー”です。

雑誌、広告、映画などで活躍するスタイストの部坂尚吾さんは、自他共に認める英国ラヴァー。毎年一度はイギリスを訪れ、その街の一員として雰囲気を味わい、人間観察を楽しんでいるそうです。そんな部坂さんですが、365日革靴以外は履かないというこだわりの持ち主。しかも、その趣向はかなり偏っているのだとか。長年愛用されている「ジョセフ チーニー」のお話と、革靴遍歴を尋ねました。

スタイリスト部坂 尚吾さん

イギリスの生活に溶け込み、雰囲気を味わう旅。

— よくイギリスへ旅行されているのはなぜですか?

イギリスのスーツスタイルが好きだったことが転じて、イギリスそのものを好きになってしまったからです。今では移住したいとすら思っています。だから、年に一度は休みを設けてヨーロッパへ旅行するようにしています。今年は、両親の還暦祝いを兼ねてイギリス旅行をしてきました。以前、フランスが好きな妻に合わせ、イギリスとフランスとの一週間ずつの滞在になったことがありましたが、滞在時間が短すぎて少し消化不良でした(笑)。観光地を巡るツアーも楽しいですが、できる限りその街に長くいて、そこで暮らすかのように滞在するようにしています。そのおかげで、表面的ではない物事を発見できるように思います。また、その際になるべく日本にいるときと同じような生活リズムをキープするように心がけています。旅先で張り切り過ぎて無理をしてしまうと大体体調を崩してしまうので……。イギリスはお店の閉まる時間が早く、早寝早起きの僕の生活リズムにもぴったり合っています。旅行はそういったことを実感したり、街や人の雰囲気を味わうことができる贅沢な時間です。あまりにも有意義な時間を過ごすことができるので、帰国するのが億劫になってしまうことがしばしばあります。

グレンロイヤル

スタイルからオリジナリティを感じること。

— 英国人から学んだことでとくに印象的だったことはありますか?

イギリスに行くたびに強く思うのは、確固たる自分のスタイルを持った人が多いということです。トレンドに敏感で、街を観察すれば何が旬なのかおおよそ見当のつく日本とは異なり、イギリスではそれが非常にわかりづらいです。たとえば、「ザ・フー」のバンドTシャツを着て、ボロボロのジーンズという出で立ちなのに、なぜか足元だけピカピカに磨かれたドレス靴を履いている人や、ビスポークであろうスーツを着こなす銀幕スターのような人など、オリジナリティ溢れる格好の人が多いです。自分自身のポリシーを持っていてスタイルを大切にする文化はとても魅力的に感じます。作り手のこだわりが伝わるものに魅力を感じて手に取ることが多いのですが、気が付けば茶系のレザーアイテムが多くなっていました。いずれも、昔ながらの製法を受け継ぐなどポリシーやスタイルを貫いているメーカーが多いです。先日のイギリス旅行でも、ブライドルレザーの水筒ケースに一目惚れしました。保温性に優れているようにも見えないし、とりわけ軽い訳でもない。なぜこれを生産しようと思ったのかが気になって仕方がなかったです。お店の店員さんも“本当に買うの?”というような表情をしていました(笑)。

ジョセフチーニー

365日革靴で過ごすのが、部坂流。

— 英国のオリジナリティを大切にする考えは、部坂さん自身のスタイルにも生きていますか?

そうかもしれません。僕は20代の前半の頃から革靴以外履かなくなりました。なぜかと言えば、革靴を履くとコーディネートが締まるのでかっこいいからというシンプルな理由です。昔、テレビ番組のADをやっていた時にロケハンで無人島へ行ったんです。その時にも当然のごとく真っ赤な革靴を履いていったら、ディレクターに「ふざけんなっ!」と本気で怒られたことがあります……。撮影前日に「別の靴を買ってこい」と言われてお金をもらったのですが、あろうことかコンバースのオールスターハイカットを買って行ってまた怒られました。もっと脱ぎ履きしやすい靴で来いという真意をはき違えていましたね(笑)。スタイルを貫くというのはなかなか簡単なことではありませんね。僕自身は、今も365日革靴を履き続けています。もちろんスタイリングをする際には、自分の好みを押し付けるようなことはしません。ですが、僕の好きなスタイルを理解し、共感してくださる方とお仕事をさせていただく機会が多いのは嬉しいことです。

ジョセフチーニー

自身の原体験であり、スタイルに合う英国靴に傾倒。

— 革靴遍歴を教えてください。

初めて履いた革靴のことはあまり覚えていないのですが、20代前半の時にスーツに合わせて英国靴を買ったのが最初だと思います。今日履いている「ジョセフ チーニー」を購入したのもその頃だったはず。その後、当時まだ根強く残っていたクラシコイタリアブームの影響でイタリア靴も履くようになりましたが、現在では、英国靴が圧倒的に多いです。たとえば、「ジョセフ チーニー」をはじめ「ジョンロブ」「エドワードグリーン」「チャーチ」「ジョージクレバリー」「フォスター&サン」「クロケット&ジョーンズ」「トリッカーズ」など、一通り英国メーカーは履いていますし、所有している革靴の8割は英国靴です。自分が履いてみたいと思ったものと、衣装として使ってみたいものを収集していった感じでしょうか。英国靴以外ですと、イタリアの「ストール・マンテラッシ」「マンニーナ」「エンツォ・ボナフェ」、フランスの「パラブーツ」なども何足か持っていますが、やはり英国靴の比ではないですね。こういった話をしていて、よく人に驚かれるのが、アメリカ靴を一足も持っていないことです。稀に衣装として使用することはあるものの、ついに自分で購入に至る機会はありませんでした。

ジョセフチーニー

12年前に、先輩の勧めで手に入れた思い出の品。

— 本日履かれている「ジョセフ チーニー」はいつ頃に購入されたものでしょうか。

これは12年ほど前に、当時勤めていたセレクトショップで購入しました。僕の着ていた英国式のスーツに合わせて、先輩が見立ててくれた思い出の一足です。古典的なバーズアイのスーツに、ストレートチップでは真面目過ぎるので、内羽根にメダリオンが施されたこのモデルを推薦してくれたんです。ドレスの革靴自体を履き始めて間もない頃に購入した一足ということもあり、思い入れが深く今でも愛用しています。自分で定期的に磨いているのですが、とても気に入っているので、時には二日連続履いてしまうこともあります(笑)。それにも関わらず12年間履いても未だに現役で、本当にしっかりした作りだということをしみじみと感じています。最近「ユニオンワークス」でオールソール交換をお願いしたのですが、従来のレザーソールからオークバークレザーのソールに換えたり、ヴィンテージスティールを施すなど、カスタムすることで違いを楽しんでいます。この「11028ラスト」は、履いた時の足の収まりがとても心地良いです。トゥが細くウィズが広いデザインも、スタイルを選ばずどんなスーツにも合わせやすいところが魅力的ですね。

ジョセフチーニー

主役にも脇役になる、究極の“バイプレーヤー”。

— 「ジョセフ チーニー」の印象を教えてください。

10足以上持っていますが、クローゼットを見返してみて改めてラインナップの幅広さを感じました。僕が所有しているモデルだけでも、「CAIRNGORM Ⅱ R (ケンゴン Ⅱ R)」のようなカントリーブーツカントリーシューズ、「ALFRED(アルフレッド)」のようなドレス靴シューズ、コンビのローファーみたいなカジュアルなものまで様々です。メーカーさんによって、ジャンルの得意不得意があると思うのですが、「ジョセフ チーニー」のコレクションはどのモデルも履きやすく、スタイリングに合わせやすいのが魅力だと思います。また、数多い英国の靴ブランドの中で、圧倒的に他社とのコラボレーションモデルが多いのではないでしょうか。優れた技術の基盤がしっかりとあり、それを積み重ねてきた伝統があります。それが、多少のアレンジを受け入れられる余裕を生み出すのではないでしょうか。こうした高い柔軟性を備えた「ジョセフ チーニー」を、僕は究極の“バイプレーヤー”だと思っています。これほどバランスの取れたメーカーは、稀有なのではないでしょうか。

スタイリスト部坂 尚吾さん
スタイリスト
部坂 尚吾さん

1985年生まれ。松竹京都撮影所、テレビ朝日での番組制作を経て、2011年よりスタイリストとして活動をスタート。2015年に、「江東衣裳」を設立する。映画、CM、雑誌、タレントなどのスタイリングから、各種媒体の企画、製作のディレクション、執筆など、マルチに活躍。BRITISH MADEのWEB内「STORIES」にて連載中。現在、スタイリストアシスタントを募集中。

photo Masahiro Sano text K-suke Matsuda

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